別居中の配偶者と離婚の話し合いが進まないときの対処法
別居をしたものの、配偶者との話し合いが平行線を辿ったり、そもそも相手が話し合いに応じてくれなかったりする場合、なかなか離婚できない場合があります。配偶者との話し合いが進まない場合には、下記のような方法を検討しましょう。
- 離婚条件の妥協点を探す
- 弁護士に協力してもらう
- 離婚調停を申し立てる
- 離婚訴訟を起こす
離婚条件の妥協点を探す
慰謝料や財産分与、親権や養育費などの離婚条件に折り合いがつかず、離婚の話が進まないのであれば、自分が譲歩することで離婚の合意を得られる可能性があります。
「自分の財産分与の取り分を少なくするから、親権を譲ってほしい」「子供との面会交流の回数を増やすから、養育費は提示額を払ってほしい」「慰謝料は請求しないから、住んでいるマンションは譲ってほしい」など、自分の希望を通す代わりに譲歩する点を相手に提示してみましょう。妥協点をすり合わせることで膠着状態を脱し、話し合いが進みやすくなります。
弁護士に協力してもらう
「話し合いをしても平行線で数ヵ月進展がない」「配偶者が連絡を無視して話し合いを避ける」など、夫婦だけで離婚を進めるのが難しい場合は弁護士に交渉してもらうのもおすすめです。
夫婦間では離婚に対する真剣な気持ちが伝わらないケースも見受けられます。その点、弁護士に依頼すると、弁護士が代理人となったことを知らせる受任通知が相手に送付されるため、相手に離婚に対する真剣さが伝わりやすくなります。
相手からの連絡はすべて弁護士を通す形にでき、離婚条件の交渉も弁護士が担ってくれるため、モラハラやDV、子供への虐待などで別居している場合でも安全に交渉を進められるでしょう。
離婚調停を申し立てる
話し合いはできるものの感情的になってしまったり、条件がうまくまとまらなかったりするのであれば、家庭裁判所に離婚調停の申し立てをする方法もあります。
離婚調停とは、調停委員を間に挟んだ話し合いを指します。調停委員が双方の主張を聞いたうえで離婚条件などをとりまとめ、解決策を提示してくれます。双方が納得すれば調停成立となり、調停調書を作成します。
調停調書は、裁判での判決と同様の法的効力を有します。慰謝料や養育費、財産分与などの取り決めの証拠を残すとともに、支払いなどが滞った際に強制執行によって相手方の財産の差し押さえが可能です。
離婚訴訟を起こす
話し合いによる協議離婚、家庭裁判所での調停離婚で相手の合意を得られない場合は、離婚訴訟を起こして決着をつけます。通常、離婚は双方の同意が得られなければ成立しませんが、裁判で判決がくだされれば、相手の同意がなくても離婚することが可能です。
ただし、裁判で離婚を認めてもらうためには、法定離婚事由(民法770条)が必要となります。具体的には下記の通りです。
法定離婚事由 |
内容 |
不貞行為 |
配偶者以外の相手と性的関係をもつことを指します。LINEのやり取りやデートなど、性的関係のない付き合いは不貞行為と認められません。なお、1回限りの不貞行為は離婚事由として認められないこともあるため、LINEのやり取りやラブホテルに入る写真など、継続して不貞行為を行っている証拠があったほうが良いでしょう。 |
悪意の遺棄 |
生活費を渡さない、配偶者や子供を置いて家出するなどの状況は、夫婦がともに暮らし、協力し合う同居義務、扶助義務に反し、悪意の遺棄とされます。生活費の支払いがないことを示す通帳、家出する際の置き手紙やLINEのやり取りなどが証拠となります。 |
3年以上の生死不明 |
配偶者が生死不明の状態が3年以上続いていることを指します。災害や海難事故などによる生死不明などが該当します。生存が確認でき、所在がわからないなどの場合は該当しません。災害や事故の資料、警察発行の捜索願受理証明書や、配偶者の親族や勤務先の陳述書などが証拠となります。 |
回復の見込みがない強度の精神病 |
配偶者が躁鬱や双極性障害、統合失調症といった強度の精神病かつ回復の見込みがない状態を指します。ただし、夫婦には扶助義務があるため、離婚後に病気の配偶者をサポートする人がいる、生活の目途がたっているなどのケースを除き、裁判所が離婚を認めるケースは稀です。 |
その他婚姻を継続し難い重大な事由 |
