不倫による示談金の相場は数十万円〜300万円程度
配偶者に不倫されてしまった場合、加害者側へ請求できる示談金の相場は数十万円〜300万円程度です。数百万レベルの金額の開きがある理由は、不倫の内容ともたらされた結果によって金額が変動するからです。大まかには、以下の要素が金額に影響します。
- 別居の有無
- 離婚の有無
- 不倫相手の夫婦関係への影響の有無
不倫による示談金の相場の金額テーブルは次の通りです。
不倫の影響 |
示談金の相場 |
別居にはならなかった |
30万~100万円 |
別居になった |
50万~200万円 |
離婚になった |
150万~300万円 |
以下では、ケース別に不倫の示談金の相場を解説します。ただし、示談金の金額は不貞行為の回数や悪質性などの要素にも左右されるので、あくまで参考程度にご覧ください。
別居にならなかった場合は30万円〜100万円程度
こちら側が別居にならなかった場合、不倫相手へ請求できる示談金は30万~100万円程度が相場です。不倫発覚後も婚姻関係が継続している事実から、別居・離婚したケースよりも精神的苦痛が低いと判断される傾向にあります。
しかし、こちら側が受けた精神的損害の大きさ、肉体関係の回数、婚姻関係の長さなどによっては、別居や離婚に至らなくても示談金が高くなる可能性があります。
一方で注意しておきたいのは、不倫相手が持つ「求償権」です。
不倫における求償権とは、不倫相手が配偶者に対して「不倫したはずのあなたの分までお金を払ったから、その分は返してほしい」と金銭を請求する権利です。
不貞行為を働いた配偶者と不倫相手は、共同不法行為者に当たります。例えば示談金の全額が100万円で不倫相手がすべて支払った場合、「半分の50万円程度は配偶者側の連帯責任分だ」と、不倫相手は求償権によって主張できます。
別居せずに婚姻関係を継続しているときに、一緒に暮らす配偶者へ示談金を請求することは一般的にありません。結果的に求償権分の金額が配偶者との共有財産から支払われると、手元に残る示談金は減少します。
示談交渉の時点で、「不倫相手が持つ求償権を放棄してもらう」「双方が納得いく示談金額を設定する」などの対策を講じておきましょう。加害者側に求償権を放棄してもらうには、示談交渉の際に相手側の合意を得て、放棄の旨を明確にした示談を成立させます。スムーズに求償権を放棄してもらうには、求償権の放棄と示談金の減額をセットにするのが一般的です。
別居になった場合は50万円〜200万円程度
離婚まではいかずとも、不倫によって別居になった場合の示談金は50万~200万円程度が相場です。
もし不倫が発覚する前から別居していても、夫婦の不仲が原因でない別居(単身赴任、子どもの学校の都合、介護など)中の不倫なら、精神的苦痛に対する不倫慰謝料が発生します。不倫慰謝料の請求理由になるのは、あくまで不倫が原因で別居したときです。
一方で、離婚前提の長期間の別居や離婚協議・離婚調停中といった「客観的に見て夫婦関係が破綻しているケース」だと、不倫慰謝料の対象にならない可能性があります。
離婚になった場合は150万円〜300万円程度
不倫が原因で離婚にまで至ったケースだと、示談金の相場は150万~300万円程度と高くなる傾向があります。離婚がともなう不倫は、精神的苦痛が大きいと判断されやすいからです。
離婚になった場合、被害者側は不倫相手と配偶者の2人に対して示談金を請求できます。1人のみ行うか、2人ともに行うかはこちら側の判断で決められます。
ただし両者に示談金を請求した場合でも、原則として示談金の二重取りはできません。例えば300万円を請求する場合、配偶者150万円、不倫相手150万円までがおおよその上限だと考えておきましょう(交渉内容にもよります)。
W不倫の示談金はどうなる?
