共同親権とは
共同親権には主に、以下の4つの特徴があります。
- 子どもの親権を父母の両方がもつ制度
- 単独親権との違いは親権が両親にあるか片親のみにあるか
- 日本では2026年5月24日までに施行される
- 共同親権施行後なら離婚済みでも共同親権へ変更できる
それぞれ詳しく解説していきます。
子どもの親権を父母の両方がもつ制度
共同親権とは、親権を父と母が共有する制度のことです。
そもそも親権とは、未成熟な子供が18歳になるまで、親が養育する権利・義務を指します。そして、親権に内包されている権利は、身上監護権と財産管理権の主に2つです。簡単に言えば、子供の養育に関係する権利が身上監護権、子供の財産を管理する権利が財産管理権となっています。
更に、身上監護権には、以下の3つの内容が含まれています。
- 監護教育権:子どもの育成と教育をする権利
- 居所指定権:子どもが住む場所を指定する権利
- 職業許可権:職業に就くことを許可する権利
参考:法令検索 民法822,823,824条
子供の世話をする権利、住む場所を決める権利、就職の許可をする権利を内包しているのが身上監護権です。
そして財産管理権とは、子供の財産を管理し、財産に関する法律行為を子供に代わって行う権利を指します。簡単に言えば、子供に代わって、親が子供のお小遣いやお年玉を貯金したり、不動産の売却などを行える権利です。
これらの権利を、すべて父と母が共有することを、共同親権と呼びます。
なお、親権から身上監護権のみを分離して、子供の世話を身近に行う権利として解釈した監護権も存在しています。そのため、離婚の際に経済的に余裕がある方が親権を獲得した場合でも、親権から監護権を切り離すよう交渉すれば、非親権者が子供と過ごすことも可能です。
単独親権との違いは親権が両親にあるか片親のみにあるか
共同親権と単独親権の最大の違いは、親権が両親にあるか片親のみにあるかです。
前述した通り、親権には身上監護権、財産管理権と、子供の養育に関する様々な権利が含まれています。共同親権では、これらの権利を離婚後も父母間で共有可能です。具体的には、子供の将来に関わる事柄について、父母で話し合い決定できます。
一方、単独親権では、子供に関する権利を全て片方の親が獲得します。そのため、親権者に比べ非親権者は、子供の進路に関わる機会が極端に少なくなるといえるでしょう。
日本では民法819条に基づいて、両親が離婚する際には、一方を親権者に定めなければいけない決まりがあります。つまり、2024年7月時点では、日本では単独親権しか認められていません。
日本では2026年5月24日までに施行される
日本では今まで単独親権しか認められていませんでしたが、2026年5月24日までには共同親権が施行されると決定しています。
2024年4月16日に、共同親権を認める法改正案が提出され、衆議院本会議で賛成多数で可決されました。そして、2024年5月17日の参議院本会議でも、法改正案が賛成多数で可決されています。その際、提出された改正案には、共同親権の選択が「父母双方が心から望んで行われたか?」を確認する措置が盛り込まれているようです。
こうして、日本でも共同親権が施行されることになりましたが、今まで通り単独親権の選択も可能です。そのため、どちらの制度を選択するかは父母の協議次第となっています。
共同親権施行後なら離婚済みでも共同親権へ変更できる
共同親権施行後であれば、施行前に離婚していたとしても、共同親権への変更が可能です。
ただし、共同親権が導入されたからといって、自動的に単独親権から切り替わるわけではありません。前述した通り、単独親権がなくなる訳ではないので、法改正施行前に離婚した方は単独親権が適応されたままとなります。
共同親権への変更がしたい場合は、家庭裁判所へ親権者変更の申立てを行い、裁判所が認可すれば変更可能です。ただし、裁判所が「共同親権が子供の利益にならない」と判断した場合は、認可されない可能性もあります。
共同親権が導入される背景
日本で共同親権が認められた背景には、以下のような理由があります。
- 海外で共同親権が一般的になっているため
日本の社会的な背景が変化したため
- 国際結婚での子どもの連れ去り問題を解決するため
それぞれ詳しく解説していきます。
海外で共同親権が一般的になっているため