夫婦関係が破綻していて、関係の回復が見込めない状況を指します。具体的には、DVやモラルハラスメント、性の不一致、配偶者の両親との不和、過度な宗教活動、配偶者の服役、金銭問題、長期間の別居などが該当します。暴力の証拠となる写真や医師の診断書、警察への相談履歴、日記などが証拠となり、裁判所に婚姻関係の継続が困難だと判断されれば離婚を認められます。 |
法定離婚事由への該当が認められる別居期間の目安
長期間の別居であれば、裁判所に法定離婚事由の「婚姻を継続し難い重大な事由」として認められる可能性があります。民法では、婚姻した夫婦が同じ場所に住み、夫婦として生活する「同居義務」を定めており、この義務に反している長期間の別居は「夫婦関係の破綻」と判断されやすいためです。
一般的には、3~5年以上の別居期間があると夫婦関係の破綻とみなされます。なお、同居期間よりも別居期間の方が長い、配偶者からの暴力やモラハラなどがあったなどの場合は、3~5年より短い期間であっても夫婦関係が破綻していると判断される場合があります。
別居中の配偶者と離婚話が進まない原因
離婚話が進まない原因は家庭によってさまざまですが、主に下記のようなケースが多い模様です。
- 配偶者が離婚することを拒否している
- 配偶者と連絡を取りたくない
- 財産分与や親権などの離婚条件に合意できない
- 子供へ影響が心配で離婚に踏み切れない
- 離婚後の生活費に不安がある
配偶者が離婚することを拒否している
配偶者が離婚することを拒否している場合は、別居していても離婚の話がなかなか進みません。離婚を拒否する理由はさまざまですが、相手が関係の修復を望んでいる場合は聞く耳をもってもらえないこともあります。
また、世間体や仕事への影響などを懸念し、離婚を拒まれるケースも見られます。昨今は、夫婦の3分の1が離婚する時代とも言われていますが、離婚することで周囲から詮索されるのを避けたいと考え、離婚を選ばない人もいます。
不倫が原因で別居している場合は、不倫された側が「不倫相手と再婚してほしくない」「離婚して自由にさせたくない」といった復讐目的で離婚に応じないこともあります。
配偶者と連絡を取りたくない
相手に嫌悪感を感じて別居に至った場合は「配偶者の声を聞きたくない」「配偶者と顔を合わせたくない」と考える人もいます。話し合いの席をつくることすら難しいため、一向に離婚の話が進みません。
また、相手と関わりたくないといった気持ちから、別居中に電話番号を変えたり、住む場所を移したりするケースもあり、その場合は連絡がとることが困難になります。
財産分与や親権などの離婚条件に合意できない
離婚する際は、お金や子供について決めなければいけない項目が複数あります。それぞれの希望に折り合いがつかない場合は、話し合いが長期化してしまうケースも多々あります。
離婚時に決めるのは主に下記のような項目です。
お金についての決めごと
項目 |
内容 |
財産分与 |
婚姻中に夫婦が築いた財産を分けることを指します。一般的には「5:5」の割合で分けますが、どちらかに有責行為があったり、財産を築く際の貢献度の度合いに差があったりする場合は割合を改めることがあります。 |
年金分割 |
老後に受け取る年金の不均等を抑えるために、婚姻期間中の厚生年金記録を夫婦間で分割する制度です。妻が家事や子育てを行うために仕事をセーブしている場合、厚生年金の納める額が少なく、後々の受け取り金額も少なくなるため、不公平を軽減するために行われます。 |
婚姻費用 |
夫婦が生活するうえで必要な生活費を指します。別居中、収入や資産の少ない側は家賃や生活費などを婚姻費用として相手に請求できます。請求したにもかかわらず、相手が支払いを怠った場合などは、別居開始時に遡って請求する場合があります。 |
慰謝料 |
配偶者の不貞行為、DVやモラルハラスメントによる精神的苦痛への慰謝料を指します。 |
子供についての決めごと
項目 |
内容 |
親権 |
離婚時は一方の親が親権をもつため、どちらが親権者になるかを決めます。 |
養育費 |
子供を育てる親権者は、非親権者に養育費を求める権利があります。養育費の金額、支払いのタイミング、期間などを決めます。 |
子供との面会交流 |
子供と一緒に暮らさない非親権者は、子供と面会する権利をもちます。面会交流の頻度や時間、日程の決め方などを話し合います。 |
