婚姻費用にはどんなものが含まれる?
収入や財産、社会的地位などに応じ、家族が通常の社会生活を送るために必要な生活費のことを婚姻費用と呼びます。
「家族」とは夫婦と未成熟の子ども(まだ親から独立していない子ども)を指し、養育費とは異なり夫・妻の生活にかかる費用も含まれるのが特徴です。
婚姻費用に含まれるものの例は、以下のとおりです。
婚姻費用を支払う側は「義務者」、支払いを受ける側は「権利者」と呼ばれ、一般的には、収入が多い側が少ない側に婚姻費用を支払います。
婚姻費用の金額は、義務者および権利者双方の収入・資産や、育児中・介護中などの状況により変動します。
なお、民法第752条にて「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められているため、経済的に余裕がないという理由で婚姻費用の支払いが免除されることはありません。
別居中の生活費(婚姻費用)も夫婦で分担する必要がある
夫婦は別居していたとしても、婚姻費用を分担しなければなりません。ただし、正当な理由なく別居された場合は婚姻費用の支払い義務は発生せず、相手が有責配偶者に該当すれば慰謝料を請求できるケースもあります。
以下で詳しく解説していきます。
出て行った夫または妻にも婚姻費用の支払い義務は発生する
法律上の婚姻関係を継続している限り、夫婦が別居していたとしても、婚姻費用の分担義務が消えることは原則としてありません。
ただし、別居前に婚姻関係がすでに破綻していたと明確に判断される場合は、分担義務が減免されることもあります。婚姻関係の破綻が認められるのは、以下のようなケースです。
- 夫婦ともに婚姻を継続する意思がない
- 共同で夫婦生活を行える見込みがない
夫婦双方とも離婚したいと考え離婚に向けての協議をしていたり、別居期間が5年以上など長期に渡る場合は、婚姻関係の破綻が認められる可能性があります。
反対に、家族で一緒に出かけたり、離婚に向けた具体的な話し合いをしていなかったりする場合は、婚姻関係が破綻していたとはみなされにくいでしょう。
なお、配偶者のDVや不倫を理由に別居に至った場合、自身に落ち度がなければ相手から婚姻費用を請求されても減免できるケースがあります。その場合相手が有責となり、婚姻費用の請求は権利濫用であると判断されるためです。
ただし、子どもがいれば扶養義務があるため、たとえ相手が有責であっても、養育費に相当する分は支払う必要があります。
正当な理由なく別居された場合は婚姻費用の支払い義務がない
夫婦には同居義務があるため、それを放棄して別居すると同居義務違反とみなされます。したがって、正当な理由もなく配偶者が別居を強行した場合、自身には婚姻費用の支払い義務は発生しない可能性が高いです。
また、一方的な別居が「悪意の遺棄」に該当すれば相手は有責配偶者となり、慰謝料を請求できるケースもあります。
悪意の遺棄の具体例は、以下のとおりです。
- 正当な理由なく別居や長期外出をする
- DVやモラハラをする
- 収入があるのに生活費を渡さない
- 働く能力があるのに働かない
- 家事・育児を全く行わない
悪意の遺棄は法定離婚事由にも含まれているため、離婚裁判を申し立てれば、相手が拒否していても裁判所から離婚を認めてもらえる可能性が高いといえます。
婚姻費用の計算方法
婚姻費用は一律で決まっているわけではなく、夫婦で協議したうえで自由に額を設定できます。相場としては4~15万円の間であるケースが多いですが、婚姻費用算定表を参考にしつつ夫婦で話し合い、お互いが合意できる額を設定することになるでしょう。
以下で、婚姻費用の計算方法について詳しく解説します。
婚姻費用は婚姻費用算定表を参考に決められる
婚姻費用の金額は、基本的には夫婦で話し合ったうえで自由に設定できます。通常は、月額単位で支払額を決める形です。
ただ自由度が高いがゆえに、相場がわからずなかなか決められないということもあるでしょう。そういった場合は、裁判所が公開している婚姻費用算定表を参考にするのが一般的です。
婚姻費用算定表は調停や裁判でも実際に用いられているもので、夫婦の収入バランスや子どもの人数、年齢などに応じた婚姻費用の計算をする際に役立ちます。
参考:婚姻費用算定表
婚姻費用の相場は4~15万円
婚姻費用は4~15万円の範囲で設定されるケースが多いため、相場もそのくらいであるといえるでしょう。
