養育費の支払いは親の義務
養育費を払わない方法を考える際に、まず押さえておきたいポイントは、養育費の支払いは法律で定められた親の義務であるという点です。
この点を無視して、なし崩しに養育費の支払いを拒否したり滞納したりすると、財産の差し押さえや遅延損害金の請求を受けてしまうなどのリスクが生じるため注意しましょう。
養育費の法的な意味合いをしっかりと踏まえた上で、払わなくてすむ話し合いを進めていくことが、大切です。
例えば、民法では、直系血族(親子)である限り扶養義務があることを定めています。
このため、たとえ離婚後、親権を失ったとしても、血のつながりのある親子である限り、養育費の支払わなければなりません。また、子が配偶者の連れ子であったとしても養子縁組を解消(離縁)していなければ、離婚後も養育費を負担する義務は残ります。
さらに、養育費は、破産法によって、自己破産をしたとしても支払い義務は免除されないとされています。たとえ借金に苦しんで自己破産をしたとしても、養育費の支払いはそのまま残る点にも注意が必要です。
そのため、養育費を払えない、払いたくない場合は、ただ支払いを拒否するのでなく、その義務が遂行できない事情を相手側に提示して、支払いの免除・減額してもらうのがよいといえます。
養育費を払わなくてよい状況
支払い義務のある養育費を払わなくてよい状況とはどんな状況か、以下で具体的に解説します。例えば下記のような状況の場合、養育費を支払わなくてよいと認められる可能性が高いといえます。
【養育費を払わなくてよい状況の例】
- 失業などで無収入になった場合
- 受け取る側が同意した場合
- 子どもが成人年齢になった場合
- 子どもが就職して自分で生活できるようになった場合
- 受け取る側が再婚して、子どもが養子縁組をした場合
養育費の支払いは、親の義務であることをお伝えしましたが、養育費の具体的な金額については、法律上の定めは特にありません。一般的な目安として、裁判所が公表する「養育費算定表」に基づいた金額が用いられますが、あくまで養育費の支払金額は、支払う側と受け取る側の合意で決まります。
そのため、受け取る側が「養育費はいらない」と言えば、支払う側にたとえ支払い義務があっても支払い金額はゼロとなります。とはいえ、すでに養育費の支払いの取り決めをしている場合に、ただちに無条件で養育費を免除してもらうことは簡単でないといえるでしょう。
上記に挙げた状況の例は、受け取る側との交渉の材料として使えるうえ、仮に交渉が決裂した場合でも、調停、審判と進めていく中で、養育費の免除を主張しやすい根拠となるものといえます。詳しく、以下で解説します。
失業などで無収入になった場合
失業などで無収入になった場合は、養育費を払わなくてよい可能性が高いといえます。
なぜなら、民法877条に定める扶養義務としての養育費の支払いは、子どもに対して自分と同程度の生活水準を保障するために支払うものだからです。収入がある場合には、自分の生活水準を多少下げても、養育費を支払う義務があります。しかし、自分自身が病気や怪我などで職を失い、無収入となっている場合には、それ以上無理をして、養育費を支払う義務はありません。
ただし、リストラや自己都合での失業などで無収入となった場合には、失業は一時的なもので、本来は就労して収入を得る能力「潜在的稼働能力」があると評価され、養育費の免除や減額とならないケースもあります。
失業による無収入でも、一時的なものでなく、長期にわたり就労不能で復職が見込めないといった事情において、養育費の支払いを免除されやすくなるといえます。
受け取る側が同意した場合
養育費の支払いは、子の父と母の協議によって自由に決められるため、養育費の支払いをしないことについて、受け取る側が同意した場合も、支払う必要はなくなります。
例えば、受け取る側が支払う側とこれ以上接点を持ちたくない場合や受け取る側が高収入である場合などには、支払い側に特殊な事情がなくとも、養育費を支払わないことに同意を得られやすいといえるでしょう。
理由がなんであっても、合意を解消しない限りは、養育費は払わなくてよくなります。
