交際相手(彼氏・彼女)が既婚者でも慰謝料を請求できる条件
交際相手に、法的根拠に基づいて慰謝料を請求するためにはいくつか条件があります。慰謝料請求が認められる条件について解説します。
- 条件1.故意または過失があること
- 条件2.貞操権侵害による不法行為が成立すること
- 条件3.違法行為によって損害を受けたこと
条件1.故意または過失があること
慰謝料を請求する1つめの条件として、請求する相手に「故意または過失がある」ことが必要です。
「故意」とはその結果が生じると分かっていてわざと違法行為をすることです。また、「過失」は、必要な注意を怠ったことによって結果が生じさせることを意味します。
既婚者であった交際相手に慰謝料請求する法的な根拠は、不法行為に基づく損害賠償請求です(民法709条)。不法行為責任が成立するための要件として故意または過失が必要となります。
この点、交際相手は自らが既婚者であることを隠して付き合ったり、性的関係を結んだりしていますので、故意に隠しているといえます。また、普段している結婚指輪を外していたり、独身を装う言動を繰り返していることも、交際相手をだます故意があるといえます。
条件2.貞操権侵害による不法行為が成立すること
2つめの条件は、貞操権侵害による不法行為が行われたことです。
貞操権とは、誰と性的関係を結ぶかを自由に決定できる権利、あるいは自分の意思に反して性的な侵害を受けない権利です。法的に保護される権利として、貞操権を侵害されたといえる場合、慰謝料請求が可能となります。
交際相手が既婚者であることを知っていいれば性的関係は結ばなかった場合、貞操権が侵害されたといえる可能性があります。また、相手が独身を装い、結婚を前提とした付き合いであると騙した場合にも、貞操権の侵害にあたる可能性は高いでしょう。
一方、交際はしていても肉体関係を伴わない関係であれば、基本的には貞操権侵害にはあたりません。ただし、性行為に類似する行為があれば貞操権の侵害と認められる可能性もあります。
条件3.違法行為によって損害を受けたこと
3つめの条件として、相手の違法行為によって損害を受けたことが必要です。つまり、性的関係を持ったあとで、実は既婚者であったと知ったことを原因として、精神的苦痛や肉体的苦痛を受けた場合に、違法行為によって損害を受けたといえます。
精神的苦痛は目に見えないものであるため、「損害」を証明するためには診療内科や精神科への通院歴やうつ病や中絶などの診断書があれば証拠となりやすいといえます。
ここまで3つの条件を紹介しましたが、実際の裁判では慰謝料請求が認めるかはさまざまな事情を考慮して判断されます。
・交際が始まった経緯
・交際期間の長さや会っていた頻度
・肉体関係はどのくらいあるのか
・独身であることを疑わせない証拠の有無 など
こういった事情を考慮しながら慰謝料請求できる条件を満たすか否かが判断されます。
交際相手(彼氏・彼女)が既婚者だった場合の慰謝料請求の金額
交際相手が既婚者だった場合の慰謝料請求はどのように決まるのでしょうか。貞操権侵害の慰謝料の相場について解説します。
- 貞操権侵害の慰謝料相場は50万円~200万円程度
- 交際期間や悪質性によって慰謝料が増額する
- 慰謝料請求を認めた判例
貞操権侵害の慰謝料相場は50万円~200万円程度
貞操権侵害の慰謝料の相場は50万円~200万円程度です。ただし、慰謝料の金額は、個別の事情をもとに判断されますので一概に判断することはできません。
騙された側に相手が既婚者であると気づけたことの落ち度や精神的あるいは肉体的に受けた損害の程度、貞操権侵害と損害の因果関係の強さなどで慰謝料の金額は変わります。
交際期間や悪質性によって慰謝料が増額する
慰謝料の額は交際期間や悪質性によって増額する可能性があります。具体的には、以下のような事実や状況によって慰謝料の額は変わります。
・男性の年齢
・女性の年齢
・交際期間
・結婚や子どもに関する発言の有無
・どの程度積極的に独身であると偽っていたか
・妊娠の有無
・既婚者と分かったあとの男性、女性の対応 など
騙した男性(あるいは女性)の年齢は、違法行為を行うべきでないと判断がしやすいか否かを考慮する材料になるとともに、女性からみたときに結婚している判断しすさを考慮する判断材料にもなります。
また、騙された女性(あるいは男性)の年齢が若い、もしくは交際期間が長く真剣度が高いほど、精神的損害が大きいと判断されやすくなるでしょう。
さらに、結婚をほのめかす、子どもが欲しいなどの発言があると、違法行為の悪質性を高め、積極的に独身であると偽っていたと認められやすいため慰謝料は増額される傾向です。
