基本的に親の借金を子供が肩代わりする必要はない
基本的に、子供だからといって親の借金を肩代わりする必要はありません。
借金は貸した側と借りた側の契約によって発生するものであり、借りた人が返済すべきであるためです。いくら借金をした人の子供でも、借金の契約においては部外者であって当事者ではありません。
子供が「親の借金を支払ってあげたい」と思うなら、代わりに返済することは可能です。しかしその場合、贈与税が発生する場合があるため注意が必要です。
ここでは、親子であっても借金を肩代わりする義務がないことや、親の借金を肩代わりすると贈与税が発生する可能性があることについて解説します。
親子であっても借金を肩代わりする義務はない
前項で解説したとおり、いくら親子であっても借金を肩代わりする義務はありません。法律上は親子でも契約上は無関係であり、親が存命なら親自身が返済すべきであるためです。
逆の立場でも同様です。借金しているのが親でも子供でも、債務者が生存している間はお互いに返済義務を負いません。
たとえば同世帯の親が家族の生活のために借金をしたのなら、家族の一員として借金返済について相談に乗ったり協力したりする必要があるかもしれませんが、返済義務を負うこととはまた別の話です。
そのため、たとえば賃金業者や親にお金を貸している知人などから「親の代わりに借金を返済しろ」と言われても、応じる必要はないことを覚えておきましょう。
もししつこく「返せ」と言われたり、相手が親の連絡先を聞いてきたりするようなら、警察に被害届を出すことをおすすめします。債務者以外の人に弁済を要求したり、債務者の所在や連絡先を聞き出そうとしたりすることは、賃金業法に違反する行為であるためです。
(取立て行為の規制)
第二十一条 貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
七 債務者等以外の者に対し、債務者等に代わつて債務を弁済することを要求すること。
八 債務者等以外の者が債務者等の居所又は連絡先を知らせることその他の債権の取立てに協力することを拒否している場合において、更に債権の取立てに協力することを要求すること。
引用元 賃金業法第二十一条第七項・第八項|e-Gov法令検索
注意点は、相手が賃金業者でなければ賃金業法の規制を受けない点です。たとえば、知人や友人、ヤミ金融業者が債権者になっているケースです。
とくにヤミ金融業者は、民法第877条を盾に子供に親の扶養義務があると主張し、親の借金を支払わせようとする場合があります。
(扶養義務者)
第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
引用元 民法第八百七十七条|e-Gov法令検索
しかし民法第877条でいう扶養義務は、当事者間でのみ発生するものです。ヤミ金融業者には効果がおよばないため、惑わされないようにしましょう。
債権者が賃金業者でもそうでなくても、子供に返済義務がないことに変わりはありません。取り立てられたときは、毅然とした態度で返済義務がないことを伝えましょう。
それでも相手が引き下がらなければ、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談すれば、以下のような対応を提案してくれるはずです。
- 面談強要禁止を求める仮処分の申立て
- 債務不存在確認訴訟の提起
- 不法行為に基づく損害賠償請求
- 脅迫罪や恐喝罪、強要罪に該当するなら刑事告訴
なお、「面談強要禁止を求める仮処分の申立て」と「債務不存在確認訴訟の提起」はそれそれ以下のような手続きです。
面談強要禁止を求める仮処分の申立て |
何度も家に来て嫌がらせをしたり長時間居座ったりといった迷惑行為を禁止するための手続き。 |
債務不存在確認訴訟の提起 |
支払う必要のない請求を長期間受けている場合に、そのような債務が存在しないことを裁判所に認めてもらうための訴訟。 |
いずれも、裁判所への申立てが必要です。どのような方法をとるかは、弁護士と相談しましょう。
親の借金を肩代わりすると贈与税が発生することがある
親の借金を肩代わりすると、贈与税が発生することがあります。「子供から贈与されたお金で借金を返済した」という扱いになるためです。
そのため、子供が親のために厚意で借金を肩代わりすること自体は可能ですが、贈与税の課税対象になるリスクがあることを知っておきましょう。
