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2024年10月現在

中絶による慰謝料の相場は?請求できるケースや時効、請求方法を解説

中絶 慰謝料 相場
南陽輔 弁護士
監修者
南 陽輔
大阪市出身。大阪大学法学部、関西大学法科大学院卒業。2008年に弁護士登録(大阪弁護士会所属)。大阪市の法律事務所に勤務し、離婚問題や債務整理などの一般民事事件のほか、刑事事件など幅広い法律業務を担当。2021年に一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成の支援、起業時の法的なアドバイスなどの予防法務を中心に業務提供をしております。皆さんが利用しやすく、かつ自由で発展的なビジネスが可能となるサービスを提供いたします。

妊娠・中絶は非常にデリケートな問題です。「中絶による慰謝料の相場は?」「慰謝料を請求したいけど、そもそもできるかどうかわからない」など、中絶慰謝料について悩みを抱えていてもなかなか相談できずに困っている人もいるのではないでしょうか。

中絶慰謝料の相場は50万円〜300万円だといわれています。​​しかし、まだ認められたケースは多くなく、確実な数字ではありません。また、婚約しているかどうかやどのような経緯で妊娠・中絶に至ったかによっても金額は異なります。

慰謝料請求の対象になるには、相手の行いが不法行為といえるかどうかが重要​​です。たとえば合意のない性行為による妊娠・中絶や、妊娠を伝えた直後不当に婚約破棄され中絶を選択せざるを得なくなった場合など、「相手の不法行為によって精神的苦痛を受けた」といえる状況が必要です。

この記事では、中絶慰謝料の相場や請求できるケース、時効について解説します。請求方法も解説していますが、自力での対応を困難に感じたら、弁護士に相談することをおすすめします。

中絶による慰謝料の相場は50万円〜300万円程度

中絶慰謝料が認められたケースはまだ多くないため確実な数字ではありませんが、50万円〜300万円程度が相場​​だといわれています。金額に幅があるのは、以下のような事情によって妥当といえる請求額が異なるためです。

  • 婚約しているかどうか
  • 妊娠・中絶に至った経緯
  • 中絶の時期

たとえば婚約中に中絶せざるを得なくなった場合、慰謝料が高額になる可能性があります。​​それに対し婚約していない男女のケースでは、請求できても100万円以下になるなど、高額になりにくい傾向にあります。

ただし婚約していない場合でも、暴力や中絶の強要など、相手の行動に不法行為が存在すると高額になりやすいため、状況によってさまざまです。

そもそも慰謝料とは精神的苦痛への賠償である

そもそも慰謝料とは、相手の不法行為によって精神的苦痛を受けた場合に発生する損害賠償金です。不法行為に基づいて損害賠償を請求するには、以下の要件を満たしている必要があります。

  • 相手の行いによって精神的苦痛を受けたこと
  • 相手の行いが「不法行為」にあたること
  • 慰謝料請求が可能な期限を過ぎていないこと

不法行為とは、故意または過失によって、他人の権利や法律上保護されるべき利益を侵害する行為をいいます。「故意」はわざと、「過失」は不注意と解釈してもよいでしょう。

たとえば妊娠した彼女を「中絶しろ」「でないと殴る」などと脅して中絶するよう仕向ける行為は、「脅せば彼女が怯えて中絶に同意する」とわかったうえで行っているため故意によるものだといえます。

また、慰謝料請求権には時効があります。​​詳しくは後述しますが、中絶手術から3年以内に請求しなければ、不法行為に基づく損害賠償請求権は時効によって消滅するため注意が必要です。

参照:民法第709条、710条|e-GOV法令検索

「中絶した」という事実のみでの慰謝料請求は難しい

単に「中絶した」というだけで当然に慰謝料が認められるわけではありません。​​前述のとおり、本来慰謝料とは相手の不法行為によって発生するものであるためです。

基本的に性行為も中絶も合意があれば、お互いに責任があると考えられるため不法行為にはあたりません。そのため中絶費用は折半してもらえても、慰謝料までは請求できないことが多いのです。

しかし、かといってすべての中絶トラブルで慰謝料が認められないわけではありません。妊娠・中絶に相手の不法行為が関わっている場合や、権利を侵害されたといえる事情があれば結果は違ってくるでしょう。

中絶による慰謝料請求が認められるケース

前述のとおり、妊娠・中絶に相手の不法行為や権利を侵害された事情が存在している場合は、中絶慰謝料が認められる可能性があります。

ここでは、慰謝料請求が認められるケースについて解説します。

  • 強要・暴力による中絶は、強要や暴力が不法行為にあたるため慰謝料請求の対象になる
  • 避妊していないにもかかわらず「避妊している」と偽られた結果妊娠・中絶した場合、女性の「妊娠に対する自己決定権を侵害した」といえるため請求できる可能性がある
  • 合意のない性行為によって妊娠・中絶に至った場合は、慰謝料はもちろん相手に対して刑事責任も問える
  • 妊娠後、正当な理由なく一方的に婚姻を破棄された場合も、「不当な婚姻破棄」に対して請求できることがある
  • 男性が中絶に協力しない、話し合いを拒否・放棄したケースでは、男性に課せられた「女性の肉体的・精神的苦痛や経済的負担を軽減、解消、分担する義務」を怠ったと判断され請求が認められる場合がある
  • 相手が既婚者であることを黙っていた場合、「貞操権侵害」にあたるため慰謝料請求の対象になる

強要・暴力によって中絶させられた

中絶を強要されたり暴力によって中絶を迫られたりした場合は、慰謝料請求の対象になります。強要や暴力が不法行為にあたるためです。

ただし相手の不法行為を理由に請求するなら、証拠を提示する必要があります。​​強要や暴力によって中絶させられたと証明できるものを用意しておきましょう。

たとえば以下のようなものが証拠になります。

  • 中絶を強要されたことがわかるメールやLINE、音声
  • 「中絶しないと殴る」など、暴力によって中絶を促されたことがわかるメールやLINE、音声
  • 暴力を受けたと証明できる病院の診断書

証拠をうまく集められないときは、弁護士や探偵といった専門家に相談することをおすすめします。​​なお、男性の行動がDVだと判断されれば、請求額が高額になる可能性があります。

避妊していると偽られた

実際には避妊していないにもかかわらず「避妊している」と男性が偽って行為におよんだ結果、女性が望んでいない妊娠・中絶をしなければならなくなった場合、慰謝料が請求できる可能性があります。​​避妊していると偽る行為は虚偽にあたり、女性の「妊娠に対する自己決定権を侵害した」といえるためです。