しかし,子自身の養育費請求権はその影響を受けません。後に、子どもの生活に支障が生じた場合などには、改めて、受け取る側から、あるいは子ども自身から、養育費の請求が行われることがあります。そうした請求があった場合には、扶養の義務があるため、支払いを拒否できません。
受け取る側との合意で養育費の支払いを免れても、後に請求される可能性があると意識し、備えておくことが大切です。
子どもが成人年齢になった場合
子どもが成人年齢になった場合も、養育費の支払いをしなくてよいといえます。
養育費の支払いなど、親の子に対する扶養義務は、基本的に、子が経済的、社会的に自立する成人になるまでの期間を対象としています。このため、子が成人すれば、養育費の支払い義務から解放されるといえるでしょう。
なお、2022年4月より成人年齢が20歳から18歳に引き下げられましたが、養育費においては、引き続き20歳まで支払われるケースが多いといえます。なぜなら、「子が成人するまで養育費を支払う」と取り決めをしていた場合、取り決め当時には成人年齢を20歳と捉えていたケースがほとんどだからです。
また、現実的には、成人年齢18歳に達していたとしても、まだ経済的に自立していないケースも多いため、養育費における成人年齢は従来通り20歳を目安とすることが一般的といえます。
参考:法務省「成年年齢の引下げに伴う養育費の取決めへの影響について」
子どもが就職して自分で生活できるようになった場合
子どもが成人年齢に達していなくとも、就職して自分で生活できるようになっていれば、養育費は払わなくてよいといえます。
繰り返しになりますが、養育費の支払いは、子どもが経済的、社会的に自立するまでの未成熟の期間を対象としています。そのため、子どもが就職して経済的、社会的に自立すると、親は養育費を支払う義務はありません。
子どもが就職して自活できるのであれば、養育費の支払いを拒否できます。
受け取る側が再婚して、子どもが養子縁組をした場合
養育費を受け取る側が再婚をして、その再婚相手と子どもが養子縁組をした場合、これまで養育費を支払ってきた側は養育費を支払わなくてよくなる可能性が高いといえます。
なぜなら、子どもが親の再婚相手と養子縁組をすると、子どもの第一次的な扶養義務者は親権を持つ親とその再婚相手になると見なされるからです。これまで養育費を支払ってきた支払い側は第二次的な扶養義務者となるため、第一次的な扶養義務者である養い親が、扶養義務を履行できない場合を除き、養育費を請求されることはありません。
参考:TKCローライブラリー「新・判例解説Watch◆民法(家族法)No.129」
養育費を減額できる状況
養育費の支払いを全額免除することは難しいものの、一部減額できる可能性の高い状況というのもあります。養育費の減額が可能と考えられるケースは以下の3つです。
【養育費の減額が見込める状況の例】
- 受け取る側の収入が増えた場合
- 支払う側の収入が減った場合
- 支払う側が再婚して新しく子どもができた場合
養育費の減額を求めるには、上記の例のように、養育費の取り決めをした時よりも、支払う側の経済状況が悪化している、あるいは、受け取る側の経済状況が好転していることを根拠に話し合いを進めることがポイントです。
それぞれの状況の詳しい内容は次の通りです。
受け取る側の収入が増えた場合
養育費を受け取る側の親権者の収入が増えた場合、養育費を減額できる可能性があります。
なぜなら、養育費の金額は、子どもの年齢や人数のほか、子どもの父母の収入額や収入額のバランスも考慮して決められるのが一般的だからです。養育費の標準的な目安とされる、裁判所が公表する「養育費算定表」でも、受け取る側の元配偶者の収入が多くなるほど、養育費の金額は低くなる傾向となっています。
このため、養育費の支払いの取り決めをした時よりも、受け取る側の収入が増えた場合には、養育費の支払い額の減額を求めることが可能です。
さらに、受け取る側の元配偶者が、専業主婦やパートなどからフルタイム勤務の正社員になるなどして、高年収となっている場合などでは、養育費の減額だけでなく免除される可能性もあります。
ただし、受け取る側の収入増が、離婚時の養育費の話し合い時点で想定されていたことであれば、織り込み済みということで、減額が認められないケースも少なくありません。受け取る側の収入増については、離婚時の話し合いの際に想定できていなかったものが減額を求める根拠となります。
