DV(家庭内暴力)の離婚慰謝料相場は50万~300万円
DVとは「ドメスティック・バイオレンス」のことで、主に夫婦やパートナー間の身体的・精神的暴力を指します。DV被害者は精神的苦痛に対する賠償金として、慰謝料の支払いを加害者に請求できます。
DVが原因で離婚となった場合、慰謝料の相場は50万~300万円程度です。ただ明確に決められているわけではないため、話し合いにより相場を大きく上回る金額を相手が支払うことになるケースもあります。
裁判に至った場合、次の章でご紹介するようなポイントや過去の判例を参考にした上で、慰謝料金額が決定します。
慰謝料金額が高くなるのは、「DVの悪質さや頻度が高い」「被害者側の主張内容を裏付ける証拠が揃い、請求額に信憑性が出る」といったケースです。
ちなみに慰謝料以外にも、通院に伴う治療費や後遺症に伴う損害についても請求可能です。
離婚に至る場合は、財産分与や子どもの養育費なども得られます。
たとえば夫がDVをして妻に離婚慰謝料を支払う場合、妻の財産分与の分与分を多くする(上乗せする)形で、離婚慰謝料を含めて分与・支払いをすることがあります。
DVによる離婚の慰謝料金額が決まるポイント
DVにより離婚に至った場合の慰謝料額は、主に以下7つの要素を加味した上で決定されます。
- DVの証拠の有無
- 婚姻期間
- DVの回数や期間
- DVによる怪我や障害の有無・程度
- 被害者側の責任の程度
- DV加害者の年齢・年収
- 未成年者・養育が必要な子供の有無や子供の年齢
それぞれ詳しく解説します。
DVの証拠の有無
DVによる慰謝料請求を行うには、DVが確実にあったことを立証できる証拠を用意する必要があります。
夫婦間のDVは主に家庭内で行われることから、被害者からの「DVされた」という証言だけでは、第三者から見て本当にDVがあったのかどうかの判断ができません。
過去には実際に、DVの事実がないにもかかわらず被害を受けたと主張する、偽装DVの訴えを起こされた事例がいくつも存在します。
適正な慰謝料を認めてもらうためにも、DVを受けたら以下のような証拠を集めておくことが大切です。
DVの回数・期間
DVを受けた回数が多い場合、慰謝料増額の要因になります。また、DVを受けた期間が長いことも、慰謝料増額の要因です。
DV回数や期間に比例し、被害者が身体的・精神的苦痛に耐えていた期間も長かったことが考慮されます。
DVによる怪我や障害の有無・程度
DVによって怪我を負ったり精神的な病気を患ったりした場合、慰謝料が高くなる傾向があります。
過去の判例では、被害者がDVのストレスでうつ病やPTSDになった事実を重く見られ、高額の慰謝料が認められたケースもあります。また後遺症が残ってしまった場合は、通常のDV慰謝料に加えて後遺症障害慰謝料なども上乗せされます。
怪我をしたりうつ病になったりしていなくても、DVを立証できれば慰謝料請求は可能です。
婚姻期間
婚姻期間が長ければ長いほど、慰謝料は高額になる傾向があります。
長期に及ぶ婚姻生活の中でDVを受けた場合、被害者の精神的苦痛はとくに大きいと判断されるためです。
反対に婚姻期間が1年未満といった短いときは、慰謝料が減額される傾向が見られます。
被害者側の責任の程度
「DV被害者が不倫をしていた」「被害者側も暴力・暴言を行っていた」など、被害者側に落ち度があるときは、原則として慰謝料は減額される傾向にあります。
被害者の落ち度があったところで加害者のDVは正当化されないものの、もし被害者に落ち度があるときは夫婦双方が「有責配偶者」となります。有責配偶者になると被害者側にも責任があるとみなされるため、高額のDV慰謝料をもらうのは難しいと言えます。
DV加害者の年齢・年収
DV加害者の年齢や年収が高い場合、充分な支払い能力があるとみなされ、協議や調停にて請求できる慰謝料額も高くなりやすいです。
たとえば、加害者が医師や政治家など社会的地位の高い職業に就いている場合は、収入が低い人と比べて慰謝料が高額になる傾向があります。