共同親権が認められた理由としては、まず欧米など海外では共同親権が一般化されつつあるのが理由とされています。
令和2年4月に法務省が発表した、外務省によるG20を含む海外24か国での法制度や運用状況の基本的調査では、22か国が共同親権を採用していると判明しました。共同親権を採用している22か国と、単独親権のみ認めている国は以下の通りです。
単独親権のみ
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共同親権も
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日本、インド、トルコ
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アメリカ、カナダ、アルゼンチン、ブラジル、メキシコ
インドネシア、韓国、タイ、中国、フィリピン
イタリア、イギリス、オランダ、スイス、スウェーデン
スペイン、ドイツ、フランス、ロシア、オーストラリア
サウジアラビア、南アフリカ
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上述したように、国際的に見ると共同親権を認めていない国は、かなり少数です。そして、共同親権を認めている国が多いということは、国際離婚に至った際に日本との法制度の違いから、トラブルに発展する可能性が高いといえるでしょう。
つまり、共同親権を認めた背景には、国際離婚の際に発生するトラブルを未然に防ぐ意図があると考えられます。
因みに、離婚後の共同親権を認めている国でも、その内容は大きく異なっているようです。例えば、ドイツやフランスは裁判所の判断がない限り、共同親権が原則適用されます。スペインでは父母の協議によって、単独親権の選択も可能です。インドネシアでは共同親権は認められているものの、行使するのは稀とされていました。
そのため、日本で共同親権が認められたとしても、共同親権の内容でトラブルが発生する可能性があります。
日本の社会的な背景が変化したため
日本が単独親権のみを認めてきた背景には、今まで離婚件数が少なかったことが大きく関わっているとも考えられます。
例えば、厚生労働省の調査によると、1990年の離婚件数は15万件ほどだったのに対して、2000年から2010年までは平均25万件まで離婚件数が増えています。そして、夫婦の離婚件数が増えれば、子供の親権問題も年々増加していると考えていいでしょう。
参考:厚生労働省 離婚に関する統計
また、夫婦の在り方や、育児に対する向き合い方も変化してきているのも要因の1つと考えられます。以前の日本では夫が働き、妻が子育てする分担体制が一般的とされていました。しかし、現在は夫婦共働きが当たり前になってきています。内閣府の男女共同参加局が2022年に公開したデータでは、共働き世帯は2000年から2021年にかけて1.5倍近く増加していました。対して、分担制の世帯は半分近く減少しています。
参考:法務省 父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果の概要
共働き世帯が増え、家事、育児も夫婦間で分担すべきという考えが広まったことで、以前に比べて父母一緒に子供と関わる機会が増えたのでしょう。そのため、離婚後であっても、両親で子育てを行うべきという考えも強まったと考えられます。
つまり、日本が共同親権を認めた背景には、社会の変化によって親権に関する問題が浮き彫りになってきたのも1つの要因とも解釈できます。
参考:法務省 父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果の概要
国際結婚での子どもの連れ去り問題を解決するため
共同親権が認められた2つ目の理由として、国際結婚における子供の連れ去り問題を解決する意図もあります。国際結婚の夫婦が離婚して、親権を争う際によく問題となるのが、両国の法律の違いです。
例えば、外国人の夫と、日本人の妻が離婚したとします。その後、日本人の親が子供を日本に連れ帰ることで、外国人である親は子供に会えなくなるケースが多くありました。この対処法として、日本は2014年にハーグ条約を締結します。ハーグ条約は国境を越えて連れ去られた子供を、元の居住地へ返還させるための条約です。これにより、連れ去られた側の親が、連れ去った親の国へ返還請求を求めることができます。日本では東京家庭裁判所もしくは大阪家庭裁判所に、子供の返還請求を行うことが可能です。