既婚者であると判明したあとに、騙した相手が謝罪などの誠意を見せているかも慰謝料の額を考慮する判断材料になります。また、既婚者と判明した後も付き合いを続けていた場合は、騙された側の非が認められ慰謝料が減額される可能性があります。
慰謝料請求を認めた判例
慰謝料の額は個別の事情で変わります。ここでは過去裁判所で認められた慰謝料請求を紹介します。
慰謝料500万円の請求が認められた裁判例
【事案】
男性は交際相手の女性に自身が既婚者であることを隠し、「結婚を考えている」と将来の結婚を約束したうえで、家族や友人、知人に会わせ婚約者として紹介していました。
女性は結婚できると信じ、男性の子どもを妊娠。2度の中絶を経て3度目に出産。しかし、男性は子どが産まれると音信不通になりました。女性と別れることを画策し認知にもなかなか応じないなど不誠実な対応を繰り返していました。
この事案で、裁判所は貞操権侵害による慰謝料500万円の請求を認めています。
この事案では、交際期間や悪意性の高さなどから高額の慰謝料が認められています。
- 交際期間が約10年と長期にわたっていた
- 20代から30代という女性にとって貴重な時期を男性に捧げた
- 女性は婚約者として男性の家族、親戚に挨拶したり男性の実父の法要に出席していた など
こういった事情を考慮され増額になっている反面、男性が交際中に生活費として月50万円を支払っていた点や養育費として月5万円を支払っていた点は減額要素として考慮されています。
慰謝料100万円を含む442万円の支払いを命じた裁判例
【事案】
銀座のホステスが肉体関係を伴う交際を続けるなか、求婚され将来結婚できると信じ、男性に対し高額な贈り物をしていました。その後、実は既婚者であったことが分かった事例です。
この事案では、裁判所は100万円の慰謝料請求を認めました。
貞操権の侵害や男性の悪意性から慰謝料請求が認められると同時に、これまで女性から男性に贈与した時計などの費用約400万円についても支払いが命じられました。
彼氏・彼女に慰謝料を請求する方法
既婚者の交際相手への慰謝料請求は、裁判外でも裁判上でも可能です。ここでは慰謝料の請求方法について解説します。
- 内容証明郵便を利用して慰謝料を請求する
- 貞操権侵害による慰謝料請求訴訟を提起する
内容証明郵便を利用して慰謝料を請求する
まず、裁判ではない方法で慰謝料を請求する方法として、内容証明郵便を送る方法があります。
内容証明郵便とは、いつ、どのような文書を誰から誰宛ての送ったかを郵便局が証明するサービスです。差出人が作成した文書と同じ文書(謄本)を郵便局が保管することで、日時や送付物の内容を証明することができます。
内容証明自体には、相手に何かをさせる法的な効力はありません。ただ、内容証明は裁判の前段階として活用されることが多く、相手に心理的な圧力をかけることが可能です。
通常、裁判手続きになると費用や手間がかかりますのでできるだけ避けたいと考えます。内容証明郵便を送ることで、相手側に示談や合意に向けての話し合いに応じさせる効果があります。
相手が示談交渉に応じ双方が合意すれば示談書を作成します。双方が署名・捺印した示談書は和解契約の1つとして法的効力を持ちます。相手が慰謝料を支払わない場合に備え、強制執行できるように公正証書として作成することも可能です。
内容証明郵便や示談書の作成は、慰謝料請求に詳しい弁護士などに依頼することで、法的なアドバイスを受けながら進めることができます。また、精神的苦痛に見合った慰謝料請求を実現しやすくなるでしょう。
貞操権侵害による慰謝料請求訴訟を提起する
内容証明郵便を送っても反応がない、もしくは示談交渉で合意できないときは、慰謝料請求の訴訟を提起することになります。
訴訟手続きになると訴状は住所あてに送られるため、相手の配偶者にも慰謝料請求の事実を知られる可能性が高くなり、それが相手への心理的圧力となる場合もあります。
訴訟は当事者間の協議や交渉と異なり、客観的な証拠に基づいて、裁判所が慰謝料請求の可否、金額を判断する手続きです。
できるだけ、精神的苦痛や交際相手の悪質性を証明する証拠を集めることで、より高額な慰謝料請求が可能となります。ただし、法的な根拠に基づいて主張、立証する必要がありますので、早めに弁護士に依頼すべきでしょう。
既婚者の交際相手(彼氏・彼女)に慰謝料を請求する際の注意点
交際相手に騙されていたとしても、慰謝料請求するうえで気をつけなければならないこともあります。
- 仕返しや報復など過激な行動をしない
- 示談書を用意する
仕返しや報復など過激な行動をしない
感情的になって仕返しや報復など過激な行動をしない、あるいはそのようにみなされる行動になっていないか注意が必要です。
騙されていたことに気づいたときの精神的なショックが大きければ、冷静さを失い、相手に仕返ししたい気持ちになるかもしれません。