とはいえ高くなる理由は、あくまでDV加害者の謝罪の気持ちや現実的に支払える金額が反映されているだけです。
「加害者側の謝罪の意思が薄く、高額の慰謝料に納得しそうにない」「裁判の判決で決着が付く」といったケースでは、年齢・年収はそこまで考慮されず、立証されたDVの事実に基づいて慰謝料金額が決まります。
未成年者・養育が必要な子どもの有無および年齢
子どもの有無や人数も、慰謝料額に大きく関与します。
離婚後に養育する子どもの人数が多いほど、かつ子供の年齢が低いほど慰謝料額は高額になりやすいです。
DVに対する離婚の慰謝料を高額にする方法
DVが原因となった離婚に対する慰謝料は、事前準備や対応の仕方によって高額にできる可能性があります。DVに対する離婚の慰謝料を高額にする方法は次の通りです。
- DVを示す確実な証拠を揃える
- 暴力的DV以外にも請求事由がないか確認する
- 裁判ではなく協議などで慰謝料金額を設定する
- 分割払いを提案する
- 弁護士に相談する
DV被害に対する適切な慰謝料を得るためにも、以下より具体的な方法を確認してみてください。
DVを示す確実な証拠を揃える
DVを示す確実な証拠を揃えることで、被害者側が請求した慰謝料額の正当性を立証できます。そのため、被害者側は請求した通りの慰謝料を得られる可能性が上がります。
しかし家庭内DVの立証は、証言できる第三者の存在が子どもなどしかいないため、立証が困難になるのが一般的です。
DVを示す確実な証拠を集めるには、「何を集めればよいのか」「どのように集めればよいのか」を、具体的に知っておきましょう。信頼できる家族・友人や、専門的知識を持つ弁護士に協力してもらうことも視野に入れてください。
以下では、DVの証拠になるものをいくつか紹介します。
DVによってできた傷やアザなどの診断書・写真
暴力を受けて傷やアザが体に付いたときは、傷やアザの状態がわかる写真や動画を撮っておきましょう。写真や動画に残すときは、以下のポイントを意識してください。
- 身体のどこに怪我があるのかがわかるようにする
- 遠くから撮ったものと、近くから撮ったものを準備する
- 怪我が治って消える前に、できる限り早い段階で残しておく
発生した傷やアザに関しては病院へ診断を受け、診断書を発行してもらうことも証拠残しとして重要です。怪我の程度や原因・経緯などを記載してもらった診断書は、DVがあったことを示す有力な証拠となります。
診断終了後5年以内であれば後から診断書を書いてもらえるので、過去の怪我について診断書がほしいときは一度病院へ確認してみてください。可能であれば、レントゲンやMRIの結果や画像データも残しておくとよいでしょう。
身体的怪我と同じように、精神的な障害を患ったときも、病院から診断書を受け取っておくことを推奨します。
DVを受けている時の録音・録画データ
可能であれば、DVを受けている最中の様子を録音・録画しておくことが望ましいです。
お互いの声や暴行時の音などが録れていればDVを示す強い証拠となります。もしはっきりと暴行時の様子を録画できていれば、加害者は言い逃れできません。
ただし、録音や録画をしていることが加害者にバレると逆上されるリスクもあるため、無理は禁物です。
DVを受けている内容についての具体的な記録・メモ・日記
DVを受けている様子や内容を記したメモ・日記を残しておくことで、DVがあったことを示す有力な証拠になります。DVを受けた日時、DVされた時間、DVの内容などを具体的に記録しておきましょう。
メモや日記は長期間継続的に付けることで、証拠としての信用性が増します。協議・調停・裁判の場で、被害者側の主張を強く補強してくれるでしょう。
DVについて知っている第三者の証言
家族や友人などの第三者の証言も、DVの証拠となる場合があります。
暴行があった日時や場所、怪我の状態などを細かく証言してもらい、陳述書にまとめることで有力な証拠になります。
