離婚届を勝手に出すとどうなる?
配偶者に断ることなく、離婚届を勝手に提出した場合、どうなるのでしょうか?具体的には、以下に挙げる状況になると考えられます。
- 離婚届の受理通知で相手にバレる
- 罪に問われる可能性がある
- 離婚自体が無効になる
- 慰謝料を請求される可能性がある
それぞれ詳しく解説します。
離婚届の受理通知で相手にバレる
離婚届を勝手に提出しても、離婚届の受理通知によって配偶者にバレます。
離婚届の受理通知とは、離婚届の提出時に本人(夫婦の片方)が確認できなかった場合、その人に離婚届が正式に受理されたことを通知するために送付される文書です。
これは、配偶者が知らない間に離婚届が提出される不正を防止するための仕組みです。
夫婦のいずれかが離婚届を提出した場合、その場にいない配偶者に対して離婚届の受理を知らせるために受理通知が住所登録した住所に送付されるため、配偶者は離婚届が提出(受理)されたと知ることになります。
つまり、勝手に離婚届を提出しても、基本的には相手にバレるのです。
なお、離婚届を夫婦が揃って提出した場合、その場で本人確認が行われるため、受理通知が送付されることはありません。
罪に問われる可能性がある
離婚届を勝手に提出されたことが発覚すると、提出した側が罪に問われる恐れがあります。
主に以下の罪に問われる可能性があります。
問われる可能性がある罪 |
内容 |
電磁的公正証書原本不実記録罪 |
登記や戸籍などの公的な記録を不正に申請した場合に成立する可能性がある。(刑法157条1項) |
有印私文書偽造罪 |
他人の印章や署名を使用して権利や義務などの文書を偽造・変造した場合に成立する可能性がある。(刑法159条1項) |
偽造有印私文書行使罪 |
偽造した有印私文書を行使した場合に成立する可能性がある。(刑法161条1項)
|
重婚罪 |
離婚届を勝手に提出し、法的には離婚が無効であるにもかかわらず他人と婚姻関係になった場合に成立する可能性がある。(刑法184条) |
ただし、勝手に提出された離婚届であっても、受理されたまま放置すれば離婚が有効になる点には注意が必要です。
離婚の撤回のためには調停や裁判を起こし、離婚が無効であることを主張しなければなりません。
参考:刑法|e-GOV 法令検索
離婚自体が無効になる
離婚届を勝手に提出されても、離婚自体が無効になるケースがほとんどです。
一方的な離婚届の提出は法的に認められていないためです。
ただし、離婚を無効にするには、離婚届が勝手に提出された後に、調停や裁判で離婚の無効を主張しなければなりません。提出された離婚届が受理されると、離婚が認められてしまうためです。
そのため、提出された側は、離婚無効調停や離婚無効裁判を起こすことになります。
調停や裁判が提起され、離婚届が勝手に提出されたものであることを裏付ける証拠が認められた場合、裁判所は離婚を無効と判断するケースがほとんどです。
離婚は法的に重大な影響がある行為のため、手続きに関しては厳格に規定されています。離婚は双方の合意に基づく重要な決定で、どちらか一方の勝手な行動によって進めるべきではないというのが法的な原則です。
慰謝料を請求される可能性がある
離婚届を勝手に提出した場合、相手に慰謝料を請求される可能性があります。
無断で離婚届を提出することが、相手方の人格権を侵害する行為とみなされるケースがあるからです。
繰り返しになりますが、離婚は夫婦双方の合意に基づいて決定されるべきことであり、どちらか一方が無断で離婚届を提出しても法的に認められることはありません。
また、夫婦間でこのような行為があった場合、お互いの信頼関係が大きく損なわれるほか、離婚届を提出された側は精神的なショックやダメージを受ける可能性もあるでしょう。
これらの理由から、離婚届を提出された側が精神的苦痛に対する慰謝料を請求する可能性が高くなるのです。
なお、一般的な離婚手続きと比較して、無断で離婚届が提出された場合は、夫婦間の紛争が長期化する可能性があります。
離婚届の提出が法的な問題だけではなく、感情的なトラブルに発展するケースが多いためです。そのため、すべてが解決するために相当な時間がかかる恐れがあります。
離婚の選択は法的な影響が大きいため、夫婦間での協議で合意を目指しましょう。協議での合意が難しい場合は、弁護士に依頼して交渉を代行してもらったり、調停・裁判に備えたりするのも有効です。
配偶者に離婚届を勝手に出されてしまった場合の対処法
離婚届を勝手に提出した場合の影響について見てきましたが、無断で提出されたことを放置していると離婚が認められてしまいます。
そのため、配偶者の行為に対して対処する必要があります。
ここでは、配偶者に離婚届を勝手に提出された場合の対処法を紹介します。具体的な対処法は以下の通りです。
- 協議離婚無効確認調停の申し立てを行う
