無職の相手にも養育費は請求できる
離婚した相手が無職であっても、養育費は請求できます。たとえ親権を失っても親子であることに変わりはなく、親には子どもが経済的・社会的に自立するまで養育費を支払い続ける義務があるためです。そのため子どもの親権者となった親は、元配偶者に対して養育費を請求できます。
また、親には自分の生活水準を下げてでも自分と同程度の生活を子どもに保障すべきという「生活保持義務」があります。
生活保持義務は、金銭的に余裕がある場合に義務を負う「生活扶助義務」とは異なり、金銭的余裕がなくても果たすべき義務です。そのため、職を失い自分の生活が苦しくなった場合でも支払義務はなくなりません。
なお、養育費とは、子どもを監護・教育するために必要な費用のことをいい、たとえば以下のことにかかる費用を指します。
- 食費や家賃などの生活費
- 衣服代
- 学校にかかる費用や習いごとの月謝などの教育費
- 通院・入院・薬代などの医療費
ただし、事情によっては現実的に養育費の支払いが難しいケースもあるため、支払義務があるからといって必ずしも回収できるわけではありません。
無職の相手に養育費を請求できないケースについては後述します。
養育費の金額は算定表を目安にする
養育費は、両親それぞれが生活費に回せる収入から計算することが一般的ですが、裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」を参考にすることも多いです。ケースにもよりますが、家庭裁判所の審判でも算定表の結果が重視される傾向にあります。
算定表では、両親それぞれの収入や子どもの人数、年齢に応じて必要とされる養育費が提示されています。たとえば0〜14歳の子どもが1人、親権者の年収が250万円(給与)のケースでは、以下の金額が目安です。
元配偶者の年収 |
養育費 |
0円(無職) |
0〜1万円 |
250万円 |
2〜4万円 |
500万円 |
4〜6万円 |
上記のとおり、元配偶者が無職の場合の養育費は0〜1万円です。
算定表はあくまでも目安ですが、目安がある以上、家庭裁判所が算定表の金額から大きく外れた金額を定めるとは考えにくいです。相手が同意した場合は別として、無職の相手に対して希望どおりの養育費を請求することは難しいでしょう。
ただし働ける状態であるにもかかわらず働いていない場合や、退職して無職になったものの、再就職が可能であり一時的に無収入の状態になっているだけといったケースでは収入をゼロと考えず、厚生労働省が公表する「賃金構造基本統計調査」をもとに養育費を算定することもあります。
参照:養育費・婚姻費用算定表|裁判所
参照:令和5年賃金構造基本統計調査|厚生労働省
無職の相手に養育費の請求ができるケースとできないケース
相手が無職の場合、養育費を請求できるケースとできないケースがあります。同じ無職でも、今後働けるかどうかなどの事情が異なるためです。
ここでは、養育費を請求できるケース・できないケースについてそれぞれ解説します。
- 現在働いていなくても、働こうと思えば働ける状態であり、収入を得られる能力があれば請求できる可能性がある
- 病気や障害、介護などが原因で働けない人や、生活保護受給者には請求できないことがある
潜在的稼働能力がある場合は請求できる
相手が無職でも、「潜在的稼働能力」があると判断できるなら養育費を請求できます。潜在的稼働能力とは、現時点で働いていなくても働こうと思えば働ける状態にあり、実際に働けば収入を得られる能力のことです。
潜在的稼働能力の有無は、以下のような事情を考慮したうえで総合的に判断されます。
- これまでの職歴
- 現在の健康状態
- 保有資格
- 子どもの年齢・健康状態
人並みに就労経験があり健康状態にも問題がなく、就職に役立つ資格を保有している人であれば再就職できる可能性が高いため、潜在的稼働能力が十分あるといえます。
ほかにも、以下にあてはまる場合は、潜在的稼働能力があると判断される傾向にあります。
- 養育費から逃れたくて自主退職した・収入を抑えている
- 会社を解雇されたが、再就職に向けて活動をしている
- 不労収入を得ている
- 多くの資産がある
- 結婚時は専業主婦だったが、現在働けない理由はとくにない
養育費から逃れることを目的とした自主退職や、あえて収入を抑えているケースでは、働こうと思えば働ける・または収入を増やそうと思えば増やせます。また、会社から解雇された場合でも、すでに再就職に向けて活動しているならまた収入を得られる可能性は高いため、潜在的稼働能力があると考えられます。