W不倫とは、別々の家庭の既婚者である者同士で不倫関係になることです。
W不倫の示談金は、双方の夫婦それぞれに及ぼした影響により金額が決まります。例えばどちらの夫婦も離婚になってしまったケースだと、不倫の当事者は相手側の離婚に対しても賠償が必要になる可能性があります。
ただしあくまで加害者側の話であり、被害者側が一度に受け取れる示談金の金額は、W不倫でないケースと大きくは変わらないと考えられます。またケースによっては、お互いの夫婦が示談金を請求し合わないことも想定されるでしょう。
このようにW不倫の末に離婚しない夫婦がいる場合、示談交渉がより複雑になる可能性があります。以下ではW不倫における、示談交渉の難しさなどについて見ていきます。
双方の夫婦が離婚となった場合、離婚のケースの相場程度の請求ができる
W不倫で双方の夫婦が離婚となった場合、当事者2人が支払うべき示談金の相場は、総額200万~600万円になります。被害者が2人(自分の配偶者と不倫相手の配偶者)いるからです。
ただし、2家庭分の支払い責任が加害者に発生するだけなので、被害者側が請求できるのは自分の離婚に対する金額のみになるのが一般的です。例えば加害者が支払う示談金の総額が600万円でも、こちら側へ300万円、相手の配偶者へ300万円となります。600万円を受け取れるわけではありません。
W不倫で片方の夫婦が離婚した場合、離婚した側のほうが請求金額が高額になる
こちら側だけが離婚したときは、配偶者や不倫相手へ示談金を請求できます。離婚が発生している分、加害者側よりも高額の示談金の請求を見込めるでしょう。
しかし、相手側だけが離婚したときは、不倫相手の配偶者からこちら側の夫婦に不倫慰謝料を請求する可能性が高いです。
仮にこちらから不倫相手へ不倫慰謝料を請求しても、離婚した相手側のほうが請求金額が高額になると思われます。結果的に、こちら側に経済的損失が発生してしまいます。
例えば離婚せず関係修復に前向きなこちら側が精神的苦痛分で相場の30万~100万円を請求しても、相手側は離婚による精神的苦痛で相場の150万~300万円で請求してくると考えられるでしょう。そのままの金額が認められることは少ないにしても、こちら側が差額分を夫婦の共有財産などから支払うことになります。
ただし、「配偶者が不倫相手が既婚だと知らなかった」「不倫相手が主導した不倫だった」「こちら側の夫婦のほうが婚姻期間が長かった」などの要素が重なれば、相手が離婚していても不倫慰謝料の差を縮められる可能性があります。
W不倫でどちらの夫婦も離婚しなかった場合、ゼロ和解や少額示談金になる可能性がある
双方の夫婦が離婚しないケースだと、ゼロ和解によってお互いに示談金を支払わないという選択肢が出てきます。
例えば請求金額がお互いに近ければ、示談交渉をしても数万円程度の差額の示談金が行き来するだけに終わるかもしれません。請求する不倫慰謝料の金額が近い場合は、示談交渉で「お互いに金銭を請求しない」と合意を取り付けるのも手です。あえてお互いに不倫慰謝料を支払うことで証拠を作り、離婚の際に慰謝料の支払いを受けたことを主張できるようにするケースもあります。
しかし実際のところは、婚姻期間や悪質性などの違いで示談金の請求金額が変わるため、請求する慰謝料の金額に差が出ると考えられます。不倫された側の立場を考えても、ゼロ和解への同意は心情的に難しいでしょう。
不倫の示談金の相場の参考になる裁判例
不倫の示談金の金額は、不倫が原因の損害賠償請求裁判の判例を参考に決めるケースが一般的です。裁判の判例を見れば、「自分の状況だと、示談金はいくら請求できそうか」という目安を付けられます。
不倫の示談金の相場の参考になる裁判例を、ケース別に4つ紹介します。
- 慰謝料総額50万円の判例
- 慰謝料総額200万円の判例
- 慰謝料総額400万円の判例
- 不倫相手への請求が棄却された判例
慰謝料総額50万円の判例
妻が原告、夫の不倫相手を被告とした裁判で、50万円の慰謝料が認められた判例です。不倫期間は8ヶ月、婚姻期間は約4年、子どもは1人、東京地裁1992年12月10日判決。
この裁判は慰謝料が減額となるさまざまな要素によって、「慰謝料が50万円に抑えられた」と判断できる判例となっています。ポイントは次の通りです。