支払う側の収入が減った場合
養育費を支払う側の収入が減った場合も、養育費を減額できる可能性があります。
先述した通り、養育費は、子どもの父母の収入額を考慮して決められるのが一般的です。裁判所が公表する「養育費算定表」でも、支払う側の収入が少なくなるほど、養育費は少なくなります。
そのため、例えば、会社員でリストラや病気で失業した場合や、経営者で経営不振に陥っている場合など、離婚時には想定していなかった事情で収入が減った場合には、減額を求めることができます。
ただし、支払う側の収入減が、離婚時の養育費の話し合い時点で想定できた事情の場合は減額できない可能性があります。あくまで養育費の話し合いで想定されていなかった支払う側の収入減が、減額を求める根拠となります。
支払う側が再婚して新しく子どもができた場合
支払う側の自分が再婚して、新しく子どもができた場合も、養育費を減額できる可能性があります。
例えば、再婚し、再婚相手との間に子どもが生まれたり、再婚相手の連れ子と養子縁組をしたりする場合です。こうした場合には、再婚相手とその子どもに対する扶養義務が生じます。扶養すべき対象が増えることで、一人当たりに支払える金額が減るため、養育費の減額が認められる可能性が高いといえます。
養育費を減額・免除する方法
養育費を免除あるいは減額できる状況についてお伝えしました。
これらの状況を踏まえて、実際に養育費を減額したり免除したりするためには、以下の方法で進めていくのがスムーズです。
【養育費を減額・免除する方法】
- 受け取る側と養育費の減額・免除について交渉する
- 養育費減額調停を申し立てる
- 養育費ADRを利用する
まずは、受け取る側との話し合いをして、養育費の減額・免除の同意を得るように試みます。受け取る側との話し合いで同意を得られない場合には、次の方法である、調停申し立てを行います。あるいは、養育費ADRという弁護士が仲裁を行う裁判外の紛争解決手段を活用することも考えられます。
それぞれの方法の具体的な内容は次の通りです。
受け取る側と養育費の減額・免除について交渉する
養育費の減額・免除をするには、まず、受け取る側の親権者と養育費の減額・免除について交渉することが第一です。養育費の金額については、先述した通り、法的な定めはなく、養育費を支払う側と受け取る側との話し合いによって決められます。
そのため、まずは、当事者双方で話し合うことが、現実的な方法といえます。離婚時に養育費について話し合った時点では想定されていなかった収入減などの事情の変更を提示して、交渉しましょう。
養育費の減額・免除の合意が得られたら、後々トラブルにならないように書面を交わしておくことが大切です。離婚後に養育費に関する公正証書を作成していたのであれば、新たに合意した内容で作り直しましょう。
養育費減額調停を申し立てる
受け取る側の親権者との交渉がまとまらなかった場合、家庭裁判所に「養育費減額調停」を申し立てる方法があります。
「養育費減額調停」では、裁判官や調停委員を交えて、受け取る側と支払い側とで養育費の減額について話し合い、合意を図ります。調停で合意ができれば、調停は成立となります。
調停での話し合いでも合意に至らず、調停が不成立となれば、「養育費減額審判」に移行します。「養育費減額審判」では裁判所が養育費の減額について判断します。審判結果に不服がある場合には、即時抗告が可能です。即時抗告をしないまま、2週間経過すると審判が確定します。
調停に当たっては、調停委員を自分側の味方にすることが大切です。対応に不安がある場合は、弁護士に依頼することがおすすめです。
養育費減額調停に必要なもの
養育費減額調停にはさまざまな書類が必要となります。調停を申し立てる際には、下記のものを準備するようにしましょう。
【養育費減額調停に必要なもの】
- 養育費減額調停申立書
- 連絡先等の届出書
- 事情説明書
- 進行に関する照会回答書
- 子ども(未成年者)の戸籍謄本
- 申立人の収入に関する資料(源泉徴収票・給与明細・確定申告書の写しなど)
- 収入印紙(子供一人につき1,200円)
- 郵便切手(必要な切手の種類は裁判所に確認が必要)
