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離婚時に子供2人の親権を1人ずつ分ける場合の養育費を解説

離婚時に子供2人の親権を1人ずつ分ける場合の養育費を解説
南陽輔 弁護士
監修者
南 陽輔
大阪市出身。大阪大学法学部、関西大学法科大学院卒業。2008年に弁護士登録(大阪弁護士会所属)。大阪市の法律事務所に勤務し、離婚問題や債務整理などの一般民事事件のほか、刑事事件など幅広い法律業務を担当。2021年に一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成の支援、起業時の法的なアドバイスなどの予防法務を中心に業務提供をしております。皆さんが利用しやすく、かつ自由で発展的なビジネスが可能となるサービスを提供いたします。

子供が2人いる夫婦が離婚し、1人ずつ親権を分ける場合は養育費を払う必要があるのでしょうか?「1人ずつ引き取ったから相殺されるのでは?」「相手の方が収入が多いから、養育費をもらわないと不公平じゃないか?」など、さまざまな意見があると思います。

離婚時に子供の親権を分けた場合の養育費は、裁判所が公開している算定表を用いて算出します。具体的には、2人の子供を養育していると仮定して養育費算定表で金額を拾い、そこへ養育する子供の生活費指数割合をかけて1人あたりの金額を計算します。

また、算定表の基となった考え方に則って、最初から計算する方法もあります。そちらの方法のほうがさらに具体的な金額を算出できますが、少し計算が複雑になるので手順を把握しておきましょう。

養育費は子供の監護や教育のために必要な費用です。そのため、共同親権を採用したり、決められた面会権を反故にされたからといって支払わなくて良いということはありません。

また、もし離婚時に取り決めた養育費を相手が支払わない場合は家庭裁判所へ「履行勧告」「履行命令」を申し立てることが可能です。ただしこの2つは強制力がないため、確実に支払ってほしい場合は地方裁判所へ「強制執行」を申し立てるのも1つの方法です。

基本的には、親権を1人ずつ分けても支払わないといけない養育費ですが、以下のケースに該当する場合は免除されることがあります。

  • 離婚時の協議などで養育費を支払わないことに合意している
  • 非監護親に資力がない
  • 子供が再婚相手の養子になった

養育費の取り決めは引き取る親の収入や子供の年齢だけでなく、時にはさまざまな要素が絡んできます。本記事を参考にすると共に、迷った際にはぜひ弁護士に相談してみましょう。

離婚時に子供2人の親権を1人ずつ分ける場合の養育費について

子供2人の親権を1人ずつ分ける場合、養育費はどのように計算すればいいのでしょうか。養育費を決めるのに使用される養育費算定表は、基本的に片方の親が子供をすべて引き取った場合を想定して作られています。そのため、親権が分かれた場合には以下のように計算する必要があります。

  1. 権利者側で子供が生活していると仮定して、算定表を元に計算する
  2. 権利者が養育する子供の生活指数割合をかける

それぞれの計算について、詳しく解説します。

権利者側で子供が生活していると仮定して算定表で計算する

まずは、権利者側で子供を2人とも養育していると仮定して、算定表を用いて養育費を算出します。仮に、義務者の年収が400万円で権利者の年収は0円、子供は2人共14歳未満であるとしましょう。この条件を算定表に当てはめると、養育費は月6~8万円となります。

参照:養育費・婚姻費用算定表(表3)養育費・子2人表(第1子及び第2子0~14歳) | 裁判所

権利者が養育する子供の生活指数割合をかける

前述の6~8万円は、あくまで2人共を養育している場合に貰える金額です。親権が1人ずつ分かれている場合は、算出した養育費に生活費指数割合をかけなければいけません。生活費指数とは、成人が必要とする生活費を100と考えた時に、子供に必要な生活費の割合を示すものです。

区分 生活費指数
成人 100
15~19歳の子供 85
0~14歳の子供 62

今回の例では子供が2人共14歳未満のため、生活費指数は62+62=124です。その内1人だけを引き取っているので、計算式は「(6~8万円)×(1/2)=3~4万円」となります。

養育費の基本的な計算方法

養育費算定表から養育費を求める方法を解説しましたが、算定表はあくまで目安です。もう少し具体的に養育費を算出するには、義務者と権利者両方の実際の収入金額を基本として計算する必要があります。ここでは、養育費を求める計算式を説明すると共に、養育費計算の手順を以下の通り解説します。

