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悪意の遺棄とは?具体例や慰謝料が認められるケース、慰謝料相場も紹介

悪意の遺棄とは?具体例や慰謝料が認められるケース、慰謝料相場も紹介

悪意の遺棄とは、法律上の夫婦が負う同居・協力・扶助の3つの義務を正当な理由なく放棄する行為のことです。具体的に、下記のような行為は悪意の遺棄に該当し得ます。

  • 同意なく別居されている
  • 家事や育児に全く協力しない
  • 生活費を負担せず自らのためだけに使っている
  • 仕事ができる状態なのに全くしない
  • 自宅から追い出された
  • 病気や怪我の看護が必要なのに、全くしない

裁判で離婚が認められる法定離婚事由の1つなので、配偶者による行為が悪意の遺棄にあたることを立証できれば、離婚や慰謝料を請求できます。

悪意の遺棄で離婚する場合、慰謝料の相場は50~300万円程度です。しかし、下記のように状況に応じて大きく変動するため、あくまで目安程度に考えておくと良いでしょう。

  • 相手の行為の悪質性
  • 悪意の遺棄が行われてきた期間
  • 精神的苦痛の程度
  • 婚姻期間の長さ
  • 未成年の子どもの有無
  • お互いの収入

基本的に、相手の悪質性や精神的苦痛の程度が大きく関係します。そのため、相手の悪質性が低いなど精神的苦痛が少ないと判断された場合は、相場よりも慰謝料が低くなる可能性が高いです。

また、自分が悪意の遺棄に該当しているのか正しく判断するのは難しいことでしょう。悪意の遺棄かどうかは、単なる主観ではなく法的な観点から判断されるため、少しでも迷う場合は専門知識を持つ弁護士に相談するのがおすすめです。

本記事では、悪意の遺棄の定義や慰謝料請求できる具体例、慰謝料相場について解説していきます。

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悪意の遺棄の定義とは?|同居・協力・扶助の義務を果たしているかどうか

悪意の遺棄とは、婚姻生活を破綻させる意思を持って、夫婦間の同居・協力・扶助の義務を正当な理由なく放棄する行為のことをいいます。民法752条では、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められています。

同居・協力・扶助の義務の意味は以下の通りです。

同居義務 夫婦が同じ家に同居して共同生活を送る義務
協力義務 夫婦がお互いに助け合い、協力して共同生活を送る義務
扶助義務 相手が自己と同一程度の生活が送れるように援助する義務

悪意の遺棄は民法上の不法行為であり、裁判での離婚が認められる法定離婚事由の1つでもあります。配偶者が同居・協力・扶助の義務を果たしていない場合は、悪意の遺棄にあたるとして離婚や慰謝料の請求が認められる可能性があります。

ただし、相手が同居・協力・扶助の義務を放棄していても、それについて事前に夫婦間で合意している場合は悪意の遺棄にあたらない可能性が高いです。そのほかにも、義務放棄の悪質性や期間なども考慮されるため、同居・協力・扶助の義務を放棄したからといって必ず悪意の遺棄と認められるわけではありません。

悪意の遺棄で慰謝料請求できる可能性のあるケース

悪意の遺棄に限らず、慰謝料を請求するには相手の不法行為により精神的苦痛を受けたことを証明する必要があります。悪意の遺棄の場合、下記条件に当てはまれば慰謝料請求が認められる可能性が高いです。

  • 3つの義務に反する生活を送らされている
  • 単身赴任のように3つの義務に反する生活をする正当な理由がない
  • 3つの義務に反する状態が長期間続いている
  • 夫婦の共同生活を一方的に否定するために義務に反する行動をされている

3つの義務に反する生活として、具体的には下記の6つが挙げられます。

  • 同意なく別居されている
  • 家事や育児に全く協力しない
  • 生活費を負担せず自らのためだけに使っている
  • 仕事ができる状態なのに全くしない
  • 自宅から追い出された
  • 病気や怪我の看護が必要なのに、全くしない

ここからは、それぞれの行動について詳しく解説していきます。上記は、あくまで悪意の遺棄として認められる可能性が高いケースであり、必ずしも認められるとは限りません。

ただし、認められれば慰謝料を請求できる可能性も高いため、当てはまる項目がないか必ず確認しておきましょう。

同意なく別居されている

同意なく一方的に別居されている場合は、慰謝料請求が認められる可能性が高いです。相手の不倫やDV、単身赴任、親の介護といった正当な理由や夫婦間の合意なく一方的に別居することは、民法上の同居義務に違反する行為に該当します。