また、本来であれば妊娠・中絶で女性が肉体的・精神的苦痛や経済的負担を受けないよう配慮すべきところ、男性がその配慮を怠ったということでもあります。そのため、たとえ行為自体に合意があっても男性の行いは不法行為に該当し、慰謝料の対象になるのです。

性行為に合意していなかった

合意のない性行為で妊娠し中絶に至った場合、慰謝料請求が認められます。​​合意なく性行為を行った場合の責任は強姦した側にあり、強姦された側に非はないためです。

強姦は犯罪行為です。そのため慰謝料を請求できるだけでなく、被害届の提出や告訴などで捜査機関に対し加害者への処罰も求められます。​​中絶に加え、強姦についても慰謝料請求できるため、高額の慰謝料が認められる可能性があります。

そのほか、強姦によって負傷し何らかの治療を受けた場合、治療費や入院費の請求も可能です。

注意点は、捜査の際は当時の状況を捜査機関に詳しく説明する必要がある点です。思い出したくないことを思い出したり、話したくないことを他人に話したりすることで再びつらい思いをするおそれがあるため、そういったことに耐える覚悟が必要でしょう。

なお、夫婦であれば性行為を強いても強姦にならないと認識している人もいますが、合意がなければ夫婦間でも強姦です。

妊娠後、婚約を不当に破棄された

妊娠後に婚約を不当に破棄された場合、慰謝料請求が可能​​です。婚約とは契約の一種であり、正当な理由なく一方的に破棄することは不法行為にあたるためです。

たとえば妊娠を告げたあと一方的に婚約破棄され、中絶せざるを得なくなったケースは「婚約を不当に破棄したこと」に対して慰謝料請求が認められます。

なお、婚約していなくても、妊娠後一方的に別れを告げられたり無責任な態度をとられたりした場合などは慰謝料請求が認められることがあります。​​

男性が中絶に協力しない、話し合いを拒否・放棄した

男性が中絶に協力しない場合や、合意のうえで妊娠したにもかかわらず男性が話し合いを拒否・放棄したために中絶を選択せざるを得なくなったときは、中絶慰謝料が認められる可能性があります。​​

妊娠は男女が共同で行った行為の結果であり、中絶に伴う不利益は男女が平等に負担すべきというのが裁判所の考え方であるためです。

基本的に、中絶によって肉体的・身体的苦痛や経済的負担を受けるのは女性です。そのため男性には、その苦痛や負担を軽減、解消、分担する義務があります。にもかかわらず男性が義務を果たそうとしないのであれば不法行為に該当し、女性からの慰謝料請求が認められる可能性があります。​​

男性が既婚者であることを黙って交際していた

性行為や妊娠することに対して合意していた場合でも、男性が既婚者であることを黙って交際していたときは、慰謝料請求の対象になります。​​「既婚者であることを黙っていた」という相手の行為は、「貞操権侵害」にあたるためです。

貞操権とは、誰と性的関係を持つかを自由に決められる権利です。相手が既婚者だと知っていれば、多くの人はその人と付き合おうとは思わないでしょう。ましてや、妊娠する可能性のある行為は避けるはずです。

しかし、たとえば男性が既婚者であることを隠していた場合、その男性と交際している女性は本来であれば付き合おうと思わない相手と関係を持ってしまっているため、貞操権を侵害されている状態であるといえます。

このケースでの注意点は、「相手が既婚者だと知らなかった」事実を証明する必要があることと、相手の妻から慰謝料を請求される可能性があることです。

慰謝料を請求するためには、相手が独身だと偽っているとわかるメールやLINEなどの証拠が必要​​です。「相手を既婚者だと疑う余地がなかった」ことも証明しなければなりません。

中絶による慰謝料請求が認められた判例

中絶により心身ともに傷つけられたにもかかわらず、相手の行いが不法行為に該当せず慰謝料を受け取れないことも少なくありません。そのため中絶慰謝料の請求はハードルが高いといえます。

ここでは、中絶慰謝料の請求が認められた判例を紹介します。

  • 成人男性との交際により妊娠・中絶した未成年に対し、男性が189万1,629円の支払いを命じられた事案
  • 相手に中絶を強要された女性に対し、男性が55万円の支払いを命じられた事案
  • 話し合いを拒否され、中絶を選択するしかなくなった女性に対し、男性が114万2,302円の支払いを命じられた事案
  • 不当に婚約を破棄されたため中絶するしかなくなった女性に対し、男性が300万円の支払いを命じられた事案

成人と交際していた未成年に慰謝料が認められた事案

以下の事案では、男性が189万1,629円を支払うよう命じられました。

・当時15歳だった女性が当時28歳だった男性と出会い系サイトで出会い、性行為の末妊娠・中絶した

・女性は精神的苦痛を受けたとして、男性に対し不法行為に基づく損害賠償を求めた

(平成25年12月19日判決)

相手に強要され、やむを得ず中絶した事案

以下の事案では、男性が55万円を支払うよう命じられました。

・男性が女性に中絶を迫り、中絶を選択するしかない状況に追い込んだ

・その後男性から一方的に婚約を破棄されたため、女性が男性に対し不法行為に基づく損賠賠償請求を求めた

(平成24年5月16日判決)

男性が話し合いを拒否し、中絶に至った事案

以下の事案では、男性が114万2,302円を支払うよう命じられました。

・結婚相談所を通じて結婚前提に付き合っていた男女が合意のうえで性行為を行い妊娠したが、結婚に至らず中絶した

・男性は妊娠・中絶に関して女性と具体的な話し合いをしようとしなかったため、女性はひとりで中絶し費用も自分で支払った

・男性が配慮義務、費用を負担すべき責任を放棄したため損害を受けたとして、女性は男性に対し損害賠償を求めた

(平成21年10月15日判決)

不当に婚約破棄され中絶を余儀なくされた事案

以下の事案では、男性が300万円を支払うよう命じられました。

・8年間交際した末に婚約し、結納の準備まで進んでいた

・女性は妊娠していたにもかかわらず、男性から明確な理由を告げられることなく一方的に婚約の解消を申し出られた

・その結果女性は中絶を選択するしかなくなり、精神的苦痛を受けたとして男性に慰謝料を求めた

(平成21年3月25日判決)