なお、肩代わりしようとしている借金の支払額が年間110万円以下であれば、贈与税はかかりません。そのほか、以下のようなケースも贈与税がかからない可能性があります。
- 親が生活に困窮するほど多額の借金を抱えており、自力での返済が不可能
- 子供が借金返済のためのお金を親に貸し付けた
たとえば親が明らかな債務超過状態に陥っており、処分できる財産も収入もない場合は、子供が借金を代わりに支払っても贈与税の課税対象にならない可能性があります。
また、子供が借金返済のためのお金を親に貸付け、親が子供に返済していくという手段をとったときも、贈与税がかからない場合があります。
ただし、形だけ「贈与ではなくお金を借りた」ということにしても、実態が贈与なら税務署から贈与とみなされ、贈与税を課せられるおそれがあるため注意が必要です。贈与を疑われないために、以下のような対策をしておくことをおすすめします。
- 借用書を作成する
- 支払期日を設定する
- 返済方法を手渡しではなく銀行振込にして証拠を残す
- 返済時に最低限の利息をつける
口頭だけでは、「贈与ではなく貸付けである」という証明ができません。そのためきちんと借用書を作成し、借用書が形だけのものではないことがわかるよう支払期日も設定しましょう。
また、実際に、借用書のとおりに返済をさせることも重要です。その際は手渡しではなく銀行振込にし、「返済をした」という証拠が残るようにしましょう。
貸付けであると判断されるためには、利息をつけることも大切です。身内だからといって利息を免除すると、貸付けであると認められない可能性があります。年利1%や2%の最低限のものでよいため、利息をつけましょう。
子供の借金を親が返済する義務があるのかどうかや返済が必要なケースについては、以下の記事を参考にしてください。
親の借金を肩代わりしなければいけないケースとは
前項で解説したとおり、親の借金は肩代わりしなくてよいのが基本です。
しかし中には、借金を肩代わりしなければならない場合もあります。たとえば以下のようなケースです。
- 親の借金を相続した場合
- 親の借金の保証人になっていた場合
- 親が子供の名義で借りている場合
それぞれ解説します。
親の借金を相続した場合
親の借金を相続すると、親の借金に対して返済義務が生じます。相続財産には預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も含まれるためです。
相続財産は、以下の割合で受け継ぎます。
- 遺言書で指定された割合
- 相続人同士で話し合う「遺産分割協議」で決定した割合
- 民法が定める「法定相続分」どおりの割合
ただし借金に関しては、法定相続分に応じて相続人が受け継ぐことが原則であり、相続人はそれぞれ受け継いだ分を返済しなければなりません。
例を見てみましょう。
・相続人:配偶者+子供2人
・借金総額:600万円
上記の例では配偶者が300万円、子供は1人につき150万円ずつ受け継ぎます。配偶者と子供の法定相続分は2分の1ずつであり、子供が複数人いるなら2分の1を子供の数で頭割りするためです。
法定相続分については、以下の記事を参考にしてください。
【関連記事】法定相続分とは?ケース別で見る相続の割合や計算方法をわかりやすく解説|ツナグ相続
親の借金の保証人になっていた場合
子供が親の借金の保証人や連帯保証人になっていた場合、親が返済できなくなったり亡くなったりしたときは、連帯保証契約の定めに従い子供が返済義務を負います。
とくに連帯保証人には、通常の保証人とは異なり以下の権利が認められていないため、自分が借金をしている状況とあまり変わりません。
むしろ、親が借金を返済できず保証人・連帯保証人である子供に請求が来た場合は残債を一括で請求されるのが基本であるため、重い負担がかかります。
催告の抗弁権 |
先に主債務者に対して請求するよう要求する権利 |
検索の抗弁権 |
主債務者に借金を弁済できるだけの資産がある場合に、支払いを拒否できる権利 |
分別の利益 |
保証人が複数いる場合に、返済金額を保証人の数で分割できる利益 |
なお、親が離婚して疎遠になっていても、子供の返済義務はなくなりません。親が離婚したことと借金の保証人になっていることは無関係であるためです。
