経済的DVとは金銭的な自由を奪って相手を追い詰める行為
経済的DVとは「生活費を渡さない」「お金を使う際に許可を求めてくる」「働かずにパートナーの収入をあてにする」などの行為により配偶者の金銭的な自由を奪って、経済的に追い詰める行為を指します。
経済的DVを受けるのは専業主婦(主夫)に限りません。共働きであっても、被害者側の収入だけでやりくりを強いられ、生活に支障が出ていれば経済的DVを受けているとみなされる可能性があります。
「DV=暴力や暴言」といったイメージがあることに加え、金銭感覚や必要な生活費などは人によって異なるため、経済的DVを受けているにもかかわらず、被害者本人は気付かないといったケースもみられます。
経済的DVは、法定離婚事由の「悪意の遺棄」「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当する可能性があります。夫婦の話し合いで離婚する協議離婚や、調停委員を介して離婚の合意を目指す離婚調停でも離婚が成立せずに、裁判で離婚を求める場合は、この法定離婚事由が離婚を認める際の判断材料となります。
経済的DVかどうかを判断するためのチェックリスト
先述した通り、経済的DVを受けているのに被害者本人が気付いていないケースもあります。「経済的DVに該当するかわからない」「経済的自由はないけれど、暴力は受けていないし……」など、自分がDVを受けているか判断できない場合は、下記のチェックリストを参考にしてみてください。
- 生活費を渡さない・少なすぎる
- 個人で自由に使えるお金がない
- 家計が苦しくても配偶者が働いてくれない
- 働くことを認めてもらえない
- 浪費が激しく借金をする・借金を強要される
- 配偶者の給与や預金を一切教えてもらえない
- 「養ってやっている」など金銭に関する暴言がある
該当する項目が多いのであれば、経済的DVを受けている可能性が高いといえます。裁判所が上記のような内容を法定離婚事由に該当すると判断すれば、離婚を認めてもらえます。
生活費を渡さない・少なすぎる
十分な収入があるにもかかわらず、配偶者が生活費を渡さない、もしくは明らかに少なすぎる額を渡されている場合は、経済的DVに該当する可能性が高いといえます。
ただし、生活に支障が出ていない場合は、経済的DVとみなされない場合もあります。被害者側の独身時代の貯金、親からの援助などを頼って生活のやりくりをするような状況であれば、生活を維持できない状況で経済的DVを受けていると判断されます。
個人で自由に使えるお金がない
配偶者が家計の管理をしており、小遣いなどの自由に使えるお金を渡してくれない場合は、経済的DVに該当する可能性があります。
例えば、配偶者に収入が十分にあり、配偶者自身は自由にお金を使用しているにもかかわらず、自分にはお金を渡さず、病院に行ったり、帰省したりといったことが自由にできない場合です。その他、買い物をした日に都度レシートをチェックし、「もう少し安いところで買えたよね?」「これって本当に必要なの?」など、過度な節約を要求してくる場合も経済的DVになる可能性があります。
ただし、家計の管理をする配偶者も浪費が少ない場合は、経済的DVとみなされない可能性も考えられます。
家計が苦しくても配偶者が働いてくれない
病気やケガなどがなく、健康な状態の配偶者が、被害者側の収入をあてにして働かないのであれば、経済的DVと判断される場合があります。
夫婦にはお互いに協力して生活する「協力義務」「扶助義務」があるため、特別な事情なく相手だけに働かせる行為は義務違反とみなされる可能性が高いためです。
働くことを認めてもらえない
被害者側が働くことを希望しているにもかかわらず、専業主婦(主夫)を強要してくる場合は、経済的DVになる可能性があります。無理に仕事を辞めさせる行為も同様です。
これらの行為は、相手の収入をなくして金銭的に支配し、自分を優位な状況にしようとしている可能性が考えられるためです。
浪費が激しく借金をする・借金を強要される
配偶者に浪費癖があって借金をする、また被害者側にも借金を強要してくるのであれば、経済的DVの可能性があります。例えば、配偶者がギャンブルで借金をしている、買い物好きでカードのリボ払いを繰り返している、被害者側の名義でお金を借りようとするといった行為です。
