離婚せずに別居する場合の5つのメリット
離婚せずに別居する場合は、以下の5つのメリットがあります。
- 生活費(婚姻費用)を得られる
- 関係を修復できる可能性が残る
- 子供への影響を抑えられる
- 世間のイメージを保てる
- 離婚に向けての準備ができる
それぞれのメリットについて具体的に解説します。
1.生活費(婚姻費用)を得られる
別居をしている場合、収入が少ない方の配偶者は、多い方の配偶者から生活費(婚姻費用)を受け取る権利があります。
婚姻費用は、夫婦が生活を送るために必要な費用のことです。衣食住に関する費用や教育費、医療費、交際費などが婚姻費用に該当します。
民法では「夫婦は互いに協力し扶助しなければならない」という相互扶助義務が定められているため、別居状態であっても、お互いが同等の生活を送れるように協力しなければなりません。
たとえば夫が仕事をしており妻が専業主婦だった場合、別居をすると妻の生活が苦しくなることが想定されます。この場合、夫に対して婚姻費用を請求すれば、毎月一定額の生活費を振り込んでもらうことが可能です。
婚姻費用の金額は、配偶者の年収や子供の年齢、人数などによって異なります。裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」を目安に、夫婦間で話し合って毎月の金額を決めましょう。
夫婦の話し合いだけで婚姻費用の話がまとまらない場合は、弁護士に仲介してもらう方法もおすすめです。
参照:養育費・婚姻費用算定表|裁判所
2.関係を修復できる可能性が残る
夫婦関係の悪化が原因で別居をしたとしても、離婚をしていなければ将来的に夫婦関係が良好になるケースがあります。
結婚して同居生活を送っていると、交際していたときよりも喧嘩の回数が増えたり会話が減ったりし、「離婚した方が良いのだろうか」と考える夫婦は珍しくありません。
しかし、感情に流されて離婚を決断してしまうと、1人になったときに「離婚しなければ良かった」と後悔することもあります。
お互いに話し合った上で別居をすれば、改めてパートナーと一緒に暮らす意義や大切さを再確認できるかもしれません。
ただし、別居期間が数年以上など長期間になってしまうと、婚姻関係が破綻していると判断されやすくなります。そのため、別居中に相手が離婚を望んだときには、離婚が成立してしまう可能性が高いです。
別居による関係修復を望む場合は、いつまで別居するのか期間を決めておき、修復に向けて早めに行動をすることが大切です。
別居によって夫婦関係が必ず良くなるわけではありませんが、離婚するのかどうか迷っている段階であれば、いったん別居して冷却期間を設けてみるのも一つの手です。
3.子供への影響を抑えられる
子供がいる場合、いきなり離婚すると精神的に大きなダメージを与えてしまう恐れがあります。
離婚をすると両親のうちどちらかと離れて暮らすことになる上、住む場所や家庭環境、名字などが変わってしまうからです。
そのため、夫婦2人だけの家庭よりも、子供がいる家庭の方が離婚への決断ができないというケースが多いものです。
そこで離婚ではなく別居の選択をすることで、子供への影響は最小限に抑えられます。
別居中の親が子供と会う頻度や教育費の分担、どちらが家を出て行くのかなど、事前に話し合っておきましょう。
また、離婚しなければ名字が変わることもないので、子供の在学中に名字が変わり、学校で噂を立てられるという事態を防げます。
ただし、別居が長期間に渡ると子供の精神状態に悪影響を及ぼす可能性が高いです。
夫婦関係が修復したタイミングで再び同居するのか、子供が小学校や中学校に上がるタイミングを待って離婚するのか、今後の方向性だけでも決めておきましょう。
4.世間のイメージを保てる
離婚は決して悪いことではありませんが、子供が生まれたばかりのタイミングや受験シーズンなど、状況によっては周囲にマイナスイメージを持たれるかもしれません。
たとえば子供が生まれたばかりで周囲が祝福モードであるのにかかわらず、離婚が周囲にバレてしまうと複雑な空気になってしまうでしょう。また、幼稚園や小学校の面接には両親の付き添いが必要な場合もあります。
さらに多くの女性は離婚すると名字が変わってしまうため、「離婚したことを職場に説明しなければならない」というプレッシャーもあります。
別居であれば、わざわざ周囲に説明する必要はないので、周囲からのイメージを保つことが可能です。