ただし再就職によってこれまでよりも収入が下がるときは、養育費が減額されるおそれがあるため要注意です。
そのほか、株式投資やブログなどで不労収入を得ていたり、多くの資産を有していたりといったケースでも養育費を請求できることがあります。
これまで専業主婦をしており働いた経験がない場合も同様です。フルタイムは難しくても、パート程度の収入であれば得られるであろうと考えられるためです。
病気や障害で働けない場合は請求が難しい
相手が病気や障害といったやむを得ない理由で収入を得られない場合、養育費の請求は難しいでしょう。働けないほどの病気や障害を抱えているとなると、「潜在的稼働能力がある」とはいえないためです。
請求が難しいケースには、ほかにも以下のようなものがあります。
- 親の介護があるため働けない
- 働いてはいるが、生活保護を受給している
親の介護でまったく家を空けられないようなケースは、潜在的稼働能力が認められない可能性が高いです。
ただし、親の死亡や施設への入所といった事情で介護が不要になったときは請求できることもあります。働けない原因となっていた病気が完治し、働けるようになったときも同様です。
そのほか、「生活保護」受給者は潜在的稼働能力を否定されることがあります。生活保護とは、最低限の生活を維持できるだけの収入がない場合に、その困窮度に応じて国が生活を手助けする制度です。
このような事情があるときは、養育費が請求できない可能性があることを覚えておきましょう。
養育費未払いにおける3つのペナルティ
養育費を支払わない場合、ペナルティを受けることがあります。以下の3つです。
- 1日でも支払い期日を過ぎた場合、法定利率年3%の遅延損害金が発生する
- 養育費未払いを放置された場合、「強制執行認諾文言」のある公正証書や調停・審判によって給与や預貯金、動産、不動産といった資産の差し押さえが可能
- 差し押さえのための財産調査「財産開示手続き」に相手が応じないときは、「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」のペナルティを受け前科がつくことがある
遅延損害金が発生する
養育費が支払い期限までに支払われなかった場合、まずは「遅延損害金」が発生します。遅延損害金とは、約束の期日までに支払いができなかったときに発生するペナルティです。
養育費は個人間のやりとりであるため「支払いが遅れると遅延損害金が発生する」という意識が欠けている人も多いですが、養育費は金銭債権です。支払いが1日でも滞れば、約束どおりに義務を果たさないことをいう「債務不履行」に該当し、債権者は養育費に加えて遅延損害金を請求できます。
なお、2024年4月現在の法定利率は年3%とされています。たとえば養育費の金額が月3万円で、1回支払を怠った場合、1年後には未払額と遅延損害金込みで3万900円です。
ただし、養育費の取り決めを行ったときに遅延損害金についても定めていたなら、法定利率ではなく取り決めたとおりの利率で計算します。
資産が差し押さえられる
養育費を未払いのまま放置された場合、給与や預貯金といった資産の差し押さえが可能です。車や貴金属などの動産、不動産なども差し押さえの対象になります。
一度差し押さえの手続きを行うと、取り下げるか相手が退職しないかぎり、約束したタイミングまで差し押さえが続きます。
資産を差し押さえられるケースは以下のとおりです。
- 「強制執行認諾文言」のある公正証書を作成してある
- 養育費請求調停や審判の手続きをする
公正証書とは、裁判官や検察官を長年務めた法律の専門家である「公証人」が作成した公文書のことをいいます。
養育費に関する取り決めを書面化し、支払いが滞ったら直ちに強制執行する旨を記載した「強制執行認諾文言付公正証書」を作成することで、裁判を経ることなく強制執行(差し押さえ)が可能です。公正証書を作成していなかった場合でも、「養育費請求調停」や「審判」で相手の支払義務が確定すれば、調停調書や審判書をもって差し押さえを実行できます。
なお、差し押さえには相手の勤務先や預貯金口座などの情報が必要です。
しかし、離婚後に相手が転職しており勤務先がわからない場合でも、養育費の債権者(親権者・子ども)には市区町村や金融機関、年金事務所などへの「情報照会」が認められています。そのため、新たな勤務先や預貯金口座がわからなくても心配いりません。
刑事罰が科せられる
令和2年4月に施行された民事執行法の改正によって、債務者(元配偶者)が「財産開示手続き」に応じない場合に刑事罰が科せられるようになりました。養育費未払いによる財産調査が入った際、その呼び出しを無視したり虚偽の陳述をすると刑事罰になります。
