不倫中に相手を妊娠させた場合の配偶者への慰謝料は?
不倫中に相手を妊娠させた場合、配偶者から慰謝料を請求される可能性があります。不倫は、法律上「不貞行為」として不法行為(民法709条)にあたり損害賠償責任を負うためです。ここでは、配偶者の慰謝料について解説します。
- 離婚する場合は「250万~300万円」が相場
- 離婚しない場合は「50万~100万円」が相場
離婚する場合は「250万~300万円」が相場
不倫によって離婚する場合の慰謝料の相場は、250~300万円です。
慰謝料は婚姻期間や不貞行為の悪質性などによって変わる
配偶者が行った不倫などの有責行為によって夫婦関係が破綻し、離婚に至ったことで被った精神的苦痛に対して支払われる慰謝料を離婚慰謝料といいます。
離婚慰謝料には、主に次の2つがあります。
離婚原因慰謝料は、離婚原因となる不倫や暴力など不法行為によって被った精神的苦痛に対する慰謝料です。
一方、離婚自体慰謝料は、不倫などで離婚しなければならなくなった(配偶者の地位を失うこと)こと自体によって被った精神的苦痛に対する慰謝料です。
具体的な慰謝料の額は、婚姻期間や夫婦間の子どもの有無、不貞行為以前の夫婦関係、不貞行為の相手の妊娠など、個別の事情によって変わります。
ただし、不倫相手が妊娠している場合、配偶者が受ける精神的苦痛は通常より大きいものと推測され、高額の慰謝料を請求される可能性が高い傾向です。過去の裁判例で不倫相手の妊娠によって離婚に至ったケースで、500万円を超える慰謝料請求が認められた判例もあります。
通常より財産分与の額が変わることがある(慰謝料的財産分与)
不倫したことで離婚する場合、慰謝料として財産分与の金額が変わる可能性があります。
婚姻関係にあった夫婦が離婚する場合、相手方の配偶者に財産の分与を請求できます(民法768条)
財産分与は、婚姻関係中に築かれた夫婦の財産を清算するために行われ(清算的財産分与)、原則として、それぞれ2分の1ずつ保有します(清算的財産分与)。
ただし、例外的に、一方の配偶者の不倫などが原因で離婚する場合、不貞行為によって被った精神的苦痛に対する慰謝料の意味合いで、通常より財産分与の金額が多くなるケースがあります(慰謝料的財産分与)。
不倫したことによる慰謝料と財産分与は、法律上の根拠も異なりますので、不倫したから財産分与できないということではありませんが、財産分与の額に影響する場合があるということです。
離婚しない場合は「50万~100万円」が相場
離婚しない場合の慰謝料は、離婚した場合と比べ慰謝料は低い傾向で、50万~100万円が相場です。ただし、この場合も具体的な金額は、不倫期間や回数、妊娠の有無など個別の状況によって変わります。
慰謝料の額に影響を与える可能性のあるものは以下のとおりです。
- 不倫期間の長さ・回数
- 子どもの有無、未成年の子どもの数
- 別居に至ったか否か
- 不倫相手の妊娠の有無
- 当事者の反省の度合い
なお、不倫する前からすでに婚姻関係が破綻している場合などでは、慰謝料請求が認められないケースもあります。
また、慰謝料を請求する権利が時効により消滅した場合も認められません。慰謝料を請求する権利は、法的には、民法における不法行為による損害賠償請求権になります(民法724条)。
そのため、慰謝料を請求する権利は、不倫の事実を知った日から3年(離婚する場合は離婚から3年)、もしくは、不倫が行われてから20年で時効となります。
不倫中に相手を妊娠させた場合の不倫相手への慰謝料は?