考えられるのが、交際相手の配偶者に交際の事実を知らせること、あるいはそれを理由に慰謝料請求を迫る行為です。
ただし、交際相手の配偶者に交際の事実を知らせることで、相手が既婚者であると気づかなかったことに落ち度がある場合など、逆に慰謝料請求を受ける可能性もあります。
また、不倫をばらすことを理由に慰謝料請求することは脅迫罪にあたる可能性もあります。
その他、交際の事実を交際相手の職場や友人、知人に知らせたり、SNSで拡散することは、名誉棄損罪などの刑事責任を問われる可能性があり危険です。
既婚者であるこを隠しながら交際を続けた相手であっても、守られるべき個人情報や法的権利がありますので、それを侵害する行為をすると罰せられる可能性があります。冷静に対処することが難しい場合は、第三者の弁護士に依頼するなど落ち着いて進めることが必要です。
示談書を用意する
相手と慰謝料の額や支払い方法について合意できた場合は、示談書を作成するようしましょう。
示談書は法的効力をもつため、必要な事項を記載しておくことで、のちのち責任追及を逃れるための言い訳や反論ができなくなります。示談書には、以下のような事項を記載しておくとよいでしょう。
- 独身と偽って交際していたことを認め、謝罪すること
- 慰謝料の額、支払い方法。支払い期限
- 慰謝料を支払わない場合の違約金などのペナルティ
- 清算条項※
- 守秘義務
- 当事者の署名。捺印など
※清算条項とは、今回の紛争に関し、示談書に記載されている以外については、今後一切請求できないことを双方が確認するための条項です。
これによって、示談後に、交際期間中にお金をだまし取られたので返せなどの主張はできなくなります。
【記載例】
甲と乙との間には、本件に関し、本示談書に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。
交際相手(彼氏・彼女)に既婚者の疑いがある場合の対処法
交際相手に既婚者の疑いがある場合、早く事実をつかみ関係を解消できれば、紛争を防ぐことができます。ここでは既婚者の疑いがある場合の対処法について解説します。
- 自分でチェックできる項目を把握する
- 弁護士に調査を依頼する
自分でチェックできる項目を把握する
まず、相手が既婚者であるかチェックできることがあります。いくつか紹介します。
- 自宅や職場の場所を教えてくれない
- 自宅に行くことを嫌がる、あなたの自宅に泊まらない
- 会えない、連絡がつきにくい曜日や時間帯がある
- 年末年始や連休に会えない
- スマホの中身を見せない
- 車の種類や内部の様子
- 携帯電話がなっても目の前でとらない、チェックしたがらない
- 友人や親族にあなたを紹介したがらない
- 突然の電話を拒否する など
このような行動から既婚者であることが疑われる場合は、「結婚しているのではないか」ということを本人に確認しましょう。そのうえで、否定するようであれば、戸籍謄本や独身証明書を見せて欲しいと正直に依頼してみましょう。
戸籍謄本や独身証明書は、既婚者であるか否かを公的に証明する書類です。のちのち慰謝料請求する場合にも有効な証拠になり得ます。
また、もし交際相手の配偶者から不倫行為の相手方として慰謝料を請求された場合に、交際相手があなたを独身と騙していたことの資料となる可能性があります。
弁護士に調査を依頼する
相手が戸籍謄本や独身証明書を提示せず既婚者であることを認めない場合、弁護士に調査を依頼できます。
弁護士は、弁護士照会や職務上請求によって、相手の戸籍や住民票を取得して既婚者か否かを調査できる場合があります。弁護士照会を利用すれば携帯番号などから調査することも可能です。
ただし、弁護士照会や職務上請求ができるのは、受任事件に関するものに限られます。そのため、交際相手が既婚者であるか否かを調査する目的のためだけに、弁護士照会や職務上請求することは違法となるため、慰謝料請求などを弁護士に依頼することが必要です。
彼氏・彼女が既婚者だった場合にやるべきこと
では、交際相手が既婚者と分かった場合に、どのような対処が必要なのでしょうか。
- 配偶者との問題に巻き込まれないために今すぐ交際をやめる
- 騙されたという主張を裏付ける証拠を集めておく
配偶者との問題に巻き込まれないために今すぐ交際をやめる
交際相手が既婚者と分かった場合は、すぐに交際をやめることが重要です。既婚者と分かったあとも交際を続けることは次のようなリスクがあります。
・交際相手への慰謝料請求が認められないもしくは減額要素になる
・交際相手の配偶者に慰謝料請求される
交際相手に慰謝料請求する場合、既婚者と分かってすぐに交際を止めていれば「既婚者と分かっていたら性行為に同意しなかった」という主張も認められやすくなります。
