離婚後に親権を取り戻す条件は、親権者変更調停で認められること
離婚後に親権者が決まっていても、「今の親権者は子どもを育てるのに不適格ではないか」と思われる場合が存在します。
例えば親権者が子どもへ育児放棄や虐待などを行う、子育てできる環境ではなくなったといったケースだと、親権者がそのままでは子どもの福祉を害するでしょう。こうした事態に対応できるよう、離婚後の親権変更が認められています。
ただし、親同士の話し合いによる合意だけでは親権者変更ができません。ただでさえ離婚で子どもの環境が激変している中で、親権者が簡単に変更できてしまうと、子どもへさらなる混乱と負担を与えてしまうからです。また、調査や審理なしで適格な親権者から不適格な親権者へ変更されてしまうと、子どもの福祉が脅かされるリスクがあります。
そのため親権者を変更するには、家庭裁判所にて「親権者変更調停」を申し立てる必要があります。
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
(中略)
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
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親権者変更調停とは、第三者である裁判官や調停委員が間に入り、当事者同士が親権の行方を家庭裁判所にて話し合う制度です。調停はあくまで話し合いによる、円満な合意を目指します。
たとえ離婚時の協議で「子どもが15歳になったら親権者を変更する」と約束していたとしても、親権者変更調停を経ずに親権者を変えることはできません。
もし親権者変更調停で双方の合意が得られない場合は、家庭裁判所の裁判官に判断を委ねる親権者変更審判が行われます。家庭裁判所調査官の調査結果や調停の内容などを基に、父母どちらに親権を与えるかを裁判官が決定します。
親権者をどちらにするかの判断で考慮される要素は次の通りです。
- 親の監護に対する意欲
- 監護する能力
- 子どもの気持ち
- 子どもの養育環境の継続性
- 子どもの性別(女の子が思春期に近いなら母親など)
- 子どもの年齢(子どもが幼いと母親有利の傾向あり)
経済状況に関しては、「経済状況が厳しい親権者をもう片方が養育費で支援すべし」との考え方から、親権者変更においてそこまで影響を及ぼさないと言われています。
離婚後に親権を取り戻せる可能性が高いケース
親権者変更調停で合意を得るのは簡単ではありません。しかし、現在の親権者に不適格な部分が見られる、親権を放棄せざるを得ない理由があるといった場合は、離婚後に親権を取り戻せる可能性があります。
離婚後に親権を取り戻せる可能性が高いケースは次の通りです。
- 親権者が虐待や育児放棄をしている場合
- 親権者が大病・死亡・行方不明の場合
- 15歳以上の子どもが親権者変更を希望している場合
- 養育状況が大きく変化した場合
それぞれの詳細を見ていきましょう。
なお上記に該当しない場合でも、子どもの利益を考えたときに親権者変更をすべきだと判断されたときは、変更が認められる可能性があります。
親権者が虐待や育児放棄をしている場合
現在の親権者が子どもに対して虐待や育児放棄(食費を与えないといったネグレクト)をしている場合は、子どもの生死にかかわる危険性を考慮し、親権者変更が認められる可能性が高くなります。
親権者の虐待や育児放棄を証明できる証拠の例は、次の通りです。
- 児童相談所の担当職員の意見や報告書
- 虐待による子どものケガの写真
- 親権者による子どもを放置した外泊などの証拠(子どもの証言など)
- 別途親権停止・親権喪失審判を申し立てた事実
また、こちら側も虐待や育児放棄の意思がないことを証明するためには、子どもの育児環境や経済状況に問題がないことも大切です。
親権者が大病・死亡・行方不明の場合
親権者が精神疾患やその他大病で子どもを育てるのが難しくなったときは、親権者変更が認められる可能性があります。
親権者が死亡または行方不明となった場合も、親権者変更が認められる可能性が高くなります。しかし、親権者が死亡・行方不明となったとしても、直ちにもう片方の親へ親権が与えられるわけではありません。
親権者が死亡・行方不明となったときは、「未成年後見人」の手続きが行われ、未成年後見人として選任された人が親権者と同じ権利義務を持ちます。
第八百三十八条 後見は、次に掲げる場合に開始する。
一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
二 後見開始の審判があったとき。