  1. 権利者と義務者の基礎収入を計算する
  2. 子供の生活費を計算する
  3. 権利者と義務者の基礎収入から子供の生活費を按分する

また、基礎収入は給与所得者と自営業者で異なるため、それぞれの計算方法やポイントを押さえておきましょう。

養育費を求める計算式

養育費を求めるには、まず子供の最低生活費を計算します。最低生活費の計算式は以下の通りです。
「義務者の基礎収入×{(子供の生活費指数)÷(義務者の生活費指数+子供の生活費指数)}」
子供が複数いる場合は、式の中の子供の生活費指数について全員分を合計します。

親権を1人ずつ分ける場合は、上記で算出した金額を按分して分担します。義務者が1年間に分担する金額を算出する計算式は以下となります。
「子供の最低生活費×(義務者の基礎収入÷権利者と義務者の基礎収入合計)」
上記は1年間の額になるため、月額を出したい場合は12で割りましょう。

以下からは、基礎収入や子供の生活費、按分割合の計算方法とポイントを説明します。

基礎収入:総収入から公租公課・職業費・特別経費を控除した金額

養育費の算出にあたって、権利者と義務者の基礎収入を計算しないといけません。しかしたとえ収入が同じでも、給与所得者と自営業者では基礎収入は異なります。基礎収入は負担する養育費額に大きく関わるため、どのような違いがあるのかをしっかりと理解しておきましょう。

基礎収入は給与所得者と自営業者で異なる

基礎収入は、総収入から公租公課、職業費、特別経費を控除した金額で、養育費を捻出する際の基本的な収入を指します。ちなみに公租公課は税金類、職業費は仕事をするための費用(経費など)、特別経費には住居費や保健医療などが該当します。

給与所得者の基礎収入は単純に総収入のおよそ38~54%の範囲内ですが、自営業者は課税される所得金額を総収入とする点が異なります。そのため、自営業者の基礎収入は総収入のおよそ48~61%の範囲内となります。詳しくは以下から説明します。

給与所得者の基礎収入

給与所得者の基礎収入は「総収入×0.38~0.54」で求められます。割合に幅があるのは、総収入によって割合が異なるためです。給与所得者の基礎収入割合は、下記の割合表を参照してください。

給与所得者の基礎収入割合
総収入(万円) 割合(%)数
0~75 54
~100 50
~125 46
~175 44
~275 43
~525 42
~725 41
~1325 40
~1425 39
~2000 38

割合表は、あくまで手作業で基礎収入を算出する際の目安となるため、状況に応じて修正する必要があります。

自営業者の基礎収入

自営業者の基礎収入は「総収入×0.48~0.61」で算出します。給与所得者と同じく、収入によって割合が変化するので注意しましょう。

自営業者の基礎収入割合
総収入(万円) 割合(%)数
0~66 61
~82 60
~98 59
~256 58
~349 57
~392 56
~496 55
~563 54
~784 53
~942 52
~1046 51
~1179 50
~1482 49
~1567 48

給与所得者も自営業者も、高所得者になるほど割合が低くなります。

子供の生活費:年齢によってかかる金額が異なる

次に、義務者の基礎収入から子供の生活費に充てる金額を算出します。子供にかかる生活費は年齢によって異なるため、成人が必要とする生活費を100とした場合の子供の生活費の割合を定めた指数を用いて計算します

子供の生活費指数は14歳までと15歳以上に分かれていて、各指数は以下の通りです。

区分 生活費指数
成人 100
15~19歳の子供 85
0~14歳の子供 62

上記の指数と義務者の基礎収入を用いて、子供の生活費を算出します。
「子供の生活費=義務者の基礎収入×(子供の指数)/(義務者の指数+子供の指数)」
指数は子供の人数分を合計するため、たとえば子供2人が14歳未満の場合、計算式は以下の通りになります。
「子供の生活費=義務者の基礎収入×(62+62)/(100+62+62)」

権利者と義務者の基礎収入から子供の生活費を按分

最後に、算出した基礎収入と子供の生活費を使って、義務者が負担するべき養育費の額を計算します。義務者の基礎収入だけで計算した子供の生活費を、権利者と義務者で公平に分けるわけです。

計算式は「子供の生活費×義務者の基礎収入/(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)」です。

これで1年間の養育費の額が算出されました。ただし、養育費はそれぞれの基礎収入によって変動します。また、養育費の計算は非常に複雑で、さまざまな要素が関わってきます。養育費に関して、正確に算出する際は弁護士に相談すると安心です。