財産開示手続きとは、債権者(親権者・子ども)の申立てを受けた裁判所が、債務者の財産調査を行う制度です。
財産を差し押さえるためには、相手がどこにどのような財産を持っているのかを特定する必要がありますが、これまでは相手が情報を提供してくれず、財産が特定できないケースも少なくありませんでした。
債務者が出頭命令に応じない、虚偽の陳述をしたといった場合に過料が科せられるペナルティは以前から存在しましたが、刑事罰までは定められていなかったため、ペナルティを受けてでも財産隠しを選ぶケースもあったのです。
法改正による変更点は以下のとおりです。
法改正 |
ペナルティ |
改正前 |
30万円以下の過料 |
改正後 |
6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
過料は違反者に金銭的な制裁を与える「行政罰」であるのに対し、罰金刑や懲役刑は「刑罰」の一種であり、前科がつきます。
単に徴収される金額が上がったというだけでなく、これまでよりもペナルティの内容自体が重くなっています。養育費を受ける側にとって有利な改正といえるでしょう。
なお、財産開示手続きを行うことで、債務者の財産に関する以下のような情報が調べられます。
無職の相手に養育費を支払わせるには
相手が無職でも、養育費を支払わせる方法はあります。ここでは、無職の相手に養育費を支払わせるための方法について解説します。
- 調停や審判になった場合、「養育費ゼロ」という結果になる可能性があるため、話ができるのであればまずは相手と話し合い、養育費が必要であることを伝える
- そもそも話し合いができない、話し合っても解決しないときは内容証明郵便を相手に送り、未払いの養育費を請求する
- 内容証明郵便でも反応がなければ、「養育費請求調停」や「強制執行」などの法的手続きを検討する
まずは相手と話し合う
無職の相手に養育費を請求するなら、まずは相手としっかり話し合いましょう。
たとえ無職でも、潜在的稼働能力があるなら支払義務はあります。
しかし、調停や審判といった家庭裁判所が介入する手段で養育費を請求した場合、算定書に基づいて「養育費ゼロ」という結果になる可能性があります。また、解決までに時間がかかることが予想されるため、相手との話し合いで解決するのが理想です。
養育費が滞っていることや働かないことをただ責め立てるのではなく、子どもが不自由なく暮らしていくために養育費が必要なことを伝えましょう。相手に子どもへの愛情があれば、「子どものために働こう」と思い直してくれるかもしれません。
また、潜在的稼働能力があるかどうかを見極めることも重要です。もし相手がリストラによって収入が途絶えてしまった場合や体調不良で一時的に休職しているだけであれば、再就職や復職後に支払いが再開する可能性があります。
ただし、養育費が滞っている理由について、相手が嘘を言っていることも考えられます。中には養育費の支払いを免れるために無職を偽るケースもあるため、病気の診断書や解雇通知書など、相手の現状がわかる証明があれば見せてもらいましょう。
内容証明郵便で請求する
話合っても相手が支払いを渋るようなら、「内容証明郵便」で請求してみましょう。
内容証明郵便とは、「いつ・誰が・誰に・何を送ったか」を郵便局が証明してくれるサービスです。内容証明郵便自体に法的効果はありませんが、裁判などに発展したときは、請求の事実を示す証拠として提示できます。
また、養育費が長期間支払われず請求権が時効にかかりそうなときにも、内容証明郵便を送ることで到達から6カ月間時効を先延ばしできます。
【養育費の時効】
5年または10年(養育費の取り決め方法によって異なる)
※話し合い:5年、調停・審判:10年
無視されてしまうことも考えられますが、「放置するのは危険」というプレッシャーを与えられる可能性もあるため、相手によっては有効な手段といえるでしょう。
ただし内容証明郵便には、相手に送付する原本と郵便局・差出人それぞれが保管する控えの合計3通用意しなければならない、1行・1列の文字数が決まっているなど、細かい作成ルールがあります。そのため作成に手間がかかるほか、相手の現住所がわからないと送れないというマイナス面もあります。
とはいえ、費用は1,000円程度で済むうえ滞っていた養育費が回収できるケースもあるため、試してみる価値はあるかもしれません。
参照:内容証明|郵便局
話し合いに応じなければ法的手続きを
