民事再生と個人再生はどちらも民事再生法で定められた債務整理手続き
民事再生と個人再生は、どちらも債務整理という手続きの1種です。
債務整理は借金問題を解決させて生活再建を図るための手続きのことであり、ほかにも「任意整理」「自己破産」という手続きがあります。そして、債務整理には「再生」という手続きがあり、民事再生と個人再生はこの再生に該当するものです。
民事再生と個人再生は「民事再生法」という法律で規定された手続きですが、より詳しく言えば民事再生は主に企業を、個人再生は主に個人を対象にしています。
対象が異なることから、民事再生と個人再生はさまざまな違いがあるのです。
なお、まずはそれぞれがどのような手続きなのかを把握しておくことで、民事再生と個人再生の具体的な違いをより理解しやすくなります。そのため、ここからは民事再生と個人再生とは何かについて解説していきます。
民事再生とは主に企業を対象にした手続きのこと
民事再生とは、民事再生法に基づいて経営の行き詰った事業を再建を図るための手続きのことです。事業の再建を目的にしていることから、民事再生では主に企業が対象になります。
会社で抱える債務を返済できない場合には倒産となりますが、具体的な方法には事業を畳む「清算型」と事業の立て直しを図る「再建型」があります。
民事再生では債務減額などを定めた再生計画を裁判所から認可してもらうことで、破産をせずに立て直しを図れます。そのため、民事再生は再建型の倒産に該当し、経営陣を入れ替えずに事業の継続を行えます。
形式上は倒産となりますが、現在の経営者が経営権を保持したまま、借金を減額できるのが民事再生のメリットです。
なお、民事再生には大きく3つのタイプがあり、会社の経営状況などを考慮しながら依頼者が選択可能です。
自力再建型
|
民事再生で減額できた残りの借金を自力で弁済していく
|
スポンサー型
|
大企業などのスポンサーによる出資を得て借金残債を返済していく
|
清算型
|
事業の全部または一部を譲渡して、得られた金額で借金を弁済する
|
借金自体を減額できる効果があるため、民事再生は任意整理に比べて借金の返済負担を大幅に減らせるのもメリットです。
なお、実際には、個々の状況によって手続きができる条件などはさまざまなので、法律事務所に相談して自分に合ったアドバイスをもらうようにしてください。
個人再生とは主に個人を対象にした手続きのこと
個人再生とは、民事再生法第221条以下で規定されている手続きのことです。
前提からお伝えすると、民事再生は主に企業を対象にしていますが、個人でも利用できないことはありません。しかし、民事再生の場合は手続きが複雑になりやすいうえに、数百万円〜数千万円の費用を裁判所に支払う必要があります。
そこで、個人でも利用できるように定められたのが個人再生です。個人再生は債務者の生活再建を図ることを目的としており、裁判所に再生計画案を提出し認可されることで、借金を最大1/10、概ね1/5まで減額して、3年〜5年間で分割返済します。
なお、個人再生には下記の2種類の手続きがあり、それぞれで対象が異なります。
小規模個人再生手続
|
個人事業主やフリーランス、アルバイトをしている人などが対象の手続き。ただし条件を満たす場合は会社員や公務員でも利用できる。
|
給与所得者等再生手続
|
主に会社員や公務員を対象とした手続き。小規模個人再生手続よりも返済額が高額になりやすいのが特徴。
|
あくまで主な利用対象であるため、「会社員は必ず給与所得者等再生手続になる」のような定めはありません。個人再生をする場合には、法律事務所に相談して自身の状況に合った手続きを検討するようにしましょう。
民事再生と個人再生の具体的な違い
ここからは、民事再生と個人再生の違いについて、具体的に解説していきます。
民事再生と個人再生の違いには、主に下記が挙げられます。
- 利用対象
- 債務額の上限
- 予納金の金額
- 再生計画案の認可方法
民事再生と個人再生の違い①:利用対象
民事再生と個人再生では、それぞれ「どのような人が手続きを利用できるのか」という利用対象が異なります。
もともと民事再生は、会社を経営していて会社名義で借金をしている人などを対象として設けられた手続きです。そのため、個人で借金をしている人も利用できないわけではありませんが、手続きが複雑過ぎて利用しづらいというデメリットがありました。
そこで、民事再生を個人が利用しやすいよう、手続きを簡略化した個人再生という手続きが新たに設けられたのです。
よって、給与所得者や個人事業主などが個人として借金をしている場合には、基本的に個人再生を利用します。
民事再生と個人再生の違い②:債務額の上限
民事再生と個人再生の違いには、債務額の上限が挙げられます。
|
債務額の上限
|
民事再生
|
上限なし
|
個人再生
|
5,000万円まで
※住宅ローン特則を利用する場合は住宅ローンの残高を除く
|
民事再生の場合、債務額の上限はありません。そのため、会社が抱える負債の金額にかかわらず、民事再生を利用することが可能です。