また、既婚者と分かったあとも関係を続けることは、交際相手の配偶者に対する不法行為に当たります。不法行為には、故意、過失が必要ですが、既婚者であることを知って関係を続けることは故意があるといえます。
なお、交際をすぐに止めたとしても交際相手の配偶者から慰謝料請求を受ける可能性は否定できません。それは、実際の裁判では、あなたが既婚者であることを知らなかったことに故意も過失もないと判断されることが難しいためです。
このような点も踏まえ、交際相手が既婚者と分かれば、すぐに交際を止めることが大切です。
騙されたという主張を裏付ける証拠を集めておく
交際相手が既婚者と分かった場合、騙されたという主張を裏付ける証拠を集めておきましょう。
慰謝料を請求するには、示談交渉や双方の合意が難しい場合もあり、その場合訴訟手続きで進める必要があります。
裁判所の審理では交渉や話し合いではなく、客観的な証拠から主張、立証される事実関係に基づいて判決が下されます。そのため次のような証拠を集めることが大切です。
- 集めるべき証拠1.既婚者である証拠
- 集めるべき証拠2.嘘をつかれた証拠
- 集めるべき証拠3.損害があるという証拠
集めるべき証拠1.既婚者である証拠
1つ目は、交際相手が既婚者である証拠です。
具体的には、住民票や戸籍、配偶者とのラインやメール、SNS上のDMなどです。やりとりのなかで相手が「独身である」という明確な言葉が含まれるものは有効な証拠となり得ます。
集めるべき証拠2.嘘をつかれた証拠
2つ目は、嘘をつかれていた証拠です。
独身であると明確に嘘をついているラインやメールは当然証拠となりますし、既婚者であるにもかかわらず「将来結婚したら…」「子どもができたら…」という内容も嘘をつかれている証拠になり得ます。
また、もともと出会いのきっかけとなったマッチングアプリで未婚として登録していたことなども証拠となり得ます。
集めるべき証拠3.損害があるという証拠
3つ目の証拠は、損害を証明する証拠です。
精神的苦痛は直接確認することが難しいため、精神疾患の診断書や治療、通院歴など医学的な証拠があれば有力です。
また、交際のなかで妊娠・中絶などの事実がある場合は、堕胎手術をした通院、治療歴などが証拠となります。
トラブルになる前にすぐ弁護士に相談する
交際相手が既婚者と分かった場合、弁護士に相談することも大切です。
弁護士に相談することで法的な根拠に基づき、過去の裁判例や解決実績に基づき、精神的苦痛に相当する慰謝料をしっかりと請求できる可能性が高くなります。
また、これまでの男女関係を解消したうえで慰謝料請求するとしても、お互いに感情的になりやすく話し合いが難しくなることも予想されます。間違った言動は、逆に慰謝料を請求される可能性がありますので、冷静に代理人として弁護士に依頼する意味は大きいでしょう。
示談するとしても示談書の作成や訴訟手続きに至る場合は、訴状の作成を含めて依頼できます。
また、注意しなければないのは、交際相手の配偶者から慰謝料請求をされる可能性がある点です。既婚者であると知らなかったとしても、慰謝料を請求される可能性はありますので、弁護士であればその対処法についても相談することが可能です。
まとめ
交際相手が既婚者であった場合、慰謝料を請求することは可能です。貞操権の侵害行為があったことから精神的あるいは肉体的な損害を受けていれば慰謝料請求はできます。
慰謝料の額の相場は50~200万円と言われていますが、ケースバイケースです。当事者の年齢や交際期間、交際相手の悪質性などによって慰謝料の額は変わります。
実際に慰謝料を請求するには、内容証明郵便を活用して請求し、相手と合意できれば合意内容として示談書を作成することが大切です。ただし、話し合いで解決が難しければ、訴訟手続きで請求することになります。
なお、慰謝料を請求する際に、感情的になって、「相手の配偶者に交際の事実をばらす」「会社や友人にばらす」などの報復的な行為にならないように注意しなければなりません。場合によっては、逆に慰謝料請求を受ける可能性があるためです。
このように、交際相手が既婚者と分かった場合、精神的なショックも大きいことが予測されるなかで、冷静に慰謝料請求するのは困難な場合もあります。また、裁判手続きに至る可能性もあるため、事前に証拠を集めておくことも必要です。
そのため、交際相手に慰謝料請求を考える場合、不倫問題などに強い弁護士に相談、依頼することは有力な方法です。弁護士に依頼することで、法的なサポートを受けながら、希望する慰謝料請求が実現できる可能性は高くなるでしょう。
無料相談・電話相談OK!
一人で悩まずに弁護士にご相談を
- 北海道・東北
-
- 関東
-
- 東海
-
- 関西
-
- 北陸・甲信越
-
- 中国・四国
-
- 九州・沖縄
-