内容証明郵便を送っても反応がなければ、法的手続きを検討しましょう。
養育費の請求に利用できる法的手続きは以下のとおりです。
手続き |
概要 |
備考 |
養育費請求調停 |
裁判官・調停委員に間に入ってもらって話し合う |
調停が不調に終わったときは自動的に審判に移行 |
履行勧告 |
家庭裁判所が相手に対して支払いを促す
※従わなくても罰則なし |
調停や審判で決定した養育費が未払いになっている場合に利用できる |
履行命令 |
家庭裁判所が相手に対して支払いを命じる
※正当な理由なく従わない場合は10万円以下の過料 |
調停や審判で決定した養育費が未払いになっている場合に利用できる |
強制執行
(差し押さえ) |
公正証書・調停調書などをもって相手の財産を差し押さえる |
「強制執行認諾文言付公正証書」や調停調書がある場合に利用できる |
それぞれ解説します。
養育費請求調停
公正証書や調停調書がない場合は、まず「養育費請求調停」を家庭裁判所に申立てましょう。養育費請求調停は、裁判官と調停委員に間に入ってもらい、当事者間で話し合いをする手続きです。
あくまでも話し合いによって解決を目指す方法であるため、話し合っても平行線でまとまらない場合は調停不成立で終了します。調停終了後は自動的に「審判手続き」に移行し、裁判官がさまざまな事情を考慮して判断を下します。
相手に話し合う気がないなど、話し合いにならないことがわかっているなら、調停を経ずに審判を申立てても問題ありません。
申立て先 |
相手の住所地を管轄する家庭裁判所・合意で定めた家庭裁判所 |
必要書類 |
・養育費(請求・増額・減額等)調停申立書
・送達場所の届出書
・事情説明書
・進行に関する照会回答書
・非開示の希望に関する申出書(必要な場合)
・子どもの戸籍謄本
・申立人の収入がわかる書類(源泉徴収票・給料明細書など)
・収入印紙(子ども1人につき1,200円)
・郵便切手(裁判所に要確認) |
参照:養育費(請求・増額・減額等)調停の申立て|裁判所
履行勧告・履行命令(履行確保)
履行勧告・履行命令は、調停や審判で養育費が決定したにもかかわらず、その約束を相手が守らなかったときに利用できる手続きです。相手に対し、家庭裁判所が支払いを促したり命じたりします。
履行勧告は、支払いを促すための手続きです。しかし、あくまでも支払いを促すだけで強制するものではなく、相手が従わなかったとしても罰則はありません。
一方、履行命令は履行勧告よりももう一歩踏み込んだ手続きです。正当な理由なく命令に相手が従わなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
ただし、履行命令でも相手の財産を差し押さえることまではできません。履行命令を受けても相手が支払わないなら、強制執行を検討するしかないでしょう。
申立て先 |
養育費について定めた家庭裁判所 |
必要書類 |
・履行勧告申出書
・調停調書や審判書(コピーでも可)
・支払いが滞っていることがわかる資料(通帳のコピー)
※口頭や電話での申出も可能 |
参照:相手が約束を守らなかったときは|法務省
強制執行(差し押さえ)
調停や審判、履行勧告などを行っても相手が支払わない場合、強制執行によって相手の財産を差し押さえるという手段があります。
強制執行ができるのは「債務名義の正本」があるケースです。債務名義の正本とは、以下のものをいいます。
- 強制執行認諾文言のある公正証書
- 調停調書
- 審判書
- 和解調書
- 判決書
上記のような、強制執行力のある書面をもって強制執行を行います。
注意点は、相手が本当に無職であれば、給与の差し押さえができない点です。また、給与以外の財産も一切ない場合は差し押さえようがありません。
ただ、無職でも生活できているなら、預貯金や不労収入など、ほかに財産を持っている可能性があります。
前述のとおり、令和2年4月以降は法改正によって財産開示手続きによる財産の特定がしやすくなりました。給与以外の財産があれば、養育費を回収できる場合があります。相手が無職でも、給与以外から回収できる可能性があるなら強制執行を申立てる意味はあるでしょう。
申立て先 |
相手の住所地を管轄する地方裁判所 |
必要書類 |
・申立書
・債務名義(強制執行認諾文言付公正証書、調停調書など)
・送達証明書
・収入印紙(債権者1人、債務者1人、債務名義1通であれば4,000円)
・郵便切手(裁判所に要確認)
・第三者債務者(債務者の勤務先)の登記事項証明書
※勤務先が法人の場合