- 非開示の希望に関する申出書(相手に知られたくない情報がある場合に提出)
参考:裁判所「養育費(請求・増額・減額等)の申立て」
各届出書は、裁判所の「養育費(請求・増額・減額等)の申立て」ページからテンプレートをダウンロードできます。
養育費ADRを利用する
養育費減額調停の申し立てを行う代わりに、養育費ADRを利用する手もあります。
養育費ADRとは、東京弁護士会紛争解決センターが運営する、養育費を話し合いで決める制度のことです。ADRとは、「裁判外紛争解決手続き」ともいわれ、訴訟手続によらない紛争解決方法のことを指します。養育費ADRは、養育費について、当事者が裁判所ではなく、弁護士会で話し合うというものです。
裁判所では、内密にしたい情報まで法廷で開示されることがありますが、ADRでは秘密を守りながら、弁護士といった専門家の立ち合いのもと話し合いができます。
養育費ADRの話合いの期日は3回までとなっています。3回の期日を終えても合意しない場合、手続きを終了するか、同センターの一般ADRとして話し合いを継続することが可能です。
養育費ADRの費用
養育費ADRを活用する場合、申立人と相手側と双方に、下記の費用が発生します。
【養育費ADRの費用(税込)】
- 申立手数料:各11,000円
- 期日手数料:各5,500円/回
- 成立手数料:各11,000円
出典:東京弁護士「養育費ADRについて~両親で支える子の笑顔~」
申立手数料は、相手方が養育費ADRの利用に同意し、手続きを開始するときに必要となる費用です。
期日手数料は話し合いの期日ごとに発生する費用です。話し合いを3回行う場合は、各16,500円(=5,500円×3回)となります。
成立手数料は、和解が成立した場合に発生する費用です。
養育費ADRで、話し合いを3回行って、和解成立となった場合にかかる費用の総額は、申立人・相手側一人につき38,500円です。
養育費ADRの申し込み方法
養育費ADRの利用申込みについては、下記の東京弁護士会の養育費ADRの申立フォームから申込みができます。
・養育費ADR申立フォーム
上記、申立フォームから必要事項を記入し送信すると、下記手順で手続きが進みます。
【養育費ADRの申込みの流れ】
- 申立人が、申立フォームから申請手続きを行う
- センター事務局にて受付確認を行い、申立人へ確認メールを送付
- センター事務局から相手方に対し「養育費ADR」の申立てがあったことを通知
- 相手方が「養育費ADR」で協議をすることに同意
- 申立人・相手方双方が申立手数料をセンター事務局に納付
- 申立手数料の納付確認後、センター事務局にて日程調整を実施
- 養育費ADRにて協議を実施
同意なく養育費を払わないとどうなる?未払いで起こるリスク
養育費の支払いをしないことの同意を得られないままに、養育費を払わないと、さまざまなリスクを抱えることとなります。
養育費の支払いをしないと、例えば下記のようなリスクが生じます。
- 遅延損害金が発生する
- 財産を差し押さえられる可能性がある
- 未払い分を一括請求される
- 養育費の未払いを続けると刑事罰が課せられる可能性がある
詳しい内容を以下で解説します。
遅延損害金が発生する
養育費を支払わずに滞納していると、遅延損害金が発生することがあります。
遅延損害金とは、金銭債務について、債務者が支払い期限を守らずに滞納したときに、債権者から損害賠償として請求されるものです。養育費も、金銭債務と見なされるため、支払いが滞ると、受け取り側は支払う側に遅延損害金を請求できます。
実際には、養育費の支払いが多少遅れたくらいでは、遅延損害金を請求されるケースは少ないと思われますが、何年も滞納しているとペナルティや養育費の督促の意味合いも込めて、遅延損害金を請求されかねません。
遅延損害金として請求される金額は、滞納した養育費の金額と滞納期間に応じて算出されるものです。遅延損害金の算出に適用される利率は、離婚時にあらかじめ養育費の遅延損害金の利率を定めていればそれを適用します。
利率の取り決めを特にしていない場合は、法定利率が適用されます。適用される法定利率は年3%です。ただし、2020年3月31日以前に取り決めた養育費の遅延損害金の場合に適用される利率は、改正前の法定利率年5%となります。