一方、個人再生の場合には5,000万円が債務額の上限となります。借金が5,000万円を超える場合、個人再生を利用することはできず、他の債務整理手続きで借金問題を解決することを検討するべきです。
なお、個人再生には、住宅ローン特則という制度があります。通常、住宅ローンの残債が残っている場合に個人再生を行うと、担保である持ち家を手放す必要がありますが、住宅ローン特則は持ち家を残したまま手続きを進められる制度です。
住宅ローン特則を利用する場合には、住宅ローンの残高は債務額に含まれません。そのため、住宅ローンの残債を除いた借金の合計が5,000万円を超えていなければ、個人再生を利用することが可能です。
民事再生と個人再生の違い③:予納金の金額
民事再生と個人再生の違いには、予納金の金額が挙げられます。
予納金とは、民事再生や個人再生のような裁判所を介する手続きをする際に、裁判所へ支払う費用のことです。
民事再生の場合、予納金の金額は借金総額によって変動します。たとえば、東京地方裁判所の場合、民事再生の予納金は下記のように定められています。
借金総額 |
予納金 |
5千万円未満 |
200万円 |
5千万円~1億円未満 |
300万円 |
1億円~5億円未満 |
400万円 |
5億円~10億円未満 |
500万円 |
10億円~50億円未満 |
600万円 |
50億円~100億円未満 |
700万円 |
100億円~250億円未満 |
900万円 |
250億円~500億円未満 |
1000万円 |
500億円~1000億円未満 |
1200万円 |
1000億円以上 |
1300万円 |
参考:民事再生事件の手続費用一覧
民事再生の場合、借金総額5,000万円未満でも200万円の予納金がかかるのです。
一方で、個人再生ですが、東京地方裁判所の場合、個人再生をする際は必ず再生委員が選任されます。
個人再生の予納金はこの再生委員への報酬が大部分を占めており、弁護士に依頼して手続きする場合は15万円、その他の場合は最低25万円程かかるのが一般的です。
民事再生と個人再生の違い④:再生計画案の認可方法
民事再生と個人再生の違いとして、再生計画案の認可方法も挙げられます。
前提として、民事再生と個人再生では、債務を減額するには裁判所から再生計画の認可を受ける必要があります。
民事再生の場合、再生計画案が認可されるには債権者の過半数および債権額の2分の1以上の同意があります。同意の際には届け出を提出してもらう必要がありますが、届け出をしなかった債権者については、自動的に再生計画案に反対であるとみなされるのです。
これに対し個人再生の場合は、届け出をしなかった債権者は自動的に再生計画案に賛成であるとみなされます。また、個人再生の1つである「給与所得者等再生」を選択した場合は、そもそも再生計画案の認可に債権者の同意は必要ありません。
つまり、民事再生は、債権者から同意の届け出をもらうための働きかけが必須になりますが、個人再生の場合にはそれが必須ではないという違いがあります。
民事再生・個人再生に向いているのはどんな人?
前の項目では、民事再生と個人再生の違いについてお伝えしました。
今まで民事再生と個人再生の違いが曖昧だった人も、2つの手続きが明確に違うものであることをお分かりいただけたと思います。
手続き内容の違いが分かったところで、次の項目から具体的にどんな人が民事再生・個人再生に向いているのか、詳しくみていきましょう。
民事再生に向いている人
民事再生に向いているのは、主に以下2つのうちどちらか、もしくは両方にあてはまる人です。
- 借金の返済負担が大きい会社経営者
- 借金総額が5000万円を超えている人
次の項目から、詳しくお伝えします。
借金の返済負担が大きい会社経営者
前述したとおり、民事再生はそもそも、会社を経営しており会社名義で借金をしている人などが利用することを想定して設けられています。
そのため、会社経営者で借金の返済負担により事業が立ち行かなくなっている人は、民事再生に向いているといえます。
民事再生によって借金の負担を軽減することで、会社の立て直しを図れるでしょう。
借金総額が5000万円を超えている人
前述したとおり、個人再生には借金総額が5,000万円以下という上限が設けられています。
そのため、借金総額が5,000万円を超えている場合は、個人再生ではなく民事再生を検討するとよいでしょう。
また、債務整理には他にも、自己破産や任意整理などの手続きもあるので、法律事務所へ一度相談して自分の状況に合った手続きを提案してもらうのがおすすめです。
個人再生に向いている人
個人再生に向いているのは、主に以下2つのうちどちらか、もしくは両方にあてはまる人です。
- 借金返済が苦しい給与所得者や個人事業主
- 借金総額が5,000万円以下の人
次の項目から、詳しくお伝えします。
借金返済が苦しい給与所得者や個人事業主