・住民票や戸籍、戸籍附票(債権者、債務者の氏名や住所が債務名義記載のものから変更されている場合) |
参照:養育費に関する手続き|裁判所
養育費の減額をお願いされた場合の対処法
場合によっては、養育費の減額を求められることがあります。少しでも払ってもらえるならとすぐに承諾してしまいたくなるかもしれませんが、減額を受け入れるにしても、まずは相手からしっかり話を聞き、事情を把握することが重要です。
ここでは、養育費の減額をお願いされたときの対処法について解説します。
- 無職になった理由や給与以外の収入などを相手に確認し、相手の状況を正確に把握したうえで減額について話し合う。本当に減額が必要かどうかは、聞き取りしたことから総合的に判断する
- 話し合いで解決しない場合は弁護士に間に入ってもらう。相手が真剣に考えてくれないようなケースでも、弁護士の話なら聞いてくれることもある
- 相手がやむを得ない退職をした場合、ある程度なら減額に応じたほうが結果的によいケースもある。減額に応じるときは期間を決め、公正証書を作成しておくのがおすすめ
相手の状況を正確に把握した上で話し合う
養育費減額の申し出があったときは以下のことを確認し、把握したうえで相手と話し合いましょう。
- 無職になった理由
- 退職金や失業保険の有無
- 預貯金や不労所得などの財産の有無
- 再就職の予定
減額に応じる・応じないは別として、相手の状況を正確に把握する必要があります。
まずは、減額が必要な理由をきちんと確認しましょう。無職になったこと以外にも、面会交流がない、親権がないなど、不満に思っていることがあるかもしれません。
無職になった理由の確認も必要です。完治が難しい、あるいは長期間働けない可能性がある病気を患ったなど、理由次第では減額どころか今後支払いが途切れるおそれがあります。
また、本当に無職になったのかどうかも確認しておいたほうがよいでしょう。養育費を支払いたくないがために、無職になったと嘘をついているケースも考えられるためです。口頭の確認だけでなく、退職証明や解雇通知書といった書類を見せてもらうこともおすすめします。
そのほか、給与以外の収入についても聞いておきましょう。退職金や失業保険が出る場合や不労所得を得ているケースなどもあるため、無職になったからといって収入がまったくないとはかぎらないためです。
給与による収入がなくてもほかで十分に収入を得られる場合、減額に応じる必要はないかもしれません。
あとは、再就職の予定も聞いておきましょう。以上の話を聞いたうえで、減額が必要かどうかを判断するとよいでしょう。
話し合いで解決しなければ弁護士に相談する
話し合いで解決しない場合は弁護士に相談し、間に入ってもらうとよいでしょう。法的観点から相手を分析し、適切な対応をしてもらえます。
中には、「減額に応じなければ払わない」という姿勢を貫けば、こちらが折れると思っているケースもあります。そのような場合に弁護士の登場は効果的です。こちらの本気度が伝わり、真剣に考えてくれるようになるかもしれません。
また、弁護士に依頼すれば、相手との交渉をすべて任せられます。
人によっては、相手と顔を合わせたくない場合や相手と会うだけでもストレスを感じることがあります。しかし、弁護士に交渉してもらえば精神的な負担を大きく軽減できるでしょう。
相手も、元配偶者の話は聞いてくれなくても、弁護士の話であれば聞いてくれる可能性があります。
多少の減額を受け入れることが必要な場合もある
やむを得ない理由での退職なら、ある程度減額を受け入れたほうがよい場合もあります。金額にもよりますが、減額に応じず支払い自体がなくなるよりは、減額に応じて少しでも支払ってもらえるほうが結果的にはよいでしょう。
ただし減額を受け入れるなら、あらかじめ期限を決めておくべきです。いつまで減額するのか、元の金額に戻す時期を決めておきましょう。でないと、再就職して収入が元に戻ってからも減額したままになってしまいます。
また、言った・言わないのトラブルを回避するため、話し合いで決めたことは書面にすることをおすすめします。支払いが滞ったときに相手の財産を差し押さえられる「強制執行認諾文言付公正証書」を作成しておくと安心です。
公正証書については後述します。
養育費のトラブルを弁護士に相談するメリット
養育費のトラブルは、弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士に依頼した場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、弁護士に相談するメリットを紹介します。