ただし、知らないうちに勝手に保証人にされていたケースであれば、返済義務は負いません。債権者と交渉して保証人から外してもらったり、訴訟を経て契約を無効にしてもらったりといった対応をすることで返済義務がなくなります。
死亡した夫が連帯保証人だった借金を免れる方法については、以下の記事を参考にしてください。
親が子供の名義で借りている場合
親が子供の名義で借金をしている場合も、状況次第では名義人である子供に返済義務が生じる可能性があります。
子供に返済義務が生じるケースと生じないケースは以下のとおりです。
返済義務が生じるケース |
・子供が親に代理権を与えていた場合
・子供が名義貸しに了承していた場合
・「表見代理」とみなされた場合
・親が未成年の子供の利益のために借金した場合 |
返済義務が生じないケース |
親が子供に無断で契約した場合 |
成人している子供が親に代理権を与え、親がその代理権に基づいて借金をしたのであれば名義人である子供に返済義務が生じます。
また、親の名義では審査に通らず借金ができないときに、親が子供の名義を使うことについて子供自身が了承しているなら子供は返済しなければなりません。
そのほか、「表見代理」とみなされたときも同様です。
【表見代理とは】
相手から見て、代理権があるように見える場合に、実際は代理権がなくても代理行為があったものとして扱う制度。
たとえば、子供が自分の名義で借金をすることについて了承していなくても、親が子供の運転免許証や住民票といった本人確認書類や実印を用いて契約した場合、親が代理人である証拠が揃っているとして子供に返済義務が生じることがあります。
しかし、親が子供の本人確認書類や実印を勝手に持ち出して行った契約は無効です。訴訟によって親の無権代理が認められれば、返済する必要はなくなります。
親が子供に無断で子供を保証人とした保証契約も、債権者に事情を話して保証人から外してもらったり、訴訟を提起して認めてもらったりすることで契約を無効にできます。
なお、借金を帳消しにする方法については以下の記事で解説しているため、ぜひ参考にしてください。
親の借金の肩代わりをしないための対処法
親に多額の借金があることを知らずに相続してしまったり、親に頼まれて借金の連帯保証人になってしまったりといったケースもあるでしょう。そのような場合でも、親の借金を肩代わりせずに済む対処法は以下のとおりです。
- 相続放棄【資産や負債などの権利や義務を一切引き継がず放棄】
- 限定承認【相続財産の限度で支払う】
- 自己破産【裁判所で全ての債務を免除してもらう手続き】
それぞれ解説します。
相続放棄【資産や負債などの権利や義務を一切引き継がず放棄】
まずは相続放棄をする方法です。
【相続放棄とは】
はじめから相続人ではなかったことになる手続き。資産も負債も一切引き継がずに放棄する。
相続放棄をすれば、親がどれだけ多くの借金を残したとしても一切受け継がずに済みます。
ただし、預貯金や不動産といった資産を相続する権利も同時に放棄することになるため、負債よりも資産のほうが多いとわかっているなら、相続放棄よりもすべてを相続する「単純承認」を選択したほうがよいかもしれません。
注意点は、相続放棄には期限が設けられている点です。相続が開始したことを知ったときから3カ月以内に手続きしなければなりません。
また、相続放棄をするつもりでも、亡くなった親の財産に手を出してしまうと単純承認したとみなされ、相続放棄ができなくなる点にも注意が必要です。
相続放棄のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット |
・借金を背負わずに済む
・相続トラブルに巻き込まれずに済む |
デメリット |
・財産調査が不足していると結果的に損をする可能性がある
・一度放棄すると撤回できず、取消しも簡単に行えない
・手続きに手間がかかる
・自分が放棄したことで次順位の親族が相続人になる可能性がある |
相続放棄には、借金を背負わずに済む・相続トラブルに巻き込まれずに済むといったメリットがある反面、上記のようにデメリットも多く存在します。
たとえば、借金よりも資産のほうが少ないと思い込んでいたため相続放棄をしたとします。しかし、後日借金を大きく上回る財産を隠し持っていたことが判明した場合でも、一度相続放棄をしてしまうと撤回ができません。
