夫婦関係の破綻とは、修復できないほど関係が悪化した状態
夫婦関係の破綻とは、お互いに婚姻関係を継続する気持ちがなく、既に修復できないほど関係が悪化した状態を指します。
協議離婚や調停離婚では双方の合意で離婚が成立しますが、裁判では法定離婚事由が必要となります。法定離婚事由は下記の通りです。
不貞行為 |
配偶者以外の相手と性的関係をもつこと。メールやLINEのやり取りなど、性的関係がない場合は不貞行為には含まれません。 |
悪意の遺棄 |
生活費を渡さない、虐待を行う、放浪癖や無職などで家族を養わない、家事を行わないなどの行動が該当します。 |
3年以上の生死不明 |
配偶者が生死不明の状態が3年以上継続していることを指します。 |
回復の見込みのない強度の精神病 |
配偶者がうつ病や統合失調症、双極性障害、痴呆などの強度の精神病を患っており、回復の見込みがない状態を指します。 |
その他婚姻を継続し難い重大な事由 |
DVやモラルハラスメント、勤労意欲の欠如、ギャンブルや浪費、借金癖、犯罪による長期服役、過度の宗教活動、親族との不和、性の不一致などの問題により、婚姻の継続が難しく、夫婦関係が破綻している状態を指します。 |
一般的に「夫婦関係の破綻」は「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し、夫婦関係(婚姻関係)の回復の見込みがないほどに破綻した状態を指します。
ただし、離婚裁判では客観的に見て破綻した関係であるかが重視されるため、場合によっては破綻していると判断されないことも考えられます。離婚を視野に入れていたとしても、下記のような場合は破綻とみなされない可能性があります。
- 家族旅行や子どもの行事には夫婦揃って参加している
- 同居を続けており、性交渉がある
- 配偶者の看病をしている
- 別居期間が短く、離婚に向けた話し合いの形跡がない
上記のような事実がある場合、客観的には仲の良い夫婦にうつったり、夫婦関係の回復の見込みがないとは言い切れなかったりするためです。
夫婦関係が破綻しているとみなされるケースとチェック方法
夫婦関係が破綻しているとみなされるのは、下記のようなケースです。離婚裁判などで夫婦関係の破綻を証明したい場合は、自分達に該当するかをチェックしてみてください。
- DVやモラハラがある
- 長期にわたって別居している
- 長期にわたって家庭内別居している
- 家庭内にトラブルを持ち込む
- 著しい性格の不一致・不和がある
- セックスレスなど性の不一致で悩んでいる
- 家事や育児を放棄している
DVやモラハラがある
配偶者に対するDV(身体的な暴力)やモラルハラスメント(精神的な虐待や侮辱)がある場合は、裁判所に夫婦関係の破綻と認められます。
裁判所はDVやモラルハラスメントの開始時期や期間、回数、内容などの事実関係を認定し、夫婦関係が破綻しているといえるかどうかを判断します。そのため、事実を証明する動画や写真を集めておくと有利に働くでしょう。
なお、男性、女性どちらもモラルハラスメントの加害者になり得ます。男性の場合は経済的優位を振りかざす、女性の場合は子どもに夫の悪口を吹き込むなど、それぞれ特徴に少し違いがあります。下記のモラハラ夫、モラハラ妻それぞれのチェックリストを確認してみてください。
モラハラ夫かどうかのチェック方法
毎日一緒に過ごしていると、配偶者がモラハラ夫なのか正常に判断できない場合もあります。客観的に判断できるように、下記のモラハラ夫のチェックリストを確認してみてください。該当する項目が複数ある場合は、モラハラ夫の可能性が高いです。
- 妻の生活や交友関係を制限する
- 妻の意見を聞き入れない
- 妻を馬鹿にしたり侮辱したりする
- 生活費を渡さない
- 家事の細かいルールを押し付ける
- スマホを盗み見やチェックをしている
- プライド高くて自分をいつも正当化している
- 店員に対して横柄な態度をとる
- 突然不機嫌になり無視してくる
- セックスを強要する
モラハラ妻かどうかのチェック方法
モラルハラスメントをするのは男性だけではありません。妻が加害者となる場合もあります。モラハラ妻に該当するのかは下記のチェックリストを参考にしてみてください。
- 夫の仕事や収入をけなす
- 夫のささいなミスを執拗に責める
- 夫の親族や友人などバカにする