しかし、条約締結後も日本においては、ハーグ条約に基づく返還請求が、履行されないケースが多く見られました。2020年7月8日には、欧州議会本会議にて「子どもの連れ去り」是正を求める決議が、賛成多数で可決されています。それほど欧州では、日本人の親による子供の連れ去りが問題視されてきました。
参考:外務省欧州局政策課
理由としては、バーク条約に加盟している諸外国とは異なり、日本では単独親権しか認めてこなかったことが挙げられます。そして、日本の裁判所に訴える以上、日本での法律が有効となります。そのため、日本では共同親権を主張できず、親権を持たない親の返還が認められてこなかったのです。
そこで、バーク条約をスムーズに履行できるように、日本でも共同親権の導入が検討されるようになりました。共同親権が施行されれば、国際結婚であっても、両親が子供の養育へ携われるようになると期待されています。
共同親権によって得られるメリット
共同親権によって得られるメリットには、主に以下の3点が挙げられます。
- 養育費の未払いを回避しやすい
- 面会交流を実施しやすい
- 離婚問題を早く解決しやすい
順番に解説していきます。
養育費の未払いを回避しやすい
共同親権のメリット1つ目は、養育費の未払いが回避しやすくなることです。
まず、日本では養育費の未払い問題が「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」によると、母子家庭で養育費の取り決めを行なっているのが46.7%、父子家庭では28.3%となっています。
さらに、養育費を受け取っている世帯は、母子家庭で28.1%、父子家庭では8.7%ほどです。現状、養育費の取り決めを行なったのに支払われていない、もしくは徐々に養育費が支払われなくなった家庭が全体の7割以上を占めています。
参考:令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果の概要
養育費の未払いが多い要因としては、離婚後の子供との距離感が1つの要因として挙げられます。日本では単独親権しか認められていなかったため、離婚後に非親権者が子供と関わる機会が非常に少なくなっていました。
子供と会えない期間が長いほど親子としての自覚が薄れ、養育費の支払いに疑問を持つこともあるでしょう。しかし、共同親権であれば、離婚後であっても子供の養育に積極的に関わることが可能です。そのため、我が子への想いを維持しやすく、養育費の支払いにも前向きになれる可能性があります。
また、今回可決された民法改正では共同親権の他に、養育費の支払いに関する制度として「先取特権」と「法定養育費」が導入されました。
先取特権は、債務者の財産から優先して返済を受けられる権利です。そして、先取特権には、「担保物権」といって債権として強い保護が与えられています。そのため、今後は養育費の未払いに対して、訴訟や調停を行わずに「担保権の実行」として、相手の財産を差し押さえることが可能です。
法定養育費は、父母間の取り決めや調停・裁判がなくても、養育費を請求できる制度です。離婚の際に親権を決める必要はありますが、養育費や面会交流に関しては、決める必要はありません。そのため、離婚後に疎遠となり、養育費に関してしっかり取り決めが行われないケースもあります。そこで法定養育費を利用することで、取り決めがなくても最低限の養育費を相手に請求することが可能です。
ただ、養育費の担保権も、離婚協議書など養育費の取り決めを行なった書類がなければ認められません。前述したように、母子家庭は半数以上、父子家庭は7割以上が養育費の取り決めを行っていないのが現状です。そのため、全体の6割近くが先取特権の恩恵を受けられない状況にあります。
面会交流を実施しやすい
共同親権へ変更することで、面会交流を実施しやすくなる可能性もあります。
日本では養育費の未払いと同じく、面会交流の実施数が少ない点も問題視されてきました。例えば、離婚時に面会交流について取り決めている家庭も、母子家庭で30.3%、父子家庭では31.4%ほどです。また、世帯別の面会交流実施状況は以下の表の通りとなっています。
|
現在も面会交流を行っている
