離婚後も元夫の苗字でいることは可能
離婚した後も旧姓に戻さず、これまで使っていた元夫の苗字を名乗ることは可能です。そのためには、婚氏続称届を提出する必要があります。ただし、引き取った子どもに関しては、とくに手続きをしなければ戸籍や苗字は変わりません。
婚氏続称届の詳しい内容や、子供の戸籍と苗字が変わらない理由などについて説明します。
婚氏続称届を提出すれば苗字は変わらない
婚姻時に相手の苗字へ変えた場合、離婚をすれば民法上の「原則復氏」のルールに則り自動的に旧姓に戻ります。しかし、苗字が変わることで周囲に離婚を知られたくない、子供の苗字を変えたくないなど様々な理由で元夫の姓を使い続けたい人もいるでしょう。
婚氏続称届を提出すれば、離婚をしても苗字は変わりません。ただし、離婚日の翌日から3カ月以内に届け出ないといけないことに注意が必要です。
離婚後も子どもの戸籍や苗字は変わらない
両親が離婚しても、親子関係が解消されるわけではありません。そのため、母親が親権を持っていても子どもの戸籍は元夫の所にあり、苗字もそのままです。
母親が親権者になり、自分の戸籍に子どもを移したい場合は「子の氏の変更許可」を家庭裁判所に申し立てます。申し立てが通れば、子どもは母親の戸籍に移り母親と同じ苗字を名乗ることになります。ただし、母親が実家の戸籍に戻っている場合は子どもをその戸籍へ入れられません。母親が新たに作った自分だけの戸籍を用意する必要があります。
離婚後に苗字を変えない4つのメリット
母親が離婚後も同じ苗字を使い続けると、どのようなメリットがあるのでしょうか。主なものには、以下の4つが挙げられます。
- 子どもが今までの苗字を使い続けられる
- 職場などで同じ苗字を使い続けられる
- 周囲に結婚したことを知らせずに済む
- 名義変更をせずに済む
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
1.子どもが今までの苗字を使い続けられる
離婚後に母親が旧姓に戻っていると、子どもの戸籍を母親に移した際に苗字が変わります。子どもの苗字が変わることで、学校で友達から余計な詮索をされるなど子どもが傷つく可能性もあるかもしれません。
また子どもの戸籍を移さなければ苗字はそのままですが、そうすると共に暮らす母親と子どもの苗字が異なり、各種手続き上で手間や不都合が生じることもあります。離婚後も母親が婚姻時の苗字を使い続ければ、子どもへの影響が最小限に抑えられます。
2.職場などで同じ苗字を使い続けられる
職場などで定着した婚姻時の苗字が離婚後に変わると、名刺の刷り直しや社内外への報告など様々な面倒が発生します。せっかく覚えてもらった名前をまた覚えなおしてもらわないといけないなど、仕事面で多少の支障が出るでしょう。
また、婚姻中の姓で学術界やメディアなどで活躍している場合は、姓が変わるとこれまでの実績を失いかねないなどさらに面倒な事態に発展するかもしれません。旧姓に戻さずこれまで通りの苗字でいれば、それらの面倒事を避けられます。
3.周囲に離婚したことを知らせずに済む
離婚はデリケートな問題です。そのため周囲にあまり知られたくないという人もいるでしょう。しかし苗字が変われば、必然的に離婚したことが知られてしまいます。周囲の人から噂話をされたり、詮索されるのは気分の良いものではありません。
苗字が変わらなければ名前からバレることはなく、知らせたい人にだけ離婚を知らせることが可能です。
4.名義変更をせずに済む
クレジットカードやマイナンバーカード、銀行口座、運転免許証など、名前が変わると名義変更が必要になるものは数多くあります。仕事や家のこと、子どものケアなどで慌ただしく過ごす中、それぞれの名義変更手続きを行うのは大変です。
しかし、苗字に変更がなければ名義変更をする必要はありません。手続きの手間と時間を省略できるのは、大きなメリットと言えます。
離婚後に苗字を変えない3つのデメリット
メリットがある一方で、苗字を変えないことによるデメリットもあります。主なデメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 旧姓に戻るのが難しくなる
- 離婚後のけじめをつけられない
- 元夫から旧姓に戻るよう言われる場合がある
なぜこれらのデメリットが生じるのかを、詳しく説明しましょう。
1.旧姓に戻るのが難しくなる