生活費を渡さず、被害者側に苦しい生活を強いているにもかかわらず、自由な浪費や借金を繰り返しているのであれば、経済的DVと判断されるでしょう。
配偶者の給与や預金を一切教えてもらえない
配偶者がすべてのお金を管理している状況で、自分の給与や預金について一切教えてくれないような場合は、経済的DVにあたる可能性があります。
本来はもっと生活費を渡せたり、ゆとりのある生活ができたりするにもかかわらず、金銭的な支配を目的に収入や預金額を隠し、必要最低限の生活費でのやりくりを求められている可能性が考えられるためです。
「養ってやっている」など金銭に関する暴言がある
上記のような金銭的な支配に加え、「養ってやっている」「稼いだ金を使わせてやっている」など、金銭に関する暴言(モラハラ)があれば、裁判所が経済的DVと認める可能性が高くなります。
モラハラは、加害者側も被害者側も自覚していないケースが多い模様です。暴言は精神的に追い詰めるもののため、暴力と違って周囲からも気付かれません。
また、モラハラの加害者は周囲からは「良い夫(妻)」にうつることもあり、被害者は「食べさせてもらってるのに、不満をもつ自分が悪いのかも」「暴力を受けているわけではないし、大袈裟にしすぎなのかも」とモラハラを自覚できない場合もあります。
経済的DVに気付いたらやるべきこと
自分が経済的DVを受けている可能性があるなら、下記のような行動にうつしましょう。
- 親族や相談窓口など第三者に相談する
- 経済的DVの証拠を集める
- 今後の生活の準備をする
- 離婚の手続きに取りかかる
離婚を検討している場合は、自分に有利に進められるように経済的DVの証拠を集めたり、弁護士への相談を検討したりすると良いでしょう。具体的な内容について紹介していきます。
親族や相談窓口など第三者に相談する
両親や他の親族、公的な相談窓口などに相談し、客観的に自分の状況を判断してもらったり、解決のアドバイスをもらったりすることで、現在の状況を変えられる場合があります。
離婚や別居を検討しているのであれば、離婚やDV問題に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。経済的DVの証拠集めや、自分にとって有利に話を進められるように的確なアドバイスがもらえます。
法テラスや自治体、家庭裁判所の家事相談室など、無料で相談できる場所もあるため、1人で抱え込まずにまずは第三者に相談してみましょう。
経済的DVの証拠を集める
経済的DVを理由に離婚を求めるのであれば、DVの事実を示す証拠が必要となります。仮に裁判で離婚を求める場合、証拠がなければDVの事実を有耶無耶にされ、裁判所も離婚を認めてくれないおそれがあるためです。
経済的DVの証拠となるのは下記のようなものです。
- 経済的に苦しめられたことが客観的にわかる預金通帳や家計簿
- 配偶者に生活費を求めて拒否されたことが記載されたメールや音源
- 配偶者からのお金に関する指示や暴言などが記載されたメールや音源
- 経済的DVを受けたことを記録した日記
- 配偶者の浪費状況を示すクレジットカードの明細やレシート、借用書
- 経済的DVによって精神を病んだことを示す医師の診断書
今後の生活の準備をする
配偶者との離婚を希望する場合は、今後の生活の準備をすることも重要です。経済力を確保できれば、離婚後も安心して暮らせます。就職活動をする、職業訓練を受ける、親に援助を頼むなど経済的に自立できるように準備しましょう。
配偶者が故意に金銭的な支配を行い、家庭内で優位に立とうとしている場合は、経済的DVの解消は難しいといえます。その場合は、別居によって避難することも念頭に準備を進めましょう。離婚やDV問題に詳しい弁護士に相談すれば、別居時の生活費となる婚姻費用を請求することも可能です。
離婚の手続きに取りかかる
離婚の手続きにはステップがあり、まずは夫婦の話し合いによる協議離婚を目指します。話し合いで配偶者が自分の非を認めない、離婚に応じない場合は、家庭裁判所で手続きを行い、調停委員を交えて離婚話をまとめる離婚調停に進みます。
離婚調停も不成立となり、話がまとまらない場合は、裁判で離婚を請求します。裁判において、配偶者の経済的DVが法定離婚事由である「悪意の遺棄」「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当すると主張できれば、離婚できる可能性が高いといえます。