取消しが認められるケースもありますが、必ずしも認められるとは限らないため結果的に損をしてしまうことがあります。
そのほか、自分が相続放棄したことで次順位の親族が相続人になる可能性があり、そのことでトラブルになるおそれがあります。
法定相続人の順位は以下のとおりです。
・第一順位:子供
・第二順位:父母
・第三順位:兄弟姉妹
たとえば相続人が子供の場合、複数人いる子供のうち1人が相続放棄しただけであれば、ほかの子供が相続人になるため順位は変わりません。
しかし1人しかいない子供が相続放棄をすると被相続人の父母、父母が亡くなっているなら兄弟姉妹に権利が移ります。
この場合、相続放棄した旨を父母や兄弟姉妹に伝えなければ、トラブルになる可能性があります。相続放棄をするなら、ほかの相続人に声をかけておいたほうがよいでしょう。
相続放棄の申述先や必要書類、費用は以下のとおりです。
申述先 |
親の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
※上記のリンクから管轄裁判所を検索できます。 |
必要書類 |
・申述書
・被相続人の死亡事項が記載された戸籍謄本
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・相続放棄する人の戸籍謄本 |
費用 |
・800円分の収入印紙(申述人1人につき)
・連絡用の郵便切手(管轄の裁判所に要確認)
|
※ケースによって、追加書類の提出が必要になることがあります。
限定承認【相続財産の限度で支払う】
限定承認を選択するのも1つの手段です。
【限定承認とは】
プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を受け継ぐ方法。
限定承認が向いているのは、以下のようなケースです。
- 親に多額の借金があることはわかっているが、手元に残したい財産がある
- プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多い可能性が高いが全貌がわからない
- 現時点ではプラスの財産のほうが多いが、あとから借金が発覚すると考えられる
また、限定承認には以下のメリット・デメリットがあります。
メリット |
プラスの財産の範囲内で借金を支払えばよいため、負担が少なくて済む |
デメリット |
・3カ月以内に財産調査を完了させ、家庭裁判所に申述する必要がある
・相続人全員で手続きしなければならない |
単純承認をしてしまうと借金を全額相続してしまうことになりますが、限定承認であればプラスの財産を超える借金を負わずに済みます。
ただし、3カ月以内に財産調査を完了させる必要があることと、相続人全員で手続きしなければならないというデメリットがあります。たとえば相続人のうち、1人でも反対している人がいると限定承認はできません。
なお、相続人の中に相続放棄をした人がいる場合は、その人以外の相続人で申述します。
限定承認の申述先や必要書類、費用は以下のとおりです。
申述先 |
親の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
※上記のリンクから管轄裁判所を検索できます。 |
必要書類 |
・申述書
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・申述人全員の戸籍謄本
・財産目録 |
費用 |
・800円分の収入印紙
・連絡用の郵便切手(管轄の裁判所に要確認) |
※ケースによって、追加書類の提出が必要になることがあります。
自己破産【裁判所で全ての債務を免除してもらう手続き】
相続してから親に多額の借金があることが判明した場合や、保証人・連帯保証人になっており、親が返済不能に陥っているケースなどは、自己破産で債務を免除してもらう方法があります。
【自己破産とは】
裁判所に申し立て、支払不能であることが認められるとすべての借金がゼロになる手続き。ただし支払不能であると認められる必要がある。また、税金や年金、養育費などは免責されない。任意整理や個人再生などで解決できない場合に選択するのが一般的。
親が存命なら、親が破産手続きをします。
ただし、親が自己破産をしても保証人・連帯保証人の返済義務はなくならないため、子供が親の保証人・連帯保証人になっている場合、親が自己破産をすると子供に請求がいってしまいます。