個人再生は借金を1/5〜1/10程度に減額できる手続きですが、借金全額が免除されるわけではありません。個人再生をした後も返済が必要になることから、「継続して安定した収入を得られること」が個人再生の利用要件の1つになります。
給与所得者、いわゆるサラリーマンであれば勤務先から毎月決まった収入を得られるため、借金返済が苦しい場合には個人再生が向いているといえます。
また、個人事業主の場合も「継続して安定した収入」が得られると認められれば、個人再生を利用できる可能性は十分あります。
自分の場合、個人再生の利用要件を満たしているか詳しく知りたい場合は、法律事務所へ直接相談するのがおすすめです。
当サイトでは無料相談できる法律事務所を紹介しているので、ぜひ気軽に相談してみてくださいね。
借金総額が5000万円以下の人
借金総額が5,000万円以下であれば、個人再生における借金総額の上限に引っかかることもありません。また、個人再生は民事再生に比べ、手続きが簡単で予納金の金額を抑えられるなどメリットも多い手続きです。
そのため、借金総額が5,000万円以下の場合、まずは個人再生を検討するとよいでしょう。
民事再生や個人再生をする前にはデメリットを十分に把握しておくべき
民事再生や個人再生は借金問題が解決に向かうメリットがある反面、さまざまなデメリットがあります。手続き後の生活に支障をきたすおそれがあるデメリットも存在するため、民事再生や個人再生を検討している場合には、事前にデメリットを把握しておくことも大切です。
それぞれに異なるデメリットはありますが、民事再生と個人再生には共通するデメリットもあります。
|
概要
|
いわゆる「ブラックリスト入り」の状態になる
|
民事再生と個人再生をしてから最長5年〜7年は信用情報にその履歴が残り、ブラックリスト入りの状態になる。
ブラックリスト入りの期間はローンやクレジットカードなどの審査に通りづらくなる。
|
官報に掲載される
|
民事再生と個人再生をすると、その情報が官報という国の機関誌に掲載される。
|
借金のすべてが対象になる
|
民事再生や個人再生は抱えているすべての債務が原則対象になる。そのため、任意整理のように対象とする債務は選べない。
|
とくに、いわゆるブラックリスト入りになるデメリットは、今後の生活に支障をきたす可能性もあります。
たとえば、民事再生をして会社を立て直そうにも、手続きから最長5年〜7年は金融機関からの借入が難しくなるため、融資を受けずに経営を強いられる可能性もあります。
また、個人再生をした場合も最長5年〜7年は審査に通りづらくなるため、自分名義のクレジットカードやローンを利用しづらくなります。
このようなデメリットがあるため、民事再生や個人再生をする場合には、依頼する弁護士・司法書士からデメリットを十分に説明してもらったうえで、「このデメリットがあっても本当に手続きをするべきか」を慎重に判断するようにしてみてください。
まとめ
民事再生と個人再生の違いには、予納金の金額や債務額の上限などが挙げられますが、最も異なる点は利用対象といえます。具体的には、企業向けなのが民事再生、個人向けなのが個人再生となります。
そのため、利用対象を基準にして、民事再生か個人再生のどちらを選ぶべきかを考えるのもよいでしょう。
なお、民事再生と個人再生にはデメリットもあり、とくにいわゆるブラックリスト入りになる点は今後の生活に支障をきたす可能性があるものです。
民事再生や個人再生を検討している場合、それぞれの違いだけでなく、利用することのデメリットも十分に把握したうえで、本当に手続きをするべきかを考えるようにしてみてください。
民事再生と個人再生のよくある質問
個人再生とはどういう手続きですか?
裁判所に再生計画案を提出し認可されることで、借金を最大1/10、概ね1/5まで減額して、3~5年間かけて分割返済する手続きです。自己破産のように借金がゼロにはなりませんが、資産や住宅ローン返済中の住宅を手元に残せるなどのメリットがあります。
民事再生とはどういう手続きですか?
民事再生法に基づき、会社をたたまないで再建していく再建型の倒産処理手続きです。会社経営者や借金総額が5,000万円を超える人を対象としています。
民事再生と個人再生の違いは何ですか?
民事再生は主に会社経営者の利用を想定して設けられた手続きで、それを個人でも利用しやすくしたものが個人再生です。そのため予納金の金額や、借金総額に上限があるかどうかなどの違いがあります。
民事再生と個人再生どちらを選ぶべきですか?
個人再生は民事再生に比べて手続きが簡単で、予納金を大幅に抑えられます。そのため、まずは個人再生を利用できるか検討するとよいでしょう。
民事再生と個人再生それぞれ利用するのに要件はありますか?
個人再生は借金総額が5000万円を超えると利用できません。民事再生にそのような制限はありませんが、細かい利用要件があるので、詳しくは法律事務所へ直接相談しましょう。
最短即日取立STOP!
一人で悩まずに士業にご相談を
- 北海道・東北
-
- 関東
-
- 東海
-
- 関西
-
- 北陸・甲信越
-
- 中国・四国
-
- 九州・沖縄
-