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未成年後見人とは、親権者と同じ権利義務を持つ未成年者の法定代理人として、未成年の子どもの監護教育、財産管理、契約などの法律行為を行う者です。
死亡や行方不明などで親権を持つ者がいなくなったときに、意思能力がある未成年者本人、未成年者の親族、その他利害関係人のいずれかに該当する方が家庭裁判所に申し立てた後、家庭裁判所が選任します。親権者の遺言で未成年後見人が指定されているときは、原則として遺言にしたがって未成年後見人が決定されます。
(未成年後見人の指定)
第八百三十九条 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。
2 親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。
(未成年後見人の選任)
第八百四十条 前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。
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ただし、以下に該当する方は未成年後見人になれません。
- 未成年者
- 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人、補助人
- 破産者で復権していない者
- 未成年者に対して訴訟をするまたはした者、その配偶者、その直径血族(祖父母や叔父叔母など)
- 行方の知れない者
未成年後見人と親権を持たない親のどちらに親権が与えられるかは、子どもと親の関係、財政状況、生活環境といった子どもの利益になるかを基準に決定されます。未成年後見人が選任された後に親権を取り戻すには、親権者変更調停の申し立てが必要です。
15歳以上の子どもが親権者変更を希望している場合
15歳以上の子どもが親権者変更を希望する場合は、親権者変更が認められる可能性が高くなります。15歳以上の子どもは判断能力があると認められ、子どもの福祉や利益の観点から意見が尊重されるからです。子ども自身が陳述書を提出したり、親権者変更調停へ出頭したりも可能となります。
2023年4月1日からは改正家事事件手続法によって、親権に関する指定や変更の審判は、15歳以上の子どもの意見を必ず聞くことと定められています。このように、親権に関する決定において子どもの意見は非常に大きな影響を及ぼすのです。
(陳述の聴取)
第百五十二条 家庭裁判所は、夫婦財産契約による財産の管理者の変更等の審判をする場合には、夫及び妻(申立人を除く。)の陳述を聴かなければならない。
2 家庭裁判所は、子の監護に関する処分の審判(子の監護に要する費用の分担に関する処分の審判を除く。)をする場合には、第六十八条の規定により当事者の陳述を聴くほか、子(十五歳以上のものに限る。)の陳述を聴かなければならない。
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15歳未満の子どもの意見は、親権に関する判断能力や状況判断能力が不足しているとして、15歳以上の子どもほど反映されるケースは少なくなるでしょう。しかし10歳前後の子どもならある程度判断能力があるものとして、意見・意向が尊重される傾向が見られます。
なお、子どもが成人になった時点で親権は消滅します。2022年4月より成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことから、子どもの希望に関係なく子どもが18歳になれば親権変更は不要になります。
養育状況が大きく変化した場合
親権者の養育環境が親権を与えられたときより大きく変化し、子どもの福祉が害されていると判断されたときは、親権者変更が認められる可能性があります。
親権者変更が認められる養育状況変化の例は次の通りです。
- 親権者の監護へ意欲が著しく低下している
- 親権者が海外転勤となった
- 親権者が転職によって多忙となり、子どもの世話が十分にできていない
- 親権者の再婚相手が子どもの福祉を脅かしている(虐待など)
ただし養育状況が大きく変化しても、子どもに悪影響を及ぼさないときは変更されない可能性が高くなります。
離婚後に親権を取り戻すことが困難なケース
「現在の親権者が子どもの福祉に悪影響を与えていない」「親権者を変更したほうが子どもにとって不利益である」と判断されるケースでは、離婚後に親権を取り戻すことは難しいでしょう。
以下では離婚後に親権を取り戻すことが困難なケースとして、以下2つのケースを解説します。
- 親権者が再婚した場合