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過去に行ったことがある
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今まで行ったことがない
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不詳
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母子家庭
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30.2%
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20.9%
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45.3%
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3.7%
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父子家庭
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48.0%
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15.7%
|
31.6%
|
4.6%
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参考:令和3年度 全国ひとり親世帯等調査
表を見る限り、母子家庭に比べ、父子家庭は現在まで面会交流を行っているケースが多く見られました。しかし、2016年度の厚生労働省の調査によると、日本における母親側の親権獲得数は86.8%となっています。そのため、日本では非親権者が、子供と会わなくなるケースが圧倒的に多いと言えるでしょう。
また、面会交流の実施頻度に関しても、月2回以上行っているのは母子家庭では全体の14.0%、父子家庭では23.8%となっています。現状、子供との面会交流が十分に行われているとは言い難いです。
母子家庭が面会交流の取り決めを行わない理由として、最も多いのが「相手に関わり合いたくない」です。つまり、相手への嫌悪感など、親側の感情的な理由で面会交流は行われないケースが多いと言えます。また、親権と違い、面会交流の条件を定める決まりはないので、離婚後に面会交流について話し合うのは難しくなるでしょう。
しかし、共同親権は父母で親権を共有するため、面会交流の拒否はできなくなります。離婚した相手と会うのに複雑な感情を抱くのも理解できますが、子供にとって離婚した後でも父母は父母です。そのため、両親と定期的に会うことが、子供の成長へ良い影響をもたらす可能性があります。
また、昨今では祖父母も子供の養育に関わる機会が増えてきました。そのため、非親権者側の祖父母も面会交流を求めることが可能とする規定も追加されます。親権は子供を自分のものにする権利ではなく、子供の利益を追求するために親へ課された義務です。そのため、今回の共同親権導入は、子供の利益を最大限追求した結果と考えられます。
離婚問題を早く解決しやすい
共同親権が導入されることで、離婚問題を早期に解決できる可能性が上がるでしょう。
離婚問題には、親権、養育費、面会交流など、交渉すべき問題が多くあります。しかし、話し合いだけで解決するのは難しく、最終的に調停や裁判へもつれ込むケースもあるでしょう。特に、親権問題に関しては、単独親権のみ認められている日本では、親権争いが激化する可能性があります。親権を持てなかった親は、子どもの養育に関わることが難しくなるからです。
そして、前述した通り、日本では妻側の親権獲得数が86.8%にも昇ります。なぜなら、母親に比べ父親は子供と関わる機会が少ないからです。そのため、裁判になれば裁判所は父親側よりも、母親側が親権を持つ方が子供の利益になると判断するケースが多く見られます。そのため、話し合いで親権を決定しない限り、父側が親権を持つのは非常に難しいと言えるでしょう。
その点、共同親権ではあれば、離婚後であっても父母で親権が共有されます。そのため、離婚に関する話し合いが長引かず、早期に離婚問題を解決できる可能性が高くなるかもしれません。
