求償権とは他の連帯債務者に超過した負担割合を請求できる権利のこと
求償権とは、第三者や連帯債務者が他の債務者の債務(借金や損害賠償など)を肩代わりした後、本来の債務者に「支払った分のお金を返して」と請求できる権利です。
一般的に求償権を行使できるのは、「第三者(保証人)などが代わりにお金を払った後に債務者へ請求する」と、「2人以上の連帯責任がある支払いで、特定の人物が多めに支払った分を他の責任者に請求する」という2パターンが挙げられます。
求償権行使の具体例は次の通りです。
- 住宅ローンの保証人が債務を弁済し、元の債務者へ返還請求をする
- 金融機関からの融資を信用保証協会が代位弁済し、融資分の債権を取得して債務者へ請求する
求償権は不動産、会社設立、カードローンなど借金(融資)が関係する業界でよく聞かれる言葉です。
そして浮気や不倫の末に慰謝料や示談金が発生した場合にも、求償権が発生する可能性があります。浮気・不倫問題における求償権について見ていきましょう。
不貞行為などの慰謝料に関する求償権とは
浮気・不倫問題における求償権は、共同不法行為の当事者である「不倫した人」と「その不倫相手」が行使する可能性がある権利です。不貞行為の慰謝料・示談金を自分の責任を超えて支払ったときに、求償権を行使することでもう一方の不倫当事者に超過分を請求できます。
不貞行為に対する慰謝料・示談金は、原則として不倫をした当事者2人の連帯債務として支払う必要があります。例えばどちらか一方の支払いが不可能になっても、もう一方が残りの全額を支払う義務を負わなければなりません。
不貞行為に対する慰謝料の負担割合は5割ずつを基準とし、「どちらが不倫を主導したのか」「一方は未婚か既婚か」といった要素を考慮して、6:4〜7:3程度に変動します。慰謝料200万円なら、「100万円:100万円」や「120万円:80万円」といった割合です。
負担割合は、当事者間の合意のうえで自由に決められます。
しかし、中には「慰謝料200万円を100万円ずつで支払うところを、150万円支払うことになった」といった、1人が多めの金額または全額を負担するケースがあります。こうした一方の負担割合を超えて慰謝料や示談金を支払わされたときに、求償権の主張が可能です。
求償権は、民法第442条にて規定があります。
(連帯債務者間の求償権)
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、他の連帯債務者に対し、その免責を得るために支出した財産の額(その財産の額が共同の免責を得た額を超える場合にあっては、その免責を得た額)のうち各自の負担部分に応じた額の求償権を有する。
2 前項の規定による求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。
e-Gov法令検索 民法第442条
求償権を行使できるのは、慰謝料や示談金の金額が確定して実際に支払いをした後です。慰謝料の支払い前に、求償権の行使はできません。
浮気・不倫問題で求償権が行使されるケース
浮気・不倫問題にて求償権を行使されるケースは、「不倫の被害者が離婚せず夫婦関係の修復を選択し、不倫相手にのみ慰謝料を請求した」というのが一般的です。
不倫被害者が離婚しない場合、不倫した配偶者と財産を共有し続けるため、配偶者に慰謝料を請求する理由がありません。そのため慰謝料200万円なら、不倫相手に200万円全額を支払ってもらうように動きます。
しかし上記のケースだと、不倫相手は「自分だけに不倫の責任を負わされるのはおかしい」と感じるでしょう。そこで不倫相手は求償権を主張することで、もう一方の不倫加害者である被害者の配偶者に対し、自分が超過して負担した金額を請求できます。
例えば慰謝料200万円に対して負担割合が配偶者6:不倫相手4だった場合は、不倫相手は多めに支払った120万円を取り戻せます。実際に求償権の行使が認められた判例は次の通りです。
A男とB女は夫婦関係にありました。しかしB女はC男と不貞行為に至り、A男は不倫相手のC男に訴訟を提起し、損害賠償金164万円を受け取っています。その後C男は求償権を主張してB女に150万円の損害賠償を請求し、70万円が認められました。判決ではC男が不貞行為を主導したと判断しつつも、C男の負担部分を超えて支払った部分について求償権を認めています(東京地裁2005年12月21日判決)。
他には、「示談交渉で負担割合が自分7:配偶者3になったけど、不倫を主導したのは自分ではないから負担割合は3:7が妥当だ」と、主張されるケースが考えられます。
浮気・不倫での求償権の時効は慰謝料の支払日から5年以内
浮気・不倫問題における求償権を行使できる期間は、原則として時効となる「慰謝料の支払日から5年以内」です。求償権時効の根拠は、民法第166条「債権等の消滅時効」が該当します。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