陳述書に効果を持たせるため、証言者に署名、押印をしてもらうのを忘れないようにしましょう。
警察などの公的機関への相談履歴
DVを受けた際、警察や配偶者暴力相談支援センターなどの公的機関に相談すると相談記録が残り、これがDVの証拠になります。
また保護命令を申し立てる場合には、基本的に公的機関に相談をしていることが要件にもなります。
そのため、DVを受けたら身の安全を確保するためにも、なるべく早めに警察などの公的機関に相談しましょう。
暴力的DV以外にも請求事由がないか確認する
暴力的DVを受けている場合、同時に精神的DVを受けているケースも考えられます。精神的DVも、損害賠償請求の対象です。
このように、暴力的DV以外にも損害賠償の請求事由があるときは、まとめて相手へ請求すると高額の慰謝料になる可能性が高くなります。
暴力的DVや精神的DV以外で、家庭で発生しやすい慰謝料の請求事由になるものが次の通りです。
- 不貞行為
- 離婚に伴う精神的苦痛
- 家事や育児に協力しないといった悪意の遺棄
- 子どもの連れ去り
- 過度な浪費・ギャンブルや、それらに伴う多額の借金による生活苦
裁判ではなく協議などで慰謝料金額を決定する
高額の慰謝料が認められやすいのは、離婚裁判にまで発展したケースよりも、その前段階である協議や調停時点で話し合いをまとめるケースです。
協議や調停のほうが高額の慰謝料が認められやすい理由は、次の通りです。
- 金額を当事者同士で決められるため、裁判での慰謝料の相場に縛られない
- 早期決着を望まれて、高額の慰謝料でも同意してくれる場合がある
- 裁判では認められない事由に対しても慰謝料を請求できる
- 離婚裁判にかかる弁護士費用がなくなり、トータル収支がプラスになりやすい
日本の離婚の約9割は、協議離婚です。そのため、DVが原因の離婚であっても、まずは協議離婚を目指すのが一般的だと言えるでしょう。
分割払いを提案する
DV加害者に対して高額な慰謝料を請求しても、相手が払えない場合はお金を回収できません。とはいえ、相手が支払えないからと請求金額を下げるのは、実質的に被害者側の損失になります。
慰謝料の一括払いが難しそうな相手の場合は、分割払いを提案するのがよいでしょう。分割払いなら、すぐに高額の慰謝料を支払えない相手でも、時間をかけて回収しやすくなります。
分割払いを提案するときは、分割払いの旨および分割払いが滞ったときの対応を「公正証書」に記し、法的効力を持つ約束事にすることを推奨します。
公正証書で残しておけば、相手が途中で支払いを拒否しても裁判せずに相手の財産を差し押さえられます。
同時に遅延損害金についても決めておくと、より相手へ支払いのプレッシャーを与えられるでしょう。
弁護士に相談する
高額の慰謝料を請求するときは、事前に弁護士へ相談し協力してもらうことを推奨します。
慰謝料請求や離婚問題に強い弁護士であれば、DV加害者に対する対応の代行や、法的根拠を基にした妥当な慰謝料の設定などを任せることが可能です。
DVの慰謝料や離婚の慰謝料に関して弁護士に依頼するメリットは、記事内「DV離婚慰謝料について弁護士に相談するメリット」や、以下の関連記事にてわかりやすく解説しています。
DVによる離婚慰謝料の裁判例・事例
ここからは実際のDVが原因の離婚慰謝料について争った裁判例・事例について解説します。
慰謝料総額50万円のケース
財産分与や養育費、親権の争いに加えて、過去のDVについての慰謝料を請求した事例です。
家庭の状況 |
未成年の子ども2人あり
離婚調停を申立済 |
慰謝料額 |
50万円 |
請求相手 |
夫 |
判決等のポイント |
DVの証拠が乏しかったが、最終的に夫側が慰謝料を認めた |
本件では、暴力的DVを客観的に判断できる証拠がありませんでした。
夫が最後まで認めなければ慰謝料を得ることは難しいと予想されたものの、妻が精神的苦痛をしっかりと主張したこと、夫が早期解決を求めていたことなどが要因で、解決金という形で妻に50万円が支払われています。