一方的な婚約破棄は慰謝料が高額になる可能性がある

一方的な婚約破棄は、慰謝料が高額になる可能性があります。正当な理由のない一方的な婚約破棄は不法行為にあたるためです。

慰謝料が高額になる可能性があるのは、以下のような事情があるケースです。

  • 交際期間・婚約期間が長い
  • 結納や両家の顔合わせ、結婚式の段取りが進んでいる
  • 新居をすでに契約している
  • 家庭に入ることを想定して寿退社した
  • 妊娠・中絶をした

不当に婚約破棄されたうえ中絶せざるを得なくなったとなれば、女性が受けるダメージは計り知れません。また、人生自体が狂わされてしまうおそれがあります。そのため慰謝料が高額になると考えられます。

【ケース別】中絶の慰謝料請求のポイント

中絶慰謝料を請求する場合、どのようなことを押さえておくべきなのでしょうか。

ここでは、中絶の慰謝料請求のポイントを以下のケース別に解説します。

  • 未成年が中絶する場合
  • 不倫相手の子どもを中絶した場合
  • 男性に断りなく中絶した場合

未成年が中絶する場合の慰謝料請求

未成年が妊娠・中絶したケースは、成人の場合と少し勝手が異なります。ここでは、未成年の中絶で慰謝料請求する場合に知っておくべきことについて解説します。

  • 法律上は未成年が中絶手術を受けるのに親の同意は必要ないが、トラブル防止や手術後の安静確保の観点から親への同意を求める病院が多い
  • 相手が成人の場合、避妊の責任は相手にあったと考えられるため慰謝料請求できる可能性が高く、刑事責任も問える場合がある
  • 相手も未成年だと、慰謝料請求できても相手の支払い能力を考慮すると回収できない可能性がある
  • 中絶後は体調不良が続くことや合併症の可能性もあるため、生活への影響は小さいとはいえない

法律上、未成年の中絶に親の同意は必要ない

未成年が中絶する場合でも、親の同意は必要ありません。法律上、本人とその配偶者の同意があれば中絶できると定められているためです。

ただしトラブル防止や手術後の安静を確保する目的から、親の同意を求める病院が多い​​傾向にあります。そのため法律上は同意が不要でも、実際は未成年者が親の同意なく中絶手術を受けることは難しいでしょう。

中には親や相手の同意がなくても中絶手術を行ってくれるところもありますが、「親に内緒で手術できるならどこでもいい」という基準で病院を選ぶのはあまりおすすめできません。

希望は叶えてくれるかもしれませんが、その病院が信用できる病院であるという保証はないためです。中絶後に後遺症が残ったり、婦人科系の疾患に罹患したりするリスクがあることを理解しておく必要があります。

やはりベストなのは、きちんと親に話し信用できる病院で手術を受けることでしょう。

参照:母体保護法第14条|e-GOV法令検索

相手が成人なら慰謝料請求できる可能性が高い

相手が成人なら、慰謝料請求できる可能性が高い​​です。

双方が成人でも未成年でも、合意のうえで行った性行為の結果妊娠・中絶したのであれば、基本的に不法行為には該当しません。しかし未成年を妊娠させるということは、成人である男性側に避妊をする責任があったにもかかわらず、その責任を放棄したということです。

さらに女性を中絶させたのであれば、男性側はその女性の肉体的・精神的苦痛や経済的負担を軽減、解消、分担できるよう努めるべきです。その義務まで放棄するなら、女性の利益を侵害したとして慰謝料請求が認められる可能性が高いでしょう。

なお、前述のとおり、相手が成人というだけでは不法行為にあたらないものの、「青少年健全育成条例」に違反したとして刑事罰が科される​​可能性があります。地域によって罰則の内容は異なりますが、たとえば東京都や大阪府などでは2年以下の懲役または100万円以下の罰金刑に処されます。

相手も未成年だと慰謝料を支払えないケースがある

相手も未成年の場合、慰謝料請求が認められても支払えない可能性があります。​​未成年なら相手も学生である可能性が高く、支払い能力がないことのほうが多いためです。

そもそも慰謝料請求が認められないケースもあります。なぜなら慰謝料は、請求することで相手が大きな不利益を受ける場合、請求自体が難しくなるためです。

相手が未成年であれば、避妊の重要性や避妊を怠ることで生じるリスクを十分理解できていないことが予想されます。また、中絶トラブルによって相手の日常生活にも支障が出てしまい、学業どころではなくなるおそれがあります。

そういった事情から慰謝料が請求できないことが考えられるため、未成年同士のケースでは慰謝料が期待できないことを念頭に置いておいたほうがよいかもしれません。

慰謝料が請求できる、できないにかかわらず、未成年同士のケースでは当事者だけでの問題解決は困難です。当事者だけでなく、双方の親も交えて話し合う必要があるでしょう。

中絶による後遺症や生活への影響が懸念される

中絶手術を受けたあとは、1週間程度体調不良が続くことがあります。また、合併症が起こる可能性もゼロではありません。たとえば、中絶後には以下のような症状や後遺症が起こる場合があります。

  • 痛みや出血、吐き気といった中絶後の体調不良
  • 子宮頚管損傷や子宮穿孔などの合併症
  • PAS(中絶後遺症候群)

学生の場合、術後の状態によっては長期的に学校を休まざるを得なくなります。その結果出席日数が足りなくなって留年したり、妊娠・中絶が周囲にばれ、学校に居づらくなったりといったことも考えられます。

手術そのものは早ければ15分ほどで終わるものですが、生活への影響は決して小さいとはいえないでしょう。

不倫相手の子どもを中絶した場合の慰謝料請求

不倫相手の子どもを中絶した場合、原則慰謝料は請求できないとされていますが、状況によって判断が異なります。ここでは、不倫相手の子どもを中絶した際の慰謝料について解説します。

  • 不倫相手の子どもを中絶した場合、原則慰謝料請求はできないとされているが、妊娠報告後に連絡が取れなくなる、暴力によって中絶させられたなどの事情があるなら認められる場合がある
  • 不倫相手の妻から慰謝料を請求されたときは、すぐに提示された金額で合意せず弁護士に相談したほうがよい
  • トラブルを避けるためには、合意書を作成しておくことがおすすめ

原則慰謝料請求できないが、ケース次第では認められる

不倫相手の子どもを妊娠・中絶した場合、性行為が合意のうえで行われたものであれば慰謝料請求は難しいでしょう。​​双方に責任があると考えられるためです。

しかし以下のような事情があれば、請求できる場合があります。

  • 妊娠報告後、相手から避けられるようになり、話し合いに応じてくれない
  • 相手が既婚者であることを巧妙に隠していたため、相手が既婚者であると気づけなかった
  • こちらの気持ちを尊重せず、中絶を強要してくる
  • 「中絶しないと殴る」などと脅したり、暴力によって中絶させようとしたりする