共同親権によって懸念されるデメリット・リスク
共同親権が認められることで、養育費未払いや親権問題など、様々な問題が解決できる可能性が上がります。
しかし、共同親権によって懸念されるデメリット・リスクも複数あることも事実です。懸念されるデメリットとしては、主に以下の4点が挙げられます。
- モラハラやDVから逃げにくい
- 子どもの教育方針を決めるのに時間がかかる
- 子どもにかかる負担が増える
- 遠方への引越しができにくくなる
それぞれ詳しく解説していきます。
モラハラやDVから逃げにくい
まず、共同親権の認可によって特に懸念されているのが、DV・モラハラから逃げにくくなるというデメリットです。
仮に離婚相手がDV・モラハラの加害者だったとしても、共同で親権を持っている限り、子供の将来決定のために顔を合わせる必要があるかもしれません。引っ越しに関しても、相手方と話し合って決定する必要があるのです。つまり、共同親権が認められてしまうと、DV・モラハラ加害者と繋がりを切るのが難しくなり被害が継続する可能性があります。
それらのリスクを懸念して、「離婚後共同親権から子どもを守る実行委員会」が立ち上がり、共同親権の認可に反対していたこともありました。
参考:離婚後共同親権から子どもを守る実行委員会
一応、改正法案の要項では「DV・モラハラの事実が確認された場合は家庭裁判所は共同親権を認可しない」としています。しかし、DV・モラハラの事実を認定するのは、非常に難しいのが現状です。
例えば、身体的DVであれば、体に残った怪我の診断書を病院が出してくれれば、証拠として裁判に提供できます。しかし、精神的なDVは目に見える証拠が残りづらいため、認可されにくい傾向にあるのです。実際、メールやLINEなど文章に残っていれば簡単ですが、口頭でDVを受けて即座に証拠を残すのは難しいでしょう。
単独親権であれば、これらの苦痛から「子供を連れ逃げる」という選択ができましたが、共同親権ではそうもいきません。そのため、共同親権が認められることで、加害者の支配から逃げられなくなる可能性が高いと言えます。
子の進学や治療など大きな意思決定に時間がかかる可能性がある
共同親権では、子の進学や治療など意思決定までに時間がかかるという懸念点もあります。
例えば、父母で親権を共有していても、子供の身近で監護するのはどちらか決める必要があるでしょう。他にも、監護しない側は、子供との面会交流の頻度なども決めたいと考えるはずです。そのため、単独親権では考える必要がなかった問題とも、向き合う必要が発生します。
また、前述した通り共同親権であれば、離婚後も子供の転居、進学、医療について両親双方の協議が必要です。具体的には、子供が一人暮らしをしたい、歯列矯正したいと考えた時も、両親間での話し合いが必要になります。
ただ、離婚するような相手とは、方針が噛み合わない可能性が非常に高いと言えるでしょう。そのため、話し合いが長引き、意思決定に時間がかかってしまうことになります。
緊急の要件であれば、片方の親が単独で意思決定可能です。しかし、「緊急の要件」が具体的にどのような事態を指すのかは、まだ不透明なままとなっています。そのため、両親が「何をもって緊急の要件とするか?」で争いに発展する可能性も、否定できません。
子どもにかかる負担が増える
子供の方針決定が長引くと、子供への負担が大きくなる影響があります。
例えば、子供が大学へ入り、1人暮らしをしたいと考えた際も、離婚した父母同士での話し合いが必要です。そこで父母の話し合いが長引けば、子供は「父母から同意が得られるか」「自分のせいで会いたくない2人を引き合わせてしまった」と、不安を抱えてしまうかもしれません。
また、非親権者が遠方に住んでいる場合は、面会交流の度に長距離の移動が必要になります。貴重な休みを消費して、遠方へ赴くのは子供にとって大きなストレスになるでしょう。特に、受験期など大事な時期に面会交流をするのは、子供へ大きな負担になります。
子供の利益を追求するはずの共同親権が、むしろ子供に不利益をもたらす可能性もあるのです。
遠方への引越しができにくくなる
共同親権には、面会交流が実施されやすくなるメリットがあります。一方で、面会交流が子供や、親権者側の居住・移転の自由を阻害するというデメリットも否定できません。