特に、以下のようなケースでは同居義務違反が悪意に遺棄にあたるとして、裁判で離婚や慰謝料の請求が認められる可能性があります。

  • 不倫相手と同居するために家を出ていった
  • 夫婦関係を修復する意思がなく、同居を拒否し続けている
  • 別居理由や転居先を伝えず、突然家を出ていった

通常、別居による夫婦関係の破綻を立証するためには、3〜5年程度の別居期間が必要です。ただし、悪意の遺棄では別居期間よりも、婚姻生活を破綻させる意思を持って義務を放棄したかどうかが重視されます。

そのため、事情によっては別居期間が3年以下であっても悪意の遺棄が認められる可能性があります。

家事や育児に全く協力しない

相手が家事や育児に全く協力してくれない場合も、慰謝料請求が認められる可能性があります。家事や育児に全く協力しないことは、民法上の協力義務に違反する行為に該当します。

特に以下のようなケースでは、悪意の遺棄にあたるとして裁判で離婚や慰謝料の請求が認められる可能性が高いです。

  • 専業主婦(主夫)なのに、家事や育児を一切してくれない
  • 共働きで家事や育児を分担したにもかかわらず、家事や育児に協力してくれない

ただし、悪意の遺棄として認められるのは、家事や育児をしないことに正当な理由や夫婦の合意がなく、その状態が長期間続いているケースに限られます。そのため、以下のような事情がある場合は悪意の遺棄に該当せず、慰謝料請求が認められない可能性が高いです。

  • 仕事が忙しく一時的に家事や育児に協力できなかった
  • 病気や怪我、親の介護など家事や育児に協力できない正当な理由があった

生活費を負担せず自らのためだけに使っている

相手が生活費を負担せず自らのためだけに使っている場合も、慰謝料請求が認められる可能性があります。前述の通り、夫婦は経済的に助け合わなければならない扶助義務を負っています。

そのため、収入が多い側は収入が少ない側が自己と同一程度の生活を送れるように援助しなければなりません。下記のように生活費を渡さなかったり、自分の趣味やギャンブルのためにお金を使い込んだりすることは、扶助義務違反にあたります。

  • 単身赴任先から生活費を送ってくれない
  • 配偶者が生活費をギャンブルで消化してしまった

相手が生活費を負担してくれないことが原因で、夫婦生活の継続が困難であると判断された場合は、扶助義務違反が悪意の遺棄とみなされるでしょう。

そのため、裁判でも離婚や慰謝料の請求が認められる可能性が高まります。

仕事ができる状態なのに、全くしない

相手が仕事できる状態にもかかわらず、全くしてくれない場合も慰謝料の請求が認められる可能性があります。健康なのに仕事をせず、生活費を稼がないという行為は、民法上の協力・扶助義務違反に該当します。

配偶者が仕事をしてくれないことで経済的に困窮し、夫婦生活の継続が困難であると判断された場合は、裁判で離婚や慰謝料の請求が認められる可能性が高いです。ただし、以下のような事情があれば悪意の遺棄に該当しないため、離婚や慰謝料の請求は認められません。

  • 就職活動をしているのに仕事が見つからない
  • 育児や介護など働くのが難しい事情がある

自宅から追い出された

相手に自宅から一方的に追い出されたケースも慰謝料請求の対象となります。自宅から配偶者を追い出すのは、配偶者に別居を強制する行為であり、民法上の同居義務を放棄していると評価されます。

特に下記のケースでは、悪意の遺棄にあたるとして、離婚や慰謝料の請求が認められる可能性が高いです。

  • 外出中に自宅の鍵やドアチェーンで閉められて自宅に入れないようにされている
  • 暴力や暴言で脅されて無理やり追い出された
  • 必要な荷物もまとめられずに締め出されている