子供へ影響が心配で離婚に踏み切れない
離婚によって子供を取り巻く環境が変化し、悪影響を及ぼすことを懸念して離婚を拒むケースもあります。子供にとって親の離婚は、転校が必要になったり、名字が変わったり、親と会えなくなったりとストレスとなる要因が多いです。そのため、「子供が大きくなるまでは離婚しない」「子供が成人したら離婚する」と考えて、離婚を先送りにするケースも見られます。
離婚後の生活費に不安がある
先述した通り、別居中も収入や資産の少ない側は婚姻費用を請求できますが、離婚成立後は請求する権利がなくなります。そのため「仕事が見つかっていない」「収入が少ない」など離婚後の生活に不安を感じている場合は、離婚に応じてもらえないことがあります。
別居中の配偶者と円満離婚するためにしてはいけないこと
別居中だからといって、夫婦であることはかわりません。別居中に不貞行為に及んだり、婚姻費用の支払いを怠ったりした場合は、離婚時に不利になったり、慰謝料を請求されたりするおそれがあるため注意が必要です。
不倫や不貞行為
不貞行為とは、配偶者以外の相手と性的関係をもつことです。別居していたとしても、離婚成立までは夫婦であるため、不貞行為をした場合は有責配偶者となり、配偶者から慰謝料を請求されたり、離婚を求めても認められなかったりするおそれがあります。
別居期間が長期にわたり、夫婦関係が破綻していると認められれば、不貞行為とみなされない場合もあります。しかし、下記のようなケースでは客観的には関係が破綻しているようには見えず、「別居期間中に不貞行為に及んだ」とみなされ不利に働きます。
- 配偶者が離婚に同意していない
- 関係修復を見据えて別居している
- 別居はしているが、夫婦で頻繁に会っている
円満離婚したいのであれば、別居期間であっても不貞行為は行わないように注意しましょう。
婚姻費用の支払い拒否
夫婦には扶助・協力義務があり、双方が同等の生活ができるように努めなければなりません。そのため、別居中であっても収入の多い方は、収入の少ない相手に対して、婚姻費用という名目で生活費を支払う必要があります。
相手から婚姻費用を請求されたにもかかわらず、支払いを拒否し続けると、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てられるおそれがあります。調停で支払いが決まったにもかかわらず、さらに支払いを無視した場合は財産の差押えなどの強制執行を受ける可能性も考えられます。仮に、婚姻費用の名目で給料の差押えが行われた場合は、手取りの2分の1が差し押さえられてしまいます。
また、婚姻費用の未払いは、夫婦の同居・協力・扶助の義務を怠る「悪意の遺棄」に該当するおそれもあるため、離婚時に不利になったり、慰謝料を請求されたりする場合もあります。
婚姻費用の支払いについては、拒否や無視をするのではなく、配偶者との話し合いで減額を目指しましょう。自分で対応するのが難しい場合は、離婚問題に精通する弁護士に相談すると、的確なアドバイスをもらえます。
別居中に離婚へ向けてやるべきこと
離婚時にはできるだけ不利な条件を回避し、自分の希望を通したいものです。いざ離婚をするとなったときにスムーズに行動できるように、下記のような離婚に向けた準備を別居中にしておきましょう。
- 夫婦の共有財産を確認する
- 子供の監護実績を積む
- 請求できる慰謝料や養育費の相場を知る
- 慰謝料請求のための証拠を集める
- 住民票を異動させる
- 新しい生活に向けて準備する
夫婦の共有財産を確認する
実際に離婚する時に備えて、財産分与の対象となるものを把握しておく必要があります。相手に財産を隠されてしまうのを防ぐため、同居中に相手の財産も確認しておきましょう。
また、別居中に自宅を売却するなど、相手が夫婦の共有財産を勝手に処分してしまうケースも見られます。状況によっては、財産の売却を防ぐ「処分禁止の仮処分」を家庭裁判所に申し立てすることも検討しましょう。
なお、別居中に形成された財産は、財産分与の対象となりません。財産分与の対象となるのは、夫婦の協力によって形成された財産を指すためです。
子供の監護実績を積む