- 面会交流を拒まれることが理由で親権を取り戻したい場合
親権者が再婚した場合
親権は子どもに関する重要な権利義務であるため、やむを得ない事情を除き、親権者が望んで自分から放棄することはできません。必ず親権者変更調停や審判を行い、その結果をもって親権の是非が判断されます。
例えば親権者側が「子どもが再婚の障害になっているから、親権を放棄したい」「子育てに自信がない」と主張したとしても、手続きなしで一方的に親権を放棄することはできません。
つまり相手が親権を放棄しようと考えても、相手のほうが親権者にふさわしいと判断されたら、こちら側が親権を得ることは難しいでしょう。
また、親権者が再婚に際して、子どもと再婚相手を養子縁組としたときは、親権を持たない親による親権変更調停の申し立て自体ができなくなります。親権者変更自体が単独親権を前提とした制度であり、再婚相手と元配偶者との共同親権になると、制度の適用が不可能になるからです。
とはいえ、「再婚相手が子どもに虐待やネグレクトをしているのに、実親として何もできない」といったケースにならないよう、親権停止や親権喪失の審判の申し立ては認められています。
→裁判所「親権停止審判・親権喪失審判」
面会交流が守られないため親権者を変更するケース
面会交流とは、離婚などによって子どもと離れて暮らす監護権を持たない親が、定期的かつ継続的に子どもと交流することを認める制度です。
原則として、親の意思だけで面会交流は拒否できません。面会交流は両親ではなく子どもの権利と解されるので、理由のない拒否は子どもの利益を損なうと判断されます。しかし、中にはそれでも面会交流を拒否するケースが存在します。
正当な理由なく面会交流を拒否した側の親は、裁判所からの履行勧告、拒否された側からの間接強制や慰謝料の請求といったリスクを負うことになるでしょう。それでも親権に関する問題は別であり、面会交流の拒否を理由に親権者変更が認められるケースは非常に少ないのが現実です。
ただし、相手が面会交流を拒否する理由が「子どもへの暴力を隠すため」といった悪質なものだったときは、親権者変更が認められる可能性があります。
親権獲得が難しい場合は監護権や面会交流権を主張
親権者変更調停・審判を経て合意や判決を得られなければ、親権を取り戻すことはできません。しかし、「親権はいらないから子どもと暮らしたい」「一緒に暮らせなくても、定期的に合う回数を増やしたい」といった人は、監護権や面会交流権を主張することで希望が叶う可能性があります。
監護権の獲得を目指すケース
監護権とは、子どもの監護・教育の実施や子どもの財産管理を行う権利義務です。「子どもと一緒に暮らして身の回りの世話をする権利義務」というイメージになります。
監護権は親権の一種です。しかし、親権と監護権は切り離して別々に分けられます。例えば「親権者が海外転勤になって子どもを育てるのが難しいので、もう一方の親に監護権を渡す」といったケースが挙げられます。
監護権者は親権者変更と異なり、当事者同士の話し合いのみで決定することが可能です。話し合いで合意に至れば、家庭裁判所での手続きなしで監護権を得られます。市区町村への届出なども必要ありません。一緒に暮らすことが目的なら、監護権だけを主張したほうが時間・労力をかけずに目的を達成できるでしょう。
2014年12月4日の福岡家裁の審判では、面会交流を拒否していた母親側に対し、「母親の親権者とした前提が崩れており、スムーズに面会交流によって子どもの福祉に叶うには、親権者変更を行うしかない」と決定しています。とはいえ父親側が全面的に権利を得たわけではなく、親権は父親、監護権は母親として、双方が子どもを育てることが有益であると判断されました。
ただし話し合いで決まらないときは、親権者変更と同じように子の監護者の指定調停・審判にて決定します。監護実績、監護能力、構築した生活環境、子どもへ注いだ愛情などの親側の事情や、子どもの意思、年齢、性別、就学の有無など子どもの事情を考慮して決められます。
→裁判所「子の監護者の指定調停」
有利な条件で面会交流権獲得を目指すケース
親権および監護権を得られずとも、子どもとの定期的かつ継続的な交流を求めるだけなら、こちら側に有利な条件での面会交流権獲得を目指す方法があります。
毎日会うのは難しいとしても、「月に1回以上は必ず交流する」「こちら側の祖父母とも会えるようにする」といった条件を設定することは可能です。一度決定した面会交流の内容は原則として拒否できないので、親権者側の違法行為を恐れずに拒否しない限りは、子どもとの交流を続けられるでしょう。
面会交流の内容は監護権と同じく話し合いのみで決定でき、まとまらないときは面会交流調停・審判で決定する流れになります。