面会交流が行われる際に、相手が遠方に住んでいた場合、遠距離の移動が必要になります。そうしたデメリットを避けるため、父母がなるべく近場で生活することを選択する可能性もあるでしょう。つまり、面会交流のために、居住先を制限されてしまうのです。
離婚するほどの相手とは、なるべく距離を置いて過ごしたいと考える方も多いでしょう。また、離婚と同時に子供と実家へ戻りたいと考える方もいるはずです。しかし、面会交流が原因で、遠方への引越しを選択しづらくなる可能性があります。
裁判所が共同親権を認めないケース|子どもの利益を害するとき
共同裁判が認可されれば、離婚について協議する際には、まず共同親権か単独親権かで争うことになるでしょう。そして、話し合い、調停でも決着がつかない場合は、裁判の判決によってどちらの制度を採用するかを決定します。
裁判所で共同親権が認められず、単独親権となるのは主に「共同親権が子供の利益を害する」と判断された場合です。子供の利益が害されると判断される要件としては、主に以下の3つが挙げられます。
- 父もしくは母が子どもを虐待している
- 配偶者に対してDVやモラハラを行っている
- 父母が共同して親権を行うことが困難
なお、親が子供に虐待があった場合は、民法第834条に基づいて親権喪失の審判まで下される場合もあります。また、配偶者に対して、DVやモラハラを行っていた事実が確認された場合も、共同親権は認められません。
他には、父母が共に子供の養育を行うのが、困難な状態は単独親権が認められます。具体的には、父母のどちらかが重大な病気を患っていると、養育を行うのが難しいと判断されるでしょう。また、子供が片親がいいと主張した場合も、単独親権が認められます。
このように、裁判所で共同親権を獲得するには、「子供に有益である」と認められなければいけません。
共同親権の具体例|重要な事項は両親の同意が必要
前述した通り、共同親権を獲得している父母は、子供の進路や治療に関して話し合い、同意する必要があります。しかし、緊急な行為、日常に関わる行為は、改正民法824条に基づき単独での行使が可能です。
とはいっても、「両親の合意が必要な事柄」とは、具体的に何を指すのかと疑問に思っている方もいるでしょう。そこで、共同親権を選んだ場合に、両親の合意が必要な事柄と、単独で決定可能な事柄を表にまとめました。
両親の合意が必要
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一方の親が判断可能
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進学先の選択、転校、宗教の選択
パスポートの取得、手術
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日々の服装、食事、習い事
買い物、緊急手術や入学手続きなど急迫の事情
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主に、受験や命に関わる受験など、子供の将来に関わる選択は、両親の同意が必要になります。一方で、日常的な行為や、緊急手術や入学手続きなど、即時性が求められる行為は一方の親の判断だけで行使可能です。
共同親権を獲得するためのポイント
ここからは、話し合いや調停・裁判で共同親権を獲得するために、重要なポイントを解説していきます。
まだ、共同親権実施前ではありますが、今後離婚を考えている方は、ぜひ頭に入れておいてください。共同親権を獲得するためのポイントは以下の4点です。
- 子どもを虐待してはいけない
- 配偶者にDVやモラハラをしてはいけない
- 配偶者とよく話し合い説得する
- 離婚弁護が得意な弁護士に相談する
それぞれ詳しく解説していきます。
子どもを虐待してはいけない
まず、子供を虐待すると、共同親権を獲得できる可能性は限りなく低くなります。当然ですが、子供の精神的・肉体的に不利益になる行為を行う人物は、親に相応しいと認められないからです。場合によっては共同親権どころか、親権を停止・喪失する可能性があるので注意してください。
子供への虐待と見做される行為は、主に以下の4つです。
まず、子供へ暴力を振るったり、食事を与えない、拘束して部屋に閉じ込めるなどは身体的虐待として見做されます。子供の性器を触ったり、性行為を強要した場合は、性的虐待に当たるでしょう。言葉によって子供を脅したり、子供の前で配偶者へ暴力を振るう行為は心理的虐待です。