- 不倫相手は夫の部下であり、不倫の主導は上司の夫だったので「被告の責任は副次的」と結論付けられた
- 夫婦関係が破綻したのは、不倫行為だけが原因だと判断できない(仲が悪くなったのは不倫以外の原因も絡んでいる可能性がある)
- 原告である妻はすでに夫を許しており、夫婦関係は修復されている
- 被告はすでに職場を退職するなどして、社会的制裁を受けている
仮に不倫を主導したのが不倫相手で夫婦が離婚まで進んでいたら、慰謝料は増額していたと推測できます。
慰謝料総額200万円の判例
妻が原告、夫の不倫相手を被告とした裁判で、200万円の慰謝料が認められた判例です。不倫期間は2年以上、婚姻期間約10年、子どもは2人。
このケースで200万円もの慰謝料が認められたポイントは、以下の通りです。
- 婚姻期間約10年、子ども2人(1人は1歳の未成熟子)の状況に鑑みると、原告の精神的苦痛が相当に大きいと判断された
- 被告と夫は不倫関係と同棲を続けており、夫婦関係は修復不可能だと判断できる
- 被告は原告の夫であると認識したうえで不倫関係を開始し、継続している
50万円のケースと比較すると、夫婦関係の破綻や不倫相手の責任の大きさなどに違いが見られます。
慰謝料総額400万円の判例
夫が原告、妻の不倫相手を被告とした裁判で、損害賠償請求金額1,000万円のうち400万円が認められた判例です。不倫期間は8ヶ月、婚姻期間は約2年。
このケースでは、不倫期間中に原告の妻が2度も不倫相手の子どもを妊娠し、2度の人工妊娠中絶手術を受けていました。
大きな精神的苦痛を受けた原告は別居に至ったうえに、適応障害、睡眠障害といった精神的な病気を患っています。さらに、指導者としてのキャリアにも悪影響を及ぼしています。
「病気になるほどの精神的ダメージがあったこと」「キャリアの選択肢が狭められたこと」の2つが重く見られ、不倫慰謝料の相場を超える400万円の判決が下されました。
不倫相手への請求が棄却された判例
原告は夫、被告は妻の不倫相手です。2008年から始まった不倫は、約1年半で一度発覚し不倫関係が解消されています。その約5年後、離婚調停の末に原告と妻は離婚しています。そして、その後に夫が不倫相手を訴えました。
不倫が原因で離婚したケースでも、不倫相手への慰謝料請求が認められなかった判例もあります。2019年2月19日に最高裁判所で下された損害賠償請求事件です。
この判例は、要約すると「特段の事情がなければ、不倫相手へ慰謝料請求はできない」というものです。
夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,当該第三者が,単に不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情がない限り,離婚にともなう慰謝料を請求することはできない。
裁判所 裁判例結果詳細
上記判例は、法曹界の間でもさまざまな解釈がなされています。例えば不倫を知ったときから3年経過で時効となった可能性にありつつ、「不倫発覚時に不倫関係はなくなっているうえに、その後の離婚成立までに特段の事情は発生していない」と結論付けた解釈もあります。
「これでは不倫相手に慰謝料請求ができないのでは?」と思われるかもしれませんが、実際には不倫の悪質性、精神的苦痛の度合い、不倫が離婚の原因となった証拠などで判断されると考えられるでしょう。
この判例に限らず、不倫行為に対する損害賠償請求事件の訴訟の中には、請求棄却となった事例も数多くあります。棄却となりえる主な理由は次の通りです。
- 不倫関係を立証できなかった
- 不倫が原因で離婚したと証明できなかった
- 不倫が発覚する前から、すでに夫婦関係が破綻していた
- 不倫相手が、不倫をしていると認識していなかった(配偶者が既婚だと知らなかったなど)
不倫の示談金額を左右するポイント
不倫の示談金額は、不倫の内容、不倫相手の責任の大きさ、夫婦や家庭の状況などの要素が影響します。具体的には、以下のポイントです。
- 肉体関係の有無
- 不倫相手の不倫に対する認識
- 婚姻生活に対する影響の程度
- 養う必要がある子どもの有無
- 婚姻期間
- 不倫の期間・回数
- 加害者の資産や収入