- 相手の状況を正確に把握して交渉してもらえる、相手が嘘をつきにくい、適正な養育費を算出してもらえるなどのメリットがある
- 請求手続きを代理で任せられるため、相手に会う必要がなくストレスを最小限に抑えられる。調停や審判になった場合でも、弁護士であれば代理が可能
相手の状況を正確に把握して交渉してもらえる
弁護士に依頼した場合、相手の資産状況や就労状況を正確に把握したうえで交渉してもらえます。素人では判断しにくいことでも、豊富な経験や知識を活かしながら対応してくれるでしょう。
相手が嘘をつきにくい点もメリットです。
相手が正直に話してくれるなら自分でも問題なく対応できるかもしれませんが、中には嘘をついたり適当にごまかしたりする可能性もあり、なかなか見抜けないこともあります。元配偶者相手になら平気で嘘をつくような人でも、弁護士相手ではそうもいかないでしょう。
そのほか、適正な養育費を算出してもらえるといったメリットもあります。
いくらに設定するのが妥当かは、それぞれの状況によって異なるため知識や経験がないとわかりにくい部分です。また、元配偶者の説明では納得してくれなくても、弁護士に説明されれば相手も納得しやすいでしょう。
請求の手続きを代理で任せられる
弁護士に依頼すると、養育費請求に関する手続きを代理してもらえます。自力での対応が難しいなら、プロに任せるのがおすすめです。
いくら子どものためとはいえ、別れた相手との話し合いや相手の状況を調べることは大きなストレスになる可能性があります。中には、顔も見たくないし話したくないというケースもあるでしょう。
弁護士に依頼した場合はもちろん費用がかかりますが、相手と接触することなく進めてもらえるため、ストレスや負担を最小限にできます。話し合いで解決できず調停や審判になった場合でも、弁護士であれば代理人になることが可能です。
養育費を請求する際の注意点
養育費を請求する際の注意点は以下のとおりです。
- 相手が約束を守らず強制執行をする場合、公正証書がなければ裁判による手続きが必要になるため、養育費について決めたことは公正証書にしておく
- 養育費の請求権は5年または10年で時効を迎えるため、時効前に対処する必要がある。時効が完成しそうなときは、相手に支払義務があることを認めさせる「債務承認」や調停を申立てる「裁判上の請求」を行うなどして時効を更新する
- 養育費は相手との合意があれば一括請求も可能だが、追加請求がしにくいことや贈与税がかかる可能性、「中間利息の控除」によって受取総額が少なくなることを念頭に置いておく必要がある
話し合いで決まったことは公正証書にしよう
養育費について話し合いで決まったことは書面化し、公正証書にすることをおすすめします。決めたとおりに養育費が支払われず、相手の財産を差し押さえたい場合、合意書や口頭での合意では強制執行ができないためです。
強制執行をする際、公正証書がなければ調停や審判を経なければなりません。
たとえば調停を行うなら、何度も裁判所に出向く必要があります。また、自分の主張を書面にまとめたり、裁判官や調停委員と話したりといった負担もかかります。
しかし公正証書を作成しておけば、調停や審判を経ることなく強制執行が可能です。調停や審判を行うより、時間の短縮や負担の軽減になるでしょう。
公正証書を作成する際は最寄りの公証役場に連絡し、作成日を予約しましょう。内容を書面化した原案は、事前に公証人にメールなどで送っておきます。そして作成日当日に双方が公証役場に出向き、話し合いで決めた内容を公正証書にしてもらいます。
当日は2人で出向く必要がありますが、公正証書の内容自体は事前のやりとりでできあがるため、公正証書作成といっても15〜30分程度で済むうえ話し合う必要もありません。
なお、公正証書作成には以下の書類が必要です。
- 話し合った内容を書面化したもの(原案)
- 身分証明書(運転免許証+認印、マイナンバーカード+認印、印鑑証明書+実印など)
- それぞれの戸籍謄本(離婚後のもの)
公正証書作成の手数料は以下のとおりです。
養育費の金額(合計) |
手数料 |
100万円以下 |
5,000円 |
100万円超え200万円以下 |
7,000円 |
200万円超え500万円以下 |
11,000円 |
500万円超え1,000万円以下 |
17,000円 |
1,000万円超え3,000万円以下 |
23,000円 |
参照:公証役場一覧|日本公証人連合会
参照:手数料|日本公証人連合会
時効前に対処をしよう
時効前に対処することも重要です。養育費の請求権には時効があるためです。時効は、養育費についての取り決めをどのような方法で行ったかによって異なります。
