養育費には公立の小・中学校・公立高校の卒業までを前提とした学費が含まれている
まず前提として、養育費とは子どもが経済的・社会的に自立するまでの間に必要な生活費のことです。具体的には、衣食住にかかる費用や教育費、医療費など、子どもが健やかに成長するために必要な費用が含まれます。
養育費の金額は夫婦で話し合って決めるものですが、一般的には裁判所が公表している「養育費算定表」に基づいて月々の金額が決定されます。主に夫婦の年収や子どもの人数、年齢などに基づいて養育費を算出します。
養育費算定表で算出した養育費には、子どもが進学した際の授業料や諸経費なども含まれていますが、公立の小・中学校、高校卒業までを前提としており、私立や大学の費用は含まれていません。そのため、子どもを私立学校や大学に進学させるために、養育費を追加で請求するのは難しい場合があります。
しかし、養育費の金額は夫婦間の合意さえあれば、いくらに設定をしても問題はありません。相手側と改めて話し合いをし、私立や大学進学の費用が必要なことを説明のうえ、合意が得られれば養育費を上乗せすることは可能です。
また、経済状況的に私立への進学が妥当であったり、すでに私立の中高一貫校に子どもが通っていたりする場合なども、養育費の上乗せが認められる可能性が高いでしょう。
なお、2020年4月に「高等学校等就学支援金制度」が改正されたことにより、世帯収入によっては公立・私立の授業料が実質無償化されています。
具体的には、年収910万円未満であれば最大11万8,800円、年収590万円未満であれば最大39万6,000円の就学支援金が支給されます。私立高校の年間授業料は平均40万円程度であるため、実質的に授業料は無償となり、家庭で負担するのは入学費や教材費などの諸経費のみです。
もしも高等学校等就学支援金制度を利用する場合、家庭での負担額が少なくなることから、養育費の加算額の計算に影響を与える可能性があります。養育費の細かい算定については、離婚問題や養育費に詳しい弁護士に相談してみてください。
参照:高等学校等就学支援金|文部科学省
公立・私立学校の教育費の目安(小学校・中学校・高校)
公立・私立学校でどの程度の教育費が発生するのか、違いはどれくらいなのか気になっている方も多いのではないでしょうか。
文部科学省が公表しているデータをもとに、公立・私立で発生する学校教育費を以下の表にまとめました。
【1ヶ月にかかる学校種類別の教育費】(円/月)
学校種別 |
公立 |
私立 |
幼稚園 |
10,062 |
27,614 |
小学校 |
5,259 |
75,347 |
中学校 |
11,580 |
89,287 |
高等学校 |
23,373 |
59,921 |
参照:学校種別の学習費総額|文部科学省
たとえば公立小学校なら月々5,259円程度の負担で済みますが、私立小学校だと月々75,347円の負担となり、1ヶ月あたり約7万円も教育費が増すことになります。
前述したとおり、養育費算定表では公立学校の教育費を基準としています。私立学校の学費や習い事の費用などは考慮されていないため、追加で養育費をもらうためには相手の合意を得なければなりません。
私立学校への進学を検討している場合、子どもの教育方針などを相手とよく話し合い、理解を得ることが大切です。
養育費とは別に私立学校や大学の学費を請求できるケース
養育費の取り決めがすでに行われている場合でも、状況によっては私立学校や大学の学費を別途請求できることがあります。
具体的には、養育費の支払い義務者が学費負担に合意している場合や、経済能力的に支払いが可能であると判断される場合などです。次の項目から、学費の追加負担が認められるケースについて解説します。
養育費を支払う人が合意している場合
子どもが私立学校や大学へ進学するにあたって、養育費の支払い義務者が学費の負担について合意している場合は、養育費に上乗せして追加の学費を支払ってもらえます。
まずは父母間で話し合いをし、私立や大学に進学する必要性を説明したうえで、相手から合意を得るようにしましょう。口頭や書面での合意を得られれば、必要な学費を支払ってもらえます。
なお、口頭や書面による明示的な合意だけでなく、黙示の同意がある場合でも養育費の追加支払いが認められるケースがあります。
たとえば離婚前から子どもが私立学校に通っており、父母で協力して養育費を負担していたのであれば、原則として学費負担に承諾していたとみなされるでしょう。
義務者の収入などからみて相当と考えられる場合
養育費の支払い義務者の収入や社会的地位によっては、家庭裁判所が「子どもの大学の学費などを分担すべき」と判断することがあります。
とくに支払い義務者が大学を卒業している場合や、高収入の職業に就いている場合などは、「子どもの高等教育を支えるのは当然」とみなされる可能性が高いでしょう。