前述した裁判例においても、上記の要素が加味された判決が下されています。それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。
肉体関係の有無
不倫の示談金の扱いは、夫婦の貞操義務に反する肉体関係(不貞行為)の有無で大きく変わります。避妊具を付けずに行為に及ぶ、妊娠させるといったケースは悪質性が認められ、示談金の金額も高額になります
一方で肉体関係がない不倫だと、示談金の金額は減額またはなしとされるケースが多いです。原則として示談金の対象とみなされない行為の例は次の通りです。
- ドライブ、映画、食事などのデートのみにとどまる行為
- 手をつなぐ、腕を組む、ハグする、少数程度のキスなどにとどまる行為
また配偶者が主導かつ脅迫・暴力などの手段を用い、力ずくで不倫相手と肉体関係を結んだ場合は、不倫相手に対する示談金の請求が難しいでしょう(離婚して配偶者に請求するケースはあります)。
しかし、「世間一般で許される範囲を超えた親密な交際」や「不貞類似行為(肉体関係に類似する行為)」が認められると、肉体関係がなくても不倫慰謝料が請求できる可能性があります。示談金の対象とみなされる可能性がある行為の例は次の通りです。
- 2人だけのデート、長時間の電話、LINE、キスなどを頻繁に実施
- オーラルセックスやその他射精をともなう行為
- その他、精神的苦痛や婚姻関係の破綻の原因となりえる頻繁な不法行為や不貞類似行為
不倫相手の不倫に対する認識
不倫相手が不倫だと認識しておらず(既婚者と知らなかった)、過失(既婚者だと知ることができたか)も認められないときは、示談金の請求ができない可能性があります。不倫は、法律的には民法上の不法行為(民法709条)であり、その成立には、「故意・過失」が必要とされているからです。
肉体関係があっても、示談金が発生しない可能性があるケースは次の通りです。
- 既婚者と交際していると認識しておらず、相手が既婚者と気づくのが困難な状況だった
- 婚姻関係が完全に破綻していたと認識しており、それらを疑う余地がなかった
実際のところ、故意の不倫であったことの否定や不倫相手の過失のなさが、完全に認められるハードルは高いです。
しかし、一部でも認められたら示談金が減額になる可能性があります。不倫相手が嘘でも故意や過失がなかったと反論するケースがあるので、故意・過失を裏付ける証拠集めが大切です。
婚姻生活に対する影響の程度
不倫がこちら側の婚姻生活に与えた影響の大きさも、示談金の金額に関係します。ポイントは、不倫が発覚した時点での夫婦仲です。示談金が高くなるケースを見ていきましょう。
- 予定になかった離婚をした
- 良好だった婚姻関係が修復不可能になった
- 不倫によって多大な精神的苦痛や精神的な病気の疾患につながった
次に、示談金が低くなるケースもご紹介します。
- 不倫以外にも婚姻関係が悪化する要素が多々存在した
- 将来の離婚ありきの生活や長期間の別居など、不倫発覚時点で婚姻関係が破綻していた
- 不倫発覚後に配偶者や不倫相手からの謝罪・損害賠償などを受けて、婚姻関係がある程度修復していた
養う必要がある子どもの有無
不倫発覚時に子どもの数が多い、子どもの年齢が幼い(経済的・社会的に自立していない未成熟子)、妊娠期間中であるといった状況だと、示談金の金額が加算される傾向があります。被害者や子どもへの現在および将来的な負担の大きさや、経済的な面が考慮されるからです。
子どもが成人して自立している場合だと、示談金の金額にそこまで影響を及ぼさないと判断される傾向にあります。
婚姻期間
婚姻期間が長いほど被害者の精神的苦痛が大きいと判断されやすく、示談金が高額になる傾向があります。
逆に婚姻期間が短いスピード離婚は、10~20年レベルの長い婚姻期間と比べると、示談金が低くなると考えられます。とはいえスピード離婚であっても、不倫の悪質性や子どもの有無などの要素次第で示談金は高くなるでしょう。
不倫の期間・回数
不倫の期間が長い、肉体関係などの不倫の回数が多いといったケースでは、示談金は高額になります。判例を見ると、年単位の不倫期間や数十回以上に渡る不倫行為だと慰謝料が高くなる傾向が見られます。
加害者の資産や収入
原則として、示談交渉や裁判において不倫加害者の資産や収入の大きさは、賠償金額にあまり影響しないと言われています。少ない場合も同様です。