親子揃って借金から逃れるためには、子供も別途破産手続きをする必要があることを知っておきましょう。
自己破産の注意点は、借金がゼロになるという大きなメリットがある分、デメリットも多く存在する点です。自己破産のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット |
・借金の返済義務がなくなり取り立てから解放される
・強制執行を回避できる |
デメリット |
・ブラックリストに掲載されるため、5〜10年程度は新たな借入れやローンの契約、携帯電話の分割購入などができない
・多くの財産が処分される可能性がある
・職業によっては職業・資格制限を受ける
・「官報」で破産者として住所や氏名が公開される |
申立後、破産手続開始決定が出ると強制執行を受けなくなります。つまり、長期間滞納が続いており、いつ財産を差し押さえられてもおかしくないケースでも、破産手続開始決定後は差し押さえられる心配がありません。
自己破産では、特定の債権者だけに返済する「偏頗(へんぱ)弁済」が禁じられているためです。
デメリットは上記のとおりいくつかありますが、とくに注意したいのは職業によっては職業・資格制限を受けることです。たとえば士業や警備員、生命保険募集人など、職業・資格制限の影響を受ける職業に就いている人は、一定期間その職業に就けなくなります。
そのほか、国の機関紙である「官報」に住所や氏名が載ることで、官報を確認する習慣のある一部の職業の人には自己破産したことがバレてしまうおそれがあります。
信用情報に傷がつき「ブラックリスト」に掲載されることで、5〜10年程度は新たな借入れやクレジットカードの作成、ローンの契約などができなくなることも、念頭に入れておく必要があるでしょう。
自己破産のデメリットについては、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひあわせてチェックしてください。
親の借金額を調べる方法
どのような方法をとるにしても、まずは親の借金額をはっきりさせる必要があります。
親の借金額を調べる方法は以下のとおりです。
親が健在の場合 |
1.親に教えてもらう
2.郵便物や通帳を調べる
3.不動産の登記情報を確認する |
親が亡くなっている場合 |
1.郵便物や通帳を調べる
2.不動産の登記情報を確認する
3.信用情報を開示請求する |
それぞれ解説します。
親が健在の場合
親が健在なら、以下の方法で借金額を確認しましょう。
- 親に教えてもらう
- 郵便物や通帳を調べる
- 不動産の登記情報を確認する
まずは、親に直接借金がいくらあるのか聞いてみましょう。
ただし、正直に話してくれるとは限りません。子供を巻き込みたくないとの思いから、ごまかしたりはぐらかしたりする可能性があります。
へそを曲げてしまう場合もあるため、あまりしつこく問うのはやめておいたほうがよいでしょう。
ただ、「ない」とはっきり答えられなかったり機嫌を損ねたりするということは、借金をしている確率が高いと考えられるため、本人に聞く以外の方法で確認することをおすすめします。
本人に聞いても明確な答えが得られないときは、郵便物や通帳を調べましょう。以下のような差出人から届いた郵便物があれば、借金の有無やその金額がわかるかもしれません。
- 消費者金融
- クレジットカード会社
- 金融機関
- 裁判所
- 税務署
通帳も、記帳して見てみましょう。消費者金融やクレジットカード会社からの引き落としがある場合、借金をしている可能性があります。
そのほか、親名義の不動産があるなら、「登記事項証明書」を取得すると登記の情報が確認できます。
【登記事項証明書とは】
不動産の所在や所有者、設定されている権利など、登記の状態がわかる書類。法務局の証明書発行窓口やオンラインで取得できる。発行手数料は以下のとおり。
・オンライン請求+窓口受取:480円
・オンライン請求+郵送受取:500円
・窓口請求+窓口受取:600円
不動産に抵当権や根抵当権、質権といった権利が設定されていないかチェックしましょう。住宅ローンを組む際に抵当権を設定した可能性もありますが、不動産を担保にお金を借りているかもしれません。
抵当権設定のタイミングが建物の建築年月日直後なら、住宅ローンである可能性が高いです。住宅ローンかどうかわからなければ、抵当権者に問い合わせてみましょう。