なお面会交流権を得ても、子どもが面会を望んでいない場合や、こちら側が面会交流者として不適格(暴力行為や連れ去りの恐れがある)と判断された場合は、面会交流が正当に拒否される可能性があります。あくまで面会交流は親のためではなく、「子どもの健全な成長のために必要なもの」であると忘れないようにしてください。
→裁判所「面会交流調停」
離婚後に子どもの親権を取り戻す手続きの流れ
離婚後に子どもの親権を取り戻す手続きは、以下の流れに沿って進みます。
家庭裁判所へ親権者変更調停の申し立てを行う |
必要書類や準備し親権者住所地の管轄家庭裁判所で手続きする |
調停委員を仲介して双方の意見を出し合う |
第1回期日から1~2ヶ月間隔で話し合いを進める |
裁判官から調停案の提示を受ける |
調停に合意する否かを決定する |
同意した場合は親権者変更が適切かの審査に移る |
作成された調停調書を基に変更手続きを進める |
不同意の場合は親権者変更審判へ移る |
家庭裁判所の裁判官が親権者を決定する |
親権者の変更が決まったら10日以内に役場へ届出する |
管轄の役場へ親権変更の届出を提出する |
親権者変更が完了するまでには数ヶ月、長いと半年~1年以上かかる可能性があります。スムーズに進めるには、必要書類や主張・根拠を事前に準備しておく、弁護士に依頼するなどの方法を推奨します。
1.家庭裁判所へ親権者変更調停の申し立てを行う
親権者変更調停は、現在の親権者の住所地を管轄する家庭裁判所にて申し立てます。双方の合意があれば、他の家庭裁判所へ変更できます。
申し立てに必要なものは次の通りです。
上記の他にも、連絡先等の届出書や進行に関する照会回答書などの提出を求められる場合があります。
子ども1人の親権者変更調停にかかる費用は、おおよそ3,000円です。弁護士に依頼しないときは、必要書類の作成や家庭裁判所での手続きを自分だけで行う必要があります。
書類作成や手続きの代行、および親権者変更調停に関するサポートを弁護士に依頼する場合は、弁護士費用60万~80万円が別途かかります。とはいえ家庭裁判所関係の手続きの代行、調停への代理出席、その他親権者変更調停に関するさまざまなアドバイス・サポートを任せられるので、強い意思を持って親権者変更を望むときは、弁護士への依頼がおすすめです。
2.調停委員を仲介して双方の意見を出し合う
家庭裁判所への申し立てが終わった後、親権者変更調停の日程が決まったら家庭裁判所にて第1回期日が行われます。
原則として、調停は本人出頭主義です。ただし、やむを得ない事情があるときは代理人として弁護士のみの出廷が認められます。また、当事者が遠方に住んでいるなどで出頭が困難なときは、テレビ会議システムを使っての調停参加が可能です。調停成立時には、代理人のみの出席は認められず本人が必ず出頭します。
調停では、申立人と相手がそれぞれ個別に調停委員と話し合い、調停委員が仲介して主張や資料を出し合う形になります。申立人とその相手が直接顔を合わせて進めることはありません。15歳以上の子どもの親権を争うときは、必ずその子どもの意見を参考にします。
調停委員は双方の意見や資料を基に、調停進行の調整やアドバイス、親権獲得が難しいと思われる側の説得などを行います。ただし調停委員は有識者ではあるものの法律の専門家ではないので、話を鵜呑みにしすぎないよう注意が必要です。また、必要に応じて家庭裁判所調査官の調査が行われます。
調停にかかる時間は、1回2時間程度です。第1回期日で合意に至らないときは、次の期日が設定されます。第1回期日からは、約1〜2ヶ月の間隔で期日が指定されます。
3.裁判官からの調停案の提示を受ける
調停で行われた話し合いや家庭裁判所調査官の調査結果を基に、裁判官から調停案が掲示されます。調停案の内容の合意・不合意や、次回期日までの保留などを決めましょう。当事者双方が合意して調停成立になる、または調停が不成立になると、調停が終了します。
4.同意した場合は親権者変更が適切かの審査に移る
親権者変更調停では、当事者双方が調停に合意した後にあらためて家庭裁判所が審査を行います。その審査に問題がなければ、親権者変更が認められる権利の獲得が可能です。
調停成立後は、裁判の判決文と同じ効力を持つ「調停調書」が作成されます。
5.不同意の場合は親権者変更審判へ移る
調停案が双方不同意となり調停不成立となったときは、自動的に親権者変更審判に移行します。親権者変更審判では、これまでの調停の内容を基に、家庭裁判所の裁判官が親権についての判断を下します。