病気や怪我の看護が必要なのに、全くしない

病気や怪我の看護が必要な状態であるにもかかわらず、相手が全く看護をしてくれない場合も慰謝料の請求が認められる可能性があります。

前述の通り、夫婦はお互いに協力して助け合う義務を負っています。そのため、正当な理由なく病気や怪我で苦しんでいる配偶者の看護を全くしないことは、協力義務違反です。

病気や怪我の程度によっては協力義務違反が悪意の遺棄とみなされ、離婚や慰謝料の請求が認められる可能性があります。

ただし、看護が必須ではない場合は、看護をしなかったとしても悪意の遺棄として見なされることはありません。

そもそも悪意の遺棄とみなされにくいケース

配偶者から悪意の遺棄に該当する行為をされても、それに正当な理由がある場合は同居・協力・扶助の義務に違反しないため、悪意の遺棄があったとはみなされません。

悪意の遺棄とみなされない主なケースは以下の通りです。

  • 単身赴任や出張など仕事上の都合で別居している場合
  • 配偶者からのDVやモラハラから避難するために別居している場合
  • 実家の親の看護・介護のために別居している場合
  • 夫婦関係を修復する目的で別居している場合
  • 子どもの教育上の理由で別居している場合
  • 病気や怪我などの健康上の理由で仕事や家事、育児ができない場合
  • 就職活動をしているのになかなか仕事が決まらず、生活費を出せない場合
  • 専業主婦で収入がなく、生活費を出せない場合

生活費を渡されていたとしても、自分のためには使えずすべて相手に必要なものの購入のみしか許されていなかった場合は悪意の遺棄に該当します。ただし、義務の放棄に正当な理由がない場合でも、それについて夫婦間で合意していれば悪意の遺棄とはみなされません。

悪意の遺棄で請求できる慰謝料相場|50〜300万円程度

悪意の遺棄をされた側は慰謝料請求が可能です。裁判で認められる慰謝料相場は、50~300万円程度ですが、これはあくまでも目安に過ぎません。

なお、慰謝料の金額は下記のような個々の事情によって変動するため、相場よりも高額な慰謝料が認められるケースもあれば、逆に相場を下回るケースもあります。

  • 相手の行為の悪質性
  • 悪意の遺棄が行われてきた期間
  • 精神的苦痛の程度
  • 婚姻期間の長さ
  • 未成年の子どもの有無
  • お互いの収入

一般的に以下のようなケースでは、高額な慰謝料が認められる傾向があります。

  • 婚姻期間が長い(10年以上)
  • 未成年の子どもがいる
  • 不倫相手と同居するために家を出ていった
  • 悪意の遺棄の内容が著しく悪質である
  • 相手に反省の態度が見られない

自分のケースで具体的な慰謝料の金額が知りたい場合は、離婚問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。

悪意の遺棄で離婚する方法

悪意の遺棄で離婚するときの大まかな流れは以下の通りです。

  1. 協議離婚│まずは夫婦間の話し合いで離婚の合意を目指す
  2. 離婚調停│夫婦間の話し合いで合意できない場合は裁判所を介して合意を目指す
  3. 離婚裁判│それでも合意できない場合は離婚裁判で争う

悪意の遺棄を理由に離婚を進める場合、基本的には話し合いによる協議離婚を目指すところから始まります。このとき、慰謝料も併せて請求するのが一般的です。

協議がまとまらなければ離婚調停を申し立て、それでも解決しない場合は裁判離婚へと進むことになります。また、離婚後に改めて悪意の遺棄による慰謝料を請求することも可能です。

ただし、慰謝料請求には離婚時または悪意の遺棄が始まってから3年の時効があるため、請求のタイミングには注意が必要です。ここからは、それぞれの流れについて1つずつ詳しく解説していきます。

1.話し合いで離婚の合意を目指す

まずは、悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料を請求することを相手に伝え、夫婦間で話し合いを行います。はじめはメールや書面など、記録が残る方法で伝えましょう。

離婚や慰謝料について話し合いがまとまった場合は、その内容を離婚協議書にまとめます。このとき、後で合意内容について相手とトラブルにならないよう、弁護士に相談して法的に有効な合意書(公正証書)を作成しておきましょう。

相手と直接会いたくない場合は、弁護士に相談することで代理人として交渉を進めてもらえます。

2.離婚調停│夫婦間の話し合いで合意できない場合は裁判所を介して合意を目指す

協議離婚でも離婚の合意が取れない場合は、家庭裁判所で離婚調停の申し立てを行います。

離婚調停とは、調停委員や裁判官で構成される調停委員会が当事者の間に入って話し合いを行い、双方の合意によって問題解決を目指す手続きです。離婚や慰謝料について双方が合意すれば調停が成立し、合意内容をまとめた調停調書が作成されます。