子供2人の親権を1人ずつ分けた場合の養育費のシミュレーション

ここまで、子供を1人ずつ引き取った場合の養育費計算方法を解説してきました。では、以下のケースでは養育費はいくらになるのでしょうか。

  • 両親ともに給与所得者で夫の年収が700万円、妻の年収が300万円、子供がそれぞれ12歳と9歳で12歳を引き取った場合に夫が負担する養育費
  • 夫が自営業者で年収850万円、妻は給与所得者で年収200万円、子供が16歳と10歳で16歳を引き取った場合に夫が負担する養育費

それぞれのケースを先程の計算式に当てはめてシミュレーションしてみましょう。

両親ともに給与所得者で夫の年収が700万円、妻の年収が300万円、子供がそれぞれ12歳と9歳で12歳を引き取った場合に夫が負担する養育費

まずは夫と妻の基礎収入を算出します。夫婦共に給与所得者なので、給与所得者用の割合表で計算します。

  • 夫の基礎収入=700×0.41=287
  • 妻の基礎収入=300×0.42=126

次に子供の生活費を割り出します。子供は2人共14歳以下のため、子供の生活費指数は62です。子供の生活費を算出する計算式「義務者の基礎収入 ×(62+85(子の指数))/(100+62+85(義務者の指数+子の指数))」に先程の基礎収入を当てはめて計算しましょう。

子供の生活費=287×(62+62)/(100+62+62)=158.9

さらにここから、義務者が分担するべき養育費の額を計算します。式は「子の生活費 × 義務者の基礎収入 /(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)」です。

養育費の額=158.9×287/(287+126)=110.4

夫が負担する養育費は年間110.4万円、月にすると9.2万円です。

夫が自営業者で年収850万円、妻は給与所得者で年収200万円、子供が16歳と10歳で16歳を引き取った場合に夫が負担する養育費

このケースでは、夫は自営業者の割合表、妻は給与所得者の割合表で計算します。

  • 夫の基礎収入=850×0.52=442
  • 妻の基礎収入=200×0.43=86

子供の生活費指数は16歳が85、10歳は62です。ここから子供の生活費を計算します。

子供の生活費=442×(85+62)/(100+85+62)=263

割り出した数値を使って、分担する養育費を算出します。

養育費の額=263×442/(442+86)=220

夫が分担する養育費は年間220万円、ひと月18.3万円です。

共同親権者であっても養育費の負担がなくなるわけではない

現在審議されている共同親権が導入されると、養育費はどうなるのか気になる人もいるでしょう。現在日本では、離婚すると片方の親が親権を持つ「単独親権」が採用されています。共同親権は離婚をしても双方が親権を持つもので、これを認めるための民法改正が進められています。

仮に共同親権が認められても、養育費の負担がなくなるわけではありません。養育費は子供の監護や教育のために必要な費用です。そのため、実際に子供を育てていない方の親には、子供が経済的に独立するまで養育費を支払う必要があります。親権の有無は関係ありません。

また、子供が離婚した両親の間を行き来している場合や、一緒に住んでいない方の親が日用品費などを負担している場合などでは、それらを考慮して養育費の負担割合が決められることもあります。

子供と面会できない場合の養育費について

面会交流は、一般的に子供と離れて住む「非監護者」が「監護者」に対して要求し実施されるケースが多いものです。しかし、面会交流は親の権利ではなく、子供の権利です。民法第766条第1項には、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。 この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」と明記されていることからも、親の利益ではなく、子供の利益を優先に考えて面会交流を定めなければなりません。

離婚協議の場では、養育費の支払いと面会交流を交換条件にする場合があります。しかし養育費と面会交流は制度の根拠や方法が異なるため、本来交換条件にはなりません。「面会交流を拒否されたから養育費は支払わない」、または「養育費を支払わないから子供に会わせない」といったことは認められません。

子供を1人引き取ったのに養育費を支払ってもらえない場合の対処法

調停での合意、または裁判所の審判や判決で養育費を定められたにもかかわらず、養育費を支払ってもらえない場合は、まずは当事者間での話し合いをおこないます。もし、電話やメールで連絡が取れなかったり、未払いが長期に渡っている場合は書面で催促すると良いでしょう。内容証明で請求すれば、今後法的手段を用いた際に、養育費の未払いを催促した証拠となります。