協議離婚、離婚調停、離婚裁判の概要や流れなどを知りたい場合は、下記の記事も参考にしてみてください。
経済的DVで離婚する際に請求できるもの
経済的DVを理由に離婚する際に請求できるものは下記の通りです。
- 経済的DVに対する慰謝料
- 財産分与
- 年金分割
- 婚姻費用
- 子どもの養育費
詳しい内容について説明していきます。
経済的DVに対する慰謝料
経済的DVで離婚する場合は、DVによる精神的苦痛、離婚せざるを得なくなった精神的苦痛に対する慰謝料を請求できる場合があります。生活費を渡さないといった行為は、法定離婚事由の「悪意の遺棄」にある夫婦の協力義務や扶助義務に違反するとみなされる可能性が高いためです。
なお、離婚および慰謝料を請求する際は、経済的DVの立証が必要となります。「経済的DVの証拠を集める」でも記載しましたが、日々の生活や経済状況がわかる家計簿や日記、預金通帳、配偶者が生活費の支払いを拒否したことを示すメールや音源、配偶者の浪費の状況がわかるレシートやクレジットカード明細、借用書などが証拠として役立ちます。
離婚時に請求できる慰謝料の相場については、下記の記事を参考にしてみてください。
財産分与
婚姻中に夫婦が協力して築いた共有財産は、離婚時に財産分与として分け合えます。例えば、婚姻中に購入した不動産や貯めた貯金、有価証券、個人年金、家具や家財道具などは、財産分与の対象となる夫婦の共有財産です。
なお、直接金銭を稼いでいない専業主婦(主夫)であっても、原則2分の1ずつ財産を分けます。専業主婦(主夫)は配偶者が働くためのサポートをし、結果として財産が形成されたとみなされるためです。
財産分与の対象となる夫婦の共有財産や、対象外の財産については下記の記事で詳しく紹介しています。
年金分割
年金も夫婦が協力して築いた財産とみなされるため、一方が専業主婦(主夫)であっても年金分割を利用することで請求可能です。年金分割とは、婚姻期間中に納めた厚生年金を分割し、それぞれの年金とする制度です。離婚成立より2年以内に年金事務所で手続きすることで分割できます。
なお、年金分割は厚生年金部分だけの分割となるため、国民年金の加入者は対象となりません。
婚姻費用
離婚成立までは、生活を維持するために必要な婚姻費用も配偶者に請求可能です。婚姻費用とは、衣食住に必要な費用や医療費、子どもの養育費や教育費などが該当します。同居中はもちろん別居中も請求できます。
金額については、夫婦の話し合いで決めます。毎月どの項目にいくらかかるかを家計簿を見せながら伝えると良いでしょう。話し合いでは埒が明かない、そもそも配偶者に金銭の話をするのが怖いなどの場合は、家庭裁判所で婚姻費用分担請求調停の申し立てをする方法もあります。
なお、家庭裁判所での婚姻費用の請求は、過去に遡っての請求ができません。請求可能なのは、申し立てをした時点からの費用となります。経済的DVの被害者は経済的に困窮しているケースが多いため、別居を検討している場合は早めに婚姻費用の請求をしましょう。
子どもの養育費
離婚時に未成年の子どもの親権を得て、子どもを養育する側になった場合は、配偶者に養育費の請求が可能です。養育費とは子どもの監護や教育のために必要な費用を指し、具体的には生活費や医療費、学費などが該当します。
養育費の額は子どもの人数や年齢、健康状態、両親の収入などから総合的に決めます。裁判所「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」より、養育費の算定表を参考にするのも良いでしょう。
なお、子どもを引き取らない非監護親には生活保持義務があるため、子どもに対して自身と同じ生活水準を保てる養育費を支払う必要があり、生活が苦しいといった理由で支払いを拒否することはできません。
養育費の未払いを防ぐための公正証書の作成については、下記の記事を参考にしてみてください。
経済的DVに悩む人の相談先
先述した通り、経済的DVに気付いたら、まずは第三者に相談するのがおすすめです。下記のような夫婦問題やDVに詳しい相談先だと、心強いアドバイスがもらえるでしょう。
- 離婚問題に強い弁護士
- DV相談ナビ