では、配偶者ではなく妊娠させた不倫相手への慰謝料は必要なのでしょうか。
- 中絶した場合は慰謝料の支払い義務がない
- 悪質性の高いケースだと中絶慰謝料が請求される
中絶した場合は慰謝料の支払い義務がない
まず、原則として、双方の合意のもと行われた性行為で妊娠した場合、不倫相手から慰謝料を請求されることは少ないでしょう。なぜなら、慰謝料を請求するには、相手から不法行為が行われたことが必要であり、避妊具なしで性交渉することに双方の同意があれば、妊娠もお互いに同意したものとなり不法行為とはいえないためです。
また、中絶する際も多くの場合、お互いの同意のうえで行いますので、原則として相手から慰謝料を請求されることは少ないと言えます。中絶した場合に支払う必要があるのは、中絶費用の半額程度です。
ただし、妊娠後の対応を誤ると、例外的に慰謝料の請求が認められるケースもあります。
例えば、妊娠の責任を回避し、話しを拒否した結果、中絶を余儀なくされたようなケースです。男性には、「中絶によって女性が受ける肉体的・精神的な苦痛や負担を軽減、解消に努める義務」があるとされています。
そのため、妊娠発覚後に、話し合いを拒絶したり放置したりした場合や中絶費用の支払いを一方的に拒否した場合には、その義務を果たさなかったものとして不法行為が成立し、慰謝料請求が認められる可能性があります。
悪質性の高いケースだと中絶慰謝料が請求される
また、妊娠、中絶に至る過程で悪質性が高いケースでは中絶慰謝料が認められる可能性があります。
強姦など性的犯罪で妊娠させた
強姦(強制性交)など性的犯罪で妊娠させた場合、中絶に対してだけでなく、強姦についても慰謝料請求が認められます。民事訴訟による強姦の慰謝料は50万~200万円と幅広く、それ以外にも、中絶に対する慰謝料が請求される可能性があります。また、民事上の責任だけでなく、強制性交等罪(刑法177条)などの刑事責任を問われるおそれがあります。
暴力や脅迫などで中絶を強要した
暴力や脅迫などで中絶を強要した場合も慰謝料が認められる可能性が高くなります。このような場合、暴力や脅迫について、民事上の責任だけでなく刑事責任を追及される可能性もあるでしょう。
さらに、中絶を強要することは、女性が中絶するかしないか、つまり子どもを産むか産まないかの自己決定権を侵害する可能性があります。このようなケースでの慰謝料の相場は50万~300万円程度です。
避妊すると嘘をついて妊娠させた
避妊することを前提に性交渉に応じたものの、実際には避妊されておらず妊娠、中絶せざるを得なくなった場合も慰謝料を請求される可能性があります。
避妊すると嘘をついたことで、女性の妊娠するかしないかを決める権利を侵害したものと考えられるためです。慰謝料のほか中絶費用全額を請求される可能性があります。
慰謝料以外にも中絶費用や診察料などを請求されることがある
お互い合意のうえ性交渉に及び妊娠、中絶した場合、原則として慰謝料は認められませんが、例外的に認められるケースを紹介しました。
では、慰謝料以外に請求される可能性がある費用としてどういったものがあるのでしょうか。
- 中絶費用
- 妊娠中の診療費
- 診察・中絶にかかった交通費
- 妊娠・中絶により仕事を休んだ場合の休業損害
- 弁護士費用 など
このうち中絶費用は、自費診療のため医療機関によって料金が異なりますが、費用の相場は次のとおりです。
・初期中絶手術(~11週6日):10万~20万円
・中期中絶手術(12週~21週6日):30万~50万円
妊娠して時間が経過するほど中絶費用は上がり、母体への負担も大きくなる傾向です。話し合いを早くすすめ、産むか産まないかを判断することが大切です。
不倫中の相手を妊娠させた場合の対応方法は?