- 夫の買い物や趣味に嫌味を言う
- 夫の実家に行きたがらない
- 夫のスマホやカバンの中身をチェックする
- 自分の意見を夫に押しつける
- 子どもに夫の悪口を言う
- 理由なく不機嫌になったり、無視したりする
- 思い通りにならないとヒステリーを起こす
DVにあたるかどうかのチェック方法
DVは殴る、蹴るなどの身体的暴力だけでなく、性行為を強要するなどの性的暴力も含まれます。また、侮辱する言葉を浴びせるなどの精神的暴力、生活費を渡さないなどの経済的暴力といったモラルハラスメントに含まれる内容もDVに該当します。DVにあたる行為は下記の通りです。
- 髪の毛を掴む
- 物を投げつけてくる
- 殴ったり、蹴ったりする
- 首を絞める
- 刃物を使って脅す
- 子どもや親族に危害を加えると脅す
- 暴力の後に急にやさしくなる
- 避妊に対して非協力的な態度をとる
- 暴力的なセックスをする
- 裸の写真や動画を撮る
長期にわたって別居している
単身赴任や長期入院などの理由を除き、長期にわたって別居している場合は夫婦関係の破綻とみなされることもあります。
民法では、婚姻した夫婦に対して下記の生活扶助義務を定めており、長期間の別居は「同居義務」の違反に該当する可能性があるためです。
同居義務 |
夫婦が一緒に住むこと |
扶助義務 |
生活費を出し合い、双方が同様の生活レベルを送ること |
協力義務 |
夫婦で協力し、生活を維持すること |
夫婦関係の破綻を示す別居であるかは、婚姻期間や家族構成(子どもの有無、親との同居など)、別居を申し出た側が有責配偶者(不貞行為など)かなどが判断材料となります。
別居期間については3~5年以上が目安とされています。なお、別居期間中に不貞行為があった、婚姻期間が数年と短いなどの事情がある場合は、3~5年以下の別居でも夫婦関係の破綻とみなされる可能性があります。
長期にわたって家庭内別居している
家庭内別居とは、同一の家に住んだまま夫婦間のコミュニケーションを減らした状態を指します。具体的には、家事や食事を別にする、会話やコミュニケーションをとらない、お金の管理を別にするといった生活です。
「一切口も聞かず、顔も合わさない」といった徹底した家庭内別居を数年以上継続している場合は、夫婦関係の破綻を認められるケースがあります。
家庭内別居にあたるかどうかのチェック方法
家庭内別居は夫婦間のルールで行われるもののため、実際に立証するのは難しいと言えます。「夫婦間のコミュニケーションがなかった」だけでは、家庭内別居は認められません。下記のような具体的に家庭内別居を裏付ける内容があれば、離婚裁判でも認められやすくなります。
- 夫婦間の会話やコミュニケーションがまったくなかった
- 食事が別々にしていた
- 掃除や洗濯は別々にしていた
- 家計管理が別々にしていた
- 寝室は別にしていた
- セックスレスになっていた
- 別々の部屋で過ごし、ほぼ顔を合わせなかった
- 離婚についての話し合いを行っていた
- 夫婦で買い物などに出かけることはなかった
- 夫婦で旅行に行くことはなかった
上記の事実を証明するために、夫婦間の交流がないことを示すLINEや通話履歴、生活費の受け渡しがなくなったことを示す通帳や家計簿、お互いに干渉しないように鍵を付けた部屋の写真などの証拠を集めることも重要です。
家庭内にトラブルを持ち込む
夫または妻が家庭内にトラブルを持ち込むなど、婚姻関係を維持するための意識が欠けている場合は、夫婦関係の破綻が認められる可能性があります。具体的なトラブルは下記の通りです。
- 健康上の理由なく就労しない
- 生活費を渡さない
- 飲酒癖によってトラブルを持ち込む
- 浪費癖で借金をしている
- ギャンブル癖で家計に迷惑をかける
- 宗教活動で家庭を放置している
上記のようなトラブルの事実を証明するため、借用書や家計簿、トラブルの具体的な内容や日時を記録した日記、トラブルの内容がわかる写真や動画などの証拠を集めましょう。
著しい性格の不一致・不和がある
下記のような性格の不一致が夫婦関係の破綻とみなされる場合もあります。
- すれ違いが続き、配偶者が家出して帰ってこない
- 暴言や暴力を伴う夫婦喧嘩が行われている
- 配偶者が不倫している
- 主婦(主夫)である配偶者が家事をしない