一旦婚氏続称の手続きを行うと、その後旧姓に戻したくなっても簡単には戻せなくなってしまいます。離婚や結婚のタイミング以外で苗字を変更するには、「氏の変更許可」を家庭裁判所に申し立てないといけません。
ただし、変更が認められるのは「やむを得ない事情がある場合」のみです。やむを得ない事情とは「氏の変更をしないと社会生活において著しく支障を来す場合」で、例えば長年通称としてその姓で生活していたケースや、周囲に同姓同名の人が存在するため混同される場合などが該当します。さらに証拠として、通称で生活している証明となる郵便物や周囲の人物の陳述書などを揃えないといけません。
簡単には認められないため、手続きには多くの労力を要するでしょう。詳しい手続き方法は、後述の「旧姓に戻すためには手続きが必要」で解説します。
2.離婚後のけじめをつけられない
離婚後も元夫と同じ苗字を名乗っていると、離婚をした実感がわかず、けじめがつきにくいといったデメリットがあります。ふとした拍子に元夫のことを思い出すなど、気持ちの整理をつけにくくなるかもしれません。
離婚理由によっては、元夫のことを思い出したくない人もいるでしょう。また、新たなパートナーができた場合に、パートナーへの配慮が必要になる可能性もあります。
3.元夫から旧姓に戻るよういわれる場合がある
婚姻時の姓を名乗るのに、元夫に許可を取る必要はありません。しかし、離婚したにもかかわらず元の姓を名乗り続けていることに対して、元夫やその親族から不快感を示される場合があります。その場合、元夫側へ気を使いながら苗字を使用することになるでしょう。
旧姓への変更を促された場合は、前述したように変更手続きに多大な労力が必要になります。可能であれば、元夫と離婚後も苗字を変えない旨について話し合っておくと良いでしょう。
離婚後に苗字を変えない理由
離婚後に苗字を変えない選択をするのには、どんな理由があるのでしょうか。主な理由としては、子どもに極力影響を与えたくない、各種名義変更の手続を避けたいなどが挙げられます。
子どもに悪影響を与えたくない
子どもがいる場合は、離婚が子どもに与える影響を心配する人が多いでしょう。両親の離婚で子どもが傷ついていたり、ストレスを感じていたりした場合、苗字の変更でさらなるストレスを与えかねません。苗字が変わったために、学校や習い事で両親が離婚したことを聞かれる可能性もあります。
子どもへの心理的負担を軽減し、子どもがなるべくこれまでと変わらず生活できるよう、苗字を変えないという選択をする場合があります。
名義変更の手間をかけたくない
前述したように、苗字を変更するとクレジットカードや銀行口座、運転免許証などの名義変更が必要です。一部インターネットでできる場合もありますが、運転免許証は免許書交付センター及び警察署、マイナンバーカードは役所などそれぞれ時間を作って変更しに行かないといけません。
婚姻時の苗字を使い続けるのなら、婚氏続称届を提出すれば手続きは完了です。各種名義変更手続きが不要になるため、離婚後の忙しい時期を乗り越えやすくなるでしょう。
離婚後に苗字を変えない場合の手続き
離婚後も元夫の姓を使い続けるためには、役所に「婚氏続称届」を提出する必要があります。ただし、提出期限は離婚日の翌日から3カ月以内です。手続きをスムーズにするために、要点をきちんと把握しておきましょう。
役所に「婚氏続称届」を提出する
まずは市町村区役所の戸籍担当窓口で「離婚の際に称していた氏を称する届(婚氏続称届)」を入手します。自治体によっては、ホームページからダウンロードできる場合もあります。記入例に従って必要事項を記入したら、役所の窓口へ提出しましょう。
提出の際に必要な添付書類に戸籍謄本がありますが、本籍地の役所に提出する際は不要です。また、運転免許証などの本人確認書類が必要な場合もあります。
離婚日の翌日から3ヶ月以内が提出期限
婚氏続称届の提出期限は離婚日の翌日から3カ月以内です。ただし、離婚届を先に出してしまうと一旦旧姓に戻ってしまい、一時的に免許証などの名義変更が必要になります。婚氏続称届が受理されると再度名義変更を行う手間が発生するため、できるなら離婚届と同時に提出するのがスムーズです。
もし期限を過ぎてしまった場合は、家庭裁判所に「氏の変更許可」の申し立てをする必要があります。ただし、変更にはやむを得ない理由が必要です。「離婚後も婚姻中の姓を通称名として使用している」など、改姓の正当性や必要性がわかる資料の提出が求められます。また、一緒に暮らす子どもが元夫の姓で生活しているために齟齬が生じている場合は、許可される可能性が高いでしょう。