このように、DVの証拠が集まらなくても状況によっては慰謝料が認められる場合があります。とはいえDVの証拠がない場合は、慰謝料が認められたとしても相場よりも低くなると想定しておきましょう。
慰謝料100万円のケース
結婚して間もない夫婦間で起こった、婚姻から離婚に至るまでのDV事案に対して慰謝料請求した、東京地方裁判所平成18年1月17日の判決です。
家庭の状況 |
婚姻期間1年2ヶ月
夫婦関係が良好な時期あり |
慰謝料額 |
100万円 |
請求相手 |
夫 |
判決等のポイント |
婚姻期間の短さ、DV時期の短さなどが慰謝料金額に影響した |
東京地裁は裁判を通じて、元夫によるDVを認めました。その一方で、婚姻期間の短さ、実際にDVがあった期間の短さ、暴力の程度(ベッドから落とす、顔を足で踏むなど負傷しないレベル)を考慮し、慰謝料金額を100万円としています。
短期間のDVや怪我をしない程度のDVだと、慰謝料金額はそこまで高額にならないという事例です。
しかし見方を変えれば、短期間かつ負傷しない程度の暴力でも、100万円もの慰謝料が認められたとも言えるのではないでしょうか。
慰謝料総額400万円のケース
DV慰謝料として、総額400万円の支払いが命じられた裁判が、平成10年2月16日に東京高等裁判所で行われています。
家庭の状況 |
一般的な夫婦 |
慰謝料額 |
400万円 |
請求相手 |
夫 |
判決等のポイント |
強い暴力があり、なおかつ妻側に落ち度が認められていない |
当該裁判の判決では、夫から妻に対する殴る、蹴る、髪を掴んで引きずり倒すといった強い暴力が認められました。またこの暴力に対し妻の有責性はないとし、400万円の慰謝料となっています。
慰謝料800万円のケース
DVの内容や背景を鑑みて、慰謝料800万円という相場を大きく超える金額が認められる判例も存在します。神戸地方裁判所平成13年11月5日の判決です。
家庭の状況 |
婚姻期間17年
子ども2人
財産分与も請求 |
慰謝料額 |
800万円 |
請求相手 |
夫 |
判決等のポイント |
結婚当初からの暴力匂わせ、暴力的DVが原因による妻の精神障害など、長年に渡る悪質なDV行為が認められた |
このケースでは、夫から妻への強い暴力的・精神的DVが認められました。「結婚当初からの暴力匂わせ」「妻の体調・意思を無視した性行為の強要」「子どもの面前での暴力」「子どもへの暴力」などです。
さらにこの事件では、DVが原因で妻が自殺未遂を何度も繰り返したり、妻がPTSDと診断されたりなど、妻の精神面での負担が非常に大きくなっていました。加えて婚姻期間が17年と長期間であり、子どもへの悪影響なども考慮され、800万円もの慰謝料が認められています。
慰謝料1,300万円のケース
DVや不貞行為を原因とする慰謝料の中には、1,000万円を超えるケースも存在します・東京地方裁判所平成14年7月19日の判決です。
家庭の状況 |
婚姻期間25年
継続した不倫期間10年 |
慰謝料額 |
1,300万円 |
請求相手 |
夫 |
判決等のポイント |
長年の不倫に加え、妻への多大な経済的負担をかける経済的DVが見られた |
婚姻期間25年という長年の夫婦だったにもかかわらず、夫は10年間の不倫を継続して行っていました。夫と不倫相手は海外で1年間同棲したうえに、帰国後は妻が住む住所の近くで不倫相手と同棲を継続しています。さらに一緒に店を再開するといった、不倫行為を相手に見せつける悪質な行為も確認されています。
加えて夫は、資金繰りのために妻に多大な経済的負担をかけていました。こうしたさまざまな背景が考慮され、夫1,000万円、不倫相手300万円の慰謝料が認められています。
DVによる慰謝料請求が棄却されたケース
DVを受けたと訴えたとしても、DVの事実が確認できないと慰謝料請求が棄却される可能性があります。以下では、500万円の慰謝料請求が棄却された例を紹介します。