審判結果に不満がある人は2週間位内に不服申し立てを行い、高等裁判所の判断を仰ぐこともできます。ケースによっては調停・審判では決着がつかず、民事裁判に移行することも考えられるでしょう。
民事裁判では判例が少ないとはいえ、母親有利の原則がある中で父親に権利が認められた判決があります。
2009年4月28日東京地裁にて、妻が夫以外の男性と交際、実母が入院中で看病に追われているにもかかわらず資格学校へ通学、家事の怠慢、精神的不安定になった子どもに関するカウンセラーからの求めの拒否、夫に黙って子どもの連れ去りなどの行為を積み重ねた結果、母親有利の親権において父親が監護権者として適切だと判決が下りました。
上記のように、不貞行為や子どもの連れ去りなどが原因で母親側が不適格だと判断されたときは、父親側の権利が認められるケースがあります。とはいえ、裁判で父親側の親権が認められるケースは極稀であるのが現状です。
6.親権者の変更が決まったら10日以内に役場へ届け出する
親権者の変更が確定したら、親権者になる者が子どもの本籍地または届出人の所在地の市区町村役所へ、親権者変更の届出を行います。期限は調停成立または審判確定の日から10日以内です。
届出時には、調停調書謄本やその他の書類の提出が求められる可能性があります。何が必要になるかは、事前に役所へ問い合わせて確認しておくとよいでしょう。
もし届出が遅れたら、戸籍法第137条に基づき5万円以下の過料が課せられます。
親権を取り戻す際に判断基準となるポイント
相手から親権を取り戻すには、何の理由や戦略も洗い出さずに親権者変更調停を申し立てるだけでは困難です。以下に示した親権を取り戻す際に判断基準となるポイントを押さえてください。
- 親権を取り戻したい・取り戻さなければならない具体的な理由
- 家庭裁判所が実施する調査への応対
順番に見ていきましょう。
親権を取り戻したい・取り戻さなければならない具体的な理由
親権者変更調停を申し立てる前に、「なぜ親権を取り戻すべきか、取り戻さなければならないのか」という具体的な理由を明確にしておきましょう。
親権者変更のハードルは高いことから、こちら側に親権変更の正当な理由や根拠がなければ、裁判官や調停委員を味方に付けられません。
例えば親権者側の不適格性を主張するなら、相手側の虐待の証拠、子どもの意思や状況、子どもへの愛情のなさなどの証拠を具体的に出します。またこちら側の適格性を証明する意味で、親権が移った後の生活環境、経済状況、子どもへの愛情の大きさなど、子どもの福祉が叶う環境が用意できると示すことが大切です。
具体的な理由や根拠を揃えたら、裁判官や調停委員に伝わりやすいような論理構成と資料も準備します。余計な主張や感情論が入ると説得力が薄れるので、必要な情報を端的に説明できるようにしておきましょう。
家庭裁判所が実施する調査への応対
家庭裁判所調査官が調査を実施するときは、調査への応対に対する準備を整えておきます。具体的にやるべきことは次の通りです。
- 調査対象となる親族や学校関係者などへ事前に事情を話しておく
- 家庭訪問前には部屋の整理整頓や掃除を済ませて調査官からの印象を下げない
- 求められた調査には積極的に協力する
家庭裁判所調査官は、子どもの性格、日頃の行動、生育歴、環境などについて、心理学や教育学などの専門知識を駆使して調査を実施します。
具体的には親・子どもへのヒアリング、家庭訪問、学校訪問などを通じてさまざまな環境・状況(生活、家庭、養育、監護者、監護補助者など)を調査し、親権者変更についての意見を提出します。
離婚後に親権を取り戻せた事例
親権者変更調停・審判や裁判にて、離婚後に親権者から親権を取り戻せた事例はこれまでいくつもあります。ほとんどのケースでは親権者側に重大な過失があり、子どもの福祉を害すると判断されて親権が変更されています。離婚後に親権を取り戻せた事例を、いくつか見ていきましょう。
なお、親権者の判断にはさまざまな背景が複雑に絡み合っていることから、似たような事例でも状況や裁判官の判断によって取り戻せないこともあります。
子どもの意思で親権者と離れたことで取り戻せた事例
子ども自身の意思で親権者から離れた後、もう片方の親と同居を始めたケースで親権者変更が認められた事例があります。子どもの希望が反映されたことに加え、現在の監護状況を尊重した形で親権変更が行われました。
またほかにも、子どもの意思が尊重された事例として2000年4月19日の大阪高裁の判決があります。この事件では離婚裁判で元妻が親権を得たものの、元夫が子どもの監護を継続していました。その後、元夫が親権者変更を申し立て、以下の判断基準を下に元夫への親権変更が認められています。
- 監護の違法性と子どもの福祉は分けて考えるべきと判断されている