たとえば支払い義務者が弁護士や医師、教員など博士号が必要な職業に就いている場合、「子どもの大学進学は当然の進路であり、養育費とは別に学費を分担するのが妥当」と判断される可能性が高いです。
ただし、支払い義務者が大学を卒業していたとしても、現在の収入が十分でないときは私立学校や大学の学費の請求が認められにくくなります。養育費とは別で学費の請求を考えている場合、相手の収入や生活状況を事前に確認しておきましょう。
養育費の増額について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせて参考にしてみてください。
私立校・大学などの学費のために養育費を請求する方法
養育費は原則として取り決めた当初の金額で支払いが行われますが、お互いが合意すれば増額変更は認められています。たとえば私立学校や大学への進学など、当初の想定を超えた教育費が必要になる場合、養育費の増額請求が可能です。
養育費の増額を希望する場合、まず相手側と協議を行いましょう。そこで合意が得られなければ家庭裁判所の手続きを利用することになりますが、離婚前と離婚後では手続きの内容が異なります。
具体的には、離婚前は「離婚調停」、離婚後は「養育費増額調停」を申し立てて話し合いを進めます。調停が不成立になった場合、離婚前であれば離婚裁判を起こして判決を受け、離婚後であれば審判によって判決を受ける流れになります。
ここでは、養育費を増額する方法について詳しく解説していきます。
相手側が納得できる資料を提示した上で協議する
養育費の増額について話し合うときは、相手側が納得できる資料を提示するようにしましょう。学費に関する具体的な資料や費用明細を提示し、増額が必要である根拠を明確に示すことが大切です。
たとえば私立学校や大学の授業料、教材費、通学費などの費用を整理し、それが養育費だけでは賄えないことを説明しましょう。養育費の増額分が監護者の生活費に充てられるのではなく、子どもの教育費に使われることを示せば納得してもらいやすくなります。
一例として、以下のような資料を提示してみてください。
- 進学先の入学案内書
- 授業料・教材費などの見積書
- 進学先までの交通費
- 私立・大学に通う子どもの教育費用の水準
具体的な教育費を提示すれば、どの程度の増額が必要なのかも明確になるため、スムーズに話し合いを進めるためにも事前に必ず資料を準備しておきましょう。
合意できない場合は裁判所で手続きを行う
養育費の増額について相手側から合意を得られなかった場合、裁判所で手続きを行うことになりますが、離婚前と離婚後では手続きの方法が異なります。
- 離婚前:離婚調停や離婚裁判
- 離婚後:養育費増額調停
具体的な手続きの方法について、次の項目から詳しくみていきましょう。
離婚前は離婚調停や離婚裁判で養育費について取り決めを行う
離婚前に養育費の増額について話し合う場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てる必要があります。調停では、裁判所の調停委員を交えて話し合いが行われ、双方の合意を目指します。
しかし、調停で話し合いがまとまらない場合には、離婚訴訟を提起し、裁判所の判断を仰ぐことになります。離婚調停や離婚訴訟では、離婚に関する話し合いだけでなく、養育費の支払いに関する取り決めも求めることが可能です。
相手側が私立や大学への進学に合意していたのであれば、裁判を有利に進めるためにも証拠を残しておきましょう。証拠として有効なものの例は以下のとおりです。
- 進学に関するLINEやメールでのやり取り
- 子どもの進学について話し合った会話の録音データ
- 進学費用について相談した書類やメモ
- 大学進学を目的に塾に通学している履歴
たとえばメッセージやり取りや会話の録音データで、相手が進学について肯定的な反応をしている場合は、承諾しているとみなされる可能性が高いでしょう。
上記のような証拠が揃っていれば、裁判に発展したときも「進学費用の負担について合意があった」と主張しやすくなります。
離婚後は養育費増額調停を申し立てる
離婚後に養育費の増額を求める場合、家庭裁判所に養育費増額調停を申し立てましょう。申立書の提出先は、養育費の支払い義務者が現在居住している地域を担当する家庭裁判所となります。
裁判所は、養育費の増額を認めるべきかどうかを、取り決め時点と現在の状況を比較しながら判断します。増額が認められるためには「取り決め当初は予測できなかったやむを得ない事情の変更」があったかどうかが重要なポイントです。
養育費の増額が認められやすいケースは、主に以下のとおりです。
- 大学進学など、高額な教育費が発生した
- 監護者の収入が大幅に減少し、教育費の負担ができなくなった
- 養育費の支払い義務者の収入が増加した
- 子どもが病気になり、医療費の負担が増加した