- 離婚無効確認訴訟の提起を行う
- 戸籍の訂正を行う
それぞれ詳しく解説します。
協議離婚無効確認調停の申し立てを行う
配偶者に無断で離婚届を提出された場合は、協議離婚無効確認調停の申し立てを行いましょう。
協議離婚無効確認調停は、協議離婚が無効であることを主張し、協議離婚の記載がある戸籍を訂正するために必要な調停です。
離婚届を無断提出された場合、その協議離婚を無効にするには、離婚届がそのまま認められてしまわないよう、早急に手続きを行わなければなりません。
協議離婚無効確認調停は、調停委員会(男女1人ずつの調停委員と審判官)が間に立ち、当事者同士の話し合いによって解決を目指します。
調停手続きにおいて、当事者双方が協議離婚は無効であることに合意し、家庭裁判所も正当な合意であると認めた場合、離婚は無効となります。
離婚が無効であるとの審判が確定した場合は、申立人が確定証明書付きの審判書謄本を添えて、1ヶ月以内に市区町村役場に戸籍を訂正する申請を行います。
また、調停が不成立となった場合は、離婚無効確認訴訟を提起して、解決を図ることになります。
なお、配偶者がすでに再婚している場合は、配偶者と再婚相手に対して婚姻取消しの調停の申し立ても必要になります。
協議離婚無効確認調停は、離婚届を提出された夫もしくは妻のほか、その親族や直接確認の利益を有する第三者が申し立てられます。
申立先は相手方の住所地の家庭裁判所もしくは、当事者が合意のもと定める家庭裁判所です。
申し立てには収入印紙1,200円分に加えて、連絡用の郵便切手代1,000円程度が必要です。
加えて、申し立てには以下の書類の提出が必要です。
- 協議離婚無効確認調停の申立書(相手方の人数分だけコピーも必要)
- 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 相手方の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 離婚届の記載事項証明書
- 利害関係を証する資料(利害関係人からの申し立ての場合、戸籍謄本など)
参考:協議離婚無効確認調停
離婚無効確認訴訟の提起を行う
協議離婚無効確認調停が不成立に終わった場合は、離婚無効確認訴訟の提起を行います。
離婚無効確認訴訟とは、離婚届を勝手に出された側が家庭裁判所に申し立て、離婚無効の確認を求める裁判のことです。
日本の法律では、調停前置主義が採用されているため、訴訟の前に調停を起こす必要があります。離婚届を提出された側は、協議離婚無効確認調停が不成立となり、審判もされない場合に、離婚無効確認訴訟を提起できます。
裁判によって離婚が無効であると判断された場合、調停証書や審判書、確定証明書を市区町村役所に持参して手続きすれば、戸籍から離婚の記載が抹消されます。
離婚無効確認訴訟では、離婚に合意していないことと、離婚届を勝手に出されたことといった事実を主張したうえで、それを証明する証拠を提出することが重要です。
例えば、メールや手紙、録音データ、日記などが有効な証拠となる場合があります。また、離婚届記載事項証明書が重要な証拠となることがあるため、必ず取得しておきましょう。
なお、訴訟を提起する場合は、手続きや対応が複雑になるため、弁護士に対応を依頼した方がいいでしょう。
戸籍の訂正を行う
配偶者に無断で離婚届を出された場合は、戸籍の訂正を行います。
離婚届を一方的に提出された場合、そのままでは離婚が法的に有効になります。ただし、離婚に同意してない場合や、離婚届の提出を知らなかった場合は、戸籍の訂正を行うことで対処できます。
なお、離婚が無効と認める調停が成立した日、または判決が確定した日から、10日以内に戸籍の訂正を行う必要があることが、民法によって定められています。
この期間を過ぎてしまうと、戸籍の訂正の申請が受け付けられないため、迅速に行動する必要があります。
戸籍の訂正の申請は市区町村役場の市民課で行えます。訂正の申請が受け付けられた場合、戸籍は元の状態に戻ることになり、再び配偶者との結婚状態となります。
参考:戸籍法116条1項|e-GOV法令検索
勝手に離婚届を出されないために「離婚届不受理申出」を行う
配偶者に無断で離婚届を提出されないようにする対策として、離婚届不受理申出を行う方法があります。
離婚届不受理申出とは、離婚届が勝手に提出されても、自ら窓口に出頭して届出を確認できるまでは、離婚届を受理しないように申し出る制度です。
離婚は夫婦間の合意に基づく協議離婚が一般的であるものの、配偶者の一方が離婚届を断りなく出す可能性がある場合、離婚届不受理申出の申請が効果的です。
特に、離婚協議において親権争いがある場合は、親権を求める配偶者が未成年の子どもの親権者を自分に設定した離婚届を断りなく提出する恐れがあります。