- 離婚協議書や公正証書で取り決めていた場合:5年
- 家庭裁判所で取り決めていた場合:10年
書面は交わさず、口頭で取り決めていた場合も5年です。
ただし、時効が完成した瞬間に権利が消失するわけではありません。時効の完成によって支払義務がなくなったことを主張する「援用」を相手が行ったときに権利は消失します。
時効が過ぎてしまっても、相手が養育費を支払うことに合意しているのであれば受け取れます。しかし、時効によって子どもの権利を失うリスクは避けたいものです。できるだけ時効前に対処するようにしましょう。
相手が支払ってくれない間に時効が完成しそうなときは、以下のことを行うことで時効がストップしカウントをゼロに戻せる「時効の更新」が可能です。
- 相手に支払義務を認めてもらう(債務承認):相手が認めたときにリセットされ、また新たに時効が進行する
- 養育費請求調停を申立てる(裁判上の請求):調停中は時効がストップし、手続きが完了するとリセットされる
- 強制執行をする:申立てると時効がストップし、手続きが完了するとリセットされる
一括請求した後に追加請求するのは難しいことを知っておこう
養育費は高額になることが多いため月払いが原則ですが、お互いが合意すれば一括請求も可能です。
一括で受け取れれば途中で支払いが滞る心配をせずに済み、毎月振り込みを確認したり振り込みが遅れたときに催促したりといった手間をなくせます。また、その後の生活にもゆとりができるでしょう。
ただし一括で養育費を受け取ったときは、双方の合意がない場合に追加での請求が難しくなるというデメリットがあります。一括で受け取るときの金額は、将来起こるであろうさまざまな事情を考慮して算出しますが、ある程度事情が変わることは承知のうえで合意したと考えられるためです。
支払った側にしても、一括払いを終えて責任を果たしたと思ったところに再度請求が来れば、納得できないと思うかもしれません。合意できなかった場合は、調停や審判といった方法で追加請求をします。
なお、追加請求が認められる可能性があるのは以下のようなケースです。
- 養育費を一括で受け取ったあとに子どもが病気になり、高額の医療費がかかった
- 学費の値上げによって教育費が予想以上にかかった
そのほか、以下のような理由から養育費の総額が減るデメリットがあることも覚えておく必要があります。
本来、養育費は課税対象になりません。
しかし、一括で受け取ることで高額になり、必要以上の養育費を受け取ったと国税庁に判断されてしまうことがあります。その結果、贈与税が課税されて受取額が減ってしまうおそれがあります。
中間利息が控除されることにも注意が必要です。「中間利息の控除」とは、現在一括で500万円受け取ることと、分割で長期にわたって合計500万円を受け取ることとでは価値が異なるとの考えから、一括で受け取った養育費からあらかじめ利息を差し引いて支払うことをいいます。
たとえば、交通事故の賠償金を計算する際などによく使用される「ライプニッツ係数」を用いた場合の金額は以下のとおりです。
【子どもが現在10歳で、20歳までの養育費を一括で支払う場合】
月4万円×12カ月×10年間=480万円
480万円×ライプニッツ係数8.5302(10年)=409万4,496円
分割で受け取るときよりも70万円以上少なくなります。
このように、一括請求は一度に大きな金額の養育費を取得できるメリットもありますが、追加請求が難しくなったり受取額が減ってしまったりといったデメリットもあります。慎重に検討したほうがよいでしょう。
まとめ
無職の相手に養育費を請求できるケースやできないケース、対処法について解説しました。
養育費の支払いは親の義務です。離婚によって親権を失い、離れて暮らすようになったからといって変わるものではありません。
離婚時点での子どもの年齢が低ければ、その分養育費の支払いは長期にわたります。生活や事情が変わり、ときには自分の生活すらままならない事態になることもあるでしょう。
しかし子どもを持つ親である以上、たとえ無職になったとしても「子どもを養育する」という意識は失わないでほしいものです。
養育費は、子どもが健やかに育つために必要な費用です。相手が無職になっても泣き寝入りせず、ぜひこの記事で解説した対処法を試してみてください。
無料相談・電話相談OK!
一人で悩まずに弁護士にご相談を
- 北海道・東北
-
- 関東
-
- 東海
-
- 関西
-
- 北陸・甲信越
-
- 中国・四国
-
- 九州・沖縄
-