離婚時に調停や審判で養育費を取り決めた場合は、家庭裁判所に「履行勧告」「履行命令」の申し出が可能です。履行勧告は家庭裁判所が養育費の履行状況を調査し、義務者に対して養育費を支払うよう勧告することです。履行勧告には強制力はありませんが、裁判所から直接連絡が届くという点で一定の効果は期待できるでしょう。一方、履行命令は裁判所から義務者へ未払いの養育費を払うよう、命令することができます。従わない場合は10万円以下の過料を科せられますが、こちらも強制力はありません。

強制的に養育費を支払わせたい場合は、地方裁判所に「強制執行」を申し立てるのが有効です。強制執行が認められると、義務者の預金や不動産、給与を差し押さえて養育費に充てることが可能です。ただし、給与を差し押さえる場合は、相手の生活も考慮し基本的に手取りの1/2までです。一度強制執行が行われると将来の分も継続的に差し押さえることとなり、今後未払がある度に強制執行を申し立てる必要はありません。

強制執行を申し立てるには、「強制執行認諾文言付き公正証書」「調停調書」「審判書」「判決書」など債務名義と呼ばれる書類を揃える必要があります。申し立ての準備や手続きが面倒なため、いきなり強制執行を利用せずにまずは履行勧告や履行命令の利用を検討するのも1つの方法です。

養育費を支払わなくても問題ないケースもある

養育費は子供の監護や教育のために必要な費用のため、基本的には義務者は支払わないといけません。しかし、中には支払わなくて良いケースもあります。

  • 離婚時の協議などで養育費を支払わないことに合意している
  • 非監護親に資力がない
  • 子供が再婚相手の養子になった

上記に当てはまる場合は、養育費を支払わなくても問題ありません。それぞれのポイントを詳しく解説していきましょう。

離婚時の協議などで養育費を支払わないことに合意している

養育費を支払うかどうかについては、離婚時協議時に父母間で話し合って決められます。そのため、離婚後に養育費を支払わないとの合意があれば、養育費は払わなくても問題ありません。実際に、離婚後に相手と関わりを持ちたくないなどの理由で、継続的な養育費の支払いをなしとしているケースもあります。

ただし、養育費を不払いとするにはあくまでも子供が生活に困窮しないことが条件です。途中で状況が変わるなどして子供の生活が金銭的に脅かされた際には、子供から非監護親に対して扶養料が請求される場合があります。養育費についての合意があったとしても、子供から非監護親への扶養請求権は失われないことに注意が必要です。

非監護親に資力がない

非監護親には、子供の生活水準を自分と同レベルに維持するよう努める義務があります。そのため、自身の生活水準を落としてでも子供のために養育費を支払わないといけません。言い換えれば、養育費を支払うことで自分が生活できなくなったり、病気や怪我、失職などで収入がなくなったりといった場合には減額や免除が認められる場合があります。

また、そもそも資力がなければ養育費を請求されても支払うことはできません。無いものは払えないため、慰謝料などと同じように支払いが免除される可能性があります。

子供が再婚相手の養子になった

監護親が再婚し、子供が再婚相手の養子になった場合は子供の扶養義務を養親が負うこととなります。実親は2次的扶養義務者となるため、養育費が免除される可能性が高くなるでしょう。ただし、子供が養子になったからといって必ず免除されるわけではありません。養親に資力がなく、子供を十分に養育できない場合は実親が扶養義務を負います。

また、再婚しただけで養子縁組をしていなければ、再婚相手には子供を扶養する義務はありません。そのため養育費には基本的に影響はありませんが、監護親が再婚者から受けている扶養の程度によっては養育費の減額請求が認められる場合もあります。

まとめ

子供の親権を1人ずつ分けた場合も、養育費を支払わないといけないケースはあります。支払うべき養育費は、権利者と義務者の基礎収入と子供の生活費を計算し、権利者と義務者で按分することで求められます。給与所得者と自営業者で計算が異なる点や、子供の年齢によって生活費が異なる点に注意しましょう。

養育費は、子供の生活に必要なお金です。共同親権者であっても、子供との面会を拒否されても支払いが免除されるわけではありません。万一義務者が養育費を支払わない場合は、履行勧告や履行命令、強制執行が申し立てられます。また、養育費を支払わなくても問題ないケースも存在します。子供のために何がベストか離婚時によく話し合うと共に、離婚後状況が変わった際に柔軟に対応できるように念頭に置いておくと良いでしょう。