家庭の状況 |
相談者となった夫は穏やかで紳士的、DVの気配が見られない |
慰謝料額 |
棄却(請求額500万円) |
請求相手 |
夫 |
判決等のポイント |
偽装DVと判断される |
本案件では、夫によるDVの事実が認められませんでした。むしろ夫は、妻との関係を修復するために、さまざまな試行錯誤をしていたことが判明しています。弁護士と夫で証拠を収集し、妻が主張するDVがなかったことを証明しています。
このように500万円という高額の慰謝料の請求があっても、偽装DV・冤罪DVを立証できれば慰謝料は認められません。
DVが原因の離婚慰謝料請求の流れ
DVが原因の離婚慰謝料を請求するときは、以下の流れで進んでいきます。
- DVの事実確認や証拠集めを行う
- 話し合いによる協議離婚にて慰謝料・示談金を求める
- 家庭裁判所での調停離婚にて慰謝料・示談金を求める
- 離婚訴訟を提起し慰謝料・和解金を求める
それぞれの詳細を見ていきましょう。
DVの事実確認や証拠集めを行う
DVを立証し慰謝料請求に正当性を出すには、DVの事実があったことをあらためて確認したうえで、DVの証拠集めを行いましょう。
DV離婚の慰謝料は、DVの事実を立証できるか否かが大きなポイントとなります。そのため、DVの証拠集めは協議や裁判が始まる前に集められるだけ集めておきましょう。
また、暴力的DVや精神的DV以外での慰謝料請求の事由があるときは、それらについての事実確認や証拠集めも必要です。事前準備は、慰謝料の金額を左右します。弁護士といった第三者と協力しながら進めましょう。
話し合いによる協議離婚にて慰謝料・示談金を求める
離婚について話を進めるときは、調停や裁判を行う前に、当事者同士による協議によって慰謝料金額や離婚の有無を話し合うのが一般的です。
とはいえ、DV加害者と被害者を2人きりで話し合うのは安全面での不安があり、相手からの脅迫・威圧を伴った交渉となるリスクがあります。協議を進めるときは、弁護士や親族などの第三者に協力を依頼しましょう。
協議離婚のほうが、裁判離婚よりも慰謝料金額やその他離婚条件を柔軟に決められます。できる限り、協議離婚にて慰謝料や示談金を決めることを推奨します。
家庭裁判所での調停離婚にて慰謝料・示談金を求める
協議で慰謝料や離婚を決められなかったときは、家庭裁判所にて慰謝料請求調停や離婚調停を申し立てるのが一般的です。調停とは、家庭裁判所にて第三者の裁判官・調停委員を介して、当事者同士で話し合いを行う法的手続きです。
調停はあくまで当事者同士の話し合いがメインであり、調停委員は調停がスムーズに進められるようにサポートするイメージになります。調停は夫婦別々の部屋で行われるため、夫婦が直接話し合うことはありません。そのため配偶者を気にせずに自身の意見を述べやすくなっています。
また裁判官は、裁判のように調停の結果について判決を下すことはありません。
調停が成立したときは、合意した内容を記した「調停調書」が作成されます。調停調書は裁判の判決文や和解書と同じ効力を持つため、原則として調停調書の内容通りの慰謝料や離婚が履行されます。もし離婚調停の内容を相手が履行しなかったときは、強制執行をかけることが可能です。
離婚訴訟を提起し慰謝料・和解金を求める
家庭裁判所での調停が不成立になった場合、「調停前置主義」を満たせるので、離婚訴訟を起こせるようになります。調停前置主義とは、「家庭調停事項は、訴訟を起こす前に必ず調停による話し合いをすべき」という日本の司法制度の決まりです。
ただし離婚を伴わずDVの慰謝料のみを請求する場合は、調停前置主義が適用されません。いきなり訴訟を起こせます。
DVによる慰謝料・離婚訴訟を提起したときは、法廷での審理にて慰謝料金額や離婚の成立不成立について争われ、裁判官による判決が下ります。
一方で、裁判中に裁判官や当事者から和解の提案が出たときは、判決を待たずに和解による決着を付けることも可能です。和解の場合は、協議や調停と同じようにある程度柔軟な条件を設定できます。和解になったときは、「和解書」が作成されます。