パートナーと暮らすことは難しいと感じているものの、世間体が気になる場合には離婚ではなく別居で対応すると良いでしょう。
5.離婚に向けての準備ができる
別居期間中に離婚の準備ができるのは大きなメリットといえます。
特に育児休暇中の方や専業主婦(主夫)の方などは、離婚による生活環境の変化は非常に大きなものになります。
たとえば自分が子供を連れて家を出ていく場合、次に住む家や新しい仕事、子供を預ける保育所などを探さなければなりません。
何の準備もせずに離婚すると、仕事や保育所がすぐには見つからず、生活に困窮する可能性があります。
別居であればいったん住む家だけを探し、パートナーに婚姻費用をもらいつつ、ゆとりを持って新しい仕事や保育所を探すことが可能です。
また、弁護士を代理人として立てれば、別居中のパートナーと顔を合わせることなく離婚の交渉が進められるので、精神的なストレスも抑えられます。
離婚に向けての準備期間が必要な場合は、パートナーとの別居を選択肢に入れてみてください。
離婚せずに別居する場合の3つのデメリット
離婚せずに別居すると多くのメリットが得られる一方、以下のようなデメリットがあるのも事実です。
- 相互扶助義務が負担になることがある
- 長期間の別居は子供の心に負担をかける
- 再婚することができない
次の項目から、離婚せず別居することのデメリットについて解説します。
1.相互扶助義務が負担になることがある
別居中の夫婦でも相互扶助義務は消失しないので、収入の多い方は収入の少ないパートナーに対し、毎月の婚姻費用を支払う必要があります。
婚姻費用は年収に基づいて算定されるので、支払えないような金額を請求されることはないものの、同居していた頃よりも生活が苦しくなるケースも少なくありません。
そのため、婚姻費用を支払う側にとっては、相互扶助義務が大きな負担になってしまう可能性があります。
なお、婚姻費用を支払っている側の貯金が徐々に減っていくと、離婚の際の財産分与や慰謝料などの金額が減ってしまう場合があります。
また、婚姻費用を支払っているパートナーが怪我や病気になって働けなくなった場合、今度はもらっていた側が婚姻費用を支払う側になります。
婚姻費用を目当てに別居を続けていると、自分自身がダメージを受ける可能性もあるため、注意が必要です。
2.長期間の別居は子供の心に負担をかける
別居は離婚に比べると子供への影響は抑えられるものの、それはあくまでも一時的、あるいは短期間で別居を終わらせる場合に限られます。
長期間にわたる別居は、徐々に子供の心に負担をかけてしまいます。離婚しないで別居している状態が続くと「なぜ一緒に住まないのだろう」という疑問が子供の心の中に生じる可能性が高いからです。
また、子供がある程度の年齢になってくると「自分のせいで両親が離婚できないのではないか」と罪悪感を感じるケースもあります。
別居が子供に与える影響はさまざまですが、親の顔色を常に窺うようになったり、ストレスを感じやすくなったりしてしまいます。
子供の精神面を保つためにも、別居する期間は事前に決めておいた方が良いでしょう。
3.再婚することができない
別居をしていても法律上はパートナーとの婚姻関係が続いているため、正式に離婚するまでは再婚ができません。
もしも別居中にパートナー以外の異性と交際して性的な関係を持ってしまうと、不貞行為で慰謝料を請求される恐れがあります。そのため、別居中は再婚相手を探すような行為は控えなければなりません。
また、別居期間が数年に及ぶと年齢を重ねてしまうため、再婚のチャンスがどんどん狭まっていきます。
再婚を検討しているのであれば、別居期間を長く続けるのではなく、離婚に向けての準備を早めに開始しましょう。
離婚と別居の違い
離婚か別居かどちらにするのかを決めるときには、離婚と別居の違いをしっかりと把握しておきましょう。離婚と別居の主な違いは以下のとおりです。
|
離婚 |
別居 |
扶養 |
入れない |
入れる |
相互扶助の義務 |
養育費の支払い義務はある |
収入の高い方が婚姻費用を支払う |
公的制度の利用 |
利用できる |
原則利用できない
|
会社からの手当てや扶助 |
受けられない可能性がある
|
受けられる
|
相続権 |
ない |
ある |
ここからは、離婚と別居の違いについて詳しく解説します。