調停調書は確定判決と同じ法的効力を持っているため、調停成立後に慰謝料や養育費などが支払われない場合は裁判所に強制執行を申し立てることが可能です。

3.離婚裁判│それでも合意できない場合は離婚裁判で争う

調停が不成立となった場合は、離婚裁判を提起します。

離婚裁判では当事者双方が主張や証拠をぶつけ合い、裁判所が下す判決によって原告の請求の可否や金額が決まります。判決が確定すると、判決内容をまとめた判決書が作成されます。

判決書には法的効力が生じるため、判決後に慰謝料や養育費などが支払われない場合は裁判所に強制執行を申し立てることで、給与や預貯金といった財産の差し押さえが可能です。

悪意の遺棄で婚姻費用も請求できるケースがある

相手が本来支払うべき婚姻費用を支払っていない場合は、婚姻費用の請求も認められる可能性があります。婚姻費用とは、夫婦や家族が共同生活を維持するために必要な費用のことで、収入が多い側が少ない側に対して支払うのが原則です。

法律上の夫婦には、お互いの収入・資産に応じて婚姻費用を分担しなければならない義務があります。離婚しない限り別居中でも婚姻費用の分担義務を負うことに変わりはないため、別居中の生活費や養育費を支払ってもらえない場合も婚姻費用を請求できます。

特に、下記の条件に当てはまる場合は請求が認められる可能性が高いでしょう。

  • 相手よりも収入が少ない
  • 別居後、相手から一度も生活費や子どもの養育費をもらっていない
  • 未成就の子供がいる
  • 離婚まで時間がかかることが想定される

請求しても相手が応じてくれない場合、弁護士に相談して強く請求してもらいましょう。それでも応じてもらえない場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てることをおすすめします。

調停不成立となった場合は自動で裁判に移行します。婚姻費用の支払いは夫婦である限り義務であるため、離婚する予定がなくても請求可能です。

ただし、婚姻費用は請求する意思を相手に示して初めて支払いの義務が発生します。請求前の期間にさかのぼっての請求はできません。そのため、相手に一歩的な別居をされた場合は早めに婚姻費用を請求しましょう。

悪意の遺棄で離婚や慰謝料請求をするときの注意点

悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料を請求する際には、以下の点に注意が必要です。

  • 早い段階から証拠集めをしておく
  • 慰謝料請求の時効を確認しておく

ここからは、それぞれの注意点について1つずつ詳しく解説していきます。

早い段階から証拠集めをしておく

悪意の遺棄で離婚や慰謝料を請求する場合は、早い段階から証拠集めをしておきましょう。相手が離婚や慰謝料の支払いに応じず、訴訟に移行した場合は、相手に悪意の遺棄があったことを示す客観的な証拠が必要になります。

ただ、悪意の遺棄は以下の要件を満たしていなければ成立しないため、立証が非常に難しいのが実情です。

  • 同居・協力・扶助義務に違反していること
  • その違反に正当な理由がないこと
  • その違反が婚姻生活を破綻させる意思を持って行われたこと
  • その違反が一定期間継続していること

「一方的に家を出ていった」「健康なのに働かない」という事実があっても、それが正当な理由なく悪意を持って行われた行為であるのか立証できなければ、請求が棄却される可能性が高いです。

そのため、悪意の遺棄による離婚や慰謝料請求では離婚問題に強い弁護士に早めに相談し、有効な証拠をできるだけ多く集めることが大切です。悪意の遺棄を証明するのに有効となる主な証拠は以下の通りです。

  • 配偶者が別居して住民票を移動させていた場合の住民票
  • 別居先を特定できる資料・賃貸借契約書
  • 配偶者の収入額を証明できる源泉徴収票
  • 配偶者が生活費を入れていないことを証明できる預貯金通帳
  • 配偶者が自分のためだけにお金を使っていることが分かる領収書
  • 配偶者とのメールやSNSのやり取り(一方的な別居や生活費を入れないことに正当な理由がないことが明確に分かるもの)
  • 配偶者の行動を書き留めた日記やメモ

上記のほかにも、不貞行為やモラハラ、DVなど別の法定離婚事由に該当する行動があったなら、それに関する証拠も押さえておきましょう。

たとえば、DVやモラハラにより怪我や精神的障害を負った場合、録音データや動画、病院からの診断書があれば有力な証拠になります。悪意のほかに法定離婚事由に該当する行為があったことを証明できれば、請求をより有利に進められる可能性があります。