なお、慰謝料は請求できなくても、中絶手術にかかった費用については実際にかかった金額の半分を男性に対して請求できます。​​「妊娠・中絶の責任は双方にある」という考え方からいくと、中絶手術にかかった費用も男女で半分ずつ負担すべきであるためです。

ただし性行為に合意がなかった場合など、ケースによっては全額請求できることもあります。

逆に相手の妻から慰謝料を請求される場合がある

不倫がばれると、不倫相手の妻から慰謝料請求される場合があります。不倫相手の妻には民法第709条、710条を根拠に、不倫(不貞行為)に対する慰謝料請求が認められているためです。

慰謝料請求された場合に大切なのは、「慰謝料を請求された!」とパニックになり、すぐに言われた金額に応じてしまわないようにすること​​です。はじめに請求される金額は相場よりも高額であることが多いですが、こちらにも非があるからといって相手の言いなりになる必要はなく、減額できるケースもあります。

まずは落ち着いて、弁護士に相談することをおすすめします。

参照:民法第709条、710条|e-GOV法令検索

トラブル防止のため事前に合意書を作っておく

不倫相手の妻から慰謝料を請求されて支払うことになった場合、合意書(示談書)を作成しておくとよいでしょう。

合意書がなくても、慰謝料を支払うことで相手の怒りが収まり、すんなり不倫問題が解決することもあります。しかし、慰謝料について合意した内容を書面化しておかなければ、あとから「まだ全額支払ってもらっていない」「その金額では納得いかない」などと言われる可能性があります。

合意書がなければ、「いくらで合意した」という証明ができません。たとえ100万円の慰謝料を支払うと口約束し、きちんと100万円支払っても、相手が100万円に合意していないとしてさらに請求してきた場合は「約束の金額をすでに全額支払った」と言えないのです。

このようなトラブルを避けるためにも、合意書を作成しておくことをおすすめします。

男性に断りなく中絶した場合の慰謝料請求

男性に断りなく中絶した場合、「女性が男性に対して慰謝料請求できるか」「逆に男性から女性に対して請求できるか」という2つの問題が発生します。

女性が男性に対して慰謝料請求する場合、「妊娠後連絡が途絶えたため中絶せざるを得なかった」というように、男性側の配慮義務違反などがなければ難しい​​でしょう。反対に、女性が男性に断りなく中絶した事実が不法行為といえるのかどうかを証明するのは困難であることから、男性から女性への請求も認められにくい​​と考えられます。

ただし、法律上中絶手術には配偶者の同意が原則必要とされているため、既婚者が男性に断りなく中絶することはそもそも難しいでしょう。

ここでは、男性に断りなく中絶した場合の慰謝料請求や中絶費用について解説します。

  • 男性に断りなく中絶した場合でも、合意のうえで行った性行為には双方に責任が生じるため中絶費用の半分は受け取れる
  • 男性に断りなく中絶した場合も一般的なケースと同様に、男性側に配慮義務違反などがなければ慰謝料請求は認められにくい
  • 男性に断りなく中絶する行為が不法行為にあたるのか証明することは難しく、出産するか中絶するかは女性に決定権があるため、男性に慰謝料請求は認められない可能性が高い

男性に断りなく中絶しても中絶費用の半分は請求できる

男性に断りなく中絶しても、中絶費用の半分は請求できます。​​妊娠・中絶が合意のうえで行った性行為の結果であれば、お互いに責任が生じるとされているためです。

そのため中絶に関して男性の同意がなかったとしても、女性が中絶を選択した場合、男性には中絶費用の半額を支払う義務が発生します。

ただし前述のとおり、男性が単なる性的パートナーではなく配偶者であるならば、「特別な事情」がないかぎり断りなく中絶できない可能性が高い​​です。また、病院によっては性的パートナーに対しても同意を求めることがあるため、中絶についての話し合いが必要になるケースのほうが多いかもしれません。

なお、「特別な事情」とは以下のような場合をいいます。

  • 配偶者が行方不明
  • 配偶者が意思表示できない状態にある
  • 妊娠後に配偶者が亡くなった
  • 妊娠後に離婚した

そのほか、DVなどの事情がある場合は例外的に配偶者の同意なく中絶ができるとされています。

慰謝料請求は男性側に配慮義務違反などがなければ難しい

男性に断りなく中絶したときも通常のケースと同様に、男性側に配慮義務違反などがなければ慰謝料請求は認められにくいでしょう。​​

配慮義務違反とは、妊娠・中絶で女性が受ける不利益や負担に対して行うべき配慮を怠ることをいい、不法行為に該当します。たとえば妊娠を告げたことをきっかけに連絡が取れなくなることや、妊娠・中絶について話し合おうとしても応じてくれないといった状態です。その結果中絶を選択せざるを得なくなった場合、慰謝料請求が認められます。

そのほか、性行為自体が合意ではなかったときや避妊していると言っておきながら避妊していなかった場合など、「中絶による慰謝料請求が認められるケース」で解説したパターンにあてはまる場合も請求が認められることがあります。

男性から女性への慰謝料請求はできない可能性が高い

女性が男性に断りなく中絶した場合、男性から女性への慰謝料請求はできない可能性が高い​​です。女性が男性に無断で中絶したこと自体が不法行為にあたると証明することは難しく、女性には出産するか中絶するかを自分で決定する権利があると考えられるためです。

ただし前述のとおり、母体保護法では原則配偶者の同意が必要とされています。たとえ妊娠したのが配偶者の子どもではなくても、病院からは配偶者の同意を求められるケースが多く、中には婚姻関係にないパートナーに同意を求めるところもあります。

注意したいのは、配偶者から同意がもらえないからといって、同意書へのサインを自分や配偶者以外の人が代筆することです。

たとえば不倫相手との子どもを妊娠し、配偶者に黙って中絶したいがために不倫相手に配偶者のサインを代筆してもらうと、代筆した不倫相手は「有印私文書偽造罪」、それを提出する自分は「偽造私文書等行使罪」に問われます。​​どちらも3カ月以上5年以下の懲役刑に処される犯罪です。