財産を差し押さえられる可能性がある
養育費を支払わずに滞納していると、財産を差し押さえられる可能性があるため注意が必要です。
養育費の支払いについて定めた公正証書や調停調書、審判書といった「債務名義」がある場合、養育費を受け取る側の親権者は、裁判所に強制執行を申し立てることができます。
支払う側は、強制執行をされると、給与や預金といった財産を差し押さえられます。給与の差し押さえは完済まで続くのが原則です。養育費を完済するまでは、給与は一部しか受け取れないこととなります。さらに、差し押さえにあたっては、会社にも養育費の滞納を知られてしまいます。
公正証書などの「債務名義」がない場合は、強制執行はされないものの、油断はできません。なぜなら、養育費の未払いについて、受け取る側の親権者から調停や裁判などを起こされると、債務名義が発生し、強制執行が可能となるからです。
給与などの財産を差し押さえられる可能性がある点が、養育費未払いの大きなリスクといえます。
未払い分を一括請求される
養育費の滞納を続けると、受け取る側の親権者から未払い分を一括請求されることもあります。
養育費の未払い分を一括で請求される場合、未払い期間によっては金額も大きくなり、経済的に大きな負担になることも少なくありません。また、未払い分の一括請求を受けたにもかかわらず無視していると、債務名義のもとに、強制執行を受ける可能性もあるため注意が必要です。
債務名義がない場合でも、未払い分の請求を無視したことにより、養育費請求調停の申し立てをされることがあります。調停で調停証書が作成されると、それを債務名義とし、強制執行が行われることがあるため注意しましょう。
未払いの一括請求をされたら、無視せずに支払うか、支払えない場合は、支払い方法について話し合いをするなどの対処をすることがおすすめです。
養育費の未払いを続けると刑事罰が科せられる可能性がある
養育費の未払いを続けると、その過程で刑事罰が科せられる可能性があります。
養育費の支払いは、先述した通り、民法で定められた親の義務です。この養育費を支払わなかったとしても、民法では特に罰則は設けられていません。また、養育費の未払いを続けたからといって、その行為自体が犯罪行為となったり、刑事罰の対象となったりすることはありません。
ただし、2020年4月1日施行の改正民事執行法により、強制執行をする前提となる債務者の財産状況を調査する手続きが強化されました。
養育費の受け取る側の親権者は、未払いを続ける養育費の債務者の財産を強制執行で差し押さえる前に、裁判所に支払い義務者の「財産開示手続き」を申し立てます。これを受けて裁判所は支払い義務者に財産開示を命じます。
これまでは、支払い義務者が、養育費の支払いを不当に避けるために、この裁判所の財産開示に応じなかったり、虚偽の回答をしたりすることがありました。以前もこの行為に対しては、罰金30万円以下という行政罰があったのですが、取り締まる効果は薄かったといえます。この罰金を払う方が、養育費を払うよりも安いということで、甘んじて行政罰を受け、養育費を下げようとするケースが少なくありませんでした。
しかし、2020年4月1日施行の改正民事執行法により、養育費の支払いを避けるために「財産開示手続」に応じなかったり、嘘の回答をしたりする場合には、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科されることとなりました。
刑事罰は行政罰と異なり、前科がつきます。養育費の支払いを避けたいからといって、裁判所の命令を無視したり、虚偽の報告をしたりすることは禁物といえるでしょう。
離婚時に養育費を支払わない同意させるを得るための方法
養育費の支払いを避けるためには、離婚時にあらかじめ養育費を支払わなくてよい同意を得ておくことが、有効な手段といえるでしょう。
離婚時に養育費を支払わない同意をしてもらうための方法としては、以下の3つがあります。
- 離婚時の財産分与を多く渡す
- 面会交流権を放棄する
- 配偶者の連れ子と養子縁組をしている場合は解消する
詳しくは次の通りです。
離婚時の財産分与を多く渡す
離婚時の財産分与で、財産を多く渡すことで、養育費を支払わないことに同意してもらうという方法があります。