離婚時は、どちらか一方の親が親権をもちます。仮に夫婦間で親権争いが起こった場合は、子供の監護実績や監護状況が重視されるため、子供の養育のために積極的に行動してきたことを証明する必要があります。
例えば、保育園や幼稚園の先生とのやり取りが記録された連絡帳、監護の様子を証明する写真、子供の成長を記載した母子手帳や日記などがあると、監護の実績を示しやすくなります。
なお、現状では親権は母親が獲得するケースが多く、父親が親権をもつケースは稀です。父親が親権をとりたい場合は、別居時に子供を引き取って監護実績を積みましょう。可能な限り、監護期間を長くとることが望ましいです。
また、子供と同居できたら、母親と子供の面会交流を積極的に行うことが重要となります。裁判所は、一緒に暮らしていない親と子供が関わる面会交流を推奨しているため、別居時から面会交流を実施しておくと、親権を決める際に有利に働く可能性があるためです。
請求できる慰謝料や養育費の相場を知る
離婚時は、子供を育てる方が養育費を受け取ります。また、相手の有責行為で離婚する場合は慰謝料も請求することになるでしょう。
養育費や慰謝料の金額を相手に提示された場合は、その金額が相場に近いものなのかを確認する必要があります。養育費は、お互いの収入や家族構成などで相場が決まります。慰謝料に関しては離婚理由にもよりますが、50~300万円が相場とされています。
相場とかけ離れた額を提示されている場合は、不利な条件で離婚することになるため、別居期間中に法律の知識をある程度理解しておくことが重要です。相場がわからない場合や、相手が支払ってくれるか不安な場合は、離婚問題に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。
慰謝料請求のための証拠を集める
不貞行為、DVやモラルハラスメントなど、離婚の原因が配偶者にある場合は慰謝料を請求できます。ただし、相手の有責行為を証明する証拠がない場合、慰謝料の支払いを拒否されるおそれがあります。
相手からきちんと慰謝料を支払ってもらうためには、同居期間中から可能な限り証拠集めをしておきましょう。不貞行為の事実を証明するLINEのやり取りやラブホテルの領収書、DVやモラルハラスメントの事実を証明する写真や動画、日記、医師の診断書などが、相手の有責行為を示す証拠となります。
住民票を異動させる
別居を開始したら、住民票を異動しておくことも重要です。住民票の異動は、別居の事実や期間を示す証拠となり、夫婦関係の破綻を理由に離婚を進めやすくなります。
また、子供と一緒に別居を開始し、住民票を異動した場合は、児童手当の受給者を変更したり、新しく住み始めた場所から近い保育園や学校に通わせたりすることも可能です。
新しい生活に向けて準備する
離婚後の生活に向けての準備もしておきましょう。別居中に婚姻費用を受け取っている場合は、離婚後にそのお金がなくなることを考慮しておく必要があります。経済的に自立するために、仕事を見つけて収入を確保することも重要です。併せて、一人親世帯に対する自治体のサポートなども調べておきましょう。
また、婚姻時に配偶者の姓に変更した場合は、旧姓に戻すのか、現在の姓をそのまま名乗るのかなども決めます。離婚から3ヵ月以内であれば、役所に「婚氏続称の届け出」を提出することで、配偶者の姓をそのまま使用できます。
3ヵ月経過している場合は、家庭裁判所に「氏の変更許可の申立て」を申し立てる必要がありますが、旧姓に戻すことで生活で不利益や不便が生じるなどの特別な理由がない限り、変更を認められません。配偶者の姓をそのまま名乗りたいのであれば、3ヵ月以内に「婚氏続称の届け出」を提出しましょう。
まとめ
別居期間中の配偶者と離婚の話し合いが進まない場合は、相手が納得するように離婚条件を見直すことも検討してみてください。離婚調停や離婚訴訟などを行うことも視野に入れると良いでしょう。また、別居期間中は離婚時に不利になる行動は避け、離婚に向けた準備を進めることも重要です。
「配偶者が話し合いに応じてくれない」「慰謝料や養育費の相談をしたい」といった場合は、弁護士に相談するのもおすすめです。離婚に精通する弁護士であれば、自分に不利な条件を避けて、スムーズに交渉を進めてくれるでしょう。
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