ただしあくまでもボリュームゾーンというだけで、お互いが合意すれば相場にこだわる必要はありません。極端にいえば、合意さえあれば1万円でも100万円でも問題ないということです。
ただ、収入や生活状況に見合わない高額な婚姻費用を請求されたり、反対に相手が高収入なのに少額しか支払わないと言い張っているようなケースでは、婚姻費用算定表の存在とともにある程度の相場を頭に入れておくと安心といえます。
婚姻費用適正額の具体例
ここからは、婚姻費用適正額の具体例として以下3つのケースをご紹介します。
いずれも共働きで、妻の収入よりも夫の収入の方が多いケースです。自身の状況に当てはめて、おおよその適正額を把握しておくとよいでしょう。
婚姻費用の適正額が1~2万円の例
- 夫の年収が600万円(給与)
- 妻の年収が400万円(給与)
- 子どもはいない
- 収入の多い側を義務者、少ない側を権利者とする
上記のケースでは、婚姻費用の適正額は1~2万円です。子どもがいない場合は、婚姻費用算定表<子供なしの場合>を参考に婚姻費用を算出します。年収に差があっても、子どもがいないためそこまで高額にはならないと考えられます。
婚姻費用の適正額が4~6万円の例
- 夫の年収が600万円(給与)
- 妻の年収が400万円(給与)
- 10歳の子供が妻と同居している
- 子どもと同居しない側を義務者、同居する側を権利者とする
上記のケースでは、婚姻費用の適正額は4~6万円です。婚姻費用算定表の「婚姻費用・子1人表(子0~14歳)」を使用して算出します。
婚姻費用の適正額が8~10万円の例
- 夫の年収が600万円(給与)
- 妻の年収が400万円(給与)
- 子供2人(15歳・10歳)が妻と同居している
- 収入の多い側を義務者、少ない側を権利者とする
上記のケースでは、婚姻費用の適正額は8~10万円です。婚姻費用算定表の「婚姻費用・子2人表(第1子15歳以上、第2子0~14歳)」を使用して算出します。
3つのケースを見ると、子どもの人数や年齢によって適正額が大きく変化する可能性が高いといえるでしょう。
婚姻費用を請求できる期間
婚姻費用は、「請求したとき」から支払い義務が生じるとされています。支払いを請求し始めたときからさかのぼって請求することは、基本的にはできません。
例外として、財産分与を決める際に過去の未払い分の婚姻費用が考慮されるケースもありますが、別居後に相手が婚姻費用を支払ってくれない場合は速やかに婚姻費用の請求をするのが望ましいです。
なお、夫婦がまだ一緒に住んでいる場合は、婚姻費用の支払いを請求しても認められない可能性が高いです。ただし、収入があるにもかかわらず生活費を一切渡してくれないようなケースでは、別居していなくても婚姻費用の請求が認められることがあります。
婚姻費用を請求できる期間が終わるのは、一般的には離婚が成立するまでか、もしくは別居を解消するまでです。婚姻費用はあくまでも婚姻生活を維持するために必要な費用なので、離婚後は分担義務がなくなり、請求することもできなくなります。
別居中の婚姻費用の請求方法
別居中に婚姻費用を請求するには、以下の方法があります。
- 協議を行って請求する
- 協議で合意に至らない場合は婚姻費用の分担請求調停を申し立てる
- 家庭裁判所の婚姻費用の分担請求審判を行うケースもある
- 事情が変わった場合は婚姻費用増減額請求を行う
順を追って解説していきます。
協議を行って請求する
相手に婚姻費用を支払ってもらいたい場合、まずは夫婦で話し合いをして金額の合意を目指すケースが多いです。
ただ、口約束だけだとのちに言った言わないでトラブルになる恐れもあるため、合意があった証拠として合意書などの書面を作成しておくことをおすすめします。
執行認諾文言付公正証書を作っておけば、調停や審判を行わなくても強制執行ができるため、作成しておくのが望ましいです。
なお、強制執行により差し押さえの対象となるのは、主に以下の3種類です。
婚姻費用の差し押さえの場合は、給料や預貯金などの債権執行が行われるケースが多いです。給料は原則として手取りの2分の1までの差し押さえが認められ、勤務先から直接振り込んでもらうことも可能です。
預貯金の場合は現在口座にある金額しか差し押さえ対象になりませんが、給料なら将来分も差し押さえできるため、回収のしやすさを考えれば預貯金よりも給料を差し押さえるのがより効果的といえるでしょう。
協議で合意に至らない場合は婚姻費用の分担請求調停を申し立てる