なお、抵当権は借金を完済しても自動的には消えません。そのため、単に抵当権の抹消手続きをしていないだけで、借金自体はすでに完済しているパターンもあり得ます。
参照:登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です|法務局
親が亡くなっている場合
親が亡くなっている場合も、前項で解説したとおり郵便物や登記の状況から借金を調べることが可能です。
ただ、本人に聞けないため調査が難航する可能性があります。そのため、信用情報機関に信用情報の開示請求をすることをおすすめします。
【信用情報機関とは】
借金の履歴や返済状況などを指す「信用情報」を管理する機関のこと。信用情報を開示請求すれば、いつどこからどれだけ借金しているかがわかる。
信用情報の開示請求は、本人しかできないのが原則です。しかし信用情報を必要とする事情がある場合、その相続人や相続人から委任を受けた弁護士であれば請求できます。
各信用情報機関の主な加盟業態や開示請求方法は以下のとおりです。
信用情報機関名 |
主な加盟業態 |
開示請求方法 |
CIC
株式会社シー・アイ・シー |
・消費者金融
・銀行
・信販会社
・クレジット会社(流通系・銀行系・メーカー系)
・リース会社
・保険会社
・保証会社
・携帯電話会社 など |
郵送:1,500円 |
JICC
株式会社日本信用情報機構 |
・消費者金融
・クレジット会社(流通系・銀行系・メーカー系)
・信販会社
・金融機関
・保証会社
・リース会社 など |
郵送:1,300円
※速達は+300円 |
KSC
全国銀行個人信用情報センター |
・銀行
・信用金庫
・信用組合
・農協 など |
郵送:1,679〜1,800円
※速達は+300円 |
本人が請求するならインターネットやスマホアプリなどからでも請求できますが、法定相続人が請求するときは郵送で請求する必要があります。
また、以下のような書類が必要です。
- 相続人の本人確認書類(運転免許証やパスポート、マイナンバーカード、住民票など)
- 法定相続人であることがわかる書類(発行から3カ月以内の戸籍)
- 本人の死亡事項記載の戸籍
ただし2、3は、法務局で発行してもらう「法定相続情報一覧図」を添付するなら不要です。
開示結果は、通常1週間から10日程度で回答が返送されます。しかし添付した書類の種類によっては、さらに日数がかかることもあります。
信用情報開示の方法や手数料については、以下の記事で詳しく解説しているためぜひ参考にしてください。
相続後に親の借金が発覚した場合はどうする?
相続後に親の借金が発覚し、トラブルに巻き込まれるケースは珍しくありません。相続後に親の借金が発覚した場合の対処法は以下のとおりです。
- 相続放棄が遅れた事情を家庭裁判所に説明する
- 相続放棄できず返済が困難な場合は債務整理について弁護士に相談する
それぞれ解説します。
相続放棄が遅れた事情を家庭裁判所に説明する
相続後に親の借金が発覚し、「相続放棄をしたいが熟慮期間の3カ月がすでに過ぎてしまった」というケースもあるでしょう。
そのような場合でも、相続放棄が遅れた事情を家庭裁判所に説明し、認められれば相続放棄が可能です。
【熟慮期間とは】
単純承認・限定承認・相続放棄の3つの相続方法のうち、いずれかを選択できる期間のこと。「自分のために相続が開始したことを知ったときから3カ月以内」と定められている。3カ月を過ぎると、期間の延長を申し立てない限り単純承認したことになる。
事情があるからといって、熟慮期間後の相続放棄が必ずしも認められるとは限りません。しかし、以下に該当する事情があると認められやすくなる傾向にあります。
- 借金の存在を知らなかった
- 知らなかったことについて相当の理由がある
- 借金の存在を知ってから3カ月以内に相続放棄を申述した
実際に、熟慮期間後の相続放棄について、「自己が取得すべき遺産はないと信じたとしても無理からぬ事情がある場合には、自己のために相続が開始されたことを知らなかったと解するのが相当」であるとした判例も存在します。(名古屋高等裁判所・平成11年3月31日判決)
熟慮期間後に相続放棄を受理してもらうには、相続放棄の申述をする際に「上申書」を添付することをおすすめします。