トラブルを避けるためにも、どうしても同意が得られないなら病院に事情を話し、どうすればよいか相談しましょう。

中絶による慰謝料の請求方法

中絶慰謝料の請求は自分でもできます。

ただし、相手が話し合いに応じないときやトラブルになりそうな場合は、自力で慰謝料回収まで持っていくのは困難です。少しでも不安要素があるなら、弁護士への相談をおすすめします。

ここでは、中絶慰謝料の請求方法を流れに沿って解説します。

  1. まずは相手と示談交渉(話し合い)をし、合意に至った場合は「合意書(示談書)」によって合意の内容を書面化する
  2. 示談交渉が成立しなかったときや相手と連絡が取れない場合は、相手に対して「内容証明郵便」を送って反応を待つ
  3. 内容証明郵便が無視されたら「民事調停」を申立て、調停委員や裁判官に間に入ってもらって話し合いをする
  4. 民事調停がまとまらない場合や、調停の呼び出しに応じないときは民事訴訟を提起し、裁判官に判決を下してもらう

1.示談交渉し合意書を作成する

まずは相手と以下のような内容について話し合います。

  • 男性が女性に対して慰謝料や中絶費用を支払うこと
  • 慰謝料や中絶費用を受け取る代わりに、女性は男性を訴えないこと
  • 慰謝料の金額
  • 中絶費用の負担額

裁判外で話し合い、和解をすることが「示談」です。

示談は口約束だけでも成立しますが、口約束だけでは相手が今後約束を破る可能性があります。そのため口約束だけで完結せず、合意書(示談書)を作成して示談の内容を書面で残すことが重要​​です。

合意書は用紙や書式に定めがなく自分でも作成できますが、不備や合意した内容をうまく書面化できない可能性があります。合意内容を適切に書面化してもらいたいなら、弁護士や行政書士といった専門家に作成を依頼すると安心です。

2.内容証明郵便を送る

示談交渉がうまくいかないときや相手と連絡が取れない場合は、「内容証明郵便」を送るとよいでしょう。

内容証明郵便とは、「どのような内容の文書が誰から誰にあてていつ出されたか」を郵便局が証明してくれる制度です。内容と送付した記録が郵便局に残るため、慰謝料請求を行った証拠になります。

内容証明郵便に法的拘束力はありませんが、以下のような文言を入れることで相手にプレッシャーを与えられます。

金◯◯万円を◯月◯日までにお支払いください。期日までにお支払いいただけない場合、◯◯地方裁判所に対し、慰謝料等請求事件として訴訟を提起いたします。

ただし、自分の名義で送ると無視されてしまう可能性があります。​​たいしたプレッシャーにならないことが予想されるときは、弁護士を頼ったほうがよいでしょう。どれほど肝の据わった人でも、「弁護士から何か届いた」となれば多少は危機感を覚えるはずです。

なお、内容証明郵便を書く際の用紙に決まりはありませんが、書き方には細かくルールが定められています。そのため、自作するときはルールに従う必要があることを覚えておきましょう。

ルールは以下のとおりです。

  • 差出人・郵便局が保管する「謄本」が複数枚になるときは、つづり目に契印する
  • 謄本に記載されている文の訂正・削除を行う際は、訂正・削除する字数と箇所を余白部分に記載し、差出人がその箇所に押印する
  • 謄本の末尾に差出人と相手の住所・氏名を記載する

そのほか、謄本には字数や行数についても以下のような決まりがあります。

区別 1行の字数 1枚の行数
縦書き 20字以内 26行以内
横書き 20字以内
13字以内
26字以内
26行以内
40行以内
20行以内

参照:内容証明 ご利用の条件等|日本郵便

相手の住所がわからない場合の対処法

内容証明郵便を送る際は相手の氏名・住所が必要です。「名前はわかるけど住所はわからない」というような場合は送付できません。

相手の住所がわからないときの対処法は以下のとおりです。

  • 勤務先がわかるなら、封筒に「親展」と記載し勤務先に送付する
  • 旧住所がわかるなら「住民票の除票」や「戸籍の附票」を取得し、現在の住所を確認する
  • 旧住所はわかっても自分で除票などを取得できないなら、弁護士や行政書士などの専門家に取得を依頼する
  • 旧住所も勤務先もわからないなら、探偵や興信所に住所の調査を依頼する

内容証明郵便は、勤務先あてに送っても問題ありません。ただし個人あてだとわかるよう、会社名だけでなく相手の個人名と「親展」の文字を記載しましょう。​​さらに「本人限定受取郵便」にしておけば、本人に直接手渡されます。

旧住所がわかるなら、住民票の除票や戸籍の附票を取得し、現在の住所を確認する方法もあります。住民票の除票や戸籍の附票は、「正当な理由」があれば本人や配偶者でなくても取得が可能です。

ただし、「慰謝料を請求するために内容証明郵便を送る」という理由が正当な理由だと判断されるかは市区町村によるため、取得できない可能性がある点に注意が必要です。取得できない場合は、弁護士や行政書士といった専門家に取得を依頼するとよいでしょう。

そして旧住所も勤務先もわからない場合は、探偵や興信所に相談することをおすすめします。

3.民事調停手続きをする

話し合いに応じず内容証明郵便を送っても反応がない場合は、民事調停という手があります。民事調停とは、調停委員と裁判官に間に入ってもらい、裁判ではなく話し合いによって解決を目指す方法です。

また、調停委員とは、中立の立場で手続きを進める裁判所の非常勤職員のことで、一般市民の中から選ばれます。一般市民といっても、弁護士や税理士といった専門家や専門的な知識を持つ人などが選任される傾向にあります。

民事調停のメリットは法律の知識がなくても手続きできる点や、少額の手数料で申立てができるところ​​です。たとえば、100万円の慰謝料を請求する場合の手数料は5,000円です。

非公開で行われるため、他人に妊娠・中絶を知られることなく進められる​​ところもメリットといえるでしょう。

ただし、相手が呼び出しに応じなければ手続きが進まないというデメリットもあります。相手と合意できなければ慰謝料を請求できない点にも注意が必要です。

参照:民事調停手続|裁判所

4.民事訴訟を申立てる

調停でも話がまとまらなければ、民事訴訟を申立てます。民事訴訟とは、裁判官が当事者双方の主張や証拠などを参考に判決を下し、問題を解決する方法です。

訴訟を申立てる場合は、相手の不法行為や権利を侵害されたことを証明できる有力な証拠が必要​​です。また、法廷では法律に基づいて主張や立証を行わなければならないため、専門知識がないかぎりひとりで闘うのは難しいでしょう。