- 配偶者の両親との不和解消に積極的に取り組まない
婚姻関係を継続するのが困難であると裁判所に認めてもらうには、上記の証拠となる口論や喧嘩の回数を記載した日記、知人や家族による証言、医師の診断書などを集めておくことが重要です。
セックスレスなど性の不一致で悩んでいる
継続的な性交渉の拒否(セックスレス)や性交渉の強要などは性の不一致とみなされます。いずれも「婚姻関係を継続し難い重大な事由がある」と判断されれば、裁判で離婚が認められる可能性があります。具体的には下記のような内容が性の不一致とされます。
- 理由もなく性交渉を拒絶する
- 性的不能者である
- 同性愛者である
- 拒否している時に性交渉を強要する
- 異常な性交渉を強要する
性の不一致を離婚事由とする場合は、その深刻度が重視されます。そのため、性の不一致が長期間続いている、改善が困難である、精神的ダメージを受けている、出産適齢期などを考慮した年齢的な事情などを裁判で示す必要があります。
家事や育児を放棄している
配偶者が家事や育児をまったくしないような場合は、夫婦関係を維持する意識に欠けていると判断され、結果として関係が破綻していると認められる場合があります。
具体的には、専業主婦(主夫)であるのに家事や育児をしない、共働きで家事・育児を分担したにもかかわらず協力しない状態が一定期間続いている場合などです。散らかった部屋の写真など家庭内の状況を示すものが証拠となります。
ただし、「一時的なものである」「仕事が忙しかった」など、配偶者側に言い分があり、事実関係について争うようなら離婚が認められない可能性もあります。
夫婦関係の破綻を証明する条件
離婚裁判においては、両者の離婚の意思にあたる「主観的要素」、客観的に見て関係の修復が困難といえる「客観的要素」のいずれかが認められれば、夫婦関係の破綻とみなされます。
客観的要素とは別居期間などが該当しますが、期間が短いなどで破綻と認められない場合は、離婚を拒否している側の「有責性」を提示することで夫婦関係の破綻を証明します。主観的要素、客観的要素、有責性それぞれの要素を詳しく紹介します。
主観的要素:二人の離婚意思
主観的要素とは、夫婦のどちらも「夫婦関係が破綻している」「離婚したい」「関係を修復するつもりがない」と考えている状況を指します。これらを証明するためには、協議離婚の様子の録音や、離婚の意思を確認できるメールやLINEを残すことが重要です。
離婚裁判では、両者の離婚の意思である主観的要素が確認できれば「その他婚姻を継続し難い重大な事由」が認められ、離婚が成立します。しかし、 一方が親権や養育費、財産分与などに納得がいかない場合は、裁判で「離婚しない」と言い出すことも考えられます。離婚を成立させるためには主観的要素の証拠に加え、客観的要素の証拠も集めておくことが重要です。
客観的要素:夫婦関係が破綻している事実を示す主張・証拠
客観的要素とは、客観的に見て夫婦関係の修復が困難であることを指します。具体的には別居期間の長さなどが該当します。
関係の破綻を証明する別居期間の長さに明確な定義はなく、同居期間や家族構成に左右されます。一般的には3~5年以上が長期間の別居とされていますが、同居期間が1年であれば、別居期間が1年であっても長期の別居とみなされる場合もあります。
また、離婚を視野にいれた別居であることを示す必要があります。協議離婚についての話し合いが行われた形跡や弁護士からの協議離婚申込書や受任通知書、離婚を前提に始めた別居であることを証明するメールやLINE、異動日を証明する住民票や不動産賃貸契約書、離婚調停の申し立てなどを準備しておくと良いでしょう。
有責性:別居期間が十分でない場合に必要
有責性とは、離婚を受け入れない側の有責性を指摘することを指します。別居期間が短いなどにより、客観的要素を示せない場合に必要になります。離婚裁判で必要となる法定離婚事由の項目別に、有責性を示す具体例を紹介します。
不貞行為
配偶者以外の相手と肉体関係をもつこと。裁判においては1回限りの不貞行為は離婚理由として認められにくいため、継続的に不貞行為を繰り返している証拠が必要です。不倫相手との写真や動画、LINE、ラブホテルの領収書などが証拠となります。
悪意の遺棄