上申書とは、相続放棄が遅れた理由を記載する書類です。上申書は自分でも作成できますが、作成に慣れた弁護士に依頼すると認められる可能性が高まるでしょう。
相続放棄できず返済が困難な場合は債務整理について弁護士に相談する
前項で解説した方法で相続放棄が認められず、自分で返済するのも難しいときは、「債務整理」について弁護士に相談しましょう。
【債務整理とは】
合法的に借金をゼロにしたり減額したりできる救済制度のこと。主に、自己破産・個人再生・任意整理の3種類がある。
各債務整理方法の特徴や違いは以下のとおりです。
|
任意整理 |
個人再生 |
自己破産 |
選択すべき状況 |
利息をカットしてもらえれば完済できる |
元本が大幅に減るなら完済できる |
まったく返済できない |
効果 |
将来利息や遅延損害金のカット
※元本は残る |
元本を5分の1〜10分の1程度に減額
※最低でも100万円は返済する必要あり |
借金がゼロになる |
メリット |
少ない |
多い |
かなり多い |
デメリット |
少ない |
多い |
かなり多い |
手続き |
比較的簡単 |
難しい |
やや難しい |
任意整理は、少ないデメリットで行える手続きです。デメリットといえば、ブラックリストに掲載されることくらいです。
元本自体は残るため任意整理後も返済が続きますが、整理対象を選べるため、保証人つきの借金や職場や知人・友人からの借金を対象から省けるというメリットがあります。
また、ほかの債務整理方法とは異なり官報に住所・氏名が載らないため、周囲に知られずに手続きできる点も大きなメリットです。
個人再生は、任意整理とは異なり元本自体を大きく減らせる手続きです。自己破産とは違い、持ち家を残せる・職業・資格制限を受けないといったメリットがあります。
ただし整理対象を選べないため、保証人つきの借金や職場からの借金があるときは保証人や職場に迷惑がかかる可能性があります。手続きも複雑であり、自分で行うのは難しいでしょう。
自己破産は借金をゼロにできる手続きです。大きなメリットがある分、財産を失う可能性がある点や、職業によっては職業・資格制限を受ける、官報に住所・氏名が掲載されるなど、多くのデメリットがあるため慎重に検討する必要があります。
とくに、住宅ローン返済中の持ち家や残したい財産がある場合は、任意整理や個人再生を選択したほうがよいでしょう。
どの債務整理方法が適しているか判断できないときは、弁護士や司法書士に相談するのがおすすめです。
債務整理をしても将来マンションを購入できるかどうかについては、以下の記事を参考にしてください。
まとめ
親の借金を肩代わりしないための対処法について解説しました。
基本的に、親の借金を子供が肩代わりする必要はありません。借金は借りた本人と貸した側の契約であって、たとえ子供でも契約には関係ないためです。
「親のために肩代わりしたい」というなら代わりに支払っても構いませんが、肩代わりする行為が「贈与」とみなされ贈与税が発生する可能性があるため注意しましょう。
なお、子供が「払いたくない」と思っていても、親の借金を肩代わりしなければならないケースも存在します。たとえば親の借金を相続したケースや、親の借金の保証人になっている場合、親が子供の名義で借金していたときなどです。
借金を肩代わりしないためには、相続放棄や限定承認、自己破産といった対処法があります。そのうち相続放棄には「熟慮期間」と呼ばれる期限がありますが、事情によっては熟慮期間である「相続開始から3カ月」を過ぎても相続放棄が認められる可能性があります。
相続放棄が認められず、借金の返済が難しいときは、「債務整理」を検討するとよいでしょう。債務整理方法には、主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類があります。
注意点は、債務整理にはリスクがある点です。たとえばブラックリストに掲載され、新たな借入れやクレジットカードの作成などができなくなるほか、自己破産では財産を失う可能性もあるため、選択の際は慎重に検討するようにしましょう。
どの債務整理方法を選択すればよいかわからない場合は、弁護士や司法書士といった専門家に相談することをおすすめします。
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