離婚後の苗字を変えない場合の注意点
離婚した後も元夫の苗字を使い続けるのは可能ですが、いくつか注意点もあります。
- 旧姓に戻すためには家庭裁判所への申立てが必要である
- 再婚後、再び離婚をしたら旧姓に戻せないことがある
- 苗字が異なる実家の墓に入る際は墓地管理人に確認が必要である
- 子どもを自分の戸籍に入れる際は姓の変更手続きが必要
上記の注意点を知らずにいると、いざという時に困った事態になることがあります。そうならないためにもポイントを把握しておきましょう。
旧姓に戻すためには家庭裁判所への申立てが必要である
一度婚姻中の姓を名乗る手続き(婚氏続称届)をすると、旧姓に戻したくなった際に簡単には戻せなくなります。婚氏続称届提出の期限が過ぎた時と同じ様に、家庭裁判所へ氏の変更許可の申し立てが必要です。
旧姓に戻さないといけなくなった「やむを得ない理由」と共に、家庭裁判所から許可を得ましょう。許可がおりるかどうかはケースバイケースですが、借金などの不当な理由がなく、子どもの自立に伴い婚氏を名乗る必要がなくなった、祭祀継承者(墓や仏壇などを受け継ぎ祖先の祭祀を主宰する人)になるなどの理由があれば概ね許可がおりることが多いようです。許可が下りれば、その後住所地または本籍地の市区町村の役所で戸籍の変更届を提出します。
再婚後、再び離婚をしたら旧姓に戻せないことがある
離婚後も元夫の姓を使い続けていた場合、再婚して再び離婚をしたら旧姓には戻せない可能性があります。まず、再婚する際には3種類の苗字から選択が可能です。
- 再婚相手の苗字に変える
- 離婚後も名乗り続けている最初の婚姻時の苗字のままにする
- 旧姓に戻し、引き続き旧姓を使う
離婚後に戻せるのは、1つ前の苗字に限られます。相手の苗字に変えた場合、離婚をすると最初の婚姻時の苗字に戻すか婚氏続称届を提出して再婚時の苗字を名乗るかの選択しかなくなるので注意しましょう。
もちろん氏の変更許可を申し立てて旧姓に戻すのは可能ですが、2度の結婚と離婚を証明するために戸籍謄本などの書類を用意しなくてはいけないなど、手続きが大変になります。
苗字が異なる実家の墓に入る際は墓地管理人に確認が必要である
基本的には、苗字が異なる実家のお墓に入るのは問題ありません。お墓に関する法律には、納骨する人に対しての決まりがないためです。ただし、霊園の管理者や住職など墓地の管理人によってある程度制限が設けられている場合があります。そのため、どのような利用条件になっているのかを事前に墓地管理人に確認しておきましょう。
また、苗字の違うお墓に入るにあたって、お墓に彫る家名をどうするのかといった問題もあります。通常は名前のみ彫る俗名を苗字が違うためフルネームで彫る、家名を「〇〇家之墓」から「先祖代々之墓」に彫りなおすなど方法は様々なため、家族で話し合う必要があります。
子どもを自分の戸籍に入れる際は姓の変更手続きが必要
離婚をしても子どもは元夫の戸籍に残ったままになるため、母親の戸籍に子どもを入れる場合は手続きが必要です。新しく母親が作った戸籍に子どもを入籍させることになりますが、母親の苗字が変わっていなくても、入籍前に「子の氏の変更許可」の申し立てが必要なことに注意しましょう。
同じ苗字なのになぜ変更許可が必要なのか疑問に思う人もいるかも知れませんが、同じ読み、同じ漢字の苗字であっても父親の姓と母親の姓は法律上は別の苗字です。そのため、子どもの戸籍を移す際には、変更許可の申し立ては必要となります。
まとめ
離婚後に「子どもに悪影響を与えたくない」「名義変更の手間を省きたい」などの理由で、婚姻中の苗字を名乗ることは可能です。ただし、苗字を変えないでいるメリットがある一方でデメリットもあるため、自身にとってメリットの方が大きいかどうかをよく考えましょう。
また、苗字を変えない選択をした場合、今後旧姓に戻すのが難しくなることや、子どもを自分の戸籍に入れる場合は同じ姓であっても「子の氏の変更許可申し立て」が必要なことにも注意が必要です。他にも「婚氏続称届」の提出期限などいくつかの注意点があるため、離婚後の慌ただしさを乗り切るためにもしっかりと頭にいれておきましょう。
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