扶養に入れるか
婚姻関係にある配偶者は扶養に入ることができるため、社会保険料や所得税が軽減・免除されるというメリットがあります。
扶養というのは、1人で生計を立てられない家族を援助して養うことです。
配偶者を扶養している場合には、所得税において「配偶者控除」が適用され、税金が軽減されます。配偶者控除の条件は以下のとおりです。
- 民法の規定による配偶者であること(内縁関係は除く)
- 納税者と生計を共にしていること
- 年間の合計所得金額が48万円以下(給与所得者は103万円以下)であること
- 青色申告者の事業専従者として1年間で一度も給与支払いを受けていないこと(または白色申告者の事業専従者でないこと)
- 納税者の年収が1,000万円を超えていないこと
たとえば妻のパート年収が103万円以下であれば、配偶者控除により夫の所得税の負担が軽減されます。
別居状態であっても生計を共にしている部分があれば配偶者控除は適用されますが、離婚すると配偶者控除を受けられなくなり、所得税の金額が上がってしまいます。
社会保険については、たとえば夫が被保険者で妻が被扶養者になる場合、妻の健康保険料や国民年金保険料は免除されます。社会保険の扶養に入るための条件は以下のとおりです。
- 被保険者の配偶者、子、孫、兄弟姉妹であること
- 被保険者と生計を共にしていること
- 被扶養者の年収が130万円未満、かつ被保険者の年収の1/2未満であること(同一世帯の場合)
- 被扶養者の年収が130万円未満、かつ被保険者の援助による収入額よりも少ないこと(同一世帯でない場合)
別居をしたとしても、配偶者からの婚姻費用よりも収入が少なければ、引き続き被扶養者として扱われます。
しかし、離婚すれば扶養から外れることになるため、自分で社会保険に加入して保険料を支払わなければなりません。
扶養に入れるかどうかによって、税金や社会保険料の負担が大きく異なる点に留意しておきましょう。
相互扶助の義務を負うか
別居しても夫婦の相互扶助の義務は消えないため、収入の高い方は低い方に対して婚姻費用を支払い続けなくてはなりません。
一方、正式に離婚をすれば相互扶助の義務はなくなり、婚姻費用の支払いも離婚した時点で終了となります。
なお、離婚をして親権を取れなかったとしても、子供の養育費は支払う必要があります。
民法上では、親権の有無にかかわらず子供の扶養は親の義務であると定められているためです。離婚をしてパートナーと婚姻関係でなくなったとしても、親であることに変わりはありません。
そのため、子供が成人して経済的に自立するまでは、養育費を支払う義務が生じます。原則として、どのような理由であっても養育費の支払いが免除されることはありません。
公的制度を利用できるか
ひとり親控除や児童扶養手当などの公的制度は、基本的には離婚した後でなければ利用できません。
ひとり親控除は、納税者がシングルマザーやシングルファザーであるときに、35万円の所得控除を受けられる制度です。
児童扶養手当は、子供の数に応じて毎月一定額の手当を受給できます。扶養義務者の前年の所得額によって、支給の有無や金額などが異なります。
別居をして一人で子供を育てていたとしても、原則として上記の公的制度の利用は認められないため、注意が必要です。
ただし、配偶者のDVで別居に追い込まれた場合や離婚協議中の場合、証拠を提示すれば児童扶養手当を受給できる可能性があります。
配偶者からDVを受けている場合では、婦人相談所が発行している「配偶者からの暴力の被害者の保護に関する証明書」や、裁判所から保護命令を受けていることがわかる資料などが証拠になります。
特別な事情により別居したまま児童扶養手当を受給したい場合は、お住まいの地域の役所で相談してみてください。
会社からの手当や補助を受けられるか
勤務先によっては、扶養家族がいる社員に家族手当や家賃補助などを支給している場合があります。
別居中でも婚姻費用などを配偶者に渡しており、家族を扶養している状態であれば、会社からの手当は変わらず受けられる可能性があります。
一方、補助を受ける条件が「扶養家族がいること」である場合、離婚すると手当の支給がなくなり、生活が苦しくなってしまうかもしれません。
離婚によってどの手当や補助がなくなってしまうのか、事前に就業規則などで確認しておきましょう。
相続権があるか