- 子どもが親権者に監護されることを強く拒んでいた
親権者の判断を無視した違法な事例であるものの、最終的には子どもの意思と子どもの福祉が優先されています。
監護意思・能力に疑問がある相手から取り戻せた事例
2015年1月30日に福岡高裁にて、元妻から元夫へ親権者変更が行われた判決があります。判決に影響した事実関係は次の通りです。
- 離婚前、元妻は夜間アルバイトに行っている間などに、元夫も子ども(5歳と4歳)の世話に参加していた
- 元妻が親権を得たものの、元妻はアルバイト先の男性と不倫していた事実がある
- 元夫の母親が「元妻の生活が安定するまで子どもの世話をする」と元妻から了承を得ており、元夫も世話を継続していた
- 元妻は幼稚園での行事参加に消極的であり、保育料も支払っていない
- 元妻側に監護補助者がおらず、元妻側の監護環境に不安があった
上記の事実を考慮し、高裁では「元妻側の監護意思や監護適格を疑わせるものである」と判断されています。元夫側が監護に積極的であること、元妻が親権者としての責任を果たせていない部分があることなどが、判決に影響したと思われます。
また、本来だと不倫の事実は親権者変更に直接的な影響を及ぼしませんが、今回のケースだと過去の不貞行為の事実も、監護意思や適格性の嫌疑につながりました。とはいえ不貞行為が親権者変更の決め手になったわけではないので、あくまで総合的な判断が行われたと推測されます。
離婚後に親権を取り戻したいなら弁護士への依頼も検討
離婚後に親権を取り戻す可能性を上げたいときは、親権関係に強い弁護士に親権者変更調停のサポートを依頼することを検討してみてください。親権者変更調停を弁護士に依頼するメリットは次の通りです。
- 親権者変更調停・審判に関する手続きを一任できる
- 法的根拠に基づいた主張や根拠を出しやすくなる
- 過去の事例や経験に基づいて親権者変更調停を進めてくれる
- 調停への同席または代理出席してもらえる
- 裁判官や調停委員へ親権への本気度を伝えられる
- 調停委員の誤った解釈を訂正できる
仮に親権が取れなかったときも、監護権獲得や面会交流権の充実といった、子どもとの関係を適切に保つための方法について引き続き弁護士へ相談できます。親権者変更の難易度は高いことから、自分1人で親権者変更調停を進めるよりも、専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。
親権を取り戻す裁判での弁護士費用は約60~80万円
親権を取り戻す裁判での弁護士費用の目安は、約60万〜80万円と高額です。着手金だけで30万〜40万、親権を取り戻せたときの成功報酬が30万〜40万円程度となっています。弁護士事務所によっては、「監護権だけ争うなら減額」「財産関係も一緒に争うなら財産の20%分」といった報酬体系が設定されています。
多くの弁護士事務所では、初回30〜60分の無料相談を実施しているところも多いです。「自分の状況だと親権を取り返せる見込みがあるか」、「親権関係の事件の経験はどれくらいか」、「料金はいくらになるのか」などを、無料相談で事前に確認してみることをおすすめします。
まとめ
離婚後に親権者を変更するには、必ず親権者変更調停を家庭裁判所へ申し立てます。当事者同士の話し合いや、事前の約束などを根拠に親権を移すことはできません。
調停の申し立てや進行には時間や労力がかかるので、申し立てる前に「本当に親権を争うべきか」「親権を取り戻せる根拠はあるのか」といった部分を確認しておきましょう。親権を取り戻すのが難しい場合でも、監護権や面会交流権次第で子どもとの関係を適切に保つことができます。
親権者変更調停で親権を取り戻したい場合は、親権問題に強い弁護士への依頼も検討してみてください。親権問題に関する専門知識や実務経験などを駆使して、親権を取り戻すためのさまざまなサポートを実施してくれます。初回無料相談を受け付けている事務所も多いので、まずは気軽に相談してみてはいかがでしょうか。
親権の変更に関するよくある質問
不倫をした側ですが親権変更の申し立てはできますか?
不倫した側であっても、親権者変更調停の申し立ては可能です。不貞行為によって配偶者に与えた精神的負担などは、親権問題とは切り離して考えるからです。あくまで親権は、「子どもにとって利益」を最優先で考慮されます。
ただし、「不倫にかまけて子どもに愛情を注いでいなかった」「不倫で子どもとの関係が悪化し、子どもから一緒に暮らすことを拒否されている」といったケースでは、不倫が親権者調停にて間接的に不利に働く可能性があります。
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