e-Gov法令検索 民法第166条
ただし、求償権の時効は状況次第で5年を超える可能性があります。以下では、求償権の時効が伸びるケースを見ていきましょう。
権利の承認
債務者が求償権に基づいた請求に対して慰謝料の支払いをしたときは、民法第152条の「承認による時効の更新」に該当するため、その承認日を新たな基準とした5年の時効に更新されます。
求償権の裁判の提起
求償権を持つ人が債務者に対して返還を求める訴訟を起こしたときは、訴訟提起後に時効がきても裁判日が確定するまで時効完成が猶予され、裁判が確定した日を起点として時効がリセットされます。
話し合いによる延長
民法第151条の「協議を行う旨の合意による時効の完成猶予」の規定により、求償権を持つ人と債務者との話し合いで合意があれば、合意から1年間は時効が完成しなくなります。ただし、本来の時効から5年を超えての延長はできません。
とはいえ、求償権の時効を両者が話し合うことはほぼないと思われるため、参考程度の情報となります。
求償権を行使するための条件
求償権を持つ人が求償権を行使する条件として、次の2つが挙げられます。
- 自分が支払ったことで他の連帯債務者の負債が消滅した
- 事前または事後に他の連帯債務者に支払いを通知する
それぞれの詳細について解説します。
自分が支払ったことで他の連帯債務者の負債が消滅した
一方の不倫当事者の代わりに、もう一方が全額または多めに慰謝料や示談金を支払ったときは、連帯責任者であるもう一方の不倫当事者の負債が消滅します。
この場合、慰謝料を支払った不倫当事者が自己負担分を超えた支払いをしている可能性があるので、支払い超過分に対する求償権を行使できます。
事前または事後に他の連帯債務者に支払いを通知する
求償権の行使条件である支払いに関して、ほかの連帯債務者に対して事前および事後通知を怠った場合の規定が、民法第443条第1項2項で定められています。
事前通知を怠ったときは、他の連帯債務者は主張できたはずの抗弁を主張できます。抗弁を主張されると、抗弁の内容によっては求償を拒まれるかもしれません。
事後通知を怠ったときは、他の連帯債務者が支払いを知らずにさらに支払ってしまい、二重支払いになる可能性が出てきます。二重支払いになったときは民法第443条第2項に則り、その支払いが有効となって求償権を主張できなくなるリスクがあります。
とはいえ求償権が行使できる浮気・不倫問題では、離婚しない夫婦が慰謝料を請求しているケースが多いことから、不倫当事者に気づかれずに夫婦の口座へ慰謝料を振り込むのは現実的に難しいでしょう。求償権を主張するケースでは二重振込がほぼ起こらず、相手から抗弁を主張されることも考えづらいです。
求償権の行使によって実質的に慰謝料が減額される
配偶者の不倫相手から求償権を行使されてそれが認められると、受け取れる慰謝料が実質的に減額となります。不倫発覚後も離婚していない場合、慰謝料は夫婦の共有財産から支払われることが多いからです。
- 不倫相手から慰謝料200万円が振り込まれて、夫婦の財産が200万円増える
- 不倫相手が「負担割合は6:4が相当だ」と求償権を行使し、120万円の請求を行う
- 求償権が認められると、不倫相手に対して夫婦の共有財産から120万円支払われる
- 受け取れる慰謝料が120万円減額されたとも捉えられる
しかし、求償権は不倫相手にとって正当な権利主張であるため、主張されれば従うか法的に争うしかありません。
なお「夫婦で別々の口座を持っているから、配偶者の口座から支払われる分には問題ない」という場合は、そのまま受け入れる選択肢もあります。
とはいえ、不倫相手との接点の継続やその他対応が求められるので、それらをストレスに感じるときは、後述の「求償権を使われないための対策方法」をご覧ください。
求償権を使われないための対策方法
不倫相手の正当な権利である求償権ですが、条件交渉の場で「求償権を行使できないようにする(行使できなくても納得してもらう形を作る)」ように進めると、求償権を行使されず穏便に済ませられます。
求償権を使われないための対策方法は次の通りです。
- 浮気・不倫相手に求償権の放棄をお願いする
- 求償権の放棄の証拠を残す
- 慰謝料の負担額を明確に決めておく
求償権を無理やり行使できないようにするのではなく、不倫相手の責任を超える慰謝料請求を止めて、遺恨を残さない形で権利を放棄してもらうのがよいでしょう。それぞれ順番に解説します。
浮気・不倫相手に求償権の放棄をお願いする
求償権を行使されたくない場合は、不倫相手に求償権の放棄をお願いしましょう。求償権は他の権利と同じく、放棄が認められると行使できなくなります。
しかし求償権の放棄は、不倫相手にとってもデメリットがあります。そこで求償権の放棄を求める際は、請求する慰謝料や示談金を減額するのが一般的です。