しかし加害者側が高収入だと、不倫に対する責任感や離婚後の生活などを考慮して、相場より多めの示談金を設定する可能性があります。示談金の金額はあくまで当事者同士の話し合いで決まるため、双方が同意すれば相場を超える金額でも自由に設定できます。
一方で加害者に資産や収入がなく「払えない」と主張してきた場合、主張を受け入れる必要はありません。しかし物理的に示談金の回収が難しいと判断したときは、事前に分割払いを認めるといった柔軟な対応も視野に入れましょう。
不倫相手が示談金を支払わないケースへの対処法は、見出し「不倫相手が示談金を支払わない場合の対処法」にて後述しています。
不倫の示談金を請求する流れ
不倫の示談金を実際に請求する際には、請求相手や方法を決定し、示談交渉をまとめた示談書を作成するという流れに沿うのが一般的です。不倫の示談金を請求する流れを見ていきましょう。
示談金を請求する相手を決める
不倫の示談金を請求できる相手は、主に共同不法行為者である「不倫相手」と「不倫で離婚した配偶者」の2人です。こちら側が離婚していない場合は、実質的に不倫相手へ請求することになります。
両方に請求できるケースでどちらにも公平に責任を負わせたいときは、不倫相手と配偶者で示談金を折半して支払ってもらいます。片方の資産が少なく取立が難しいときや不倫相手が既婚者だと知らずに交際して責任を問うのが適切でないときは、片方のみに請求することも検討してください。原則として示談金の二重取り(300万円の示談金を両方に請求して600万円得るなど)はできないことも、忘れないようにしましょう。
示談金を請求する方法を決める
示談金を請求する際は、弁護士から内容証明郵便を送付してもらって加害者側に伝える方法がおすすめです。内容証明郵便をおすすめする理由は次の通りです。
- 日付や差出人などの情報が日本郵便に記録されるので、示談金を請求するという意思表示の証拠になる
- 心理的プレッシャーを与え、加害者側に無視させずに対応してもらいやすくする
- 弁護士のアドバイスやリーガルチェックが入った言葉で伝えられる
- 加害者側との対面での話し合いを回避できる
- 内容証明郵便の到達から6ヶ月間、時効を中断できる
弁護士の内容証明郵便でなくても、LINE、メール、電話、面会などで直接コンタクトを取り、日程や場所を決めて交渉もできます。
しかし被害者本人が加害者と直接やり取りするのは精神的負担が大きいうえに、加害者側の主張によっては交渉がこじれるリスクがあります。
示談金がまとまったら示談書を作成して支払ってもらう
示談交渉が始まったら、請求の理由、双方の主張、示談金の金額、支払期限などを確認し整理します。交渉内容がまとまったら、後から言った言わないのトラブルにならないよう、交渉内容と合意の事実を示談書として残しておきましょう。
示談書に記載する主な内容を、以下でまとめました。
- 不倫行為の事実
- 不倫行為に対する謝罪
- 示談金の具体的な金額、支払期日、支払方法
- 示談金以外に関する制約事項(不倫の禁止、接触禁止、情報の流布・公開、SNSへの書き込みなど)
- 示談書の内容に違反したときの対処法
- 求償権の放棄の有無(原則として放棄してもらう)
示談書は、公正証書(公証人に作成してもらう公文書)として残すのがおすすめです。公正証書化するメリットは次の通りです。
- 示談交渉の内容についての明確な証拠になる
- 強制執行認諾条項を入れると、訴訟せずとも財産の差し押さえができる
- 偽造や紛失にも対応できる
- 裁判での立証にも使える
もし示談内容が最後までまとまらなかったときは、調停や裁判で決着をつけることになります。裁判には多大な労力と費用がかかるので、できる限り示談で済むように準備と交渉を進めましょう。
示談金の交渉や請求で気を付けること
加害者側に明らかな非があったとしても、状況や交渉次第で示談金が減額されたりゼロになったりする可能性があります。そのため示談金の交渉や請求は、以下のポイントに注意して進めてください。
- 時効が成立していないか
- 不倫の証拠を準備できているか
- 脅迫めいた言動に注意しているか
- 示談内容に変更が必要ないか
- 配偶者が不倫相手の示談金を肩代わりしていないか
順番に見ていきましょう。
時効が成立していないか