夫婦の義務として法律で定められている同居、強力、扶助義務に反する行為のこと。生活費を渡さない、配偶者や子どもを放置して家出するなどの行為が該当します。生活費が払われなかったことを示す通帳や家計簿、家の状況がわかる写真、家出に至るまでのLINEのやり取りなどが証拠となります。
3年以上の生死不明
生死不明な状態が3年以上継続している状況のこと。事故や災害での遭難、故意に行方をくらますなどが該当します。警察発行の捜索願受理証明書、配偶者の生死不明を証明する親族や勤務先の陳述書、事故や災害に関する資料などが証拠となります。
回復の見込みのない強度の精神病
配偶者が強度の精神病で、医師が回復の見込みがないと診断した場合が該当します。具体的には配偶者が統合失調症や双極性障害で、夫婦関係に支障をきたすような状況を指します。医師作成の診断書が証拠となります。ただし、裁判では病気の配偶者が離婚後にサポートを受けられるかなどの総合的な判断がくだされるため、離婚が認められることは稀です。
その他婚姻を継続し難い重大な事由
配偶者からのDVやモラルハラスメント、配偶者の両親との不和、性の不一致、過度な宗教活動、配偶者の服役、金銭問題など、夫婦関係の継続が困難な事由を指します。暴力の事実を示す写真や医師作成の診断書、警察への相談履歴、暴言を吐かれた際の動画、セックスレスといった性の不一致を示す日記などが証拠となります。暴力や暴言などは複数回にわたることを提示できると有責性を指摘しやすくなります。
法定事由に当てはまらなくても離婚する方法
不貞行為や悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復の見込みのない強度の精神病、その他婚姻を継続し難い重大な事由といった法定離婚事由がなくても、離婚することは可能です。具体的には下記のような方法をとることで離婚に持ち込めます。
- 話し合いを徹底的に行う
- 別居により冷却期間を設ける
- 離婚調停を行う
話し合いを徹底的に行う
不貞行為や悪意の遺棄などの法定離婚事由が存在しない場合、原則として裁判で離婚は認められません。その場合は、夫婦の話し合いによる協議離婚を目指すことになります。
離婚したい理由や条件などを整理し、配偶者に伝えます。条件とは財産分与、子どもの親権や養育費、別居期間があればその期間の婚姻費用の分担などを指します。スムーズに話し合いを進めるためには、財産分与の自分の取り分を減らすなど、ある程度譲歩した内容を提示すると良いでしょう。
しばらく別居して冷却期間を設ける
話し合いを行ってもお互いの主張に折り合いがつかなかったり、そもそも相手が協議を拒否したりする場合は協議離婚が望めません。その場合は、別居を切り出して冷却期間を設けると良いでしょう。距離を置くことで相手も冷静になり、事態を客観視できる可能性があります。また、長期間の別居になれば夫婦関係の破綻として離婚裁判に持ち込むことも可能です。
ただし、家出のような別居は「悪意の遺棄」として有責行為とみなされるおそれがあるため、別居に対し双方が同意していることが求められます。別居中の生活費の分担などを話し合うとともに、双方が納得して別居を開始した証拠となる合意書を作っておきましょう。
離婚調停を行う
離婚調停とは、管轄の家庭裁判所の調停手続を利用して話し合うことを指します。調停委員と呼ばれる人が双方の話を聞きながら、離婚条件などの調整を行ってくれます。自分と調停委員の話し合い、配偶者と調停委員の話し合いと順に行われるため、配偶者と直接話す必要がありません。
夫婦だけの話し合いと異なり、第三者との話し合いとなるため、配偶者も感情的にならず、大人の対応をする可能性が高まります。
まとめ
双方の離婚への意思が確認できなければ、離婚は成立しません。一方が離婚に同意しない場合は別居期間の長さを提示したり、DVやモラルハラスメントの証拠などで相手の有責性を指摘したりすることで、法定離婚事由に該当する「夫婦関係の破綻」を示し、裁判で離婚を認めてもらうことになります。
明確な法定離婚事由がない場合は協議離婚や離婚調停、後々の離婚裁判で有利に働く別居を検討しましょう。「離婚を望んでいるがどのように進めれば良いかわからない」「配偶者との話し合いが進まない」といった場合は、離婚問題に精通する弁護士に相談してみてください。
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