家庭裁判所で養育費の増額が認められた場合、原則として調停を申し立てた月から養育費が増額されることになります。
子供が扶養料として請求することも可能
養育費は一般的に未成年の子どもの生活費として定められているため、大学の学費は含まれていないケースが一般的です。
しかし、子どもが成人後に「扶養料」として大学卒業までの生活費を請求できる場合があります。
扶養料とは、扶養義務者(親)が扶養権利者(子)に対して支払い義務がある生活費のことです。養育費も扶養料も子どもの生活費なのですが、養育費は「監護親が非監護親に請求する」のに対し、扶養料は「子どもが非監護親に請求する」という違いがあります。
子どもが非監護親に対して大学卒業までの扶養料を請求し、「請求が扶養義務の範囲内」として認められれば、大学卒業までの生活費を支払ってもらうことが可能です。
実際、過去には裁判で子供からの扶養料請求が認められたケースもありました。
四年制大学に進学した子どもが親に扶養料を請求し、成人後の扶養料として月額3万円の請求が認められた。(東京高等裁判所 平22年7月30日)
扶養料調停と養育費増額請求を同時に申し立て、監護親からの増額請求は却下されたが、成人後の子どもによる扶養料請求は認められた。(大阪高等裁判所 平成30年3月15日)
このように、子どもが自ら扶養料を請求することで、扶養義務の範囲内として認められるケースがあります。扶養請求調停においては、主に以下のような点が考慮されます。
- 監護親・非監護親双方の経済状況
- 子どもの学業の継続性
- 子どもの自助努力(アルバイトなど)
- 今まで支払われた養育費の金額
養育費とは別に扶養料の請求ができるかどうかは、親の扶養義務の範囲と判断されるかどうかによって異なります。過去の裁判例では扶養料請求が認められたケースもあるため、子どもが成人している場合は選択肢の一つに入れてみてください。
私立校・大学の学費負担の割合を決める際の注意点
私立学校や大学の学費は高額になるため、親同士で負担の割合を決めて分担するのが一般的です。学費の負担方法をあらかじめ決めておけば、将来的なトラブルを防止できます。
また養育費が滞納されるケースも多いため、公正証書で合意書を作成し、確実に支払ってもらえるようにしておきましょう。養育費の合意書を作成する際には、突発的な費用が発生した際にどのように対応するのかを明記しておくと、あとから揉める心配がありません。
次の項目から、私立学校・大学の学費負担の割合を決める際の注意点について、詳しく解説していきます。
大学などの学費は親同士で分担割合を決めるのが一般的
私立学校や大学、大学院の学費については、一方の親が全額を負担するのではなく、お互いの収入に応じて分担割合を決めるのが一般的です。
前述したとおり、養育費には公立高校までの学費が含まれています。そのため、私立学校や大学費用の分担割合を決める際には、私立・大学費用から公立高校の学費を差し引いた金額で話し合うことになります。
養育費の分担割合を計算する方法として、「私立学校・大学の学費と、公立学校の学費の差額部分を親同士の基礎収入で按分する」という方法があります。基礎収入とは、総収入から税金などの必要経費を差し引いた分の収入であり、収入に応じて「基礎収入割合」というものが決められています。
たとえば以下のようなケースで分担割合を考えてみましょう。
【私立高校に進学するケース】
・公立高校の学費=年間50万円
・私立高校の学費=年間100万円
・学費の差額=100万円(私立)-50万円(公立)=50万円
・母親の基礎収入=年収300万円×42%(基礎収入割合)=126万円
・父親の基礎収入=年収600万円×41%(基礎収入割合)=246万円
・両親の基礎収入=126万円+246万円=372万円
・母親の負担割合=126万円÷372万円=約34%
・父親の負担割合=246万円÷372万円=約66%
・母親の学費負担額=50万円×34%=17万円
・父親の学費負担額=50万円×66%=33万円
なお、実際にどの程度の学費を請求できるのかはケースバイケースとなるため、養育費に強い弁護士に相談のうえで分担割合を決めていきましょう。
離婚前には養育費滞納に備えて公正証書で合意書を作成しておく
学費の負担について合意が成立した場合は口約束で終わらせず、公正証書で合意書を作成しておくことが重要です。公正証書に「強制執行認諾文言」を記載しておけば、養育費の支払いが滞った際に裁判を起こさなくても強制執行が可能になります。
強制執行認諾文言とは「養育費の支払いを滞納した際に、直ちに強制執行を受けても異議がないことを承諾する」と記載することです。
強制執行認諾文言を記載すれば心理的にも滞納がしづらくなるため、後々のトラブルを防止するためにも必ず入れておきましょう。
養育費の合意書を公正証書にするためには、まず親同士で養育費や学費の負担について合意し、その内容を公証役場で正式な文書として作成します。作成時には当事者の立会いが必要であるため、日程を調整して公証役場に出向きましょう。