民法第724条にて、不貞行為を始めとする不法行為への損害賠償請求の時効が、「不倫を知ったときから3年間行使しない」および「不法行為から20年経過する」と定められています。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
e-Gov法令検索「民法」
同じ不倫の損害賠償請求でも、「不倫で受けた精神的苦痛」は不倫の事実を知った日、「離婚による精神的苦痛」は離婚した日が起算日になります。
時効になると、どれだけ悪質な不倫をされても損害賠償請求の権利を失い、示談交渉の理由も消滅してしまいます。不倫を認識した直後は精神的にも辛いとは思いますが、示談金を得るにはすぐにでも証拠集めや交渉準備に取り掛かるのがよいでしょう。
不倫の証拠を準備できているか
加害者側の不倫を証明するには、客観的な証拠が必要になります。証拠がなければ不倫行為の立証はできず、示談交渉も失敗に終わります。精神的にも負担が大きな作業ですが、成功させるためにも不倫の証拠をしっかりと集めてから示談交渉へ進みましょう。
不倫の証拠として認められる主なものを、以下でまとめました。
- 肉体関係や不貞類似行為、その他不倫行為が明確に判別できる、加害者側の顔が明確に写った写真やビデオ
- 肉体関係等を匂わせる会話の録音、メール、SNS
- 興信所や探偵の調査報告書
- 配偶者と不倫相手の頻繁な通話履歴やメッセージのやり取りの記録
- 配偶者と不倫相手が利用したホテルや、プレゼントや避妊具関係の領収書・レシート・クレジットカード明細など
行為中や現場の映像など、不倫の事実を直接的に示すものほど証拠能力が高くなります。連絡やサービス利用の履歴や明細書などは、不倫事実を間接的に補強するものだと考えておきましょう。
脅迫めいた言動に注意しているか
示談交渉やその前段階のやり取りの最中、加害者側から脅迫めいた言動をされる被害も存在します。もし脅迫等行為が行われても、落ち着いて対処することが大切です。相手にせず、「その言動は違法ではないか」と警告しましょう。
それでも続くようであれば、脅迫の事実の証拠取り、弁護士への相談、警察への相談などを淡々と進めてください。相手に屈して要求を飲んでしまうと、被害者側に不利な示談内容を締結させられるリスクがあります。
また脅迫等行為が禁止されているのは、被害者側も同じです。感情的になるあまり、加害者側への脅迫、恐喝、名誉毀損、誹謗中傷を行うと違法になります。相手憎しで、「示談金を払わないと殴る」「住所をバラす」「職場に事実を広める」などの違法な言動をしないよう注意してください。
示談内容に変更が必要ないか
原則として、示談が成立して示談書を締結すると示談のやり直しはできません。示談も、民法等に則った契約行為であるためです。そのため、示談交渉時は求める内容や不備の有無をしっかりとチェックし、全員が納得するまで示談書を作り込みましょう。
配偶者が不倫相手の示談金を肩代わりしていないか
不倫相手に示談金を支払ってもらった場合に、実は配偶者がこっそりと肩代わりしていたというケースが存在します。
共同不法行為者である配偶者が肩代わりするのは違法ではなく、すでに配偶者と離婚しているならこちら側には関係がありません。しかし、配偶者と離婚していない場合は夫婦の共有財産から支払われていることになり、示談金がほぼ意味を成さなくなります。
配偶者による示談金の肩代わりを防ぐには、肩代わりの禁止と違反による違約金についての条項を示談書に盛り込むのがよいでしょう。
不倫相手が示談金を支払わない場合の対処法
示談交渉して示談書を作成しても、加害者側が示談金を支払わない事例も存在します。もし不倫相手や離婚した配偶者が示談金を支払わない場合は、以下の方法で対処します。
- 弁護士などを通じて、督促状を内容証明郵便で送付する
- 強制執行認諾条項を盛り込んだ示談書がある場合は、強制執行による財産・給料の差し押さえを裁判所に申し立てる
- 相手が逃げたり示談後も不倫を否定したりする場合は、訴訟を検討する
2020年度の民法改正により、強制執行の手続きの拡充が行われています。以前よりも、示談金の回収が進めやすくなっています。
法的対応による回収に失敗しないためには、弁護士などの専門家へ相談するのがよいでしょう。
示談金の交渉を弁護士に依頼するメリットとは?