もしも離婚裁判での判決に納得がいかなかったときは、高等裁判所での審理を求める控訴を行いましょう。
安全・確実なDV離婚慰謝料の請求のためのポイント
DV被害を受けている方が慰謝料請求を安全に行うためにすべきことは、以下の3つです。
- DVが原因で身の危険を感じるならまず避難する
- 第三者を挟んだ協議を行い、解決しない場合は調停や裁判に移行する
- 離婚時の慰謝料などを取り決めたら必ず公正証書に記す
それぞれ詳しく解説します。
身の危険を感じるならまず避難する
相手の危険性が極めて高く身の危険を感じる場合は、まずDV加害者から避難することを優先しましょう。身の危険や恐怖心を持ったままDV離婚や慰謝料について公平公正に話し合うのは、身体的にも心理的にも非常に難しいからです。
離婚交渉をする前に別居、DVシェルターへの避難、実家への帰省といった方法で、物理的に避難するのがよいです。婚姻を継続している限り、別居中でも収入の多い側に対して婚姻費用を請求できます。
保護命令の申し立てを行う
DV加害者を安全に遠ざける方法として、DV加害者の接近を防ぐ「保護命令」の申し立ての利用もおすすめです。
保護命令とは、DV被害者の申し立てによって、裁判所が加害者に対して接近禁止、退去、電話禁止などの命令を行うことです。条件が整えば子供への接近禁止や電話の禁止なども命令でき、違反すれば加害者は懲役または罰金が科されます。
保護命令の申し立てをするには、まず「警察や配偶者暴力相談支援センターへの相談等」や、「公証人面前宣誓供述書の作成」が必要です。その後、地方裁判所にて保護命令を申し立てます。申立人や加害者の尋問を経て、申し立てが認められれば保護命令が発令されます。
参考:裁判所「保護命令手続について」
相談センターや警察への相談実績を作っておく
DVをしてくる配偶者と離婚したいけれどどう行動すべきかわからない方は、DV被害を無料で相談できる機関・サービスを利用するのもおすすめです。相談実績を作っておけば、DVがあったときの証拠として使えます。また、親族や友人を頼れないときに緊急の相談先として使うことも可能です。
DV被害を無料で相談できる機関・サービスは次の通りです。
- 内閣府のDV相談+
- 各都道府県のDV相談センター
- 警察
- 弁護士
弁護士や親族などの第三者を入れて話し合う
DV加害者と協議を行うときは、弁護士や親族などの第三者を入れて話し合うことを推奨します。身の安全の保証や、客観的な意見の取り入れなどが目的です。DV被害者が離婚を切り出すと、加害者が逆上して暴力をふるうケースがよく見られます。
冷静な話し合いや法的視点からの反論などを考えると、弁護士に入ってもらうほうがより効果的です。
弁護士などの第三者を挟んで離婚交渉をしても解決しなかった場合は、調停や裁判を申し立てることになるでしょう。基本的に、離婚をする際はまず協議を行い、話がまとまらなければ調停、それでも不成立なら裁判となります。
慰謝料が支払われないときの対処法を知っておく
協議離婚や裁判離婚で慰謝料や離婚が成立しても、相手が慰謝料を支払わないケースがあります。慰謝料が支払われないときは、以下3つの対処法にて慰謝料を回収しましょう。
- 協議内容は公正証書に残しておく
- 弁護士から内容証明郵便を送ってもらう
- 強制執行の申し立てをする
協議内容は公正証書に残しておく
離婚時の話し合いで慰謝料や養育費について取り決めたら、金額や支払い方法、支払い期限などを必ず公正証書にまとめておきましょう。
公正証書は、記載する内容を整理した上で公証役場へ申し込み、公証人の確認および作成準備が完了次第、夫婦二人で公証役場へ行き作成します。
公証人が作成する公文書であることから高い証拠力を持ち、慰謝料や養育費の不払いなどがあった場合、公正証書をもとに財産差し押さえなどの強制執行ができます。不払い対策として、公正証書の作成は必須と言えます。