長年にわたって別居をしていたとしても、夫婦の一方が亡くなった際には、配偶者に相続権があります。
相続権は法的な婚姻関係さえあれば、原則として消失することはありません。仮に離婚協議中であったとしても、離婚届を出すまでは配偶者が相続人になります。
一方、正式に離婚をした時点で相続権は消失するため、離婚後すぐに元配偶者が亡くなった場合であっても、遺産を受け取る権利はありません。
ただし、両親が離婚をしても子供の相続権は残ります。
子供は親権者を持たない親の相続権も有しているため、法定相続分または遺留分として、最低限の遺産を受け取ることが可能です。
離婚を拒否し続ける理由
別居状態が続いているのにもかかわらず、パートナーから離婚を拒否されるケースも少なくありません。離婚を拒否される理由として以下の3つが考えられます。
- 世間の目が気になる
- 子供に会えなくなることを危惧している
- 財産分与を避けたい
次の項目から、パートナーが離婚を拒否し続ける理由について詳しく見ていきましょう。
世間の目が気になる
離婚を拒否し続ける理由として、世間の目を気にしているケースがあります。
近年は夫婦の3組に1組が離婚しているというデータも出ており、離婚は珍しいことではないというイメージも定着しつつあります。
しかし、「離婚することで世間体が悪くなる」という価値観を持っている方が一定数いるのも事実です。職業によっては「離婚することで仕事に影響が出るのではないか」と懸念し、離婚に踏み切れないというパターンもあります。
また、離婚をすると親族や職場、友人など一定の範囲内の人には報告をしなければなりません。
報告の際に「なぜ離婚したのか」と詮索されたり噂が立ったりすることを嫌がり、離婚を拒否していることも考えられます。
子供に会えなくなることを危惧している
離婚をすると、親権を持たない親は子供と同居できなくなり、会う機会も減ってしまいます。
親権を持たない親には面会交流の権利があるため、定期的に子供と会うことはできるものの、親権者の許可なく勝手に会うことは許されません。
未成年の子供の親権は母親が持つことが多いので、父親側が離婚を拒否している場合は、子供に会えなくなることを危惧し、離婚せず別居のまま保留しているというケースが考えられます。
その他には、経済的なことや子供の精神面での負担を考慮し、子供が成人するまでという期限付きで別居しているケースも多くみられます。
子供がいる家庭は離婚問題が複雑化する傾向があるので、養育費や面会交流のことも含め、しっかりと夫婦間で話し合うことが大切です。
財産分与を避けたい
離婚をすると、夫婦で共に築いた共有財産を分け合う義務があります。
財産分与の割合は、原則として夫婦で1/2ずつです。
仮に妻が専業主婦だったとしても、「妻が家事をしていたから夫は仕事に専念できた」とみなされるため、財産分与の割合に変動はありません。
上記のようなケースでは「自分が働いて得たお金を財産分与で配偶者に渡したくない」という理由で離婚を拒否している可能性が高いです。
また、一方の配偶者が不貞行為やDV、モラハラなどを行っていた場合、財産分与とは別に慰謝料を支払う必要があります。
離婚をすることで相手に支払う金額が多く、金銭的な負担を避けたいがために離婚を拒否しているケースも考えられます。
離婚を拒否されたときの対処法
パートナーから離婚を拒否されたものの、自分は「離婚したい」と考えている場合、以下のような対処を取りましょう。
- 離婚条件に歩み寄りを見せる
- 離婚の原因を明確にする
- 弁護士に相談する
離婚を拒否されたときの対処法について詳しく解説します。
離婚条件に歩み寄りを見せる
配偶者に離婚を拒否する理由を聞き、離婚条件に不満があると言われた場合は、一度条件を見つめ直してみましょう。
離婚条件に歩み寄りを見せることで、相手が納得して離婚に応じてくれる可能性が高くなります。
たとえば配偶者が子供に会う頻度が少ないことを不満に思っている場合、「親権は譲れないが、面会交流の頻度は相手の希望に沿う」のように、譲歩できるポイントを見つけてみてください。
配偶者が経済的な不安で離婚に踏み切れない場合、財産分与や養育費で多めの金額を支払うことを約束することで、離婚に応じてもらえる可能性が高くなります。
相手が離婚条件を不満に思っているときは、譲歩できない部分と譲歩しても良い部分を整理し、お互いが納得できる離婚条件に近付けるようにしましょう。