夫婦間の話し合いで合意に至らない場合や、合意したにもかかわらず支払う気がないような場合は、裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立て、調停委員を交えた話し合いを行いましょう。
婚姻費用は基本的に過去にさかのぼっての請求ができないため、スムーズに合意に至らなそうな場合は早めに調停に移行するのが望ましいです。なお、相手のDVからの避難で別居しているようなケースでは、協議をせずにいきなり調停を申し立てることもできます。
調停では、双方の収入がわかる資料とともに婚姻費用算定表を参考にして金額を決めます。ただし、子どもの受験など考慮すべき事情がある場合は、証拠となる資料を提出したうえで婚姻費用を上乗せするケースも考えられるでしょう。
後出しでは考慮してもらえない可能性が高いため、あらかじめ証拠を用意して調停できちんと主張する必要があります。
調停で合意した内容には強制執行力があるので、相手が合意内容どおりに婚姻費用を支払わない場合は、給料や預貯金などを差し押さえることも可能になります。
婚姻費用の分担請求調停の申し立てにかかる費用
婚姻費用分担請求調停の申し立てには、取得費用として1,200円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手が必要になります。
連絡用の郵便切手の金額については、申し立てを行う家庭裁判所で確認できます。あらかじめ確認して金額を把握しておくと安心です。
婚姻費用の分担請求調停の申し立てに必要な書類
婚姻費用分担請求調停を申し立てるには、以下のような書類を用意する必要があります。
- 婚姻費用分担請求申立書およびその写し1通
- 送達場所の届出書1通
- 進行に関する照会回答書1通
- 夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 申立人の収入がわかる資料(源泉徴収票・給与明細・確定申告書の写しなど)
- 事情説明書
上記以外にも、審理のために必要なときは追加書類の提出を依頼されることもあります。
家庭裁判所の婚姻費用の分担請求審判を行うケースもある
調停で合意ができなかった場合、裁判所で行う婚姻費用分担請求の審判に自動的に移行することになります。審判では当事者それぞれが主張立証を行い、裁判官が最終的に婚姻費用の金額を決定します。
審判内容が夫婦双方に告知されたら、即時抗告期間である2週間が経過次第、審判結果が確定となるため、もし審判結果に納得できない場合は2週間以内に即時抗告を行いましょう。
即時抗告とは、裁判官の審判に不服がある場合、2週間以内に不服申し立てをすることにより高等裁判所に審理をしてもらう手続きのことです。
事情が変わった場合は婚姻費用増減額請求を行う
別居が長引けば、婚姻費用の金額を決めた際には予測できなかった、以下のような事情変更が生じる場合もあります。
- 収入が大幅に増減した
- 重大な病気を患った
- 子どもの進学により多額の教育費が必要になった
このような場合、当事者は協議や調停により婚姻費用の増減額を申し立てることができます。
ただし、婚姻費用の増減が認められるのはやむを得ない事情が生じたときのみであり、多少の収入増減や、事前に判明していた事情については認められない可能性があります。
そのため最初に婚姻費用の金額を決める段階で、将来的な事情もよく考えたうえで主張することが大切です。
また増額請求を行っても、相手の収入が減っているなど別の事情が判明した場合、逆に減額になり自身にとって不利な結果になることも考えられます。
婚姻費用分担請求が認められない場合もある
養育費の負担に関しては、婚姻関係が破綻した理由や別居に至った事情に関係なく、子どもに対する義務とされているため、子どもを養育している限りは請求が認められます。
ただし一方の配偶者の生活費は、婚姻関係の破綻や別居することになった理由が重要視されるため、婚姻費用を請求する側に原因があった場合は請求が認められないケースもあります。
また相手に収入が全くなかったり、同居が続いていたりする場合も婚姻費用は請求できません。
別居中の婚姻費用を打ち切られないようにするためのポイント
別居中に婚姻費用の支払いを打ち切られないようにするためには、以下の2つを実行することが重要です。
- 婚姻費用の合意内容を公正証書に記載しておく