養育費の同意書を公正証書として作成する方法や強制執行の方法については、以下の記事でも詳しく解説しています。
合意書には突発的な費用発生に関する協議条項を記載しておく
養育費の取り決めをする際には、離婚時には想定していなかった教育費が将来的に発生する可能性も考慮しておきましょう。
たとえば私立学校への入学金や部活動の参加費用、修学旅行費用、海外留学など、子どもの成長に伴って突発的な教育費が発生するケースがあります。あとから発生する教育費に対処するためにも、合意書には「協議条項」の記載が必要です。
協議条項とは、「○○の費用負担については、当事者間で別途協議する」などの条項を設けることを指します。金額や支払い時期が明確でない教育費については、協議条項を記載しておくと将来的に安心です。
なお、当事者間での話し合いが難しい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば協議条項の記載も含め、法的効力の強い合意書を作成してもらえます。
養育費の計算方法を詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみてください。
養育費の学費交渉は難しい!弁護士に依頼する場合のメリット
養育費の学費交渉は、相手が素直に応じるとは限らず、話し合いが難航するケースも少なくありません。
すでに養育費の取り決めが終わっており、あとから私立学校や大学の学費を追加で請求する場合、相手からの納得を得られず交渉が前に進まないこともあります。
そのため、養育費の学費交渉をする際は弁護士に依頼するのがおすすめです。弁護士に依頼すれば相手と代理で交渉してもらえるうえ、調停の手続きもすべて任せられます。
養育費の増額交渉を弁護士に依頼するメリットについて、次の項目から詳しく解説します。
相手との交渉をしてくれるのでストレスがかからない
弁護士に依頼すれば自分自身が直接交渉する必要がなくなり、別れた配偶者と対面せずに養育費の増額交渉を進められます。
別れた配偶者との話し合いは感情的になりやすく、相手が支払いを拒否することでストレスを感じる場合も多いですが、弁護士を通じて交渉を行えば精神的な負担を軽減できます。
また、弁護士は法的知識を交えて冷静に話し合いを進めるため、感情に流されず有利な交渉ができるのも大きなメリットです。
あとから養育費を増額する場合は算定方法が複雑になりがちですが、弁護士であれば根拠に基づいた金額で請求するため、相手にも納得してもらいやすいでしょう。
調停の手続きを代行してくれる
相手が養育費の増額に応じない場合、裁判所で養育費増額調停の手続きに進むことになります。
家庭裁判所での手続きには申立書の作成や証拠の準備、必要書類の提出など、多くの手間がかかります。 弁護士に依頼すれば、このような法的手続きをすべて代行してもらうことが可能です。
また養育費増額調停が不成立となった場合は書面審理による審判が行われるのですが、審判で養育費の増額が認められるためには、増額の根拠や主張を裏付ける証拠などを提出できるかどうかが重要です。
弁護士に代理人として対応してもらえれば、法的根拠に基づいた書面を揃えやすくなるため、増額が認められる可能性が高まるでしょう。
弁護士に養育費の交渉を依頼すれば、煩雑な手続きを一任できるだけでなく、戦略を立てながら増額交渉を進められます。養育費の学費交渉が難しいと感じたときは、養育費問題に強い弁護士に相談してみてください。
まとめ
養育費には公立学校を前提とした学費が含まれているため、私立学校や大学の学費を追加で請求する場合は、別途話し合いをする必要があります。
離婚前の場合、まずは離婚協議で「私立学校や大学の学費も養育費に含めてほしい」という希望を伝えましょう。相手からの合意を得られなければ、離婚調停を申し立てて話し合いを進め、不成立となったときは離婚裁判に進む流れになります。
すでに離婚しており、養育費の取り決めが終わっている場合でも、相手からの合意が得られれば追加で学費を支払ってもらうことが可能です。
養育費の増額を求める場合、まずは相手に学費に関する資料を提示し、具体的な根拠を示しながら交渉を進めましょう。もしも話し合いで合意が得られなかったときは、家庭裁判所に養育費増額請求を申し立てることになります。
養育費の増額交渉はスムーズに進まないことも多いため、基本的には弁護士に依頼することをおすすめします。相手との交渉や養育費の算定、調停や裁判の手続きなどをすべて任せられるので、負担が大幅に軽減されるでしょう。
当サイトでは、養育費など離婚問題に強い弁護士を紹介しているため、ぜひ活用してみてください。
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