弁護士から内容証明郵便を送ってもらう
弁護士から相手へ内容証明郵便を送ってもらうことで、以下のメリットがあります。
- 慰謝料を請求した証拠が残るので、「受け取っていない」といった言い訳を防げる
- 相手に対して本気度を伝えられ、心理的なプレッシャーを与えられる
- 内容証明郵便で催促すれば、慰謝料請求の時効の完成を6ヶ月間猶予される
強制執行の申し立てをする
調停調書・和解書・判決文・その他公正証書にて慰謝料金額や離婚などの条件を定めているときは、公正証書に記された債務名義に基づく強制執行を裁判所へ申し立てられます。
強制執行が行われると、給料や預貯金、不動産、自動車、家財道具、建物といった財産を差し押さえられます。
時効が成立していないか確認する
DVに対する慰謝料は、離婚後でも請求できます。ただし、最後のDV行為から3年で時効になってしまうため注意が必要です。
もし時効が迫っている場合、内容証明郵便を送るなど証拠を残した上で請求すれば、6ヶ月間だけ時効を猶予できます。また調停や裁判を起こしたり、話し合いで相手が慰謝料の支払いを承認したりした時点で時効は更新されるので、ゼロから新たに進行する形になります。
なお、過去にDVを受けた際に相手との話し合いを経て許していた場合、慰謝料請求権を放棄したとみなされ、基本的に慰謝料の請求はできなくなる点は注意してください。ただ、もしその後も繰り返しDV行為があった場合は、悪質性が高いとして高額な慰謝料を請求できる可能性があります。
DVの慰謝料請求以外で離婚時に決めるべきこと
DVで離婚する際、慰謝料請求以外にも以下4点について決めておくべきです。
- 財産分与
- 年金分割
- 婚姻費用
- 養育費・親権
- 面会交流
それぞれ詳しく解説します。
財産分与
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた共有財産を分割することです。共働きであっても専業主婦であっても、婚姻期間中に得た財産は共有財産と推定され、分割割合は原則として2分の1とされています。
財産分与の対象となるのは、婚姻期間中に貯めた預貯金や不動産、家財などです。
年金分割
年金分割は、婚姻期間中に納めた厚生年金や共済年金の保険料の納付記録を分割し、将来受け取る年金額を調整できる制度です。
相手が厚生年金や共済年金を自分よりも多く納付していた場合、年金分割をすれば将来の年金受給時に加算されます。たとえば夫が会社員で妻が専業主婦だった場合、年金分割をすることで妻側のメリットが大きくなります。
なおDVが原因での離婚の場合は、年金事務所に住所を秘匿している旨を伝えれば住所がわかる記載のない書類を交付してもらうことが可能です。
婚姻費用
離婚前に別居をしている場合、収入の少ない方は相手に対し、婚姻費用として生活費を請求できます。婚姻費用は原則として請求時点から支払義務が発生するため、別居したらできる限り早めに請求するのがおすすめです。
婚姻費用額は、改定標準算定表に従って決定されます。
もし相手と直接交渉したくない場合は、弁護士に依頼し婚姻費用分担請求調停を起こすのがよいでしょう。調停が不成立となれば審判に移行し、裁判所が改定標準算定表に従い婚姻費用額を決定します。
裁判所「養育費・婚姻費用算定表」
養育費・親権
離婚時に未成年の子どもがいる場合、子どもの親権者を決める必要があります。親権者にならなかった側は、子どもの監護や教育のための費用として養育費を親権者に支払わなければなりません。
養育費は子の年齢、人数、健康状態、親の年収などによって変わります。養育費の金額は一般的に養育費算定表に従い決定されますが、両者が合意してさえいれば金額に指定はありません。
DVにより離婚に至った場合、養育費に関しての話し合いは難航するケースが多いため、はじめから弁護士に同席してもらうことで取り決めをスムーズに行いやすいです。
裁判所「養育費・婚姻費用算定表」
面会交流