そのため、自分が受けた被害の証拠はできるだけ多く抑えておきましょう。

慰謝料請求の時効を確認しておく

悪意の遺棄を理由とした慰謝料請求は、悪意の遺棄に該当する行為があった時から3年で時効を迎え、慰謝料の請求が認められなくなってしまいます。もし、時効が完成する前に慰謝料を請求するのが難しい場合は、時効の更新や時効の完成を猶予する方法を利用しましょう。

  • 時効の更新:時効期間がリセットされ、ゼロからカウントし直すこと
  • 時効の完成猶予:時効期間のカウントが一時的にストップし、時効の完成が一定期間先延ばしされること

時効が完成する前に時効の更新や時効の完成猶予事由が生じた場合は、本来の時効期間が経過しても時効が完成しません。

時効の更新 債務の承認(債務者が債務の存在や支払いの意思を認めること)
調停の成立
判決の確定
強制執行
時効の完成猶予 内容証明郵便による催告
仮差押え、仮処分
調停の申し立て
訴訟の提起
強制執行の申し立て

時効の完成が近づいてきたら、早めに弁護士に相談して催告や調停の申し立てなどを行い、時効の完成を阻止しましょう。

悪意の遺棄で離婚や慰謝料請求が認められた判例

ここからは、実際に悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料請求が認められた過去の判例をいくつかご紹介します。

  • 判例1.一方的に別居し修復がなされなかった事例(平成29年9月29日判決)
  • 判例2.難病の妻と子どもを残して一方的に別居した事例(令和2年3月12日判決)

判例1.一方的に別居し修復がなされなかった事例(平成29年9月29日判決)

こちらは、一方的に別居して関係修復の努力もしなかった元夫に対する慰謝料請求が認められた事例です。原告の元妻と被告の元夫は平成26年に結婚しましたが、わずか8ヶ月後に被告が転居して別居が始まりました。

別居から10ヶ月後に協議離婚が成立し、原告は悪意の遺棄を理由とした慰謝料請求の訴訟を提起しています。裁判所は、下記の状況から被告の一方的な別居について正当な理由があるとはいえず、被告の行為は悪意の遺棄に相当するとして慰謝料の請求が認められました。

  • 被告が原告に対して何の説明もなく一方的に別居を開始した
  • 夫婦関係を修復するための協議や提案も行わず、別居を継続した

ただし、婚姻期間が1年半、同居期間は8ヶ月あまりに過ぎないこともあり、慰謝料の金額は10万円に留まりました。

判例2.難病の妻と子どもを残して一方的に別居した事例(令和2年3月12日判決)

こちらは、難病の妻と子どもを残して一方的に別居した夫に対する離婚や慰謝料請求が認められた事例です。原告の妻と被告の夫は平成18年に結婚し、2人の子どもに恵まれました。

しかし、平成28年に妻が「レーベル症」という網膜の一部が壊死する難病を発症し、その1年後に夫は妻子を残して一方的に別居を開始しました。別居が始まってから1年後に妻は離婚調停を申し立てたものの、調停は不成立となったため、離婚や慰謝料、養育費を請求する訴訟を提起しています。

裁判所は、夫による下記の行為は悪意の遺棄にあたるとして、妻の請求を認める判決を下しました。

  • 難病によって中途失明に等しい大きな障害を抱えた妻と小学生の子どもを残したまま実家に帰った
  • 住宅ローンの支払いをストップし、妻と子どもが住む自宅が競売で失われかねない事態を招いた
  • 報酬の振込口座を変更し、健康保険を使えないようにした

今回の事例では夫による行為の悪質性が非常に高いと判断されたため、500万円の高額な慰謝料が認められました。

まとめ

今回は、悪意の遺棄の定義や慰謝料請求の条件、具体的な事例について解説しました。

配偶者から正当な理由なく一方的に別居されている、生活費を渡してくれない、働けるのに仕事をしてくれないなどの行為を受けている場合は、悪意の遺棄を理由に慰謝料を請求することが可能です。

しかし、悪意の遺棄を立証するのは難しく、慰謝料請求が認められるケースは少ないのが実情です。また、慰謝料請求には3年の時効があるため、悪意の遺棄を理由に慰謝料請求を考えている場合はできるだけ早い段階で証拠を集めておく必要があります。

そのため、悪意の遺棄を理由に慰謝料請求を検討している場合は、早めに離婚問題に強い弁護士に相談しましょう。

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更新日 : 2025年03月31日
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