他には、子供の心身の成長を妨げる行為である「ネグレクト」も虐待と見做されます。主に、著しい減食、長時間の放置、保護者としての監護を怠ると、ネグレクトと判断される可能性が高いです。
参考:虐待とは何か
配偶者にDVやモラハラをしてはいけない
子供への暴力はもってのほかですが、配偶者へのDV・モラハラも「親として相応しくない」と見做される行為です。また、相手側が慰謝料を請求してくれば、親権だけでなく慰謝料問題も含めて裁判で争うことになるでしょう。
DV・モラハラは配偶者を傷つけるだけでなく、子供の人格形成にも大きな影響を与える行為です。しかし、DV加害者側は「自分がDVを行っている」という自覚がないケースも少なくありません。なぜなら、DVと一口に言っても、身体的暴力、精神的暴力、経済的暴力、社会的能力、性的暴力と多岐に渡るからです。
そのため、DVを「身体的暴力のみ」と考えている方は、自身がDV・モラハラを行っていると自覚しにくいかもしれません。しかし、相手が「DV・モラハラを受けた」と主張し、証拠を提出してくればDV加害者に該当してしまいます。そのため、普段から自身の言動を見直し、DV・モラハラを行っていないか気をつけましょう。
配偶者とよく話し合い説得する
裁判や調停を行わなくても、父母間の話し合いで相手を説得できれば、共同親権を獲得できます。
むしろ、裁判離婚や調停では、第三者の意見が介入してくるので、共同親権を獲得する可能性が低くなるでしょう。そのため、裁判や調停に進展する前に、話し合いで配偶者を説得する方が、共同親権を獲得できる可能性が高いです。
また裁判は基本的に父母双方の意見ではなく、裁判官の判決によって決着します。そのため、本人が望んだ結果が得にくいと言えるでしょう。また、裁判には多額の費用や多くの手続きを要するため、両者ともに疲弊してしまいます。そのため、話し合いでの決着が、コストで考えれば最善と言えるでしょう。
離婚するほどの相手を目の前にすると感情的になってしまい、冷静に話し合うのが難しいと感じる方もいるかもしれません。しかし、両者が腰を据えて話し合えれば、問題の早期決着にも繋がります。
離婚弁護が得意な弁護士に相談する
共同親権を獲得する確率を上げるために、離婚弁護が得意な弁護士へ相談するのもひとつの手です。
注意点としては、共同親権導入前であるため、離婚弁護に強いから共同親権を得やすいとは限りません。今までの離婚問題とは違い、「親権をどちらが獲得するか」ではなく、「共同親権か単独親権か」が争点になるからです。そのため、単独親権の弁護が得意だった弁護士が、共同親権でも同じように能力を発揮できるとは言い切れません。
しかし、離婚問題を経て培った知識や経験を活かして、共同親権獲得へ向けたアドバイスをしてくれる可能性は高いです。例えば、何が証拠として有効なのか、DVやモラハラのラインは一般人では判断しにくいでしょう。その点、弁護士がいれば、裁判において有効になる証拠について、適切なアドバイスがもらえるでしょう。
なお、DV・モラハラなど自身に不都合な事実があった場合でも、隠さず弁護士に話しましょう。裁判が進行した後に不利な事実が発覚すると、一気に不利な状況に陥る可能性があるからです。むしろ、事前に不利な事情を話しておくことで、それに合わせた対策を練ってくれる可能性があります。
共同親権が取れなかったら|面会交流の内容を充実させる
仮に裁判を起こしても、共同親権が獲得できない可能性があります。その際は、面会交流を充実させ、子供との関わりを安定的に保てるよう尽力しましょう。子供にとっては、離婚したとしても父母であることに変わりはありません。そのため、特別な事情がない限り、定期的な両親との交流が、子供の精神的に良い影響を与える可能性があります。
しかし、離婚時に取り決めを行っていないと、単独親権では面会交流を行うのは難しくなってしまうでしょう。前述した通り、日本における面会交流が現在も行われている世帯の割合は、母子家庭30.2%、父子家庭は48.0%ほどとなっています。これは、日本が単独親権のみを採用してきたことも大きく影響しているでしょう。むしろ、共同親権が採用されることで、単独親権は「面会交流を行わなくても良い方法」と認識する人もいるかもしれません。