不倫中に相手が妊娠した場合、不倫相手もしくは配偶者への対応が必要になります。ここでは不倫中の相手を妊娠させたときの対応方法について解説します。
- 妊娠の事実確認をする
- 配偶者と離婚するかを決める
- 不倫相手と今後のことを話し合う
妊娠の事実確認をする
不倫相手から「妊娠したかもしれない」という連絡が来れば、まず病院で事実確認することが大切です。ただし、産婦人科へ行く前に必ず妊娠検査薬で確認しましょう。
月経が遅れているという事実だけでは、妊娠した証拠にはなりません。妊娠検査薬は、月経予定日の1週間以降に正しく使用すればほぼ正確な判定が可能です。
妊娠検査薬で陽性が出た場合のほか、予定日の2週間を過ぎても月経がこない場合も、念のため病院で確認しましょう。お互いに産む意思がないのであれば、なるべく早く対応し中絶の手続きを進める必要があります。
なお母体保護法上、人工妊娠中絶が認められているのは、妊娠22週未満(21週6日まで)となります。
一方で子どもを産むと決めた場合については、のちほど詳しく解説します。
配偶者と離婚するかを決める
配偶者と離婚して不倫相手と再婚するか、離婚せずに不倫相手と別れるかを決める必要があります。
配偶者と離婚して不倫相手と再婚するとしても、配偶者と離婚するには双方の同意が必要ですし、配偶者が必ずしも同意するとは限りません。
仮に、配偶者が離婚に同意せず裁判となった場合、原則として、有責配偶者からの離婚請求は認められません。離婚請求が認められるためには、原則として、裁判上の離婚理由に該当することが必要ですし、道義的にも有責配偶者からの離婚請求は認められません。
そのため、配偶者との離婚を求めるのであれば、まずは話し合いで進める必要があります。配偶者が離婚したくない理由が経済的な不安からくるものであれば、財産分与や慰謝料、養育費を多く支払うなどで応じてくれる可能性もあります。
当事者間の話し合いでは合意できない場合、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることが可能です。ただし、離婚調停でも合意できない場合、離婚裁判を提起することになります。
原則として、有責配偶者からの離婚請求はできませんが、例外的に次の条件をみたす場合認められる可能性があります。
- 別居期間が相当年数続いている
- 夫婦間に未成熟の子どもがいない
- 離婚が認められても離婚請求された側が過酷な状況に置かれない
不倫相手と今後のことを話し合う
妊娠の事実がはっきりすれば、不倫相手と今後のことを話し合うことが必要です。
- 出産するか中絶するか
- 認知するかしないか
- 出産費用や子どもの養育費などをどうするか
これらのことを1つ1つ話し合って決める必要があります。ここで注意しなければならないのは、話し合いを拒否したり、連絡をとらなくするなどの対応をしないこと、また、相手の意思を無視して中絶を強制しないことです。
妊娠あるいは中絶の責任は2人で負うものであり、女性側に一方的な負担を負わせるものではありません。話し合いから逃げたり、中絶を強要することで、不倫相手から慰謝料を請求される可能性もあります。
不倫中の相手が「子供を出産する」と決めた場合は?
では、話し合いの結果、子どもを出産すると決めた場合、どのような責任や影響が生じるのでしょうか。
子供が成人するまで養育費を支払う義務が生じる
不倫相手が産む子どもを認知するかしないかを判断しなければなりません。
認知とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子ども(婚外子)と父親との親子関係を成立させる手続きです(民法779条)。相手の女性の同意があれば、子どもが生まれる前の胎児の間でもすることができます。また、配偶者と離婚しない場合でも、不倫相手の子どもを認知することは可能です。
認知すると、不倫相手の子どもとの間に法律上の親子関係が生じます。その結果、子どもが成年に達するまでの扶養義務を負い(民法877条)、養育費の支払い義務が生じます。
養育費は、子どもの人数や年齢、両親の年収、職業をもとに養育費算定表を用いて算出することが一般的です。下表は、離婚調停または離婚審判事件における夫から妻への養育費をまとめたものです。
養育費(月額) |
件数 |
全体に占める割合 |
1万円以下 |
337 |
2.4% |
2万円以下 |
1220 |
8.9% |
4万円以下 |
4320 |
31.6% |
6万円以下 |
3494 |
25.5% |
8万円以下 |
1828 |
13.3% |
10万円以下 |
1052 |
7.7% |
10万円超え |
1409 |
10.3% |
総数 |