- DV相談+
- 女性センター
- 夫婦カウンセラー
それぞれの相談先について詳しく紹介していきます。
離婚問題に強い弁護士
経済的DVを行う配偶者との話し合いは難しく、スムーズに進まないことも考えられるため、基本的には離婚やDV問題に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、代理人となって配偶者と離婚協議を進めてくれるため、配偶者と顔を合わせるのを避けることも可能です。また、別居時の婚姻費用や慰謝料の請求、財産分与や養育費の取り決めなども有利になるように進めてくれます。
専門性が求められる事案であるため、離婚やDV問題に詳しい弁護士に相談しましょう。DV問題に詳しい弁護士であれば、別居時に持ち出すものや注意点をアドバイスしてくれたり、深刻な内容であれば配偶者に接触禁止の通知をしたりと的確な対処をしてくれます。
弁護士費用の相場は内容によって異なりますが、協議離婚や離婚調停の場合は着手金20~50万円、報酬金20~50万円ほどかかります。離婚裁判を行う場合は、着手金30~50万円、報酬金30~50万円が相場です。慰謝料や財産分与などの経済的利益が発生する場合は、さらに費用が加算されます。
費用はかかりますが、トラブルを防ぎながらスムーズに解決に導いてくれるため、弁護士がつくことで依頼者も安心できるでしょう。一人で悩まずに、弁護士の力を借りてみてください。
離婚における弁護士費用については、下記の記事でも詳しく紹介しています。経済的余裕がない場合は、弁護士費用の立て替えをしてもらえる、法テラスの代理援助についての記事も参考にしてみてください。
DV相談ナビ
DV相談ナビとは「DVに悩んでいるけど、どこに相談すれば良いかわからない」といった人のための電話窓口。全国共通の電話番号「#8008(はれれば)」から相談機関を案内してもらえるサービスです。発信地の情報から、最寄りの相談機関の窓口に電話が自動転送されるため、電話をかければ直接相談ができます。なお、匿名での相談も可能です。
DV相談+
2020年4月よりスタートした新たなDV相談事業で、専門の相談員に対応してもらえます。24時間受付の電話相談の他、メールやSNSでも相談可能です。必要に応じて、面談や同行支援、緊急の宿泊手配などの支援もしてもらえます。
電話番号:0120‐279‐889
DV相談+
女性センター
女性センターとは、各自治体が設置している女性のための総合施設で、女性が直面しやすい問題に対する相談や情報提供をしてくれます。「配偶者暴力相談支援センター」に指定されている施設では、配偶者からのDV専門の窓口を設置している場合もあります。なお、相談は無料で行えますが、事前に予約が必要です。
内閣府男女共同参画局:都道府県・市区町村の男女共同参画・女性のための総合的な施設
夫婦カウンセラー
夫婦カウンセラーは、夫婦に関するさまざまな問題の解決方法を提案してくれるスペシャリストです。カウンセラーの意見を取り入れながら、離婚や別居、夫婦関係の修復などについて夫婦で話し合いができます。
「すぐに離婚に踏み切れない」「問題を解決してやり直したい」など、関係修復を望んでいるのであれば、夫婦カウンセラーへの相談で問題に向き合っていくと良いでしょう。
なお、相談料金の相場は1時間あたり1~2万円で、延長する場合は30分ごとに3,000~5,000円加算されます。
DVの無料相談窓口については、下記の記事でも詳しく紹介しています。
まとめ
経済的DVの被害者は、DVを受けていることに気付いていないケースもあります。「これって経済的DVなのかも」と違和感を感じる場合は、チェックリストを参考にしてみてください。経済的DVに該当しそうな場合は、まずは助けてくれる親族やDVの相談窓口、弁護士に相談しましょう。
離婚を検討している場合は、離婚やDV問題に詳しい弁護士を探すことが重要です。DV被害者に寄り添った対応をしてくれるのはもちろん、別居時の婚姻費用や精神的苦痛への慰謝料請求、離婚時の財産分与や養育費請求の面でも心強い味方となってくれます。
無料相談・電話相談OK!
一人で悩まずに弁護士にご相談を
- 北海道・東北
-
- 関東
-
- 東海
-
- 関西
-
- 北陸・甲信越
-
- 中国・四国
-
- 九州・沖縄
-