子どもがいる場合、養育費や親権の他にも面会交流についても決めておきます。面会交流とは、親権を持たない親と定期的かつ継続的に交流できる、子どもが持つ権利です。
面会交流は、頻度、時間、場所などの基本的なことから、宿泊の有無、学校行事への参加、プレゼント等の決まり、連絡手段、接し方などもルールとして決めておきます。面会交流について定めたときは、正当な理由なく面会交流を拒否することはできません。
拒否した場合は、違法行為として損害賠償請求の対象になる可能性があります。
ただし、子どもが拒否している、子どもへのDVが懸念される、子どもの連れ去りが発生する可能性があるといったケースが想定されるときは、正当な理由として面会交流を拒否または制限できます。
DV離婚慰謝料について弁護士に相談するメリット
DV離婚慰謝料の協議・調停・裁判を行うときは、事前に弁護士へ相談することを推奨します。DV離婚慰謝料について弁護士に相談するメリットは次の通りです。
- DV事由で高額の慰謝料請求が認められやすくなる
- DV以外で認められそうな慰謝料請求にも対応してくれる
- DV相手との交渉を代行してくれる
それぞれ詳細を見ていきましょう。
DV事由で高額の慰謝料請求が認められやすくなる
弁護士の協力を得られれば、DV事由を根拠にした慰謝料請求において、高額の慰謝料が認められやすくなります。具体的な理由は次の通りです。
- 協議や裁判などで有効なDVの証拠集めについてのアドバイス・サポートをしてくれる
- DVの証拠や被害者側の主張について、法的視点と専門知識を持って適切に主張してくれる
- 配偶者や配偶者の弁護士などの主張に対して反論してくれる
弁護士費用は決して安くないものの、弁護士費用を惜しんで弁護士に依頼できないと、慰謝料が1円も入ってこないリスクがあります。相手が弁護士を付けて対応しているときは、相手の反論に丸め込まれて離婚すら認められないかもしれません。高額の慰謝料を望むなら、弁護士への相談をおすすめします。
DV以外で認められそうな慰謝料請求にも対応してくれる
離婚問題に強い弁護士であれば、DVが原因の慰謝料や離婚以外の問題にも対応してくれます。
DV慰謝料の協議や裁判に合わせて、「相手が不貞行為をしている」「親権を無理に奪おうとしている」「養育費を誤魔化そうとしている」といった離婚に伴う問題があるときは、DV関係を合わせて弁護士に相談しましょう。
財産分与、養育費、慰謝料などを適切に請求できれば、高い弁護士費用を支払っても収支がプラスになる可能性が高くなります。
DV相手との交渉を代行してくれる
弁護士であれば、協議や裁判などにおける相手からの交渉・主張に対して、あなたの代わりにDV相手との話し合いを代行してくれます。
DV被害者がDV加害者と相対するのは、精神的負担が非常に大きいうえに、さらなるDVに発展するリスクがあります。ストレス軽減や冷静な交渉を求めるときは、弁護士に相談しましょう。
まとめ
DV慰謝料の相場は一般的に50万~300万円程度ですが、DVの程度や被害の大きさによってはさらに高額の慰謝料を請求できるケースもあります。慰謝料額は、婚姻期間やDVを受けた期間、怪我の有無など複数の要素により決定されます。
適正な慰謝料をもらうためには、DVがあったことを立証できる確実な証拠を集めておくことが大切です。1人で戦おうとせず、弁護士や公的機関を頼りながら離婚成立を目指して着実に行動していきましょう。
弁護士に相談すれば、DVの証拠集めのアドバイス、相手の主張に対する法的な反論、DV加害者との交渉代行など、精神的な負担を負っているDV被害者にとって心強いサポートを受けられます。
DV被害以外にも相手の不貞行為、養育費踏み倒し、親権主張などの問題にも対応してくれるので、DV離婚に関するさまざまな相談があるときは、弁護士を利用することを推奨します。
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