13662 |
参照:裁判所|平成30年司法研究(養育費・婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
参照:裁判所|令和4年司法統計年表(家事編)
養育費月額2万円~4万円以下の割合が約30%と最も多く、2万円~6万円以下が全体の約半数を占めています。
認知した子どもは法定相続人の地位を取得する
また、法律上の親子関係が生じるに伴って、認知した子どもは法定相続人の地位を取得します(民法887条1項)。親が亡くなり相続が発生した場合、法定相続人として相続遺産を引き継ぐ権利が生じます。
法律上の婚姻関係の間に生まれた子どもを「嫡出子」、認知された子どものように婚姻関係にない父母の間に生まれた子どもを「非嫡出子」といいます。相続が発生した場合、嫡出子と非嫡出子の相続割合は平等の扱いです。
もし認知を拒否すると強制認知を求められる可能性がある
父親として不倫相手の子どもを自らの意思で認知する場合(任意認知)は、市区町村の役場で認知届を出すことで完了します。
一方で、認知を拒否することも可能ですが、子ども側から認知の訴えを提起される可能性があります(強制認知)。
子どもを産むと決めた段階で、認知について不倫相手と話し合いをしますが、まとまらなければ家庭裁判所に認知調停を申し立てることができます。
調停では、裁判官と調停委員からそれぞれの当事者に対し、懐胎可能期間の性交渉の有無や生活状況、血液型などのヒアリングが行われ、話し合いのもと進められます。DNA鑑定が行われることも少なくありません。
調停でも話し合いがまとまらず不成立となった場合、裁判所に認知の訴えを提起される可能性があります(民法787条)。
裁判手続きでは、生物学的父子関係の存在の有無について、当事者それぞれが主張立証することになります。認知の訴えにおいて、DNA鑑定が最も重要な証拠です。もし、DNA鑑定に応じない場合、当事者間の性交渉の有無や血液、指紋などから親子関係の存在を立証することになります。
不倫中の相手を妊娠させた場合は早めに弁護士に相談する
不倫相手が妊娠した場合、配偶者や不倫相手からの慰謝料の請求や離婚請求、子どもを産むか産まないかなど、さまざまな問題に直面します。このような問題に、不倫相手と2人で対応していくのは難しく、早めに弁護士に相談することを考えたほうがよいでしょう。
- 不倫相手への対応を間違うとどういったリスクがあるか?
- 子どもを産むか産まないか、認知するかしないかで法的に何が変わるか?
- 離婚した場合の財産分与はどうなるか? など
弁護士に相談することによって、これまでの裁判例などを踏まえ、法的に正しいサポートを受けられるでしょう。
また、配偶者からの慰謝料の請求に対しても、適正な金額をもとに減額交渉してもらうことができますし、示談交渉や訴訟手続きを任せることが可能です。最終的に、離婚となった場合、慰謝料だけでなく財産分与や養育費なども、当事者の婚姻関係や財産状況を踏まえ、適切な金額を提示することもできます。
不倫相手が妊娠していると分かると、なかなか冷静に対応することが難しい場合もありますが、感情的になることで思わぬリスクを生じさせる可能性あります。そういった意味でも、不倫や離婚関係に強い弁護士に相談することで、主張できる点はしっかりと主張しながらすすめることができるでしょう。
まとめ
不倫相手に子どもができた場合、配偶者に対しては、裁判上の離婚理由に相当する不貞行為をしたことになります。その結果、配偶者からの離婚請求あるいは慰謝料請求を受ける可能性があります。もし離婚するとなった場合、慰謝料や財産分与、子どもがいれば養育費などについて話し合うことが必要です。
一方、不倫相手に対しては、合意のうえ性交渉にのぞみ子どもができたのであれば、中絶するとなった場合でも原則として慰謝料を請求されることはありません。ただし、女性には、子どもを産むか産まないかを決める権利もあり、男性には、中絶によって女性が受ける肉体的・精神的な苦痛や負担を軽減、解消に努める義務があります。
そのため中絶を強要するなど悪質な場合は、慰謝料の請求や場合によっては刑事責任を追及される可能性がありますので慎重な対応が必要です。
さらに、子どもを産むことを決めた場合、認知によって子どもとの親子関係が生じ、養育費の支払い義務や子どもに相続権が発生します。
これらの請求やリスクに対して、1人で対応することは難しいケースが多く、対応を間違えば思わぬ責任が生じる可能性があります。できるだけ早い段階で離婚や不倫関係に強い弁護士に相談することをおすすめします。
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