離婚届が一度受理されると、離婚を覆すためには調停や裁判が必要になり、手間や時間がかかってしまいます。離婚届を提出されるのを防ぐためにも、離婚届不受理申出を申請することをおすすめします。
申請に必要な書類は離婚届不受理申出書の提出のみで、申出書は各役所の窓口でもらえますが、地域によっては役所のホームページでダウンロードできる場合もあります。
なお、申出書を提出できるのは夫または妻のみで、第三者や代理人の提出はできません。郵送での提出も原則認められません。
また、離婚届地不受理申出は、申出をした本人が取り下げない限りは有効で、引っ越しや本籍地の変更があっても効力が失われることはありません。
離婚の話し合いが難航している場合に弁護士を頼るメリット
離婚の話し合いは当事者である夫婦同士で進めるのが基本です。しかし、感情的になり冷静な対応ができない場合や、話し合いが進まない場合があります。
そのようなケースでは、弁護士に対応を依頼するのがおすすめです。
ここでは、離婚の話し合いが難航している場合に弁護士を頼るメリットを紹介します。具体的には、以下のようなメリットがあります。
- 離婚までの期間を短くできる
- 離婚協議書などの作成を手伝ってもらえる
- 代理人となって交渉してくれる
それぞれ詳しく解説します。
離婚までの期間を短くできる
離婚協議を弁護士に依頼するメリットの1つが、s離婚が成立するまでの時間を短くできることです。
弁護士は法律の専門家であるほか、離婚手続きの進め方や交渉事に精通しているためです。
弁護士は依頼主の利益を最優先に考え、最善の解決策を提案してくれます。夫婦間での離婚の話し合いが難航している場合でも、手続きをスムーズに進められるため、離婚が成立するまでの時間を短縮可能です。
また、弁護士を通じて離婚請求した場合、協議を軽んじたり、取り合わなかったりした配偶者が無視できなくなり、協議に応じたり、離婚に合意したりするケースもあります。
場合によっては、弁護士に依頼してから1ヶ月程度で離婚が成立する場合もあるでしょう。
できるだけ早く離婚問題を解決したいと考えている場合は、弁護士への依頼を検討しましょう。
離婚協議書などの作成を手伝ってもらえる
離婚の話し合いが難航している場合に弁護士に依頼するメリットとして、離婚協議書などの作成をサポートしてもらえる点が挙げられます。
離婚協議書とは、夫婦間で離婚する条件を整理して確認する契約書のことです。
離婚後の生活を円満に進めるために重要な書類で、具体的には子どもの親権の所在や養育費、財産分割の取り決めなど、離婚条件に関わるすべてのことが記載されています。
正しく作成された離婚協議書には法的な効力が発生するため、記載されている内容について当事者は守る必要があります。
ただし、逆にいえば「法的な効力を持つように」、離婚協議書を作成しなければならず、そのためには専門的な知識が求められます。
法的に有効な内容を盛り込んだ離婚協議書を作成するためには、法律の専門家である弁護士に依頼するのが無難といえるでしょう。
代理人となって交渉してくれる
依頼者の代理人となって交渉してくれるのも、離婚協議が難航している場合に弁護士を頼るメリットです。
弁護士は代理人として交渉可能で、当事者同士の対立を避けつつ交渉できるようになるためです。
また、弁護士は法律に関する専門的な知識と経験に基づいて交渉するため、相手と対立するリスクを軽減できるだけではなく、離婚協議がスムーズに進みやすいため、依頼者が感じるストレスも抑えられます。
さらに、弁護士に代理交渉を依頼して、こちらの主張や意見を伝えておけば、相手にこちらの考えを正しく伝えられるほか、自分の権利を守ることも可能です。
離婚の話し合いは感情的になりやすく、冷静な判断が難しくなるケースが多いといえます。第三者である弁護士が交渉を代行すれば、感情的になることなく、冷静に離婚問題を解決できる可能性が高いでしょう。
弁護士に代理人として交渉してもらったり、交渉に同席してもらったりすることで、さまざまなメリットを享受できます。配偶者との話し合いが難しい場合は、弁護士に相談するようにしましょう。
まとめ
今回は離婚届を勝手に出した場合にどうなるのかについて解説しました。
離婚届を勝手に提出した場合は、受理通知で相手にバレるほか、離婚自体が無効になったり、罪に問われたり、慰謝料を請求されたりする可能性があります。
また、配偶者に離婚届を無断で提出された場合は、調停や訴訟によって離婚を無効にしてもらえるほか、役所で戸籍の訂正を行う必要があります。
離婚は法的な影響が大きいため、当事者間の合意の有無が重要になります。かえって状況が複雑になったり、相手との信頼関係が崩れたりすることがあるため、離婚届を相手に無断で提出することはやめましょう。
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