仮に、DV・モラハラ等の事実がなくても、単独親権が採用される可能性はあります。例えば、一方の親が子供の進路決定に参加できる確率が低いと判断されれば、単独親権が認められるでしょう。その場合、子供に何の不利益がなくても、面会交流が行われなくなる可能性も否定できません。
そのため、共同親権を獲得できなかった場合は、面会交流に関する取り決めを行っておく必要があります。また、面会交流に関する話し合いの内容は、公正証書などに残しておきましょう。
公正証書は公証人(法律の専門家)立ち合いの元作成される文章で、法的に強い証明力を有しています。そのため、後で話し合いの内容を巡って争わずに済むかもしれません。面会交流調停を行うことになった場合でも、有効な証拠として機能するでしょう。公正証書の作成は弁護士にも依頼できるので、話し合いの段階から介入してもらうのがおすすめです。
まとめ
共同親権が施行されれば、養育費未払いや面会交流など、さまざまな離婚問題を早期解決に導けるかもしれません。一方で、モラハラやDVから逃げにくくなったり、子供への負担が増えるなどのリスクも懸念されています。
一応、家庭裁判所が、DV・モラハラなど「共同親権が子供の利益にならない」と判断した場合は、共同親権は認められません。しかし、物的証拠がなければ、DV・モラハラと認められない可能性は高いです。
ただ、親権獲得のために必要な証拠を揃えるのは、一般の方には難しいでしょう。そのため、親権問題を争う際には、弁護士に相談するのをおすすめします。
共同親権に関するよくある質問
再婚した場合、共同親権はどうなりますか?
片親が再婚し、
子供が養子縁組をした場合は、再婚相手と再婚した親が親権を獲得します。
ただし、養子になる子供が15歳未満の場合は、共同親権を持つ父母双方の同意が必要になります。つまり、元配偶者の許可なしに、再婚相手の養子縁組を行うことはできません。
仮に、一方から許可が得られない場合は、家庭裁判所に申し立てましょう。調停を行うことで、「父または母の一方の承諾」で養子縁組ができる許可を得られる可能性があります。
なお、再婚相手が養子縁組をした場合でも、面会交流の拒否や中止は行えません。なぜなら、法律上の親子関係は、離婚後も変わらないからです。そのため、面会交流の取り決めをしている場合は、養子縁組が理由の面会交流拒否は認められません。
共同親権を得た場合、子どもは片親と暮らすことになりますか?
共同親権を獲得した場合でも、離婚後に子供と同居できる親は基本的に1人だけです。
理由としては、離婚した父母が同居するのが難しい点が挙げられます。「離婚したい」と考えるような相手と、離婚後も一緒にいるのは相当なストレスになるでしょう。そうした家庭内の険悪なムードが、子供へ大きな負担になる可能性があります。
それでも、子供と会う機会が減ることを考えた場合に、別居するのを躊躇ってしまう方もいるかもしれません。しかし、単独親権に比べ、共同親権を獲得した際の方が面会交流はしやすくなります。そのため、子供と会う機会がなくなるといった可能性は低いでしょう。
子供と会う機会が減ったとしても、子供へ与える影響を考えれば、別居を選択するのが得策でしょう。
共同親権が施行されるまで離婚を先延ばしにした方がいいですか?
共同親権施行前でも、
離婚を先延ばしにする必要はありません。
施行前に離婚していた父母だったとしても、離婚後に協議や調停・裁判を行えば共同親権に変更可能です。もちろん、手続きを減らすために、施行後に離婚する選択も1つの手段です。ただし、DV・モラハラなど、不利な事情が既にある場合は、施行後に離婚しても共同親権獲得の見込みがありません。
むしろ、離婚を先延ばしにした場合は、施行までに配偶者との関係が更に悪化している可能性もあります。その場合は、相手と単独親権と共同親権、どちらを獲得するか争うことになるでしょう。そのため、離婚を先延ばしにした方が、共同親権を獲得できないリスクが上がるかもしれません。
なお、共同親権を得る確率を上げるには、施行まで元配偶者との良好な関係を維持する必要があります。例えば、養育費の支払いが滞っていると、相手側の心象が悪くなるため、協議で共同親権に合意してもらうのは難しいでしょう。調停・裁判を行うのはコストがかかるので、なるべく話し合いで解決できるようにするのがおすすめです。
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