離婚の原因を明確にする
不貞行為やDV、モラハラなど明確な離婚事由がある場合は、客観的な証拠を押さえることで相手が離婚に応じる可能性があります。
たとえば相手の不貞行為が原因で離婚を望んでいるのであれば、以下のようなものが客観的な証拠になります。
- 不倫相手とホテルに出入りしている写真・動画
- 性行為中の写真・動画
- 不倫相手とのメッセージやり取り
- SNSの投稿
- 配偶者と不倫相手の会話の録音
- 配偶者が不貞行為を自白している録音や書面
- 探偵会社の調査報告書
証拠が全くない状態で「不貞行為が原因で離婚したい」と言っても、「不貞行為はしていない」「勘違いだ」などと言い訳される恐れがあります。
上記のように言い逃れできない証拠を話し合いで提示すれば、相手は離婚に応じざるを得ない状況になるでしょう。
相手が頑なに離婚に応じないときは、まず離婚の原因を明確にしてから客観的な証拠を集め、証拠が揃った段階で話し合いに臨んでみてください。
弁護士に相談する
夫婦の話し合いだけでは離婚できそうにない場合、離婚問題に強い弁護士に相談し、代理人として配偶者と交渉してもらう方法がおすすめです。
弁護士に依頼すれば法的根拠に基づいて適切な主張をしてくれるため、話し合いがスムーズに進む可能性が高いです。
また、別居中に配偶者と直接会って離婚の話し合いをするのは、労力がかかります。
特にDVやモラハラなど配偶者に問題がある場合、話し合いに大きなストレスを感じてしまうケースも少なくありません。弁護士を代理人に立てれば配偶者と直接話す必要がなくなるため、精神的な負担からも解放されるでしょう。
さらに、弁護士に依頼することで離婚に対する真剣さが配偶者にも伝わります。本気で離婚しようとしていることが伝わることにより、配偶者が素直に話し合いに応じるというケースもあります。
真剣に離婚を考えているのであれば、離婚問題に強い弁護士に一度相談してみてください。
離婚せずに別居する際の注意点
子供を連れて別居しようと考えているときは、必ずパートナーに「別居したい」という意思を伝えましょう。無断で子供を連れて別居すると、パートナーとトラブルに発展する可能性があるためです。
また、離婚を前提に別居をする場合は、早い段階で住民票を移動させておくことをおすすめします。
次の項目からは、離婚せずに別居する際の注意点について詳しく解説します。
子供を連れて別居する際は事前に話し合う
離婚せずに別居する際は、どちらの親が子供の面倒を見るのかが問題になります。
親権を獲得したいのであれば、子供を連れて別居した方が良いでしょう。子供と同居していれば養育実績が積み上げられ、親権争いで有利に働く可能性が高いです。
ただし、子供を連れて別居する際は、必ずパートナーと事前に話し合う必要があります。
勝手に子供を連れて別居を始めてしまうと、相手の怒りを買って「違法な連れ去り」と主張され、親権争いで不利になる恐れがあるためです。
なお、配偶者の虐待やDVなどが原因で別居をする場合、子供を守るための行為となるため、配偶者から別居の同意を得られなくても原則として違法行為にはなりません。
虐待やDVなどの緊急事態を除き、基本的には配偶者の同意を得てから別居するようにしましょう。
離婚を前提とした別居は早めに住民票を移動させる
離婚を前提に別居をする場合、早い段階で転居届を提出し、住民票を新しい住所に移しておきましょう。
住民票を移動させておけば、自分宛の公的書類はすべて新しい住所に届くため、配偶者に郵便物の有無を確認する手間が省けます。
また、離婚調停や裁判になったときは別居期間の長さが考慮されることが多いです。
早い段階で住民票を移しておけば「いつから別居をしていた」という客観的な証拠になり、離婚が認められやすくなります。
反対に、距離を置く目的で一時的に別居するということであれば、住民票の移動は必要ありません。
離婚の意思が固いときにのみ、住民票を早めに移動するようにしましょう。
別居が続いた後で離婚をする場合の注意点
長期にわたって別居状態が続いた後に離婚を決断した場合は、以下の点に注意が必要です。
- 財産分与時に相手の財産を調査しにくい
- 財産分与の対象額が少なくなる場合がある
- 不貞行為をされても慰謝料請求ができない場合がある
- 慰謝料請求権には時効がある
それぞれの注意点について詳しく解説します。