弁護士は、加害者側への内容証明郵便の送付だけでなく、示談金の交渉や手続きの代行についても対応してくれます。弁護士費用が発生するものの、メリット面を考えると費用対効果に優れていると言えます。
示談金の交渉を弁護士に依頼するメリットは次の通りです。
- 不倫相手・配偶者との交渉を任せられる
- 交渉を早期にまとめてくれる
- 適正な示談金がもらえるように交渉を進めてもらえる
- 証拠集めのアドバイスをもらえる
それぞれの詳細を見ていきましょう。
不倫相手・配偶者との交渉を任せられる
交渉をすべて弁護士に依頼すれば、こちら側は加害者側と直接対峙することなく示談を進められます。被害者の精神的苦痛の軽減に加えて、感情的になることによる失言、不法行為、誤った主張など、交渉が不利になる材料を未然に排除可能です。
交渉を早期にまとめてくれる
当事者同士だけの話し合いだと、感情論の応酬や論点のズレなどで交渉が長期間まとまらないリスクが考えられます。弁護士であれば、専門的知識・経験と客観的な目線から、論点を整理して交渉を早期にまとめてくれるでしょう。
適正な示談金がもらえるように交渉を進めてもらえる
弁護士なら、示談金の金額を法的観点、不倫の状況、過去の判例、経験などを基に適正な示談金になるよう交渉を進めてくれます。当人同士の話し合いでは明らかにできない示談金増加の要素、加害者側の故意・過失などを冷静に分析し、加害者側の納得を引き出したうえで示談を取りまとめてくれるでしょう。
証拠集めのアドバイスをもらえる
被害者だけで無理に証拠集めを進めると、有用な証拠が見つからなかったり、違法な方法で収集して逆に訴えられたりなどのリスクが考えられます。そもそも違法な方法で収集した証拠は、示談交渉や裁判で使うことを認められていません。
弁護士に相談すれば、被害者の状況に応じた有用な証拠や、適法の範囲での情報収集についてのアドバイスを受けられます。
【不倫した方の動き】示談金を請求された側の対応について
加害者側の動きを理解しておけば、相手側がしてくるであろう主張や動きを予測した示談交渉を進めやすくなります。相手の行動に動揺することなく、落ち着いて対処できるようになるでしょう。最後に、不倫した側が示談金を請求された際の対応についてまとめました。
請求内容を確認する
示談金を請求された加害者側は、まず請求内容を確認します。
- 示談金の請求理由
- 請求する示談金の金額(不当な金額を設定していないか)
- 請求してきた人物(弁護士は入っているのか)
- 不倫の時期(時効かどうかを確認するため)
- 不倫の証拠
- 被害者側の不当な要求の有無
こちら側の主張に不備がある場合、この時点で反論や対策を考えられてしまいます。示談交渉をスムーズに終わらせるためにも、請求時点で適正な内容と明確な根拠を示しておきましょう。
示談交渉する
こちらの請求内容に応じて、示談交渉が始まります。相手は請求内容への反論や謝罪などを行い、示談金の減額を目指して交渉すると考えられます。
また、加害者側も弁護士を立てて示談交渉に望むのは珍しくありません。
加害者側に大きな非がある場合でも、相手側の主張に一定の正当性が認められるなら、示談金にも影響が出るでしょう。
心情的には「相手が100%悪い!」と思っていても、客観的に見れば被害者側にも行き過ぎた要求や誤った解釈がある可能性はあります。そもそも合意に至らなければ示談は成立しないので、加害者側の正当な主張にもある程度耳を傾けることが大切です。
示談成立後に示談金を支払う
示談金は、原則として示談成立後かつ示談書の作成が終わってからの支払いになります。示談成立前(示談書作成前)に支払うと、後からいくらでも追加の支払いや不利な条件を要求できるからです。
加害者側が示談成立前に示談金を支払ってきた場合、一度確認を取りましょう。支払いに関してこちら側に非がないとはいえ、そのまま受け取るとさらなるトラブルに発展する可能性があります。
仮に自分が示談金を支払う立場になったときは、相手から支払いを求められても応じず、示談が終わるまで待つようにしてください。
まとめ
不倫慰謝料の示談金の相場は、数十万円から300万円程度です。示談金の金額は、過去の不倫慰謝料の判例や肉体関係の有無、不倫相手の認識、婚姻期間などの要素で決定されます。
加害者側の不当な部分や不倫の明確な証拠を集め、示談交渉を有利に進められるようにしましょう。逆に、時効や証拠不十分といった要素で示談交渉が不利にならないよう、早めの準備も大切になります。
加害者との対面が苦痛だったり、交渉に自信がなかったりする方は、弁護士に示談交渉のサポートや代行を依頼するのがおすすめです。法的知識と経験から、適正な示談金で早期に交渉をまとめてくれるでしょう。
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