不倫相手としても、求償権の放棄をもって慰謝料精算を1回で済ませられるメリットもあります。
とはいえ、求償権の放棄を拒否される可能性もあります。求償権の放棄の交渉は、慰謝料の相場やケース別の負担割合を調べたうえで、双方が納得できる条件を掲示しましょう。不倫相手は加害者として慰謝料減額をお願いする立場とはいえ、負担割合を超える慰謝料の請求をすると快く放棄に応じてくれない可能性が高いです。
求償権の放棄の証拠を残す
求償権の放棄について不倫相手と合意したら、放棄の証拠を和解書や公正証書として残しましょう。口約束だけだと放棄の証拠として使うのが難しく、不倫相手に後から「放棄していません」と主張されるリスクがあります。
無用なトラブルを避ける意味でも、求償権放棄の事実や慰謝料の金額などの条件は、まとめて法的効果がある書類に残しておくことを推奨します。
慰謝料の負担額を明確に決めておく
求償権を行使されないためには、慰謝料の負担額・割合を適切に決めることが大切です。不倫の状況に応じた配偶者と不倫相手の負担割合・慰謝料総額をはっきりと決定し、負担割合と慰謝料総額に応じた金額を不倫相手に請求します。
適切な慰謝料請求ができていれば、たとえ不倫相手が求償権を行使して訴訟を起こそうとも、裁判所から「支払いに超過分はない」と判断されやすくなるでしょう。不倫相手が負担額に納得すれば、そもそも求償権を行使されることがほぼありません。
慰謝料や負担割合について合意を得たときは、求償権の放棄と同じく和解書や公正証書にその旨を記載することを推奨します。
浮気・不倫の求償権への対応は弁護士に相談するのがおすすめ
浮気・不倫の求償権の放棄についての交渉や、求償権を行使されたときの対応は、専門家である弁護士に協力してもらうのがおすすめです。求償権について弁護士に相談するメリットは次の通りです。
- 浮気・不倫相手と接触せずに解決できる
- 求償権の放棄に合意してもらえる確率が高まる
- 放棄の合意や求償に応じた後のトラブルを防止できる
弁護士に相談するときは、離婚問題に強い弁護士事務所を選ぶのがよいでしょう。以下では、弁護士に相談するメリットを具体的に解説します。
浮気・不倫相手と接触せずに解決できる
弁護士に任せることで、不倫相手が求償権を行使しても弁護士が代理人として対応してくれます。不倫相手とは原則として弁護士を通じてやり取りするため、浮気・不倫相手と直接接触する必要がありません。求償権の放棄や負担割合、慰謝料額の話し合いなども任せられます。
仮に求償権の裁判に発展しても、訴訟準備や出廷もすべて弁護士が対応してくれます。精神的負担が軽減されるだけでなく、不倫相手との接触による夫婦仲の悪化も防ぐことが可能です。
求償権の放棄に合意してもらえる確率が高まる
求償権放棄の交渉を弁護士に協力してもらえば、専門知識や経験から適切な条件で交渉をまとめてくれます。
当事者同士の話し合いでは、感情論が先走ってトラブルが起きることも珍しくありません。
弁護士を入れて交渉することで、求償権放棄に関する以下のことが期待できます。
- 法的知識に基づいた客観的な判断
- 経験による高い交渉力
- 求償権放棄に関する妥当な減額金額の掲示と論理的な根拠の説明
放棄の合意や求償に応じた後のトラブルを防止できる
求償権放棄の合意や求償の受け入れの後であっても、言った・言わないのトラブルや慰謝料の未払いなどが発生する可能性があります。
弁護士に相談しておけば、後日に発生する恐れがあるトラブルにも対応してもらえるメリットがあります。和解書や示談書の内容を双方にわかるように解説してくれるので、不倫相手が何も理解しないまま、合意後に意義と唱えるといったリスクも避けられるでしょう。
まとめ
浮気・不倫問題における求償権は、不倫当事者の一方が自己の責任より多い慰謝料を支払ったとき、もう一方の不倫当事者に超過分の金銭を請求できる権利です。不倫の被害者が離婚せず、不倫相手にのみ慰謝料を請求するケースで行使される可能性があります。
求償権を行使されるケースだと、夫婦の共有財産から支払うことになるため、実質的に慰謝料の減額になります。求償権に関するトラブルを避けるには、不倫相手へ求償権の放棄を求める、求償権を行使されない適切な慰謝料を請求するなどの事前対応が有効です。
求償権に関する事前交渉や求償権を行使されたときの対処などについては、離婚問題に強い弁護士への相談がおすすめです。離婚問題の相談実績や専門知識を基に、客観的かつ法的視点でサポートをしてくれます。
浮気・不倫問題は、当事者だけだと話し合いがこじれてまとまらないケースが多々あります。適切な対応をスムーズに行うためにも、まずは弁護士の無料相談を利用してみてはいかがでしょうか。
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