こちらが被害者でも、相手が弁護士をつけている場合は有利に手続きを進められない可能性があります。そのため、妊娠・中絶トラブルに強い弁護士に相談することをおすすめします。​​

なお、民事訴訟にかかる手数料は調停よりも高めです。たとえば慰謝料請求額が100万円なら手数料は1万円です。そのほか、書類を相手に郵送する場合の送料として5,000円〜6,000円程度かかります。

申立て先は、慰謝料請求額によって異なります。請求額が140万円以下なら簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所が申立て先です。どちらも、相手の住所地を管轄する裁判所に申立てます。

請求額が60万円以下なら、1,000円〜6,000円と通常の訴訟よりも手数料が安く済む「少額訴訟」が可能です。申立てをしたその日のうちに判決が下されるため、スピーディな解決が期待できます。

参照:民事訴訟|裁判所

参照:少額訴訟|裁判所

中絶による慰謝料を請求する際の注意点

中絶慰謝料を請求できる事情があっても、相手の不法行為が証明できない、時効を迎えてしまったなど、場合によっては慰謝料が請求できないことがあります。
ここでは、慰謝料を請求する際の注意点について解説します。

  • 慰謝料請求が認められるためには、相手の配慮義務違反や不法行為などを客観的に証明できる証拠が必要
  • 中絶慰謝料の請求権は「中絶手術を受けた日から3年」で時効によって消滅するため、それまでに請求しなければならない。ただし中絶費用の時効は10年であるため、10年以内であれば請求可能

中絶による慰謝料請求をするためには証拠を集める必要がある

中絶慰謝料を請求するためには、以下のことを証明できる証拠を集める必要があります。

  • 男性が果たすべき義務を怠ったこと
  • 男性が不法行為を行ったこと
  • 男性の行いによって不利益や権利侵害を受けたこと

男性の義務違反や不法行為を証明できる証拠は以下のとおりです。

  • 話し合いに応じようとしないことや、中絶を強要していることなどがわかるメール・LINEのやりとり、音声
  • 着信拒否されているとわかる不在着信の履歴

男性の行いによって不利益や権利侵害を受けたことが証明できる証拠は以下のとおりです。

  • 病院の診断書
  • 給料明細

男性の義務違反や不法行為が原因で体調を崩し病院の治療を受けた場合、その診断書が証拠になります。中絶による体調不良や後遺症などで仕事を休まなればならなくなったときは、直近数カ月分の給料明細を用意すると収入の減少が証明できるでしょう。

中絶慰謝料の請求権は3年で時効にかかる

中絶慰謝料の請求権は、「中絶手術を受けた日から3年」で時効にかかります。​​請求が認められているケースでも、3年を過ぎてしまうと請求できなくなるため注意が必要です。

ただし、中絶費用は「不当利得金の返還」に該当するため、時効は3年ではなく10年です。慰謝料請求の時効は過ぎてしまっても、中絶手術から10年以内であれば中絶費用は請求できる​​ことを覚えておきましょう。

参照:民法第724条、167条|e-GOV法令検索

中絶で慰謝料以外に請求できる費用

慰謝料以外に請求できる可能性のある費用は以下のとおりです。

  • 中絶手術の費用
  • 妊娠中の診察料・入院費
  • DNA鑑定費用
  • 中絶が原因で発症した病気の治療費
  • 通院の際の交通費
  • 水子供養の費用
  • 妊娠が原因で会社を欠勤した際の休業損害費
  • 中絶手術が原因で後遺症が残った場合の慰謝料・治療費
  • 弁護士費用の一部

中絶費用は、性行為も中絶も合意のうえで行われたのであれば、本来双方で折半すべきものです。​​妊娠・中絶は男女双方の責任であるためです。

しかし、女性に大きな精神的・肉体的負担がかかることを考慮し、男性が全額負担するケースもあります。

なお、中絶費用は妊娠週数によって異なります。

妊娠初期(〜11週6日) 妊娠中期(12週〜21週6日)
10万円〜20万円 30万円〜50万円

※費用は手術を受ける病院によって異なるため、上記はあくまでも目安です。

妊娠初期と中期で金額が大きく異なるのは、中期に入ると初期よりも胎児が成長しており、初期のころと同じ方法では手術が行えないためです。また、日帰りではなく入院する必要も出てきます。

ちなみに、中絶できるのは21週6日まで​​です。妊娠22週以降は母体保護法の定めにより中絶手術を受けられないため、出産するしかありません。

そのほか、診察料や交通費、妊娠・中絶の影響で仕事を休まざるを得なくなった場合の休業損害費、後遺症が残ったときの慰謝料なども、必ずしも請求できるとはかぎりませんが、中絶関連費として要求できる可能性があります。病院の診断書や領収書、休業証明など、証拠になりそうなものを用意しましょう。

弁護士費用に関しては、最終的な慰謝料請求額の1割にあたる金額を弁護士費用として請求できる場合があります。​​たとえば請求額が100万円であれば、10万円の請求が認められることが多いです。

参照:母体保護法第2条第2項|e-GOV法令検索

中絶による慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット

中絶による慰謝料請求を弁護士に依頼するメリットは以下のとおりです。

  • 早期解決が見込める
  • 自分で対応しなくても済む
  • 交渉を有利に進めやすい
  • 法的なアドバイスが受けられる

自分で慰謝料を請求する場合、相手がきちんと対応してくれない可能性があります。「慰謝料を請求された」といっても、それが男女の仲にあった相手からでは、危機感を感じない場合があるためです。

しかし、弁護士が出てきたとなれば無視するわけにもいかないでしょう。これまで取り合ってくれなかった相手にも、少なからずプレッシャーを与えられるはずです。弁護士に依頼したからといって必ずしも交渉がうまくいくとはかぎりませんが、自分で対応するよりスムーズに進む可能性が高いため、早期解決が見込めます。​​

また、弁護士に依頼すれば相手への交渉も裁判所への対応も任せられるため、相手に会うことなく手続きが可能​​です。もう相手の顔も見たくない、相手に会うことで嫌なことを思い出すといったケースは、弁護士に対応を任せることで精神的な負担を軽減できます。

交渉を有利に進めやすい点もメリットです。自分ひとりで対応する場合、慰謝料相場がわかりにくいこともあり、相場より安い金額を提示されても言われるままに合意してしまう可能性があります。