- 強制執行の申し立てを行う
それぞれ詳しく解説していきます。
婚姻費用の合意内容を公正証書に記載しておく
婚姻費用についてお互いが合意した内容は、公正証書に記載しておきましょう。公正証書にしておけば、婚姻費用に関する合意内容がより明確になります。
また、支払いが滞った際には義務者が強制執行を受けることを認める「執行認諾文言」を入れておけば、婚姻費用の不払いが発生したときに強制執行の申し立てができる点もメリットのひとつです。
強制執行の申し立てを行う
義務者からの婚姻費用の支払いが滞ったら、執行認諾文言付きの公正証書とした場合や調停や審判で決定した場合に限り、強制執行の申し立てを行うことができます。
状況によっては、財産開示手続(民事執行法第196条以下)や第三者からの情報取得手続(同法第204条以下)を行わなければいけない可能性もあります。
強制執行申し立て時には義務者の財産特定が必須のため、相手の勤務先の情報や預金口座などをできる限り同居中に把握しておくのがおすすめです。
債務名義について
強制執行を申し立てるには、調停や裁判を通じて債務名義を取得する必要があります。債務名義の具体例は以下のとおりです。
- 強制執行認諾文言の記載がある公正証書
- 離婚訴訟において作成された和解調書
- 離婚訴訟の確定判決書
- 婚姻費用分担請求に関する審判書
- 離婚調停や婚姻費用の分担請求調停の調停調書
上記のような書類が手元にある場合は、相手の資産や給料をスムーズに差し押さえることが可能です。
強制執行認諾文言が記載された書類があれば、裁判所での手続きを経ずにいきなり強制執行することもできます。
財産開示手続について
義務者の財産を特定するのが難しい場合は、財産開示手続を申し立てる方法があります。
財産開示手続とは、債権者が債務者の持つ財産に関する情報を取得するための手続きのことです。執行力のある債務名義の正本を有する債権者が申し立てることができます。
財産開示手続の申し立てに必要な書類は、主に以下のとおりです。
- 財産開示手続申立書
- 執行力のある債務名義の正本(正本とその写し1通)
- 債務名義の送達証明書(原本とその写し1通)
- 債務者の住民票または商業登記事項証明書
加えて、2,000円分の収入印紙と8,220円分の郵便切手を用意する必要があります。状況によってはさらに追加の書面等が必要になる場合もあるため、あらかじめ管轄の裁判所に確認しておくとよいでしょう。
第三者からの情報取得手続について
義務者の財産を特定するには、財産開示手続以外に、第三者からの情報取得手続を申し立てる方法もあります。
第三者からの情報取得手続はその名前のとおり、債務者の財産に関しての情報を、債務者以外の第三者から提供してもらう手続きのことです。
主に給与(勤務先)に関する情報や、預貯金に関する情報などを得るために行われます。
第三者からの情報取得手続の申し立てに必要な書類は、主に以下のとおりです。
- 第三者からの情報取得手続申立書
- 当事者目録(第三者目録含む、写し1通)
- 請求債権目録(原本と写し1通)
- 財産調査結果報告書
- 債務名義等還付申請書
- 財産開示期日実施証明申請書(不動産情報・勤務先情報のみ)
- 所在地目録(不動産情報の場合のみ)
申し立てる際の費用としては、予納金や、郵便で申し立てる場合は郵便切手が必要になります。
まとめ
婚姻費用は、別居中でも夫婦で分担する必要があります。金額は夫婦の話し合いにより自由に決められますが、一般的には婚姻費用算定表を参考に算出され、相場は4~15万円です。
婚姻費用を請求するには、まずは夫婦で協議を行い合意を目指しましょう。合意ができ次第、執行認諾文言付きの公正証書を作っておくのがおすすめです。
合意に至らなかった場合は、婚姻費用分担請求調停を申し立てることになります。調停で合意した内容には強制執行力があるため、相手が婚姻費用を支払わなかった際には給料や預貯金を差し押さえることもできます。
なお、婚姻費用は基本的に過去にさかのぼっての請求はできないため、別居したらできる限り速やかに相手に請求しましょう。
また別居中の婚姻費用を打ち切られないようにするには、合意内容を公正証書にしっかりと記載しておくことと、場合によっては強制執行の申し立てを行うことがポイントになります。
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