財産分与時に相手の財産を調査しにくい
別居期間が長く続いていると相手の財産状況が把握しきれなくなり、財産分与が難航する可能性が高くなります。
財産分与では、夫婦で築き上げた「共有財産」を原則として1/2の割合で分配します。預貯金のほか、不動産や株式、保険、自動車など、結婚してから夫婦で築いた財産はすべて財産分与の対象です。
なお、婚姻前に築いた財産や両親から譲り受けた財産などは「特有財産」となるため、財産分与の対象にはなりません。
同居して生計を共にしていれば配偶者の財産状況は簡単に把握できますが、別居して生計が別々の期間が長くなるほど、財産状況が不明瞭になります。
また、財産分与における通帳の開示は任意であるため、配偶者に拒否されるケースも少なくありません。
相手が財産の調査に協力的でない場合は、弁護士に相談の上、調停や裁判などで財産分与を請求する必要があります。
財産分与の対象額が少なくなる場合がある
財産分与の対象となるのは、あくまでも「夫婦2人で協力して築き上げた共有財産」に限られます。
同居中に築かれた財産は原則としてすべて財産分与の対象となりますが、別居期間中に増えた財産については、財産分与の対象外になる可能性が高いです。
一般的に、別居期間中は夫婦の「経済的協力関係」が途絶えているとみなされるからです。
たとえば同居していた期間が5年で、別居していた期間が3年の場合、基本的には同居していた5年で形成された財産のみが財産分与の対象となります。
別居を開始した日以降に夫婦共有財産を費消した場合でも、別居開始時を基準に財産分与されることに変わりはありません。この場合、財産分与の際には費消してしまった分は個人の特有財産からねん出しなければならないケースもあります。そのため、別居の時期は慎重に検討しましょう。
不貞行為をされても慰謝料請求ができない場合がある
長年にわたって別居を続けていると、不貞行為をされても相手に慰謝料請求ができなくなる可能性があります。
民法では「貞操義務」が定められており、夫婦は「他の異性と肉体関係を持ってはならない」という義務を負っています。
別居中であっても貞操義務が消失することはありませんが、長年にわたる別居で夫婦の交流が全くないようなケースでは、慰謝料の請求が難しくなります。
不貞行為が原因で婚姻関係が破綻したのではなく、不貞行為の前からすでに婚姻関係が破綻していたと判断される可能性が高いからです。
「婚姻関係が破綻している」とみなされる明確な別居期間は法律で定められていませんが、一般的に3年~5年以上別居状態が続いていると、婚姻関係が破綻していると判断されやすいです。
別居期間が長期にわたるほど不貞行為の慰謝料請求が困難になるため、注意しておきましょう。
慰謝料請求権には時効がある
相手の不法行為が原因で別居や離婚に至った場合、精神的苦痛を受けた賠償として慰謝料の請求ができます。たとえば不貞行為や暴力、モラハラなどが不法行為に該当します。
しかし、慰謝料請求権には時効が設けられており、期限をすぎると慰謝料の請求ができなくなる点に注意が必要です。
不法行為に関する慰謝料を請求できるのは、不法行為を知った日から3年、または不法行為があった日から20年のいずれか早い方になります。
たとえば配偶者が10年前に不倫をしていたことが発覚した場合、発覚した時点から3年以内であれば慰謝料の請求が可能です。
なお、不法行為が原因で離婚に至った場合は、離婚が成立した日から3年が慰謝料請求権の時効になります。
別居期間が長期間に及ぶと、いつの間にか時効を過ぎて慰謝料を請求できなくなる可能性があります。
不法行為が発覚したときは早めに弁護士に相談し、慰謝料請求の手続きを開始しましょう。
まとめ
離婚しないで別居することには多くのメリットがある一方、デメリットがあるのも事実です。また、別居期間が長くなると財産分与や不法行為の慰謝料請求などで不利になる可能性があります。
そのため、離婚しないで別居をする際には、目的を明確にしたり期間を決めておいたり、今後の見通しを立てておくことをおすすめします。
離婚を前提に別居したものの相手に拒否されている場合は、離婚問題に強い弁護士に相談しましょう。弁護士に代理で交渉してもらえば、有利な条件で離婚できる可能性が高くなります。
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