しかし、弁護士がついていればそういった事態を回避できるでしょう。できるだけ多くの慰謝料を受け取れるよう動いてくれることが期待できます。​​

そのほか、法的なアドバイスを受けながら手続きを進められるメリットもあります。

中絶による慰謝料の請求を依頼した場合の弁護士費用

中絶慰謝料の請求を弁護士に依頼した場合、費用はどの程度かかるのでしょうか。ここでは、弁護士費用の相場について解説します。

  • 「相談料」は初回無料や30分5,000円~が一般的で、延長の際には15分2,500円などの延長料金がかかる
  • 弁護士が業務に取り掛かるための「着手金」は5万円〜20万円程度が相場で、依頼する業務によって金額が異なる
  • 「報酬金」は慰謝料の10%~20%が相場であり、目的が果たされなかった場合はかからない
  • 弁護士が出張した際に発生する「日当」は半日で3万円~5万円、1日で5万円~10万円程度が相場
  • 実費は基本的に高額にならないことが多いが、かかる金額はケースによって異なり、弁護士の遠方への出張が多い場合などはかさむこともある
  • 交渉・民事訴訟の末慰謝料100万円を請求した場合、50万円〜60万円かかる可能性もあるが、費用はケースや弁護士事務所によって異なるため相談時点での確認が必要

相談料は初回無料や30分5,000円〜が一般的

弁護士に中絶慰謝料の請求について相談した場合の相談料は、30分につき5,000円〜が相場です。ただし、初回は無料で相談できる弁護士事務所や、正式に依頼すると無料になるところなどもあります。

できるだけ費用を抑えたいならまずは無料相談を利用し、正式に依頼するかどうか決めるとよいでしょう。無料相談を複数受け、事務所を比較するのもおすすめ​​です。

なお、初回無料の事務所でも、2回目以降の相談については費用が発生します。また、相談時間は30分や1時間などあらかじめ決められており、延長の際は15分につき2,500円などの延長料金がかかることが一般的です。

着手金の相場は5万円〜20万円

着手金は5万円〜20万円程度が相場です。同じ慰謝料請求でも、依頼する内容によってかかる費用は異なります。たとえば、内容証明郵便の文書作成と発送だけであれば5万円程度で済みますが、民事訴訟を提起した場合は着手金だけで20万円程度かかります。

着手金とは、その名のとおり「弁護士が仕事に着手するための費用」です。正式に依頼したあとに支払い、入金の確認がとれ次第弁護士が動き出します。

注意点は、途中でキャンセルしたり思うような結果が得られなくても、ほとんどの場合返金されないことです。「一度支払ったら返ってこないお金」と思っておいたほうがよいでしょう。

また、複数の仕事を依頼した場合、業務ごとに着手金が発生する点にも注意が必要​​です。たとえば示談交渉を依頼した結果合意に至らず民事調停に進む場合、調停手続きに着手してもらうための着手金を別途支払わなくてはなりません。

金額については事務所によって異なるため、示談交渉で解決しないことを想定し、調停や訴訟にまで発展した場合の費用をあらかじめ確認しておくことをおすすめします。

報酬金の相場は慰謝料の10%〜20%

報酬金の相場は、得られた慰謝料の10%〜20%です。報酬金とは、弁護士に依頼した結果目的を達成できた場合に発生する費用です。「成功報酬」とも呼ばれ、目的を達成できなければかかりません。​​

せっかく慰謝料をもらえても、そこから弁護士費用を支払わなければならないことを考えると、「弁護士に依頼すると損をする」と思うかもしれません。しかし多くの場合、自分の力だけで慰謝料請求まで漕ぎ着けるのは至難の業です。

交渉だけですんなり支払ってくれるケースならまだしも、調停や訴訟にまで発展したケースで慰謝料を勝ち取るためには、専門知識や経験などが必須​​であるためです。自分で対応しても徒労に終わる可能性が大いにあるため、慰謝料をもらえる確率を上げたいなら費用がかかっても弁護士に依頼したほうがよいでしょう。

なお、実際に得られた慰謝料が当初希望していた金額より大きく下回り、依頼人としては「目的が達成できた」と感じられなくても、ほとんどのケースでは報酬金がかかります。実際に得られた慰謝料が少ない場合、かかる報酬金がどのようになるのかは、事前に確認しておいたほうがよいでしょう。

日当の相場は1日あたり5万円〜10万円

日当の相場は1日あたり5万円〜10万円程度です。半日の稼働であれば、3万円〜5万円程度が相場です。

日当とは、弁護士が事務所から離れて業務にあたる場合にかかる費用のことをいいます。慰謝料を請求する相手のもとに出向いて交渉したときや、調停・訴訟手続きのために裁判所に出頭した場合などに発生します。

事務所から出ることなく業務が完了するなら日当はかかりません。​​事務所によってははじめから着手金に含まれており、日当としては請求されないケースもあります。

実費がどれだけかかるかはケース次第

実費はケースによってかかる金額が異なります。実費とは、実際に手続きにかかった費用であるためです。弁護士の出張の有無によっても変わってきます。

実費には、以下の費用が該当します。

  • 弁護士の交通費
  • 収入印紙代
  • 郵便切手代
  • コピー代

弁護士の報酬とは異なるところがポイントです。中絶慰謝料請求では通常それほど高額にならないことが多いですが、何度も遠方に出向いてもらった場合はその分費用がかさむ可能性があります。

弁護士に中絶慰謝料の請求を依頼した場合の費用例

弁護士に中絶慰謝料の請求を依頼した場合の費用例を見てみましょう。条件は以下のとおりです。

  • 慰謝料請求額:100万円
  • 依頼内容:相手との交渉・民事訴訟
相談料(初回無料)+2回目の相談30分 5,000円
着手金(相手との交渉) 10万円
着手金(民事訴訟) 20万円
報酬金(慰謝料の10%) 10万円
日当(交渉・訴訟で計3回出張) 15万円(5万円×3回)
実費 5万円
合計金額 60万5,000円

例では手元に40万円も残らない結果になりましたが、上記はあくまでも一例です。費用は事情や弁護士事務所によっても異なるため、上記のような結果になるとはかぎりません。​​費用については、相談の段階で弁護士に確認しましょう。

報酬金や日当は、実際に得た慰謝料から引かれます。そのため、自分で用意しなければならないのは相談料や着手金、実費です。

彼女から中絶費用や慰謝料を請求された際にすべきこと

付き合っていた彼女から突然「妊娠した」「中絶したから慰謝料を払え」などと言われたら、ほとんどの人は混乱するでしょう。そのような事態におちいった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