財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して得た財産を、離婚に際して分けることです。通常は平等に半分ずつ分けますが、相手に多く引き渡すことで、養育費を支払わないことに合意してもらえる可能性があります。
特に、財産に現在の住宅が含まれている場合などは、住宅を相手に譲ることで、養育費を支払わないという同意を得られるケースも少なくありません。
ただし、養育費は民法上、財産分与と相殺することはできない(※)とされているため、多めの財産と養育費とを単純に相殺させようとすることは避けた方が良いでしょう。財産を多めに渡すのは、あくまで親権者が、養育費の支払いがないことに同意できるような話し合いにするための材料とすることが大切です。
※養育費は、民事執行法152条1項1号により、差し押さえ禁止債権とされています。民法510条では、差し押さえ禁止債権については、相殺で消滅できないとされているため、財産分与との相殺ができません。
面会交流権を放棄する
面会交流権を放棄することで、養育権を支払わないことに同意してもらう方法もあります。
本来、面会交流は子どものためにあるため、養育費の支払いとは関係のないものです。しかし、離婚の原因が不倫やモラハラなどの場合、有責配偶者と子どもとを会わせたくないと考える元配偶者は少なくありません。そうした場合、子どもとの交流を絶つ代わりに、養育費も支払わないことに同意を得られることがあります。
ただし、この場合、子どもへの影響も考えながら、慎重に決める必要があります。
配偶者の連れ子と養子縁組をしている場合は解消する
配偶者の連れ子と養子縁組をしている場合は、養子縁組を解消することで、養育費を支払わなくてよくなります。
配偶者の未成年の子と養子縁組をしている場合、民法877条1項に従い、養親は子に対して扶養義務を負います。この養子縁組は、夫婦が離婚したとしても、自然に解消されるものではありません。そのため、離婚後も扶養義務は残り、養育費を支払わなければならなくなります。
一方で、この養子縁組を解消(離縁)すると、養育費負担の根拠である扶養義務がなくなります。養育費を支払わないためには、離縁の手続きが必要といえるでしょう。
養親の離婚だけでは、養子縁組解消の理由にはならないため、当事者同士の話し合いによる「協議離縁」、あるいは、家庭裁判所に調停申し立てを行う「調停・審判による離縁」などといった手続きが必要となります。
養育費の負担を減らしたいなら早めに弁護士に相談しよう
養育費の負担を減らしたい場合には、弁護士に相談することがおすすめです。
なぜなら、養育費の減額の話し合いは簡単ではないからです。養育費の減額や免除が可能な状況でも必ずしも、相手の合意が得られるとは限りません。自分自身で対応すると、協議をする上で大事なポイントが抜けてしまったり、感情的に話を進めてしまったりして、話し合いがこじれてしまう可能性もあります。
養育費の減額の交渉は、専門家の知見を借りながら進めることが得策といえます。養育費の減額や免除についての話し合いが決裂した場合で、調停や裁判になった場合でも、ご自身で対応するより、交渉に慣れている弁護士に依頼したほうがスムーズです。
まとめ
養育費については、子の親である限り、親権がなかったとしても自己破産をしたとしても、その支払い義務から逃れられないといえます。
ただし、例外的に、失業などで無収入になった場合や、子どもが成人年齢になった場合、子どもが就職して自分で生活できるようになった場合などには、養育費の支払いが免除・減額される可能性があります。
養育費の支払いの免除・減額を実現させるには、養育費を受け取る側である親権者と交渉し、同意を得る必要があります。同意を得られない場合は、さらに調停、審判、養育費ADRなどで、減額を認めてもらわなければなりません。
養育費の免除や減額の交渉に不安がある場合には、離婚問題や養育費に詳しい弁護士に依頼することがおすすめです。専門家の知見を借りることで、養育費の免除や減額を実現しやすくなるでしょう。
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