ここでは、男性が彼女から中絶費用や慰謝料を請求された際にすべきことを解説します。

  • まず、相手に言われるままお金を支払ってしまう前に、エコー写真や母子手帳、妊娠証明書などでその妊娠が事実かどうかを確かめる
  • 妊娠が確かなら、本当に自分の子どもであるかどうかを確認する。確信できない場合は「出生前DNA鑑定」も検討する
  • 中絶費用や慰謝料について、「本当に支払う必要があるのか」「支払わなければならないなら相場はいくらなのか」を把握しつつ、誠実な対応を心がける
  • 3年以上経過してから慰謝料を請求された場合は、まず妊娠・中絶の証拠を求め、時効を援用できるかどうかを確認する
  • 中絶による不調で慰謝料請求された場合は、中絶と不調の因果関係を明確にし、慰謝料を支払うべきかどうかわからないなら弁護士に相談する

妊娠が事実かどうかを確かめる

まだ中絶していない場合は、まず本当に妊娠しているかどうかを確かめる必要があります。​​中には実際には妊娠していないにもかかわらず、中絶費用や慰謝料を請求するために妊娠したと偽っているケースもあるためです。

陽性反応の出ている妊娠検査薬を見せられても、それだけで100%妊娠しているとはいえません。確実なのは、病院での診察です。診察に同行するか、エコー写真や母子手帳を見せてもらうとよいでしょう。

すでに中絶したと言われた場合も、妊娠の事実はエコー写真や母子手帳で確認できます。​​そのほか、診察や手術を受けた病院で妊娠・中絶の証明を発行してもらえるため、そういった証明書を提示してもらう方法もあります。

注意しなければならないのは、口頭で「妊娠した」とだけ伝えられ、中絶手術を受けるための同意書へのサインや中絶費用を求められた場合です。詐欺に引っかからないためにも、お金を支払ってしまう前に妊娠の事実を確認しましょう。

本当に自分の子どもかどうか確認する

妊娠の事実が確認できたら、本当に自分の子かどうかを確認する必要があります。

出産予定日から十月十日さかのぼり、その日あたりに性行為をした記憶があれば自分の子どもの可能性はありますが、確実な方法ではありません。また、彼女が同時に複数の相手と付き合っていた場合は、心当たりがあっても自分であるとはかぎりません。

彼女の協力が得られるなら、「出生前DNA鑑定をする」という選択肢もあります。​​女性の血液中に流れる胎児DNAと男性のDNAを解析することで、胎児と男性が親子であるかどうかがわかります。

父親が一卵性双生児の場合は識別が難しい、胎児が二卵性双生児の場合は鑑定できないことがあるといった面もありますが、その精度は99.9%といわれるほど正確です。

ただし、彼女の協力が得られなければ受けられない点には注意が必要​​です。また、費用も10万円〜15万円程度かかります。

慰謝料や中絶費用の相場を把握する

慰謝料や中絶費用の相場を把握し、請求金額が妥当かどうかを確認しましょう。相場より高い金額を請求されるケースもあるためです。

また、「本当に支払う必要があるのか」という問題もあります。通常中絶費用は折半しますが、慰謝料に関しては、性行為が合意のうえで行ったものであり男性側の不法行為や配慮義務違反などがなければ基本的に支払う義務はありません。

とはいえ、妊娠・中絶は精神的にも肉体的にも女性側に大きな負担がかかります。慰謝料を支払う義務はなくても、妊娠・中絶については自分にも責任があることを自覚し、不誠実な対応をしないよう心がけましょう。​​

3年以上経過しているなら妊娠・中絶の証拠を求める

3年以上経過してから慰謝料を請求された場合は、まず妊娠・中絶の証拠を提示してもらいましょう。数カ月程度であればまだしも、年単位で時間が経ってから請求するというのは不自然であるためです。

前述のとおり、中絶の慰謝料請求権は中絶手術から3年で時効にかかります。​​請求されたときすでに中絶手術から3年以上経過している場合は、時効が完成しているため支払わずに済むと考えられます。

ただし、中絶費用請求の時効は3年ではなく10年です。中絶手術から3年以上経過していても、10年以内であれば中絶費用の折半に応じる必要があることを覚えておきましょう。

中絶による不調で慰謝料請求されたら因果関係を明確にする

中絶による体調不良や精神疾患を理由に慰謝料請求された場合は、中絶と不調の因果関係を明確にする必要があります。​​

たしかに中絶は、女性の肉体や精神に大きな負担がかかります。しかし、だからといって中絶後に生じた不調が中絶によってもたらされたものであるとは限りません。中絶とは関係なく発症したものである場合や、手術を行った医師や処置に原因がある可能性もゼロとは言い切れないでしょう。

中絶と不調に因果関係があるのかを明確にし、本当に慰謝料を支払う義務があるのかどうかを弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

中絶慰謝料の相場や慰謝料を請求できるケース、請求方法などについて解説しました。

中絶は女性にとって大きな決断であり、心身に与える影響も決して小さくないできごとです。心身のケアが必要なところ、相手の男性が配慮義務を怠ったり無責任な行いをすることでさらに傷は深くなります。

相手の行いが不法行為に該当するかわからなくても、精神的苦痛を受けたときは慰謝料請求が認められることがあります。​​ひとりで悩まず、まずは弁護士に相談してみましょう。

金銭ですべて解決できる問題ではないかもしれませんが、慰謝料を勝ち取ることが慰めになるという考え方もあります。泣き寝入りせず、勇気を出して行動してみることをおすすめします。

中絶に関するよくある質問

男性から出産を拒否されても出産は可能ですか?

男性から出産を拒否され、中絶するよう頼まれた場合でも出産は可能です。前述のとおり、女性には自分の意思で妊娠した子どもを産むかどうかを選択する権利があるためです。

出産した場合、女性は子どもの父親である男性に対して養育費を請求できます。​​ただ、出産を拒否するような相手が養育費を支払ってくれるかどうかという問題があります。

男性と婚姻関係にあるなら、認知をしてもらわなくても男性は当然に子どもの父親になるため養育費の請求は可能です。それに対し、婚姻関係にない場合は認知してもらわなければ法的な親子関係は発生しません。

男性が出産を拒否しているのであれば、認知してもらえない可能性が高いでしょう。婚姻関係にない男性に認知を求めるときは調停や審判を申立て、認知されたあとに養育費を求める調停や審判を行う​​必要があります。

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更新日 : 2024年10月09日
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